「片瀬先輩、一緒に帰りましょうよ〜!」
遠くのほうから背中から聞こえる、いつも聞きなれた声。
(また、あいつか・・・)
そう思って、片瀬紀子は、後ろも振り向かずに大声で答える。
「嫌だね。私は一人で帰る。あんたも一人で帰りな」
「先輩、そんな冷たいことを言わないでくださいよ。
どうせ帰る方向同じなんですから、一緒に帰ってくださいよ!」
大声をあげながら、全速力で近づいているようだ。
瑞希が私に追いつくのを感じて、キッと振り返り様、
私より頭ひとつ分低い瑞希の顔に人差し指を突きつけ言い放つ。
たまには他の人と帰るか、一人で帰るくらいのことはさせろ!」
怒鳴るように、宣言をする。
「いいか、あんたと、私は、ここ何年も、一緒に帰っているんだぞ。
恋人でもあるまいし、一人で帰らせろ」
突きつけた人差し指を見ようとして目がよった瑞希の顔。
一瞬たじろいだかと思ったら、息を軽く整えてから、にっこり笑った。
「先輩、またお決まりの台詞ですか?そうやって、照れないで、
どうせ、一緒に帰るんですから、素直に一緒に帰ってくださいよ。
たまには素直に、『瑞希〜!待っているんだから、早くおいでよ!』とか言ってくださいよ」
「誰が言うか、冗談じゃない。何で私があんたにそんなこと言わなきゃならないんだ。
とにかく、私は一人で帰るからな」
「はーい。じゃあ、先輩は先に一人で帰ってください。私は、少し後ろから一人で帰りますから」
(結局このパターンか)
私がすたすたと先を歩き、5歩ほど後ろを、瑞希が早歩きする私に離れまいとしながら、
「明日、あのドラマ、最終回なんですよ。先輩、主人公の美香、誰とくっつくと思います?」
などとと、勝手に話しをしている。
当然私は、それを無視し、ひたすら家路を急ぐ。
そして10分とせずに、自宅に到着する。
「先輩、わかってます?明日は、いつもより早く朝練あるんですから、
30分、早く起きていてくださいね。いいですね?じゃぁ」
「あんたに言われなくたって、わかってるよ」
お互いそれぞれの家の門に手を掛けながら話す。
そう、二人は隣同士だった。
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「それじゃあ、恒例の5km走ね。もうそろそろ大会も近いし、
長距離の人も、そうじゃない人も、自己ベストを狙ってくださいね」
ウォームアップが終わった後、部長がいつものようにひとこと言った後、
一斉にスタートする。月に1度のお決まりこと。
普段なら、朝練は、軽い筋力トレーニングが中心なのだが、
昔からの伝統らしく、月に1度、いつもより早く出て、みんなで走るのである。
(放課後の練習でもいいじゃないか)と、紀子は思うのだが、
何せ、あまり広くないグラウンドを、いくつもの部活が共有しているため、
遠慮がなく走られる、朝の早い時間を選んでいるらしい。
(まったく、他の部活が終わってから走ればいいじゃないか)
と、朝が弱い紀子は思う。たとえ、放課後に走ったとしても、
(まったく、他の部活の邪魔してまで走ることないじゃないか)とか、
(まったく、こんな遅く、暗くなってまで走ることないじゃないか)と、
どちらにせよ文句をつけるはずなのだが。
「先輩、遅いですね。待ちくたびれましたよ」
と、先にゴールした瑞希に言われる。
息を切らせながら、紀子がそれに反撃する。
「あんた・・・長距離の選手でしょうが。走り高跳びの私に負けてどうする?
まったく、これでも結構一生懸命走ったから、記録はいいはずだ」
「うん、確かに紀子、前回の記録より伸びているよ。
最近伸ばしつづけているね。長距離に変更する?」
そう言って、今回のタイムを教えてくれたのは、
同じクラスで、マネージャーをしている、和泉(いずみ)だった。
「瑞希さんは、前回をちょっと下回ったかな。
でも、この調子で行けば、今回も、ぶっちぎりのトップ間違いなし!」
そう、瑞希は、この地区では、敵なしの、1万メートルの選手だ。
もともと、中学時代に私が高跳びを始めて入った陸上部に、一緒にいたくて入ってきたのだが、
さすがに、身長が低く、リーチがなくて、高跳びは不利と悟り、長距離を始めたのだ。
まじめに練習をしているし、才能もあったのか、メキメキと頭角をあらわし、中2のときに、
初出場の大会で、大会新記録を作ってしまったのだ。
えっ、私のほうはどうかって?
