「こんばんわ、おばさん。真央、いますか?」
時計の針が19時を指した頃、玄関のチャイムが鳴った。
母親が扉を開けると、そこには制服姿の奈津実がいた。
「自分の部屋にいるわよ。さ、あがって」
「お邪魔します」
「まお!奈津美ちゃんが来たわよ!」
(…そんな大きな声出さなくても聞こえてる)
私は奈津実が私に言っていった通りに報告に来たことに、
かなり不機嫌になった。なぜ、いちいち報告にくるのだ。
…聞きたくない。奈津実はどうせ、「オッケー」を出しているはずなのだ。
彼女は人の好き嫌いがない。最初から断ることはまずありえない。
今まで何度も付き合って別れているのも、結局の所、
相手が自分だけを見てくれているのかと疑心暗鬼になり、
そのまま、奈津実を信じることができなくなり別れることが多かった。
その度に、私は奈津実から報告を受けた。
泣いている奈津実を何度も慰めた。
(私だったら、奈津実にこんな思いをさせない!!)
そう心の中で叫びながら、泣き止まない奈津実の背中を何度さすったことか。
奈津実は、本当の恋愛を求めている。真剣に受け止めてもらえる相手を。
そして、それがわかっているからこそ、私は奈津実の恋愛を応援するふりをする。
できる訳がないから。どんなに自分が奈津実に恋愛感情を抱いていても、
それを彼女に打ち明ける訳にはいかないのだ。
それは、私達の関係の終わりを意味するから。
彼女は男の子に興味をもつ、普通の女の子なのだ。
「真央、お待たせ〜!」
ドアが開き、幸せそうな表情をする奈津実の姿が現れた。
「別に待ってないよ」
机で宿題をやっていた私は、手を休め、
椅子を回転させて体を奈津実の方に向けながら、
不機嫌さを思いっきり表面に出す。
奈津実はベッドからクッションを取ると、
私の目の前に放り投げ、その身をその上に投げ出すように座る。
「そんなこと言わないでよ。聞きたいでしょ?どうだったか?」
「聞かなくてもわかる」
「何でそういうかな?」
「奈津実のその表情を見てわからないほうがおかしいよ」
「あ、そっか!」
「ふ〜っ」
私はわざと大きなため息をついた。
無邪気な奈津実を目の前にして、心が騒がしくなっていた。
ため息をつく振りをして、気持ちを落ち着けていた。
「付き合うことにしたよ!」
「そう、よかったね」
「またそれだけ?」
「なによ?」
「普通、相手の人はどうだったとか聞かない?」
「興味ない。付き合うのは奈津実。私じゃないんだし」
思いっきり本音を吐露する。興味ないどころか、
聞きたくもない。話すのなら、耳を塞いでしまいたいくらいだ。
「話したいんだから聞いてよ!」
ニコニコと、子供のような笑顔を作る奈津実。
この笑顔が私の心を惹きつけている要因だということを、
彼女はおそらく、気がつくことはないのだろう。
「わかりましたよ。…で、相手の人は?」
思いっきり感情のない声で言ってみた。
「棒読み…」
…やけくそになって叫ぶ。
「で、どんな人だったのよ!!」
「うんうん!えっとね…」
それから何十分か、公園で会った弘樹とか言う人物について説明された。
身長が178cmで、部活がバスケで、ガードとやらをやっているとか。
体格はがっちりしていて、顔も、俳優の何とかに似ていてかっこいいらしい。
性格は相手が緊張していたらしく、よくわからないらしいが、それでも、
楽しく会話ができたそうだ。
「やっぱり、美しい私に間近で会えたから緊張したんだよ」
「誰が美しいって?」
「でね、デートの約束してきたんだ。今週末」
「へー」
嫉妬の炎が燃え上がり始める。
炎は私の胸のあたりをむず痒くさせる。
「詳しく聞きたくない?」
胸をたたきつけたい気持ちを何とか抑える。
奈津実の視線から目をそらす。
「奈津実のことだから、また同じ公園で朝から待ち合わせ…でしょ?」
「さすが真央!付き合いが長いだけあるね」
「……」
「あ!あきれてる?」
机の上にある時計に目をやる。
奈津実が部屋にきてから、時間が経っていた。
もうこれ以上話しを聞きたくなかったので、
奈津実に時間を告げる。
「大丈夫なの?20時過ぎちゃうよ。
おばさん、夕飯を支度してくれてるんでしょ?」
「まずい!もうそんな時間?また明日ね、真央!」
慌てて立ち上がると、ドアを乱暴に開け、
ばたばたと階段を駆け下りていく奈津実。
「おばさん!すみません、お邪魔しました!」
玄関を開けながら、いそいそと外に出ていく奈津実の声が聞こえた。
明日、学校で会えるというのにわざわざ言いに来た奈津実。
私にだからこそ話したいのだろうけど、彼女は知らない。
それが私を追い詰めているということを。
階段の下から母親の声が聞こえる。
「まお、ごはんの仕度を手伝って」
私は部屋の明かりを消すと、ゆっくりと階段を下りていった。
「真央、あなたには私しかいないのよ」
頭の隅で会長の声が聞こえた気がする。
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