(おや?なんか布団が柔らかいし、枕も、いつものと違う…!?)

まだ、外が薄暗いなか、目を覚ます私。頭が重く、胃がむかむかする。
気のせいか、まぶたも重い。
う〜む、昨日、飲みすぎたかな…じゃなくて、ここはどこ!?
重い頭を何とか上げると、私はベッドに寝ていることに気づく。
(ちょっと待て、私の部屋は布団だぞ)
と、同時に、下着姿で寝ていたことを、ようやく知る。
(えっ、えっ、えっ!?)

薄暗い部屋にも、目がなれてくる。
あたりを見渡す。全然記憶にない部屋。
ウッドを基調にした、落ち着きのある部屋だ。
(なぜ私はここに?)
どうも、昨日の夜の記憶が飛んでいて、思い出せない。
…と、隣から、女性の声がする。

「起きたのね、朱実さん。気分はどう?」
私は、人が隣で寝ていたなど全然気づいていなくて、
跳ね上がるように、ベッドの隅による。
当然、上にかかっていたブランケットも一緒に私に着いてきて、
相手も、下着姿で寝ていたことを確認してしまった。

「なに驚いているの?もしかして、
昨日の夜、何があったか気になる?」
心の中で、私は思いっきり首を縦に振る。
飲んだ後、身も知らずの女性と、ベッドをともにしている。
記憶がまったくないから、何があったか、なかったか。
当然、気にならないわけがない。

「ふふ、朱実さんて、意地悪なんだ。
昨日、あんなに私のこといじめたのに、何も覚えてい…」
「私、あなたに何かしたんですか!?」
「そうよ。まったく、激しくて大変だったわ」
「そんなに激しかったんですか?」
「そう。私もこの仕事していろんな人と出会ったけど、あなたみたいな人、初めて。」
「…」

やばい…、私、この人に大変なことをしてしまったのでは。
おもわず、まじまじと相手を観察してしまう。昨日の私の…相手。
私より年上だと思う、大人の女性の魅力を醸し出している。
肩より少し長いくらいのウェーブのかかった髪。
女性が見ても、綺麗と思うような、顔立ち。
豊満な胸と、くびれた腰。うーん、かっこいい人だ。
…なんて落ち着いて観察してる場合じゃない。
えーん、さっぱり思い出せないよ。私、何をしたんだ?

「あの…、本当に失礼とは思うのですが、私、昨日のこと覚えてなくて、
何をしたかも、あなたが誰なのかもわからないのです…。すみません」
もうこうなったら、相手に聞くのが一番。どうやら、嫌がっている様子は見えないし。
彼女は、ベッドから降り、Tシャツを頭からかぶっている。

「シャワーを浴びてすっきりして来たら?
そっちの奥に風呂場があるから使って。
それと、あなたの服、そこにたたんであるわ」
と、鏡の前にある、椅子を指す。
「とりあえず、お茶を入れているから。
落ち着いてから、ゆっくりと話をしましょう」
そう言って、彼女は台所の方へ行ってしまった。

まだ、驚きと、二日酔いとで頭が混乱していたが、
とりあえず、勧められるままにシャワーを浴びる。
(私、女の人としちゃったのかな…)
頭の上から少し冷たいぐらいのお湯をかけながら、
昨日あったであろうことを、想像する。
(男の人ともしたことないのに…)
そう、私はこの年にもなって、処女だった。
(あれ?でも、私、行為の仕方なんて知らないのにどうやったんだろう?)
なんか違和感を感じる。そもそも、よく雑誌なんかに載っている、
「喪失」の痛みも、その実感もない。
(???おかしい)
(もしかして、彼女がとても経験豊富で、リードしてくれて、
そのうち、お酒飲んでて理性を失ってた私が、
彼女を無理矢理犯した…のかな?うーん)
キュッと、蛇口をしめ、頭を振る。
(えーい、本人に直接聞いたほうが早い!)
そう考え、脱衣所に向かう。

昨日と同じ服を着て、彼女の待つダイニングに向かう。
彼女は、テレビのニュースを見ながら、すでに入れてあった
紅茶に口をつけている。私がシャワーから出たのに気づき、
笑顔で迎えてくれた。

