「片瀬先輩、一緒に帰りましょうよ〜!」

遠くのほうから背中から聞こえる、いつも聞きなれた声。
(また、あいつか・・・)
そう思って、片瀬紀子は、後ろも振り向かずに大声で答える。
「嫌だね。私は一人で帰る。あんたも一人で帰りな」
「先輩、そんな冷たいことを言わないでくださいよ。
どうせ帰る方向同じなんですから、一緒に帰ってくださいよ!」
大声をあげながら、全速力で近づいているようだ。

瑞希が私に追いつくのを感じて、キッと振り返り様、
私より頭ひとつ分低い瑞希の顔に人差し指を突きつけ言い放つ。
たまには他の人と帰るか、一人で帰るくらいのことはさせろ!」
怒鳴るように、宣言をする。

「いいか、あんたと、私は、ここ何年も、一緒に帰っているんだぞ。
恋人でもあるまいし、一人で帰らせろ」

突きつけた人差し指を見ようとして目がよった瑞希の顔。
一瞬たじろいだかと思ったら、息を軽く整えてから、にっこり笑った。

「先輩、またお決まりの台詞ですか?そうやって、照れないで、
どうせ、一緒に帰るんですから、素直に一緒に帰ってくださいよ。
たまには素直に、『瑞希〜!待っているんだから、早くおいでよ!』とか言ってくださいよ」
「誰が言うか、冗談じゃない。何で私があんたにそんなこと言わなきゃならないんだ。
とにかく、私は一人で帰るからな」

「はーい。じゃあ、先輩は先に一人で帰ってください。私は、少し後ろから一人で帰りますから」

(結局このパターンか)
私がすたすたと先を歩き、5歩ほど後ろを、瑞希が早歩きする私に離れまいとしながら、
「明日、あのドラマ、最終回なんですよ。先輩、主人公の美香、誰とくっつくと思います?」

などとと、勝手に話しをしている。
当然私は、それを無視し、ひたすら家路を急ぐ。
そして10分とせずに、自宅に到着する。

「先輩、わかってます?明日は、いつもより早く朝練あるんですから、
30分、早く起きていてくださいね。いいですね?じゃぁ」
「あんたに言われなくたって、わかってるよ」
お互いそれぞれの家の門に手を掛けながら話す。
そう、二人は隣同士だった。

**************************************************

「それじゃあ、恒例の5km走ね。もうそろそろ大会も近いし、
長距離の人も、そうじゃない人も、自己ベストを狙ってくださいね」
ウォームアップが終わった後、部長がいつものようにひとこと言った後、
一斉にスタートする。月に1度のお決まりこと。
普段なら、朝練は、軽い筋力トレーニングが中心なのだが、
昔からの伝統らしく、月に1度、いつもより早く出て、みんなで走るのである。

(放課後の練習でもいいじゃないか)と、紀子は思うのだが、
何せ、あまり広くないグラウンドを、いくつもの部活が共有しているため、
遠慮がなく走られる、朝の早い時間を選んでいるらしい。

(まったく、他の部活が終わってから走ればいいじゃないか)

と、朝が弱い紀子は思う。たとえ、放課後に走ったとしても、
(まったく、他の部活の邪魔してまで走ることないじゃないか)とか、
(まったく、こんな遅く、暗くなってまで走ることないじゃないか)と、
どちらにせよ文句をつけるはずなのだが。

「先輩、遅いですね。待ちくたびれましたよ」
と、先にゴールした瑞希に言われる。
息を切らせながら、紀子がそれに反撃する。
「あんた・・・長距離の選手でしょうが。走り高跳びの私に負けてどうする?
まったく、これでも結構一生懸命走ったから、記録はいいはずだ」
「うん、確かに紀子、前回の記録より伸びているよ。
最近伸ばしつづけているね。長距離に変更する?」
そう言って、今回のタイムを教えてくれたのは、
同じクラスで、マネージャーをしている、和泉(いずみ)だった。

「瑞希さんは、前回をちょっと下回ったかな。
でも、この調子で行けば、今回も、ぶっちぎりのトップ間違いなし!」
そう、瑞希は、この地区では、敵なしの、1万メートルの選手だ。
もともと、中学時代に私が高跳びを始めて入った陸上部に、一緒にいたくて入ってきたのだが、
さすがに、身長が低く、リーチがなくて、高跳びは不利と悟り、長距離を始めたのだ。
まじめに練習をしているし、才能もあったのか、メキメキと頭角をあらわし、中2のときに、
初出場の大会で、大会新記録を作ってしまったのだ。

