夜、奈津実はお泊りセットをもってやってきた。

「あら、奈津美ちゃん、いらっしゃい。早かったわね」
「おばさん、突然でごめんなさい」
「いいわよ。それに奈津美ちゃんはいつも突然でしょ?」
「あ〜、そんな風に思われていたんですね、ショック・・・」
「あらあら、落ち込んじゃった?」
玄関先で話している声を部屋で聞きつけ、
階段を途中まで下りると、母親が奈津実と話している。
「母さん、なに奈津実と遊んでるの?奈津実、部屋においでよ」
「お邪魔します!」

部屋に入ると、そのまま抱きしめあいキスをする。
もう昨日までの二人の関係とは違う。
お互い自分を抑えていた分、より強く激しく求め合う・・・。

ベッドに横になりお互いを確かめあった後、
奈津実はちょっと真面目な表情をして、私に尋ねてきた。
「ねぇ真央、まだ教えて欲しい事があるんだけど」
「なに?」
不安を抱かせないよう、笑顔を持って奈津実の問いを待つ。
「市ノ瀬先輩と体の関係を持つようになった時の事と、私が先輩を好きといった時の事・・・」
「聞きたいんだ」
奈津実が聞きたいと思うのなら、隠すつもりはない。

「・・・うん、気になって。体の関係を持ったきっかけも・・・私でしょ?」
「そうとも言えるかな?あのね・・・」




しばらくは私達は特に何か特別なことをするということはなかった。
たまに、世間話をするくらいだった。お互い、自分を知ってもらえる
存在が目の前にいるというだけで、安心できたから、それで十分だった。
・・・それを肉体関係をもつようにしたのは私のほうだった。

奈津実が・・・また別れた後、私の部屋にやってきて、泣き叫んだ。
その時、奈津実は私に思いっきり抱きついてきたのだ。
泣き崩れた顔を私の胸に押し当て、感情を丸出しにぶつけてきた奈津実。
私は彼女を強く抱きしめながら、自分の中の欲望が大きくなるのを
はっきりと認識していた。
(抱きたい・・・)
まさか自分がこんな思いに縛られるとは思わなかった。

何とか、奈津実を落ち着かせると、帰るようにすすめた。
が、その日は「泊まりたい」と言って来た奈津実。
それを当然拒否できる訳もなく、私は承知した。
普段なら、床に布団をひき、どちらかがそこに寝るのだが、
奈津実は「一緒に寝たい」と言い出してきた。私は当然困惑した。
が、結局、奈津実の申し出をそのまま聞き入れた。

狭いベッドの中で、互いの体温を感じながら寝た私達。
幸せな気持ちを感じる前に、それは苦痛にしかならなかった。
私の隣で泣きつかれた奈津実が寝息を立てている。
その顔に私は自分の顔を近づけた。
そのままキスをしようとしている自分に気付くと、頭を振り、
何とか自制を試みる。

(ダメ・・・我慢できない)

心がそれこそ自分のものではないくらい激しく揺れ動く。
それを少しでも抑えようと奈津実に背を向け、自分を抱きしめると、
そのまま唇を噛みしめていた。幸いにも、奈津実は目を覚まさなかったが、
もし、目覚めたら、何事かと心配されていただろう。

(私は・・・私は・・)

次の日の放課後、会長と会う約束をしていた。
私はいつものように役員室に入ると、まだ、会長は来ていなかった。
窓際に行き、壁に寄りかかると、昨夜のことを思い出していた。
・・・と、ドアが開き、いつものように優しい笑顔を浮かべる会長が入ってきた。
入ってくるなり、私の異変に気付いたのか、いぶかしげな表情をすると、
「真央、どうしたの?なにかあったの?」と聞いてきた。

「・・・お姉さま、私、奈津実を奪いたい気持ちに襲われてる」
もう、何も虚栄を張る必要のない間柄。
昨日の出来事と、自分の思いをストレートに打ち明けた。
「我慢ができないのね・・・」
そのまま近づいてくると、会長は私の腰に手を回し、
窓際から自分の方へと身体を寄せると、そのまま抱きしめてくれた。