「良かった、顔色いいみたいね。
昨日の調子だと、大丈夫かと心配してたのよ」
おや、どうやら私は昨日、具合が悪かったようだ。
…ということは、私、なにもしてない?
「あのー、私、昨晩、あまたに何かしたんじゃないんですか?」
「したわよ」
「…なにを?」
彼女は、すぐには何のことかわからず、首をかしげる仕草をする。
が、すぐになにを指しているかわかったようだ。

「ふふふ、朱実さんたら、何か勘違いをしているようね。
あなたと、私の間で、体の関係はないわよ」
「よっ、よかった」
私は、大きくため息をつく。
「でも、あなたとなら、いいかな?」
(!?)
戸惑う私を見て再び微笑む彼女。ちょっと危ないかも…。

その後、紅茶を飲みながら、昨日の晩のことを話し始めてくれた。
「とりあえず、覚えていないみたいだから、自己紹介からするわね。
私の名前は、美樹。青柳美樹。年はふせていいわよね?」
自分よりかなり年上だと思っていたけど、だんだん自信がなくなってきた。
こうして改めて見て、話を聞いていると、自分と、変らないようにも感じる。

「朱実さん、昨日のことどこまで覚えているの?」
「えっと、確か昨夜は、職場の由紀子さんと二人で飲みに行った。
始めは、チェーンの居酒屋に行って、二人で職場の愚痴を言いまくって、
かなり飲んだ。で、次に行こうって話になって、確か、由紀子さんの知っている人の店に
行こうだか、行かないだか…までです」
「由紀子は、高校のときの同級生なの。たまに、飲みにきてくれるのよ」
「あっ、そうだったんですか」
ちなみに、由紀子さんは、職場の2年先輩である。

「由紀子とあなたは、すでに出来上がった状態で、私の店にきたの。
ちなみに、今いるのが2階。1階でちょっとした小料理屋を開いているの。
あなたたちときたら、お客さんが早く引いたんで、店を閉めようと思ったらやってきたのよ。
『ちょっと飲ませて』っていって、2時間飲みつづけて」
「はぁ、それは大変ご迷惑をおかけしました」
「別に、飲んでいる時は迷惑じゃなかったわよ」
「えっ、じゃあ、その後、私何かしたんですか?」

「そうよ。飲んでいるといっても、飲んでいたのは由紀子だけ。
あなたはここに着くやいなや、カウンターで、眠ってしまったの。
由紀子は、明日、デートがあるからって、あなたをベッドに運んで、
そのまま帰ってしまったの。彼女、私が一人暮らしなの知っているし、
あなたも、一人暮らしだからって、介抱を押し付けられたわけ」
「すっ、すみません」
「あら、別に、吐かれたわけでもないし、介抱といってもただ一緒にいただけ」
「それでも、結局、こうして宿をお借りしたわけですし、
少なからず迷惑をかけていますよ…」

「そんなことよりも…」
美樹さんの顔が真剣になる。
「あなた、本当に昨日、自分が何をしたのか覚えていないの?」
「…はい」
「だとしたら、あなた、自分で自分をかなり追い詰めているわよ」
「えっ?」
「昨日ここで死のうとしていたのよ、あなた」

その後のことを、彼女は淡々と話してくれた。
何でも、夜中に、私は突然、ぶつぶつと何かを呟いたかと思うと、
部屋を夢遊病者のようにさまよい、
挙句に、台所にあった包丁で、自分を刺そうとしたらしい。
結局、酔っていて、力が入いらなかったらしく、
寝ないで隣にいれくれた美樹さんが止めてくれたと。

「あなた、その後、ずっと泣いていたのよ。
『自分は生きていても仕方ない、だから死なせてくれ』
そういい続けてたわ。そのうち、泣き疲れて寝てしまったのよ」
「私が、自殺しようとしたんですか?」
「そうよ。自殺未遂よ。それで、あなたが起きたとき、
あなたを傷つけまいと思って、軽く聞いたんだけど、
まったく覚えていないようだったから、逆に、危ないと思ったの」
「何でですか?」
「あなたは普段は、きっと、自殺願望なんてないのよ。
…というか、おそらく、生きるのも辛いけど、
死ぬのもいやぐらい考えていないかしら?」
「たしかに、その考えはあります。
自分なんか、生きていても何も役に立たないし、
生きていても、楽しいことなんてないし、存在しない方が、
周りと、自分のためなんじゃないかなって思うんです。
…でも、『死ぬ』って言うのも、怖くて、
なんとなく、惰性的に生きている自分がいるんです」