えっ、私のほうはどうかって?
・・・聞くな。

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「ノリちゃん、明日は私が夕飯作るね。ついでに、お泊りするからね。よ・ろ・し・く」
「はっ?何であんたが夕飯作ってくれんの?それに何でかってに泊るって決めるんだ?」
「あれ、忘れているんですか?私たちの両親、この前当たった、商店街のくじの温泉旅行に、
4泊5日で行くんですよ。その間、ノリちゃんの夕飯、面倒見てって頼まれてるんですから」


そういえばそうだった。なんともまぁ、珍しい偶然か。近所の商店街で、
特賞2本のペア温泉旅行に、お隣同士で当たってしまったのである。
当然、子供たちは、学校があるからと、親だけで、勝手に行くことになり、
また、料理の苦手な紀子が心配だからと、留守の間は、
うちに瑞希が泊まりにくることになっていたのだ。

「忘れたくて、忘れていたよ。でも、あんたほんとに泊まりにくるの?」
「なに言っているんですか。私がいなかったら、ご飯食べられませんよ。
そうでなくたって、外食や、コンビニ弁当は嫌いだとか言って食べられないんですから、
4日間、断食するんですか?」
うっ、それはさすがにハードだ。しかたない。嫌だが、ここは、機嫌をとるに限るな・・・。
「嬉しいよ、瑞希。4日間も、瑞希の心のこもった手料理を食べられるなんて、
私ってなんて幸せなんだろう。どうせなら、毎日作りに来て欲しいな」
ほとんど棒読みの台詞のように、感情を交えずに言う。
だが、後半の台詞は、不本意ながら本音である。
私の、料理下手は、絶対に母親のせいだ。

結局、金曜日の夜から、瑞希はうちに泊まりにきた。
「ノリちゃん、泊まりにきたよー。愛する、瑞希がやってきましたよー」
「誰が愛している瑞希だって?まったく。とりあえず、早く夕飯作ってくれ」
「ハーイ。とりあえず、今日は、簡単に、昨日のうちにビーフシチューを作っておきましたから、
パスタをゆでて合わせますね。あと、サラダ作りますけど、いいですか?」
それは嬉しい。前に食べたことあるんだけど、瑞希のシチューおいしいんだよね。
「単に、材料を切って、コトコト煮ているだけですよ」なんていっていたけど、
私が作るより、断然おいしい。同じ材料を使っても。なぜだろう?
瑞希の作ってくれた夕飯を食べている間は、さすがの私も、文句を言わなかった。
ただし、話し掛けもしなかったが。

食べ終えた後、さすがに片付けぐらいはと皿を洗っていた。
ふと、テレビを見ている瑞希のことが気になり、後ろを振り返ると、
瑞希は、ソファーに座って、なにか考え込んでいるようだった。
(どうしたんだろう?瑞希が考え込むなんて?)
いつも明るい瑞希からは、考えられない姿だった。
特に、泊まりにくるのを待ち焦がれていた様子だったから、そんな姿の瑞希を見て、
ものすごい違和感が沸く。


(悩みごとか?瑞希が?)
皿を洗う手を休めずに考える。
「行動しないで悩むくらいなら、行動してから悩みます!」
と公言し、実際に行動を先に行い、でも、悩んだことは一度もないはずの瑞希。
(どうしたんだろう?しょうがない。今日は、やさしくしてやるか・・・)
そう紀子は考えながら、洗い物を終わらせる。

「瑞希、お待たせ。さぁ、テレビ見ようよ」
そう言って、俯き加減の瑞希の隣に座る紀子。
瑞希が、テレビのリモコンに手を伸ばした。
チャンネルを変えるのかと思ったら、瑞希はテレビを消した。

「ちょっと、瑞希、何でテレビを消しちゃうの?
あんた、このドラマ最終回だから見るって言っていたじゃん?」
「いいです。ドラマなんて。だって、こんなにゆっくりと話せる時間なんて、普段ないから。
先輩と・・・ノリちゃんと、二人きりでいられる機会なんて、そうないから・・・」
確かに瑞希の言うとおり、二人きりと言う時間は、ほとんどない。
しいて言うなら、学校の行き帰りだが、いつも、私は瑞希の話をまともに聞こうとしない。
たしかに、今が何か話したいとしたらチャンスだ。だが何を?それが紀子には不思議だった。


