〔4〕
学校では、二人とも、今まで通りの接し方をする。
当然、周りは誰も二人の関係を知らない。
もともと、仲のいい先輩後輩だったし、
部活中に話していたり、一緒に帰っても、別に変には思われない。
ただ、二人とも、どうしても体が互いを求め合うのを抑制できないときがある。
そんな時は、二人で部室に残り、抱擁しあい、深いキスを交わす。
今は、何とかそれで満足しているが、どちらも、それ以上のことを求めているのを、
互いに理解している。「時」が来るまでと、二人とも自制をする。
「今日は友華はいないの?」
いつものように練習後に残っていた私に、
イノが部室で話し掛けてきた。
「なんのこと?」
「とぼけても無駄よ。私、知っているのよ。
二人ができてるってこと。見たのよ」
そういって、刺すような視線で私をにらむ。
「明、あなた覚えてる。あなた『自分は同性愛者じゃない』
といって、私の告白を受け入れなかったのよ。それが何?
『今では私も同性愛者です』って?」
「そのことに対して、私が謝る必要はないと思う。
確かに、イノの告白を聞いた時、私は同性愛者ではなかったから。
そのあと、友華との出会いで、同性を愛しているといわれれば、それは事実よ」
「じゃぁ、私に告白されても心が動かなかったけれど、
友華の告白には、動いたわけ?」
私は首を縦におろし、うなずいた。
当然、それはイノの気持ちを逆なでする。
「私、ずっと明のことが好きで、それでも友達でいようと何度もガマンした。
でも、自分の気持ちが膨らんでいくのに耐えられなくて、打ち明けたのに、
『同性愛』を理由に断られて、そのあとすぐにその人が『同性愛者』になるなんて、
私はなんなの?単なる道化師?」
しばらくの沈黙。それを破ったのはイノだった。
「…あなたはいつだってそう。周りに対して、
いつも優しい。それも、筋の通った優しさ。
甘えさせることも、自己満足な優しさなんか
微塵も見せたりしない。相手が傷つこうと、
そのことで自分が傷つこうと、それが互いのためならと、
どんなに辛い言葉をかけることも、そのことに対して躊躇をしない」
いきなり自分を分析をされ、戸惑う。イノとは1年の頃から
クラスが一緒だった。部活も一緒だ。
仲のいい友人の一人として付き合っているつもりだった。
告白された時、少なからず動揺した自分がいた。
が、自分には同性を好きになる気はないと伝え、
たとえイノが同性愛者であったとしても、それを批判する気もない
と伝えたのだ。イノと、今まで通りの付き合いをしたかった。
それのどこに優しさを見出したのか。
「私、あなたのその性格に惹かれたの。
私には真似の出来ない優しさ。
あなた、こういったのよ。『自分には好きな人がいないから
イノに告白されたことは素直に感謝する。でも、同性から告白されて、
それに対しても自分としては答えるすべがない』って。
確かに、あなたに拒否されたけど、私を全て拒否したわけではなかった。
それどころか、自分がいけないような答え方をしてくれた」
「イノ、私は優しくなんかない」
「それだけじゃない。そのあとも、あなたのことがあきらめきれなくて、
わざと、あなたを怒らせるために、同性愛者のうわさを流したわ。あなた、
それに気づいていたのに、私が傷ついてると思って、何も言ってこなかった。
ねぇ明、わかってるの?私は女の人が好きなんじゃなくて、あなたが好きで、
あなたが私と同性だったのよ」
背の高いイノが、長いすに座る私を見下ろすように見つめる。
興奮しているのか、目が充血している気がする。
と、前触れもなく、突然抱きすくめられる。
「明、お願い、私を抱いて。あなたの思い出を私に刻みつけて」
「イノ、おちついて。私はあなたを抱くことは出来ない」
「友華にはできるのに、私には出来ないの?」
「自分が何を言っているかわかってるの?」
「当たり前じゃない。私はあなたが好きなの。
でも、あなたは友華のことが好き。
私の気持ちは宙に浮いてしまって、どうしようもない。
だから…一度でいいの。お願い明。私をあなたのものにして…」
動揺を隠せずも、何とかイノを諭そうとする。
「それは出来ない。イノ、あなたは私に拒否されたことで、
自分を見失っている。でも、よく聞いて。
あの時、私はイノの気持ちに答えられなかったし、
今もそれはかわらない。自分の心を与えられない人に、
あとで後悔するようなことをさせたくない。
自分としても出来ない。だから…」
私の言葉はイノの言葉によって遮られる。
今まで以上に抱きしめる腕に力が加わっている。
「そんなことは、私だって承知してる。あなたの心が
私に届くことはないことだって。…せめて、せめて体だけでもいい。
あなたの体を私にちょうだい、お願い!」
動けなかった。自分としては、イノを受け入れることは出来ない。
しかし、今この状況でイノを拒否したら…。そう考えたら、体が動かなかった。
イノの正面に体を向かされる。
近づくイノの顔。美少年と言われてもおかしくない顔立ち。
ショートにきった髪。まるで男の子にキスをされる、そんな錯覚さえ起きた。
唇が重なる。友華とはまた違う柔らかさのイノの唇。
短いキスのあと、イノは体を抱きかかえ、そのまま
私をタオルをひいたコンクリートの床に横たえる。
イノは、体をまたぐようにしてひざをつく。
ひんやりとする背中。頭の中が一瞬すっきりとする。
(離れなきゃ!)そう思おうとすると、イノが再びキスをしてきた。
先ほどとは違い、ゆっくりと舌を口の中に挿入してくる。
甘美な官能的感覚が、頭の中を占領する。
ゆっくりと、イノの舌が、口の中を動いていく。
体同様に固まっている私の舌に舌を近づける。
舌をその下にもぐりこませる。少し持ち上げると、
思いっきり、イノに吸われる。
友華とは異なる愛撫に、私は我を忘れそうになる。
イノの舌は執拗に私を知ろうとし、求める。
私の心の替わりに体を手に入れたいのか…。
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