「普段は、理性で抑えているのが、多分、アルコールによって、
感情が優先されたのね。『生きる』ことへの拒否。『死ぬ』ということへの渇望。
もしかして、由紀子があなたをここに連れてきたのは、そんなあなたを気づいていたからかもね」
「由紀子さんが私をここに連れてきた理由があるのでしょうか?」
「私も、自殺しようとしたことがあるよ」

「それもあなたと似たような理由で」
「美樹さんが自殺ですか?」
「そうよ、見えない?」
「ええ、全然」
「でも、それはあなたも一緒よ」
「そうですね」

私は、昨日、自殺をはかろうした聞いて、
驚きはしたが、全然ありえないとは思わなかった。
それより、目の前にいる、美樹さんという存在が、
いつのまにか、気になるようになっていた。
外見も、とても目を引く容姿だし、
物腰も柔らか。小料理屋をやっているくらいだから、人当たりもいいはず。
私から見ると、優しいお姉さんのような美樹さん。
ついさっきその存在を知ったばかりの彼女を、
なぜか、ものすごく意識してしまう。

「私、小さい頃から、とても悩んでいたの。
自分は、なんで生きているんだろうって。
別に、勉強が出来なかったわけでもないし、
家庭も、普通の家庭に育ったわ。
友人も、多いとはいえないけれど、周りにいたし、
それなりに、普通の人生を送っていたと思うの」

「でも、それが耐えられなかったんですね。」
「そう、当たり前すぎる人生を、当たり前に過ごすこと。
自分が自分でいることに疑問を感じてしまったの。
それを疑問にすることすら、変なのかもしれないと思うようになったけど、
なぜか、他の人にそれを相談することは出来なかったの。
自分の人生の問題だから、自分で解決すべきと思っていたの。
でも、なにかしらの答えが出ても、それが必ずしも答えではないと思って、再び考える。
学校ではいつもと変らずに生活できたと思うけど、一人でいると…」
「もういいです、…わかりました。美紀さんと私の考え方、似ているのですね」
「多分、由紀子は私が自殺しようとしたことも知っているし、
何を悩んでいたかも知っているの。でも、彼女は、いつも、
普段と変らぬ態度で接してくれたわ。感謝しているの」
そう言って美紀さんは、どこか遠いところに視線を向けた。

「おそらく、彼女が、あなたをここに連れてきたのは、何か感じたからだと思うの」
「似たもの同士だから気が合う…でしょうか?」
「違うわ。似たもの同士だからといって、必ずしも、上手くいくとは限らないもの。
もともと彼女もはっきりとした理由はないと思うのだけれど、きっと、私たちが
求めているものが、お互いにあると思ったからじゃないかしら?」
「求めるものですか?」
「そう、私たちが求めているもの。
気づいてる?私、あなたのことがとても気になっているの」

「私も、美樹さんのこと、意識しています。…好きです」
おや、私ってこんなに簡単に「好き」っていえる人間だったっけ?
でも、好き嫌いで言えば、美樹さんのこと、好きだ。
初対面で、これだけ迷惑かけたのにもかかわらず、
私のことを本当に心配してくれたし、きっと、他の人には
話したことがない話までしてくれた。この人になら素直になれる。

「美樹さんのこと、同性だけど、すごい惹かれるんです。迷惑ですか?」
美樹さんが微笑む。この笑顔だけで、私の鼓動は早くなる。
「私も、あなたのことを好きよ」

朝日が窓から差し込む明るい部屋の中。
私たちは、再びベッドの中にいた。
今度は、間違いなく、記憶もある。

「実は、私、美樹さんと昨日の晩に、
こういう関係になってたと思い込んじゃったんです」
顔をリンゴのように赤めながら、白状する。
「そのようね。はじめ、何か話がかみ合っているようで、
かみ合っていなかったから、気がついてびっくりしちゃった」
「まさか、本当にこうなるなんて…」
私は思わず、ブランケットの中に頭を入れる。