「どうしたの、瑞希。さっきから気になっていたんだけど、
あんたらしくないよ。いつもの、あの明るい瑞希はどこに行っちゃったのかな?」
つとめて明るく、いつもより、10倍はやさしいと思われる声で話し掛ける。
瑞希が、私のことを真剣に見つめている。そして口を開く。


「せんぱ…ノリちゃん。ノリちゃんが冷たくなったのって、私が中3のときの夏だよね。
それまでは、ものすごくやさしくしてくれて、『瑞希は私の友達。うーん、妹。やっぱり、恋人かな?』て、
冗談も言ってくれたのに、急に、『あんたとは一緒に帰れない』って言い始めて。
私、ずっとその理由がわからなかったの。わからなかったんだけど、
ノリちゃんが言う言葉をそのまま実行しちゃうと、ずっと離れちゃう気がして、
もっと嫌われるの覚悟で、それまで以上に、ノリちゃんに付きまとったりしたし、
言動も、ホントの恋人か、それに近い人のつもりで言っていたの。

私の行動がどんなに、ノリちゃんの気に触っても、離れちゃうよりもいいって」
そう言って、瑞希は、私の顔をじっと見る。


「でね、最近、もともとノリちゃんのこと大好きだったけど、
意図的に、恋人のつもりでいたら、
ホントに紀ちゃんの恋人になった気分になっていて。
で、その、恋人の視点でノリちゃんの行動を見ていたら、
気づいたの。多分、ノリちゃんが冷たくなった理由は、あのことだって」
そう言って、瑞希は、涙を流しはじめていた。私は、そんな瑞希を、ただ、じっと見つめていた。

「私ね、和泉さんに嫉妬したの。ノリちゃんの友達の和泉さんに。
ノリちゃんとクラスが同じで、同じ部活のマネージャーの和泉さんが、
ノリちゃんに楽しそうに話しているのを見て、ものすごく嫉妬したの。
『私のノリちゃんをとらないでって』思った私自身にも、
驚いたけど、何より、その気持ちを抱いたことで、
はじめて、ノリちゃんが冷たくなった理由がわかったの」
瑞希の涙が、頬をつたい、顎の先にたまり、床に落ちていく。
瑞希はそんなことは些細なこととばかり、続きを言おうと、口を開こうとする。


「もういい!」
「もういい!瑞希!」
私は、小柄な瑞希の体を、抱きしめていた。涙で濡れている顔が胸にあたる。
洋服が、私のせいで流させてしまった涙で濡れていく。
幼稚園に上がる前からお隣同士で、ずっと一緒に過ごしてきた私たちだったが、
こうして、抱きしめるのは初めてだった。
だけど、私は、ずっと、瑞希を抱きしめたいと思っていたのだ。


「瑞希が悪いんじゃ・・・ない。私が・・・子供だったんだよ。
私のわが・・・ままで、勝手な思い込みで、瑞希をこんな・・・に苦しめてしまったんだよ。
いけ・・・ないのは、悪いのは・・・全部、私・・・なんだよ」

私は涙声になりながら、何とか言葉を発した。

瑞希を苦しめてしまった。そう、初めは私の嫉妬から、
瑞希に対する態度が冷たくなった。そして、冷たくしているうちに、
私は、瑞希と離れたほうがいいと思うようになり、さらに冷たくするように勤めてきた。
そのうち、何で冷たくするのかと言うことは考えなくなり、
ただ、冷たくするのが私の義務のように振舞ってきた。
信じていたから。好きな人が幸せになるのに、自分が邪魔なら、離れるべきだと。


隣同士だし、学校も一緒。急に冷たくすると、みんな不審に思うし、
お互いの両親が黙っていないだろう。だから、少しずつ、少しずつ、
距離をおこうとしてきた。瑞希に対する態度を変え始めてから、
なぜか、瑞希は私に対して、なれなれしいとも思える行動をとるようになっていたので、
多少、冷たくあたっても、みんな、それほど不思議には思わなかった。
高校卒業時に、瑞希に冷たくなった訳を話して、2度と会わないつもりだった。


