〔2〕
しばらく経ったある日のこと。
ランニングをしていた私の直ぐ脇で、
幅跳びの着地に失敗して、足をさする友華がいた。
私は心配になり、友華のそばに駆け寄っていった。
「友ちゃん大丈夫?」
「あっ、先輩。大丈夫です!」
そういって、真っ直ぐ立とうとするが、
すぐに、しゃがんでしまった。
「ほらほら、無理しちゃダメ。はい」
そういって、背中に乗るようにと、
友華の前に、かがむ体勢をとる。
はずがしがっていたが、痛いのか、
いきなり体重を乗せるように乗っかってきた。
「おーい、保健室に行ってくるね」
そう、同級生に言ってから、
友華を保健室に連れて行く。
しばらくの間、二人の間に会話はなかったが、
友華が私にすまなそうな声で話し掛けてきた。
「先輩、すみません。私、ドジだから・・・」
「いいのよ。気にしない、気にしない」
そういって、保健室の扉を開ける。
「あっ、何、けが?」
保健医の岡野先生がいたが、ちょっと慌てている。
バタバタと何かを準備しているようだ。
「多分、捻挫です」
「じゃぁ、直ぐ戻ってくるから、ここにいてくれる?
とりあえず、冷凍庫に氷が入っているから、
氷嚢で冷やしてあげてて」
何があったかわからないが、それだけ言い残して、
急いで扉の外へと出て行ってしまった。
「どうしたんだろう?」
「どこかのクラスでなにかあったんじゃないでしょうか?」
「とりあえず、こおり、こおりっと!」
そういって、友華を椅子に座らせておき、
氷嚢の準備をする。戻ってみると、
友華は、靴も、ソックスも脱いでいた。
「ありゃ、結構腫れてるよ」
「着地に失敗して、思いっきり、自分の体重を、
右足にかけちゃって…」
「それじゃあ、痛いわね。さ、先生がくるまで冷やしてようか」
「せ、先輩。あと私自分でやりますから、練習に戻ってください」
「あなたを一人にするの嫌だから、一緒にいさせて」
「はい、じゃぁ、お願いします…」
素直に嬉しそうな顔をする友華。
足はかなり痛そうだが、表情だけを見ていると、それはわからない。
そのまま、15分が過ぎただろうか。
「戻ってこないわね」
そう壁に掛かる時計を見ながら言うと、
「あの・・・先輩?」とおずおずと話し掛けてきた。
「なに?」
「先輩、私のこと嫌いになったんじゃないんですか?」
「なんで?」
「だって、この前、あんなことをして…」
やっぱりまだ気にしていたんだ。
言葉でよりと思って、笑顔を返す。
友華は一度、私を真っ直ぐに見詰めたかと思うと、
顔を下に向けてしまった。
「先輩、私やっぱり先輩のことが…」
「私のことが好き?」
「はい」
「この前のことしたいぐらい?」
「…はい」
囁くような声で俯きながら返事をする。
(やっぱり、可愛いよな…)
あの日の夜の感覚が戻ってくる。や、やばい。
「せっ、先輩!?」
私は自分が何をしているか、わからなかった。
ハッと、気づいた時には、友華のことを正面から抱きしめていた。
「ごめん、ともちゃん!わ、私てば何をしてるんだろう?」
慌てて離れて、どう言い訳をするか考えようとすると、
「ごめんね、階段で貧血起こして、転げ落ちて、
額切っちゃった子がいて、一応、その場で応急処置したんだけど、
血が止まらなくって、救急車呼んでたんだ」
と扉を勢いよく開けながら岡野先生が戻ってくる。
・・・気づかなかったよ、救急車。
「捻挫ね」と言われ、治療が終わる。
再び今度は肩を貸して練習場に戻る。
二人とも無言のままだけど、互いの鼓動が
早まっているのには気づいていた。
練習場にたどり着く。顧問の先生に報告する友華。、
私は自分の練習に戻ろうとする。すると、
「勝亦さん、木部さんを、家まで送っていってもらえるかしら?
彼女、親御さんは、出かけているし、聞いたら、
勝亦さんの家が近いそうじゃない。お願いできる?」
そういわれては断れない。
「はい、わかりました」といって、友華と一緒に部室に戻る。
部室に入ると、二人ともさっそく着替え始めた。
(どうしよう。私、友華のこと意識してるよ)
もう、否定は出来ない。同性愛者ではないはずだったが、
友華をどうしても意識してしまっている。
さっき、保健室で思わず抱きついてしまったのが、いい証拠だ。
そう思いながら、何とか友華のほうを見ることなく、
着替えようとしていると、足を引きずりながら、友華が近づいてきた。
「先輩、やっぱり先輩のこと、あきらめられません!」
そういって、背中に体重をかけてくる。私のおなかのあたりで、
友華の手が組まれているのが見える。
背中に感じる、友華の体の温もり・・・。
「友ちゃん、私、嘘へただから正直に言うね。私、
この前、友ちゃんに抱きしめられても、なんとも思わなかった。
でも、あの日以降、ずっと、友ちゃんのその、…感触が忘れられなくて」
恥ずかしいけど、嘘も言えない。ストレートに言ってしまう。
「だから、今こうして抱きしめられて、私の胸、ドキドキしている」
そういって、友華の右手を取り、胸にあてる。
手からでも、友華が震えているのが伝わってきた。
でも、胸にあてると、その体温とドキドキしているのが
伝わったのか、安心したようだった。
耳元で、友華が囁きかけてきた。
「先輩、家まで送ってくれるんですよね」
「もちろん」
一度引き受けたことを途中で投げ出すことなど、
理由がなんであろうと、私にはできない。
「今日、両親とも、用事で帰りが夜中になるんです。
夕飯、一緒に食べていきませんか?」
「それって…」
振り向くと、言うのがやっとだったのか、
がちがちに硬直している友華がいる。
「それっておさそい?」
わざと軽く聞いてみる。
「だめですか?」
「ぜひ寄らせてもらう」
どちらにせよ、送ってはいくのだし、軽く言ってみた。
友華の足を気にしつつ、体を離すと、
お互いに荷物を全てまとめた。
帰り支度を全て終えると、私達は
みんなに先に帰ることを告げだ。
友華は、足を引きずる形だが、
一人で歩けるようにはなっていた。
念のため、いつでも支えられるような体勢をとりつつ、
友華の荷物を持ってあげる。
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