〔19〕
私の言葉を聞くと、体をパッと私から離すと、
椅子から飛び上がるように立ち上がる。
信じられないといった感じで、目を見開く友華。
「明、その言葉…」
目を細め、少し硬いような笑顔をつくると、私は言葉を続けた。
「この後何年、私達が生きられるかわからないけれど、
友華を私だけに縛りたくない」
私も同じように立ち上がると、友華と視線を合わせる。
目の前に不安と恐れと戸惑いが混ざった顔。
怯えたように私の次の言葉を待っている。
「…だから、もっと色んな人と付き合って。
私より友華に相応しい人がいるかもしれないから」
話し終えると、二人の間に沈黙が訪れた。
様々な思い出がと気持ちが互いの瞳を通じて交わされる。
「それって、私への慰めの言葉だと思ってた。
明が卒業する時、寂しいだろうと思って言ってくれただけだと思っていたのに…」
私が改めて告げた言葉に「別れ」を連想したのか、
友華の瞳が濡れたように潤いを持ち始めていた。
そう、私は卒業する際、離れ離れになることを非常に
嫌がった友華を私の部屋に呼びだした。
そして、今は友華の部屋にあるクマのぬいぐるみと、
さっきの言葉とを贈った。
慰めのつもりじゃなかった。本気でそう思っていた。
心のどこかで、自分より相応しい人が
友華にはいるのではないか、そう思っていたから。
と同時に、友華にずっと自分を想って欲しいという、
自分に都合のいい気持ちももっていた。
だから、同時に2つの贈り物をした。
友華の瞳をじっと見詰める。吸い込まれそうになる。
私の太陽。私は、1年前と同じ気持ちではいられない…。
「違う。友華の気持ちを楽にしたくて贈ったんじゃないの。
自分の気持ちを…友華が私から離れてしまうという不安から逃れたくて贈ったの」
首を横に振りつつ苦しそうに言う私の姿をみて、
友華も私と同じように苦しげな表情をする。
「明…私、別れるなんて一度も考えたことない。
だって、もう考えられないもの。明のいない生活なんて」
つらそうに、それでも自分の気持ちを伝えようとしてくれる。
「不安なのは私だって一緒。だって、自分だって明に相応しくないかもって思うもの。
…でも、いつか言ったよね。明に自分を見てもらえるようにがんばるって」
そういい終えると、私に体を擦り付けるように迫り、顔を近づけてきた。
と、友華の表情が一変した。明るい、太陽のような笑みを浮かべると、
私の手を取り、はしゃぐように話し始めた。
「そうよ、明!本当は一緒にいたいんでしょ?
なら、そんな風にしてくれるのもいいけど、もっと行動的にしてよ」
「行動的?」
なにを言いたいのかわからず、オウム返しに聞き返しながら、
首を軽く横に倒す。なにを望んでいるんだろう?
「昨日の続き!!」
確かに昨日、本当なら私達は一つになっていた。
それなのに、今更こんなことを言うのはなんだと思う。
でも、たとえ昨晩、私達が交わっていたとしても、
私は必ず友華に対して同じ事を言っていた。
「なにを馬鹿なことを!」と少し怒りながら言おうとしたら、
全部を言う前に、両手で私の口をふさがれてしまった。
「待って!!私だって明が先々のことを考えて、
色々と悩んでくれているのはわかってる。
でも、私も明もお互い一緒に時を過ごしたい。
それに…愛し合っているんでしょ、私達。
何も問題はないと思うけれど?」
キスをされるんじゃないかと思うほど顔が接近している。
…したくなる感情を何とか抑え、友華に今まで怖くて
尋ねなかったことを聞いていく。
「結婚は?友華は考えたことないの?」
「ありますよ、明との結婚!」
「…無理だよ」
なんて無邪気な考えを持っているのだろう。
同性である私達は結婚などできるわけがない。
「もちろん、結婚届にハンコを押して、
籍を一緒にとかいうのは無理だけど、
今だって、気持ちは恋人同士と同じでしょ私達?
なら、一緒にずっといると言う形でいいじゃない?」
「女同士だよ私達」
「わかってる」
「二人の間で子供は生めないんだよ」
自分では子供を産むことだけが、
女の幸せとは考えていないけれど、
友華はどうなのか。「母性本能」というものが
子供を育てることを望んでいないのか。
「そうよ。でもそれよりも明といることを選びたいの」
「皆から白い目で見られるし、両親から勘当されるかもしれないよ。
友華はそんな状況の中でも耐えていけるの?」
…同性同士の付き合いが以前に比べれば寛容になっているとはいえ、
社会的にマイノリティである同性愛がそう簡単に
周囲が受け入れてくれるとは考えられない。
「明さえ、明がそばにいてくれればいい」
「友華…」
「明、しつこいです!!」
目の前に存在する私の最愛の存在。
強く、力の限り抱きしめた。
もう離さない。
一緒に生きていこう、友華。
これからずーっと。
「誰にも渡さない。私だけのものにしたい!」
「いいですよ、私も明だけのものになりたい!」
「行こう友華!!」
私の言葉と決意とを聞いて喜びの表情を顔に表している
友華の手を取り、ある場所へと向かうべく走り出した。
「えっ、明、行くってどこへ?」
いきなり走り出した私に何とかついてこようとする友華。
私は一目散に頭の中に浮かんだ学内のある場所へと向かいだした。
「礼拝堂!!」
手をしっかりとつなぎながら走る二人の先には、
白い礼拝堂の建物が二人の到着を待っていた。
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