〔3〕
さすがに普段より時間がかかる。
いつもだと20分のところ、30分ほどで、友華の家に到着した。
鍵を開け玄関に入る。
(ここが友華の家ね・・・)
そんなことを考えていたら、
「先輩、私の部屋まで連れて行ってもらえますか?」
と、声を掛けられた。靴を脱ぎ、そろえる。
2階にある友華の部屋に案内される。
階段は辛いだろうと、念のため、肩を貸す。
友華の部屋は置いてある物が多くはなく、
ある程度は女の子らしさがうかがえる、
友華らしい部屋だった。
ベッドに友華を座らせようと、
肩から下ろそうとすると、
「先輩…」という、小さな声が聞こえた。
腕をつかまれ、そのまま友華を下敷きにする形で、
覆い被さってしまった。
私の顔の直ぐ下に待ち受ける友華の顔。
目を閉じている。(待ってる)
「ごめんね・・・」
私は顔を友華の胸の谷間に
頬を当てるような感じであてる。
「あっ!?せんぱい?」
まさかそう来るとは思わなかったらしく、
頭の上で、友華の声が聞こえる。
「柔らかい…」(友華の心臓音も聞こえる)
「落ち着くよ…ともちゃん」
しばらく、そのままの形でいさせてもらう。
人の体温が、こんなに安らぎを与えてくれるとは思わなかった。
よく、赤ちゃんのとき、母親の心臓音を子守唄に寝ているから、
人の心臓音を聞くと安らぐとか聞いたことはあるが、
実際にしてみると、確かに落ち着く。
目を閉じて、友華の柔らかな胸を感じ、
少し早くなっているが、それでも規律良く
血液を送りつづける心臓の音。
だんだん、友華のことが愛しくなってくる。
(私ばっかりじゃわるいもんね)
自分がしたいことをさせてもらって、
友華の希望を無視する訳にはいかない。
体を起こし、再び顔を友華の上に持ってくる。
「友華…」
私、同性愛者ではないと今でも思っているけど、
友華とならこういう関係になるのもいいと思い始めている。
「先輩、私…」
言葉を続けようとする友華の口を、上から私の口で覆い塞ぐ。
胸とはちがう柔らかさを持つ友華の唇。
胸が早鐘を打つ。体が熱を帯びてくる。
頭の中が、何か理性とはちがうもなにかに侵されつつある。
口を離す。友華の表情に、待ち望んだものを得ることが出来た、
満足感が浮かんでいる。が、それ以上を望んでいる表情にも見える。
「友華、私、友華のことが愛しい。自分勝手だけど・・・欲しい。ダメ?」
下から友華の両手が伸び、私の首の後ろで組まれる。
「嬉しいです、明先輩。私、先輩にだったらいいです」
どちらからともなく、口づけを交わす。
先ほどとはちがう、深い深いキス。
少しだけ開かれた友華の唇をドアをノックするように舌で触れる。
ドアは開かれ、友華の舌が、私を招き入れる。
私は少し強引に訪問をし、友華と交わる。
初めて感じる、不思議な感覚。いつまでも感じていたいような、そんな
甘美な誘惑。それから逃れることなく、その先を求める欲望に従う。
口の中で透明な液体が溢れだす。、
それを互いに飲みあう。飲んだことはないが、きっと極上のワインよりも
あまく、私たちを酔わせ、惑わせる。
口でひとつになっているという事実。
それがお互いを興奮させていた。
お互いの欲望が命ずるまま、舌を絡めあう。
体が熱い。どこかでこれ以上の何かを求める信号が出ている。
(これ以上はまだ…)
何とか残っている理性をフルに働かせる。
唇を離す。友華の名残惜しそうな表情をみると、
かわいそうな気もするが、これも二人のため。
友華の唇の前に私の人差し指を持っていき、
軽くその輪郭をなぞる。目を閉じ、その行為を受け入れる友華。
指を離し、体も、友華から離す。
「なぜです!?」と友華が聞いてくる。
「友華のことが愛しいから」
「私だって先輩のこと…。なにを怖がっているんですか?
二人とも…初めてだから?それとも、私がこんな風に乱れることですか?」
「そうね、怖がっているし、恐れてもいる。
自分の肉欲に全て身を任せてしまうことに」
そういって、ベッドから降り、友華の机の椅子を拝借する。
「自信がないんだ。それこそ初めてだから。
友華自身を愛しているのか、それとも友華の肉体を
欲しているのかが。だから、このまま続けてしまって、
欲望に負けてしまうと、ずるずると互いの体だけを
求めてしまうんじゃないかって」
「私、先輩に体だけ求められる存在でもいいです」
「こら、そんなこと言わないの。私、友華の心も、体も、
存在全てを愛したい。友華を意識したのが、その…友華の
胸だったから、正直、体を先に欲してる自分を自覚してる」
「先輩、やっぱり私が好きになっただけの人だけあります。
それって、私を大切にするっていう告白ですよね?」
「そういうことになるのかな」
頭に手を当て、ちょっと、照れ笑いをする。
「私も、『先輩が好き』って感情だけが先走って、
先輩のこと、もっとよく知ろうとしていなかったのかもしれません」
そういって、大きく息をする友華。頭のいい子だ。どうやら、
私が望んでいることを理解してくれている。
「ゆっくりと、時間をかけたい。友華ならわかるね?」
「はい…」
正直な話、友華とプラトニックな関係でいられたらと思った。
だけど、すでにその関係だけでは満足できない自分がいた。
おそらく、友華もそうだろう。ならどうするか。
肉体の欲望に、精神的な欲求と抑制が追いつくまで。
お互い、完全に全てを見つめられるようになるまで、一線は超えたくなかった。
これが正しいのかなんてわからない。ただ、そうしたかった。
体を求めるだけの関係なんて、長続きしないと思っている。
私は、本当に友華のことを愛し始めている。
それだけは避けたい。それは、友華も同じハズ。
「友華、お夕飯のしたくは?」
親に夕飯は食べてくると電話を入れてある。
「一緒にしましょ、先輩」
「いいよ。そうそう。学校では今まで通り先輩後輩でいてもらいたいけど、
それ以外では、明と友華という対等な関係でいたいんだ。だから、『明』でいいよ」
「えっ…無理です」
「いきなりとは言わない。でも、友華自身は気にしないだろうけど、
私が気にするんだ。友華に『先輩』といわれることに対して」
「わかりました…明」
「ありがとう」
素直に私を理解し、受け止めてくれる。
ただ、従っているだけではないようだ。
これでいい。友華のことを少しでも従わせたくない。
一緒に仲良く少し早めの夕飯を作り、
ちょっとこげて苦くなった焼き魚をつつきながら、
初めて自分達の身辺について話した。
「先輩も、私も一人っ子なんですよね。
兄弟欲しいってときありませんでした?」
「妹が欲しかったな。それか弟。世話とか見るの大変だけど、
その分、自分が成長できるし」
「なんて、優等生的な」
「でもないよ。世話を見る分、いじめたいとも考えていたから」
「…私、先輩の妹になりたくないです」
「ならなくていいよ。恋人でさえいてくれれば」
さりげなく使った「恋人」という言葉に、
顔の表情を緩める友華。やっぱり可愛い。
そのあと、しばらく二人で談笑していたが、
19時を過ぎたので、自宅に帰る。
送っていきたいという友華に、
「だめ。そうすると、私がここまで友華を送りたくなるから」
となだめ、一人で歩いて帰る。どうせ、5分ほどの距離だ。
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