〔18〕
部屋の掃除を済ませ、布団を取り込み終える。
お昼前に友華の部屋に行くことが出来た。
インターホーンを鳴らすと、
「明でしょ?かぎ開いてるから入って!」
という友華の声が聞こえた。
遠慮せずに、ノブを回して中に入る。
「おじゃまします」
聞いてはいないだろうけれど、断りをいれてから靴を脱ぐ。
やっぱりまだ片付け終わってはいなかった。
友華はダンボールをあけ、小物関係を出していた。
「本とか、洋服類はもうしまえたから、後は、小物類だけ。
家具を移動していたら、意外と時間かかっちゃった!」
そう言われて、部屋をぐるッと見渡すと、確かに、ゴミが
でているので、部屋の中が片付いていないように見えるが、
持って来た物は、ほとんどその居場所を決められたようだ。
「すぐ終わるから、ベッドに座ってて」
「そうさせてもらう」
友華も布団を干していたので、マットレスだけのベッドに腰掛けた。
「ねぇ、明、これ見て」
「あっ、それは…」
私が卒業する時に、友華にあげたクマのぬいぐるみ。
私の部屋に遊びに来た時に、友華が気に入っていたようなので、
なかなか会えなくなる私の代わりにと友華にあげたもの。
「私ね、明だとおもって、毎晩一緒に寝てたんだよ」
友華がぬいぐるみを抱いて寝ているなんて、
ちょっと、意外だったので聞いてみた。
「うそ?」
「もちろん、うそ。ぬいぐるみは明の代わりにはならないもの。
…でも、よく話し掛けてたんだよ。受験勉強してる時、『明、私がんばる!』て」
両手でクマのぬいぐるみを大事そうに抱きながら話す友華。
その姿が子供っぽくて、見とれそうになった。
その後、私も少し手伝いをして、片付けはほぼ終了した。
「さて、友華。動いたから、お腹が空いたでしょ?お昼、外に食べに行こうか?」
「うん、そのまま大学に行く?」
「そうだね。大学の近くに安くておいしい喫茶店があるから、そこに行こう」
「学食で食べてないの?」
「あるけど、狭いの。だから、けっこう外にみんな食べに行くの」
「そうなんだ。おいしい所、教えてね!」
「まかせといて!ほら、支度して」
「ちょっと待ってて!」
支度を済ませると、歩いて1分という、近くにある駅に向かった。
周りは、昔からある商店が軒並みを連ねている。
ふるき良き町、そんな感じ。懐かしさ、温かみのようなものが感じられる。
切符売り場に向かい、二人分の切符を買う。普段は定期で通っているが、
学年をまたぐので、切れてしまっている。
「はい、ここから駅5つだからね、3番ホームよ」
「ふーん。私、ここから通うことになるんだ」
キョロキョロと首を忙しく動かす友華。
「このあたり、けっこう学生アパート多いから、
4月になると、人が多くなるからね。少し覚悟しておいて」
「満員電車?」
「そう。でも、そんなにひどくないから」
「うっ、嫌だな…」
「でも、私達は近いからいい方よ。クラスの子で、
2時間とかかけて自宅から通っている子っているもの」
「そっか、私達って恵まれている方なんだ」
そんな話をしているうちにホームに電車が入ってきた。
平日のお昼時。それほど混んではいなかった。
「さっ、ここからバス。あそこのバス停から乗るの。
わりと色んなバスが大学の前を通るから、
そんなに待たなくても、バスは来るからね」
そういって、駅のバス乗り場の案内をする。
「ほら、『I大学行き190円』て書いてあるから、すぐわかるから。
一応、構内に入るバスもあるんだけど、それは、『I大学構内経由』のバスだけ。
それは1時間に4本ぐらい。後は、歩いて3分の、正門近くのバス停で降りるの。で…」
「明、説明が詳しすぎ…」
「だって、せっかく来たんだから教えておかないと」
「相変わらずマジメなんだから。でも、そこが好き!」
「友華、人がいるんだから、そういう事を言わないの!」
「大丈夫ですよ。近くにはいないし、別に聞かれてもいいし…あ、あのバスだよね?」
そのまま目の前に止まったバスに乗り、
いくつかのバス停を過ぎた後、
停車ボタンを押して、バスを降りる。
「ここが大学の正門。校舎は、ここから歩いて3分くらいの所よ。
でも、先にお昼たべようね。こっちにきて」
少し歩いた所の路地裏にある、私のお気に入りの喫茶店。
クラスの友人と一緒にきて、内装がウッド調で、
とても落ち着きがあるのが気に入ってしまった。
値段も手ごろで、お茶も、ケーキもおいしい。
当然、普段は同大学生の溜まり場と化している。
「お昼だと、セットがいいよ」
「じゃぁ、私、これにする」
「すみません、Bセット二つください」
ウェイトレスさんに注文を済ませる。
「いい雰囲気」
「そうでしょ?たまに利用しているんの。
けっこう、お昼だと、並んじゃって食べれないこともあるんだよ」
「そんな感じがする」
「たまには一緒に食べようね」
「いつもじゃないの?」
「同じ時間に講義があるとは限らないから、それは約束できない」
「そっか、大学だもんね…」
「でも、なるべく、お昼は友華と一緒に取るから」
「うん、ありがとう、明!」
ゆっくりと食事をとり、満足した後、
私達は再び足を大学へと向けた。
春休みのキャンパスには、あまり人はいない。
ただ、わりと近所の人が、散歩道にしていたり、
学内に学生寮があったりするので、
まったく人気がないわけではなかった。
「今だと、事務所と、図書館ぐらいしか開いてないよ。
校舎内は入学してからのお楽しみだね。」
「試験の時は緊張していて、ほとんど覚えていないの。
…こうして改めてみると、けっこう狭いかも」
「そうだね、全校で2000人くらいだから」
学部が教育学部しかない大学。
友華は教養学部教育学科教育学専攻、
私は、同じ学科の心理学専攻だ。
「私、ここに通うんだよね。明と一緒の大学に」
「そうだよ、友華」
「こうして一緒に明と来ているのに、まだ信じられない」
「実感が湧かない?大学生になるっていう?」
校舎の前にあるベンチの一つに座りながら、
目の前にある校舎を見上げるように見つめながら
信じられないという顔を続ける友華。
「あれ、泣いてる?友華?」
「ようやく、ようやく安心できた。一緒に明といられるんだって。
同じ大学に通うんだって。こうして、ここに来て、ようやく…」
周りに誰もいないことを確認してから、友華の頭を、
私の肩の方に寄せる。そのまま友華の肩に腕を回す。
その体勢のまま、私は友華に小声で話し掛けた。
「友華、ここでいい人を見つけられるかな…」
次に進む 前に戻る 戻る トップに戻る
おまけ(?)
(あとがき等も兼ねているので、読んでいってもらえたら嬉しいです!)