こんな形で、自分の計画が崩れるなんて思っていなかった。
まさか、瑞希が、直感とはいえ、私の行動を読んでいたなんて。
ましてや、私の心の中を読んでいたなんて。
私は、そう、瑞希のことを大切な人と思っていながら、
何にも、瑞希のことを考えていなかったのだ。
勝手に、「瑞希のため」と自分に言い聞かせ、
瑞希につらい思いをさせてしまったのだ。


一番の誤算は、瑞希が、私のことを「特別な人」としてくれたことだ。
もともと、私の方が瑞希に対して、まるで恋人のように振舞うことを好んでいた。
表面は、冗談に見せていたが、心中は、気づかれてはいけない、「片思い」だった。
あのこと」以来、冷たい素振りを見せ始めた私に対して、今まで私が振舞っていたように行動し始めたのは、
私に、前のように私になって欲しいからだと思っていた。
それでも、いつか私のことが嫌いになって、離れてくれると信じていた。
まさか、振舞っているうちに、私のことを、「本当の恋人」と思ってくれていたなんて。
もっと早く気づくべきだった。私が瑞希に対して思った感情を、そのまま、瑞希に追わせてしまったのだ。


いや、やっぱり、結果とはいえ、こうなるべくしてなったのかもしれない。
お互い、このことがなければ、胸の内を明かせなかったかもしれない。
ご近所の、幼馴染で、友人で、妹で、母親代わりで、そして女同士の私たち。
互いに、潔癖症の毛があるので、同性である自分たちのことが好きなんて、
告白できなかっただろうから。

「ノリちゃん」
瑞希の声が聞こえる。
腕を少し緩めると、
瑞希の顔が、私の前に現れた。
「ノリちゃん、今なに考えているか言わなくていいからね。
もう、わかっているから。わかっているから何も言わないで」


そう言って、真っ赤になっている顔を、いつもの、あの明るい笑顔に作り変える。
まだ、涙がとまらないその顔を見て、私は、自分の今まで抑えていた気持ちが、
爆発するのを感じた。

「・・・・・・!?」
信じられないという表情をする瑞希。
私は目を閉じ、唇で、瑞希の涙をぬぐいはじめた。

瑞希は、一瞬からだをこわばらせ、目を見開いたが、
次の瞬間、目を閉じ、私にからだを預ける。

しばらくすると、瑞希の涙は止まった。

それでも私は、瑞希の頬に唇を這わせていると、
軽く、洋服を引かれた。
お互い目を開け、じっと、見つめ合う。
そして、再び目を閉じると、唇をあわせる


自分たちの感情に振り回されながらも、
自分たちは、あるべきところに収まった。
そう、二人は感じていた。
二人は、ひとつ。もう誰も、自分たちを離せない。


「瑞希、愛してる・・・」
「ノリちゃん、私も愛してるよ・・・」
「初めて、自分の感情に正直になった気がする。

瑞希、生まれてから、今までずっと一緒だったけど、
これからも、一緒にいたい。自分勝手で、感情的で、
周りが見えなくなることもある私だけど、瑞希と一緒なら、
自分に自信が持てる。瑞希のことを誰よりも愛しているっていう自信を」
長い時間、互いを感じあった後、一度、体を離し、私は瑞希に話し掛けた。


「ノリちゃん、私だって、負けないくらい、感情的だよ。わがままで、
やきもち焼きで、泣き虫で。それに負けず嫌い。私、絶対負けないよ」
「瑞希?」
「ノリちゃんが私のことを愛してくれている以上に、私もノリちゃんが好き・・・愛してる


どちらからともなく互いの背に腕を回す。
相手の体温を、心を、すべてを感じるために、力を込める。
感じる。ぬくもりを。鼓動を。お互いの存在を。
離さない。離せるものか。ようやく、ようやく正直になれたのだから。


「ノリちゃん、痛い」
「ごめん。瑞希は私から逃げないってわかっているんだけど、
なんか、夢じゃないかって思っちゃって」
「そうですね、きっと夢なんですよ。今、二人とも、夢の住人なんですよ。
誰もいない、二人だけの空間で、ずっと、お互いのことを愛し合うの・・・」

顔を赤らめ、最後のほうは囁くような声で、瑞希が言う。
「そうだね。夢だったら、何だって出来るもんね。
・・・私、瑞希のすべてを自分だけのものにしたい」
「ノリちゃん、私も、私だけのノリちゃんにしたい」
「とりあえず、お風呂に入ろうか。前みたいに、一緒にね!」


