「…ちゃん…夕飯…おき…ねぇ、覚めちゃうわよ」
「うん…」
ベッドの上に寝転がる樹。
久しぶりに読み直した三国志の本を片手にしている。
由紀子に揺り起こされ、今いる世界が現実かどうかがまだわかっていないようだ。
目を細めながら、「ん?ん?」とうめき声をあげている。
少し呆けた後、ようやく自分のいる世界を認識できた。
「夢……か…」
「夢を見ていたの?どんな夢?」
二人で食卓につくと、樹の話をおかずに、夕飯を食べる。
恐る恐る話す樹とは対照的に、由紀子は箸を口に運びながら、
所々うなずいているだけ。それが、よけいに樹を怖がらせている。
「そう。イッちゃん、そんなことを考えていたんだ」
「ゆ、夢だよ由紀子」
箸を落ち着いて口に運ぶ由紀子。樹の方は見ていない。
樹はというと、由紀子の顔色をうかがっていて、箸が止まっている。
「恐々話していたところをみると、考えたことあるんでしょ?」
「…ま、まぁね」
隠しても無駄なのは今に始まったことじゃない。
頭をかきながら、死ぬことを考えたことのあるのを肯定する樹。
「私、もしイッちゃんが婚約したら…」
「婚約したら?」
「奪うわ」
「え?」
夢と似ていないような、似ているような答えにまだ、夢かと思わず疑う。
驚いている樹をよそに、みそ汁を一口すする由紀子。
明瞭で曇りの無い声。そこに戸惑いは感じられない。
「イッちゃんなしの生活なんて嫌よ。
誰に後ろ指を指されてもいいの。イッちゃんさえ一緒なら」
「由紀子…」
「イッちゃんは私のいない生活でもいいの?」
「いいわけない。でも、きっと大変だし、辛いよ…由紀子の両親だって、きっと悲しむ」
「誰もが何事も無く幸福に暮らせることなんて皆無よ。
それに、人の幸せの形が皆同じだなんてうちの親だってわかっているし。
もちろん、祝福してもらえるとは思わないけれど、少なくても、死を選ぶより良いわ。
自分達のためにも、周りの人にとっても」
「でも、もし引き離されそうになったら…」
「離れないわ。離せるはずが無いもの。二人で暮らせる地を探すだけよ」
顔を軽く斜めに向け、同意を求める由紀子。
「由紀子…強いね…」
「イッちゃんがいるから強くなれるの。
私だけじゃないから…あなたがいてくれるから、
あなたといたいから…そのためなら私はいくらでもあなたを支えるわよ」
二人とも既に夕飯は食べ終えていた。
樹を真っ直ぐに見据える由紀子の強い眼差しに、
由紀子を愛したことは間違っていないと心の中で思っている樹だった。
「由紀子に頼りっぱなしだね、自分」
「いいの、人にはそれぞれ役割分担があるんだもの。
私が全部、背負い込む訳じゃないし、イッちゃんだって、私を支えているのよ」
「そうかな?」
「そうよ。いいの、その辺はあまり考えなくて。
だって、意識して支えあってる訳じゃないでしょ?
自然にしていればいいのよ。私も、イッちゃんも」
「由紀子…愛してる…ずっと、私達の宿星が空に輝きつづける限り…一緒にいて」
「もちろん。イッちゃんが万が一私を嫌いになったとしても…」
「嫌いになったとしても?」
「傍にいてあげるわ」
「由紀子、それはストーカーでは?」
気持ちが楽になったのか、いつもの軽口がつい口から出る。
「こら!イッちゃんは私が傍にいるのが迷惑なの?」
「まさか〜!!」
ゆっくりと立ち上がると、椅子に座る由紀子の背後に回った。
そのまま椅子ごと抱え込むように抱きしめる樹。
「傍にいて欲しいさ。由紀子は私だけの人だから」
「いてあげるわよ、もちろん!」
人の未来が星に描かれているのかどうか…
今の二人にすればそれはどうでもいいことなのかも知れない。
あとがき
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