「真央、私じゃだめかしら?」
「お姉さま?」
会長と、そこまでの関係になるつもりはもちろんなかった。
関係を持つ事で会長に惹かれるとは思っていなかったけど、
それはしてはいけないことだと、自分の中で決めていた。

「私を・・・奈津実さんの代わりと思って・・・」
会長は目を閉じると、そのまま私の唇を塞いできた。
それだけじゃない。唇がわずかに開いたかと思うと、
舌を伸ばしてきた。

(本気・・・だ)




「・・・結局この後、私と先輩は関係を持つようになった」
「だんだん激しくなってったんだ・・・」
「そうだね、二人とも行き場のない想いをぶつけるかのように、
快楽を求めた。・・・その時は忘れられるから、全てを」
「罪悪感は?」
「奈津実への?もちろんあったよ。
でも、それ以上に何かに押しつぶされそうな自分がいて、
それに勝てなかった、本当にごめん」
「ううん、いいの。やっぱりきっかけは私だったんだ・・・。
でも、そんな関係を持っても、私を選んでくれたんだ」
「そうだね。そうそう、もうひとつの話だけど・・・」
「なぁに?」
「それが奈津実を選ぶきっかけになった一因だよ」
「そうなの?」
「会長が私にしてくれる全てが、私を会長へと惹きつけた。
だから、もちろん、会長に惹かれた事がないとは言わない。
・・・でも、私は奈津実を苦しいくらい求めていると気付かせてくれたのが、
奈津実が会長を好きだと言った事件・・・」




「・・・ってことがあったんだけど、お姉さま」
それは放課後。私は会長と話しをしていた。

私の話を一通り聞いて、微笑んでいる。
「真央、火に抱かれるイメージはどうおもっているの?」
「もちろん激しい炎のイメージ。この身を焼かれるような、
それぐらい熱い想いを刻まれるような感じ」
「いつもの私と、あなたみたいな?」
「そう、私とお姉さまがいつもするような…」
そういって、互いを力強く抱きしめあう。

「運命は時として残酷になるものね・・・」
「そうですね」
背中にまわした手に力を入れる。
「奈津実さんとはたまたま会ったのよ」
「わかってます」
「真央、あなた・・・どう思っているの?」
「・・・妬いてます。お姉さまに」
そのまま指を背中に食い込ませるようにする。

「私に?」
「そうです。奈津実を・・・惚れさせた」
「バカね、私は真央、あなたしか見えないわよ」
「違います。私にはやっぱり奈津実しか・・・いないんです」
「・・・わかってる。私は奈津実さんへの想いをぶつけるだけの相手」
「お姉さま・・・」
「でも、それでも構わないし、まだ卒業までは時間があるわ。
いいでしょ、まだ私と付き合ってもらうわよ」
「はい・・・」




「そっか、先輩とそんな会話があったんだ・・・」
話しを聞き終わると、私の脇に奈津実は寝転んだ。
ため息をひとつつくと、目を閉じて何か考えていた。
「多分、その時に先輩は私が奈津実を選ぶと確信したみたい」
そんな奈津実を隣で見守る私。
「それでも・・・卒業までは付き合ったのね」
「そう、その日まで私達の関係
は続いた。肉体関係も含めてね・・・」

事実、卒業するその日を迎えるまで、私達は互いの心を開き、
体を求め合った。まるで・・・本当の恋人以上のように・・・。

「なんか先輩がかわいそう・・・」
「そう思う?」
「だって、何も報われていないじゃない。まるで真央の為に自己犠牲したみたい」
「私もそう思ったよ。そしてそのまま卒業式の日を迎えたんだ・・・」




卒業式の後、私は会長と人気のない場所を選んで二人きりになった。
私達の間で交わされた関係を確認する為に・・・。

私達は歩いている間、会話を交わすことはなかった。
そして、二人きりになれる場所を見つけても、沈黙は続いた。
お互いの全てを見詰め合う。その全てをまぶたの裏に焼き付けるかのように。