シーツに残る、赤い小さな二つの染み。
驚いたことに、美樹さんも、初めてだった。
二人とも、初めて同士だったか、それは年の功というか、
この、情報の氾濫している時代である。
どうすればよいか位は、互いに知っていた。
でも、教科書は、教科書でしかないのと同じように、
二人は本能で愛し合った。

愛しい存在。その存在が自分の隣にいてくれる。
こんなに嬉しいことはない。
再びブランケットから顔を出す。
美樹さんの微笑が出迎えてくれる。
この笑顔を見るために私はいる。
そう思えるくらい、心に染み入る笑顔だ。

口紅をつけていなくても、紅薔薇のように
赤く、小さな唇が目に入る。心赴くままに、自分の唇を重ね合わす。
軽く唇を開き、互いの舌を絡めあう。
同時に、二人の手は相手の体を弄り、愛撫する。

「朱実さん」
「はっ、は…はい」
すでに息が乱れている。何とか、返事する。
「由紀子…、きっとこうなると…わかって、あなたを…連れてきたのかもね」
「わか…って!?」
行為の途中でいきなり、思い出したかのように
由紀子さんのことを言う。
思わず愛撫する手を休めようかとすると、
美樹さんは、私の口を塞いできた。
今まで、一番激しいキス。
私たちは、そのまま、天空を駆け巡る。

美樹さんの部屋に意識も体も、帰ってきたとき、
改めて、私は聞いた。
「由紀子さん、私たちがこうなることを願って、
私たちを出会わせたってことですか?」
「そうよ。彼女、ものすごく勘がいいの。
それに、人の気持ちを読むこともできるみたい。
だから、私が自殺しようとしたことも知っていたし、
あなたに自殺願望があることも気づいていたの」
そう言って、ベッドに横たわる私の頬を、なでる。
「由紀子本人が言っていったから。彼女、こう言ったのよ」



「私、高校のとき、美樹のこと救ってあげたかったけど、
自分じゃだめだってわかってたの。でも、ずっと、気にはかけていたのよ。
あなたに相応しい人と出会っているのか。
特に、大学で、私自身は出会いを果たせたから、気になって」
由紀子は久しぶりに飲みに来てくれた。
一緒に、会社の同僚らしき女性を連れていたが、
彼女は、すでにかなりの量を飲んでいたようで、
つくと同時に、カウンターにうつ伏せになってしまい、すでに寝息を立てている。

互いの近状報告をしながら、飲んでいる由紀子。
ある程度のことを話した後、由紀子は、ふと、
何かを思い出したかのように、美樹に連れのことを話し始めた。
「彼女ね、私の職場の後輩なんだけど、あなたと似ているの」
「私と?」
「そう。この世に自分という痕跡を残したくないくせに、
自分という存在を覚えていて欲しい人間を求めている。
私、彼女と飲むようになってから、あなたとダブらせることが良くあったわ」
「なぜ、その彼女をここに?」
「うーん、なんとなくかな。…なーんてね。ホントは、単純に、
ここで飲もうと考えていたんだけどね。でも、見ての通り、
彼女、『朱実』って言うんだけど、眠っちゃった」
そう言って、頭の上に手を上げ、大きく伸びをする由紀子。

結局、朱実は起きる気配がなかったので、
二人で朱実を担いで、2階の部屋につれてゆく。
セミダブルのベッドに、その体を横たえる。
苦しそうだったので、ブラウスのボタンを外し、スカートを脱がした。
「彼女、ここに泊めてあげてよ。一人暮らしだから、
このまま帰っても、朝起きて辛いだろうし。
それに私、明日、朝からデートだから、
介抱してあげられないし。お願い」
そう言うと、彼女はお金を置いて、
とっとと、家路に向かってしまった。



「きっと、あなたと私が、お互いに会うべくして会う人だと感じて、
キューピッド役をしてくれたのかもね」
「そうですね」
「お互い、由紀子に頭が上がらなくなるわね」
「いえ、すでに会社では私、由紀子さんには頭があがらないです…」
実際、いつも仕事では助けられてばかりいるのだ。
それを聞いて、美樹さんは、声を出して笑う。
明るい笑顔。つられて、私も笑ってしまった。

「何も考えずに笑うっていいわね」
「そうですね」
「『笑う』ってことでさえ、なぜって考えていたぐらいだから…」
「私もです」
「理由なんか要らないのよね」
「笑いたいときに、笑う」
「泣きたいときに、泣く」
「悲しいときに、悲しむ」
「怒りたいときに、怒る」
「愛したいときに、愛する」
最後の言葉は、二人同時だった。