小さい頃に戻った感じだ。お互いの背中を洗いあう。
前と違うのは、お互いからだが大きくなり、
体が「大人に」近づき始めていると言うこと。
二人とも、妙に意識をしているの感じたから、
体と髪を洗い、湯船にさっとつかった後、すぐに出た。


洗面所は二人で着替えるのは狭いので、
バスタオルだけを巻き、私の部屋に向かった。
部屋に入る。二人とも、寝巻きの準備はしてある。
でも、私は着る前に、どうしても瑞希を感じたくなった。


私の前に、背中を見せて立っている姿を見て、
私は瑞希に何も声をかけず、後ろから抱きついた。
瑞希も私がそう行動するとわかっていたのか、
身を硬くすることもなく、私の腕に、手を軽く添える。


お風呂上がりの瑞希のにおい。とてもいい香りがする。
タオルで髪を上げているので、首筋に視線がいく。
軽く唇を当てる。

「あっ!」
敏感に反応する瑞希。
私はかまわず、鎖骨付近や、肩の周辺に唇を這わせる。
「やっ、やだ・・・」
ちょっと瑞希が強張ってきている。
一度、唇を離し、耳元で囁く。
「力を抜いて」
そして、耳たぶを軽く噛む。
「あっ・・・」
瑞希の頬に赤味が増す


私は一度、瑞希から体を離した。
そして、瑞希の体を自分のほうに向けた。
言葉は要らない。お互いのことは誰よりもわかっているから。
目を閉じ、唇を合わせる。腕を互いの背中に回す。
私は、そのままの体勢で、瑞希の体に体重を預ける形で、
すぐ後ろにある、ベッドに押し倒した。


*************************

「おーい、二人とも仲良くお留守番できたか?」
二人が紀子の家の居間でくつろいでいると、
互いの両親が、どやどやと、なにやら荷物を持って、入ってくる。
「はい、これお土産。温泉まんじゅうよ」
(いらない)と二人は思いつつ、
互いの両親に気を使って、手を伸ばして受け取る。
後から後から話が出てきて勝手に盛り上がっている4人を横目に、
二人は、紀子の部屋に行くと、ベッドに腰をかける。


「帰ってきちゃいましたね」
瑞希が心底残念そうな顔をする。
「しょうがないじゃん、もともと4泊5日って決まってたんだから。
それに、いたって…」
そういって、瑞希の唇に軽く唇を合わせる。
「これは出来るしね」
ニヤニヤと笑う紀子。テレ笑いを隠せない瑞希。


両親のいない間、互いの心と、体を求め合った二人。
今しか時間がないわけではないのだが、
「今」という瞬間を大切にしたかった。
すれ違ってしまった時間を取り戻したかった。
後のことなんて考えられなかった。
朝晩、限られた時間の中で、それでも二人は、
そのときが永遠に続くかのような行為に没頭した。


「それに、家だったら、両親と、私の部屋が別々の階だし、

どんなに瑞希が声出しても大丈夫だよ」
「ノリちゃんの意地悪…」
「なに俯いているの。私は、かわいい瑞希の、愛らしい声を聞くだけで、
天国に行く気分なのに、瑞希は恥ずかしいわけ?」
「…ノリちゃんて、エッチだったんだね」
「そうだよ。だって、大好きな瑞希が感じてくれるなら、私、どんなことでも出来るもの」
「私も…だよ」
蚊の鳴くような声で話す瑞希。
「えっ、なに?」
頬を赤らめながら、覚悟を決めたような表情で、紀子の方を見る瑞希。
「私も、愛するノリちゃんのためだったら、何でもする!」
そういって、体全体で紀子に体当たりしてきた。


下の階に両親がいることなんて関係ない。
二人は、ベッドの上に横たわり、服の上から、
体を弄りあう。


「二人とも、お夕飯外に食べに行くから、降りてらっしゃい!」

階段の下から、紀子の母親の声がする。
思わず、顔を見合わせる二人。
もうすでに体に灯がともりつつあったから、
体の方はすぐにはなすことが出来ない。
どうしようという顔をする瑞希。
強く抱きしめ、奪うような口づけをしてから、紀子が言う。


「まっ、これからは、いつでもとはいかないか。
でも、二人の一緒の時間は、これからもあるからね」


そう、二人は、今までも、これからも、ずっと一緒だ。
ふたたび、すれ違いが起きない限り



あとがき 

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