私はすでに決心をしていた。なんと答えるかを。
そして、会長もどう私からなんと言われるのかわかっていたのだろう。

柔らかい包まれるような笑顔。真っ直ぐを見る目。
不安などどこにも感じられない。まるで、私を不安にさせないために、
自分の感情を隠しているのではないか・・・そう思ってしまうほどだ。
目の前に立つこの一年間私を愛してくれた人物。
私はなんと言ってこの人に報いれば良いのだろうか・・・。

「真央、もう聞くまでもないわ・・・奈津実さんを想い続けて」
会長は目を閉じると、ゆっくりと、私に話し掛けてきた。
「お姉さま・・・」
心臓の鼓動が早まる。・・・なんと言っていいか思いつかない。
「ふふ、もうその言葉を私に使う必要はないわ」
目をしっかりと見開くと、私の肩を軽く右手で叩く会長。
「私はもうあなたとは何の関係も持たない一人の先輩よ」
「・・・・・・」
「な〜に、その顔は。まるで私が悪い事をしたみたいじゃない?
いい真央、私はあなたと関係を持った事を幸せに思うし、
あなたが私じゃなくて、奈津実さんを選んで、恨んでなんかいない。
むしろ・・・安心した。やっぱり私が好きになった真央だって」
会長のすがすがしい笑顔。それが痛いくらい私の心を突き刺さす気がした。

会長は・・・私が奈津実を選ぶのをわかっていた。
わかっていて付き合いつづけてくれた・・・約束だから。
「・・・奈津実にいつか必ず自分の気持ちを打ち明けます」
「そうしなさい。たとえそれが報われなかったとしても、
その気持ちを持たせてくれたという事がもたらした幸せを思い出しなさい」
「はい」
再び続く沈黙の時。お互いをじっと見詰め合う。自分が必要とした人・・・を。
きっと二人ともこの一年の間の事を思い出していたのだろう。

「真央、最後にお願いしていい?」
「なんでしょう?」
「私を・・・名前で呼んで。そして・・・キスして」

「・・・美和さん、私はあなたのことを好きでした。
もし、私が奈津実を想っていなくてあなたと出会えたら・・・」
手を私の顔の前に突き出し、首を横に振る会長。
「違うわ真央。前にも言ったけど、私はあなたが奈津実さんを追っている一途なあなたに惹かれたの。
きっと、あなたが奈津実さんのことを想っていなかったら、私はあなたのこと、気にしなかったと思う。
・・・だから、お願い。必ず奈津実さんと幸せになって。どんな形でもいいから。私の為にも。
私は後悔なんかしていないわ。この一年間、あなたと付き合えて、そして、あなたの人生に関われて、
それで十分よ。あなたが考えているほど、今の私は惨めな存在じゃないわよ。だから、そんな顔をしないで」
「ありがとう・・・ございます。私はあなたと出会えた事を感謝します」

そのまま二人は抱きしめあうと、長い間キスをしていた。
木々が揺れている。風が早い春の息吹を乗せて私達の間をすり抜けていく。
市ノ瀬先輩は新しい出会いを求め、その風とともに私の前から去っていった。
そして、私はそんな先輩の背中を見ながら、自分がなすべき事を確信していた。




「・・・で、卒業式の日に、奈津実に告白しようと決めてた」
「それを私が先に言っちゃった訳ね」
「焦ったよ・・・真面目に」
本当にビックリした事を思い出し、苦笑した。

「私、自分がしていた事が、正しかったのか間違っていたのかわからなくなっちゃった」
奈津実は天井を見詰めると、真面目な顔でつぶやいた。
そんな奈津実の頭に手を伸ばすと、真っ直ぐに私のほうに向かせた。
「それは私も同じ。それこそ、奈津実を愛した事が間違っているかもね」
「何でそういうことを言うかな?」
頬を膨らませて、ちょっと不機嫌な顔を見せる奈津実。
この顔が好きだという事を彼女は気付いているだろうか?
「人生に正しいという選択がないって事じゃない?」
「・・・そうかもね。どんな選択をしても、それを選択した本人しだいだものね」

「さ、話は終わりだよ。後は・・・」
「真央!おじさんとおばさんが起きちゃうよ!!」
「大丈夫、そんなに激しくしないから・・・」
「そういう問題じゃないよ〜!!」


あとがき

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