「んん・・・・・・私ね、岡野百合って言う名前の他に行広って名前があるの・・・」

それが話の始まりだった。
聞いているのがやっとで、何を話しているか。
正直、頭の中で消化しきれていない。

「今から6年前に近所のおばさん達に言われるがままにお見合いしてね。
いつの間にかに結婚することになってたんよ・・・」

(え?結婚?お姉さま、結婚をしてたの?)
その事実を聞いただけで、私の頭の思考回路はショートした。
もちろん、30年以上生きているんだし、何があってもおかしくはない。
でも、結婚なんて・・・あれ?もしかして不倫・・・っていうのもヘンだけど、
旦那さん以外の人と付き合ってる?いや、待てよ・・・お姉さまは一人身のはずだし。
私は話の続きを聞くことにした。

「それで、今から4年前かな。うん。旦那がいきなり調子が悪いっていってね。
で、病院に行ったら・・・ガンだったんよ・・・」

百合さんの話はどんどん続いていった。
目をつぶって話しているから、私は相槌も打つことなく、
ただただ、話される内容においていかれないようにするだけ。
何とか頭の中で消化できた内容。それはこんな感じだ。

お姉さまは6年前に周りに言われ、一人娘と言う事もあり、お見合いをした。
本人は乗り気ではなかったけれど、薦められるがままに旦那さんと結婚をした。
旦那さんは家事に文句を言う人ではなく、それなりに苦手な家事をしながら、
アニメの外注の仕事を続けていた。
だけど、結婚生活は幸せと言うには程遠く、
旦那さんの金銭感覚の違いや、性格の不一致で離婚をお互いに意識していた。

4年前のある日。体調不良を訴えていた旦那さんが胃ガンと診断されて、入院。
離婚のことは一時棚に置き、旦那さんの介護をしていた。
その後、手術を受けたのだけど、リンパ腺からもがん細胞が見つかっていたので、
再発の可能性が高いと医者から言われていた。
そして、ガンが発見されてから2年が過ぎたある日。
退院後も抗がん剤の投与はしていて、その日もそのために病院に行ったら、
黄疸が出て、がん細胞が色々な場所に転移していたことが発覚。
再び入院を余儀なくされた。その後も手術をしたけれど・・・
今年の7月に腹膜ガンで亡くなった。

亡くなった旦那さんは公務員で、官舎に住んでいたのだけど、
結婚前までしていたアニメの仕事に戻り、生活をすることにした。
退社するまでは東京にあるアニメ会社に勤めていたが、
今度ははフリーの集団の中に席を置くことになった。
だからそこを出て、東京に引っ越すことになっている。
・・・おおまかにはこんな内容のようだ。

全部を理解することはできなかった。
さすがに・・・それは不可能だった。
目の前にいる、ほんの数回メールを交わしただけで愛した人。
そして初めて会った今日・・・話された事実。
私はどうすればいいのかわからなかった。

なぜ今、話してくれたのか。
なんで話してくれなかったのか・・・。
それはなんとなくわかっていた。

「・・・びっくりした?」

全部を話し終えた後、私にどう思われているか不安ではあるのだろうけど、
目を細く開け、私のほうに顔を向けると、伝えられることは伝えたと言う顔をしていた。
その顔を見て、私は涙を流してしまった。お姉さまが意味を取り違えるから、
本当は流したくなかった。すぐに止めたかった。でも、止まらなかった。

「これだけは紘子と会ってから話したかった。
もっと前に話すべきだったのかも知れないけど、お互いを知らないうちから、
いきなりこのことを話すのもヘンだし、好きだと言われてからは、
紘子が私のことを本当に好きでいてくれるかが怖くて。
でも、これが岡野百合という人間だから知ってもらいたくてね。
・・・・・・嫌いになった?」

私の目をじっと見ながら話してくれる。
相変わらず涙を頬に伝わらせながら、私はお姉さまに抱きついた。
なんて話していいかわからない。なんて声を掛けていいのかもわからない。
だから、ただギュット抱きしめた。まるで母親にしがみつく子供のように。
これじゃあ、どっちが告白したんだかわからないと思いつつ、
今、私が言えるただ一つの事をお姉さまに伝えた。

「嫌いになんかならない・・・」

「えっ?」

それは声にもなっていない声だった。
手に力をいれ、背中に指を食い込ませた。
そして、もう一度同じ事を繰り返し伝えた。

「それがお姉さまを嫌いになる理由になんかにはならない・・・」

「紘子・・・」

それ以上は何も言えず、お姉さまの胸に顔を埋めた。
それでわかってくれると思ったら。
私のいるべき場所はここですと・・・。

すると、お姉さまの手が私の頭をぎこちなくなで始めた。

「ごめん・・・」

私は小さな声でうつむいたまま謝った。
お姉さまに上手く言葉を掛けられない自分が歯がゆかったから。

「何で謝るの?」

撫でる手を止めることなく、
本当に何でかわからないという口調で聞いてきた。

「だって・・・本当なら私が何か言わないといけないのに・・・」

「いいのよ。別に紘子に何か言ってもらいたくて話したんじゃないのよ。
もしこれから本当に付き合うのなら、岡野百合という人物を知って欲しかったから・・・」

本当なら、私がお姉さまの今までのことを受け入れる形をとるべきなのに、
逆に、お姉さまが私を受け入れてくれる形になった。
・・・これでいいのかもしれない。これが私達の関係なんだろうから。


そのまましばらく二人は何も言葉を交わさなかった。
互いの温もりを感じ、互いの必要性を感じる。
それだけで充分だった。幸せを感じていた。

涙が止まった。
顔をお姉さまの方へ向けると、彼女は微笑んでくれた。
そして、ちょっと照れた表情をすると、
おもむろに口を開いた。

「キスして・・・いい?」

お姉さまから言ってくれて心が赤くなった。
待ち望んでいた言葉。待ち焦がれた瞬間。
私はためらうことなく、頭を立てにふった。


私は彼女と一つになる。
誰にも邪魔はされない。
これから二人の時が終焉を迎えるまで・・・




>お姉さまが告白してくれた時、何かいいたいという気持ちはあるのに、
>それが上手く言葉にできなくて・・・涙が出てた。
別にいいんだよ?言葉に出来なくても。
その代わりに、私を抱きしめてくれたでしょ?それだけで私には充分
だったんだから・・・
言葉が欲しくて告白したんじゃなくって、話したいから話しただけだし、
でもやっぱ、びっくりした?(笑)




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