「長い間、悩んでいたことが、二人の出会いのためだとしたら、
悩んだかいがありました。少なくても、美樹さんという存在が、
私の心にある限り、私はもう、死ぬなんて考えません」
「不思議なものね。一生わからないと思った答えが、
こんなに簡単に出るのだもの」
「美樹さんの答えは?」
「そうね、生きるということは、一人じゃないってことだけど、
自分というアイデンティティは、生きているだけじゃ確立できないってことね」
「難しいことを言うんですね」
「あら、簡単よ。自己の存在意義は、ただ生きるだけで作られないってこと」
「まだ難しいです…。私が出した答えを聞いてもらえませんか?」
「なぁに?」
「確かに、悩んだり、苦しんだり、死のうとしたりしたけど、そうしていることそのものが、
生きている証拠なのかなって。生きるというのに『なぜ』という理由はいらないんです。
また、『何かをしないといけない』てのもないんです。さっき言ってたみたいに、
何かをしたいというのに、こうして、美樹さんを愛するのに理由が要らないように、
生きることにも、きっとなんの理由なんて要らないんです」
朱実は、目を閉じ、頭を美樹の胸に預ける。

「そうね、理由は後からついてくるわ。私たちは、
決して平坦な道を選択したわけではないけれど、
それも間違いではなかったようね」

再び、互いの存在を確認する。
自分達は、確かに生きている。
生きて互いを感じている。
感じられる存在がある限り、
私たちは生きていける。

(あなたと一緒に存在することが、私の生きている証…。)


−後日談−

会社に行く道を歩いていると、前から、声が聞こえる。
由紀子さんが、私を待っている。
「朱実、いい顔しているわね!」
「由紀子さん。先日は、御迷惑おかけしました」
「聞いたわよ、美樹から。あなた、すごかったそうじゃない?」
(やっ、やっぱり美樹さん、由紀子さんに二人の関係を話したのかな?)
耳まで真っ赤になる朱実。
「何を恥ずかしがるの?いくら初対面の人にあんなことをしたからって…」
「わっわっ、由紀子さん、こんな道の真中で話さないでくださいよ」
「それもそうね」
そう言って、二人は、会社に向かっていった。

お昼休み。由紀子は、朱実を誘って、近くの喫茶店に入る。
「で、早速つづきだけど、美樹、喜んでいたわよ。
はじめは大変だったけど、すごく良かったって」
(きゃー、そんなことまで…)
「もう、あなたのことを離せないみたいなこといってたわよ。
そんなに良かったの二人とも?」
「そ、そんなことないです。私も、美樹さんも、
初めてだったから、ほとんど無意識で行動しちゃって、
なにやっているかわからないうちに、頭が真っ白に…」

「ストーップ!!朱ちゃん、また、なんか勘違いしてない?」
「えっ、由紀子さん、私と、美樹さんが…、その、なんていうか、
体の関係になったの知ったんじゃないんですか?」
「そうなの?美樹、あなたが自殺しそうになって大変だったけど、
話し合っているうちに、お互いの悩みが解決したって言ってただけで、
それは話してくれなかったな。もっと、突っ込んでおくべきだったわね」
(えーっ、知らなかったの?私、自分から墓穴掘っちゃった…)
「なによ、会ったその日にやっちゃったんだ。二人とも、奥手そうで、
意外と積極的なのね。ふふふ…」

(正確には次の日です…)なんて思ってる場合じゃない。
「ゆ、由紀子さん、そんな、嬉しそうに言われると、恥ずかしいです」
「イーじゃない、愛する二人がそうしたかったからしたんでしょ?
二人の友人である私が、それを祝福しないで、誰がするの?」
「そんなんでいいんですか?」
「そんなんでいいんです。ねぇ、今度、ダブルデートしない?」
「だ、ダブルデートですか?いくらなんでも由紀子さんの
彼氏がびっくりしちゃいますよ」
「あれ、私、いつ『彼氏』がいるって言ったっけ?
『彼女』よ、私の相手は」

それを聞いて、その後食べたランチの味が、わからなかったのは言うまでもない。

あとがき 

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