・・・聞くな。
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「ノリちゃん、明日は私が夕飯作るね。ついでに、お泊りするからね。よ・ろ・し・く」
「はっ?何であんたが夕飯作ってくれんの?それに何でかってに泊るって決めるんだ?」
「あれ、忘れているんですか?私たちの両親、この前当たった、商店街のくじの温泉旅行に、
4泊5日で行くんですよ。その間、ノリちゃんの夕飯、面倒見てって頼まれてるんですから」
そういえばそうだった。なんともまぁ、珍しい偶然か。近所の商店街で、
特賞2本のペア温泉旅行に、お隣同士で当たってしまったのである。
当然、子供たちは、学校があるからと、親だけで、勝手に行くことになり、
また、料理の苦手な紀子が心配だからと、留守の間は、
うちに瑞希が泊まりにくることになっていたのだ。
「忘れたくて、忘れていたよ。でも、あんたほんとに泊まりにくるの?」
「なに言っているんですか。私がいなかったら、ご飯食べられませんよ。
そうでなくたって、外食や、コンビニ弁当は嫌いだとか言って食べられないんですから、
4日間、断食するんですか?」
うっ、それはさすがにハードだ。しかたない。嫌だが、ここは、機嫌をとるに限るな・・・。
「嬉しいよ、瑞希。4日間も、瑞希の心のこもった手料理を食べられるなんて、
私ってなんて幸せなんだろう。どうせなら、毎日作りに来て欲しいな」
ほとんど棒読みの台詞のように、感情を交えずに言う。
だが、後半の台詞は、不本意ながら本音である。
私の、料理下手は、絶対に母親のせいだ。
結局、金曜日の夜から、瑞希はうちに泊まりにきた。
「ノリちゃん、泊まりにきたよー。愛する、瑞希がやってきましたよー」
「誰が愛している瑞希だって?まったく。とりあえず、早く夕飯作ってくれ」
「ハーイ。とりあえず、今日は、簡単に、昨日のうちにビーフシチューを作っておきましたから、
パスタをゆでて合わせますね。あと、サラダ作りますけど、いいですか?」
それは嬉しい。前に食べたことあるんだけど、瑞希のシチューおいしいんだよね。
「単に、材料を切って、コトコト煮ているだけですよ」なんていっていたけど、
私が作るより、断然おいしい。同じ材料を使っても。なぜだろう?
瑞希の作ってくれた夕飯を食べている間は、さすがの私も、文句を言わなかった。
ただし、話し掛けもしなかったが。
食べ終えた後、さすがに片付けぐらいはと皿を洗っていた。
ふと、テレビを見ている瑞希のことが気になり、後ろを振り返ると、
瑞希は、ソファーに座って、なにか考え込んでいるようだった。
(どうしたんだろう?瑞希が考え込むなんて?)
いつも明るい瑞希からは、考えられない姿だった。
特に、泊まりにくるのを待ち焦がれていた様子だったから、そんな姿の瑞希を見て、
ものすごい違和感が沸く。
(悩みごとか?瑞希が?)
皿を洗う手を休めずに考える。
「行動しないで悩むくらいなら、行動してから悩みます!」
と公言し、実際に行動を先に行い、でも、悩んだことは一度もないはずの瑞希。
(どうしたんだろう?しょうがない。今日は、やさしくしてやるか・・・)
そう紀子は考えながら、洗い物を終わらせる。
「瑞希、お待たせ。さぁ、テレビ見ようよ」
そう言って、俯き加減の瑞希の隣に座る紀子。
瑞希が、テレビのリモコンに手を伸ばした。
チャンネルを変えるのかと思ったら、瑞希はテレビを消した。
「ちょっと、瑞希、何でテレビを消しちゃうの?
あんた、このドラマ最終回だから見るって言っていたじゃん?」
「いいです。ドラマなんて。だって、こんなにゆっくりと話せる時間なんて、普段ないから。
先輩と・・・ノリちゃんと、二人きりでいられる機会なんて、そうないから・・・」
確かに瑞希の言うとおり、二人きりと言う時間は、ほとんどない。
しいて言うなら、学校の行き帰りだが、いつも、私は瑞希の話をまともに聞こうとしない。
たしかに、今が何か話したいとしたらチャンスだ。だが何を?それが紀子には不思議だった。
「どうしたの、瑞希。さっきから気になっていたんだけど、
あんたらしくないよ。いつもの、あの明るい瑞希はどこに行っちゃったのかな?」
つとめて明るく、いつもより、10倍はやさしいと思われる声で話し掛ける。
瑞希が、私のことを真剣に見つめている。そして口を開く。
「せんぱ…ノリちゃん。ノリちゃんが冷たくなったのって、私が中3のときの夏だよね。
それまでは、ものすごくやさしくしてくれて、『瑞希は私の友達。うーん、妹。やっぱり、恋人かな?』て、
冗談も言ってくれたのに、急に、『あんたとは一緒に帰れない』って言い始めて。
私、ずっとその理由がわからなかったの。わからなかったんだけど、
ノリちゃんが言う言葉をそのまま実行しちゃうと、ずっと離れちゃう気がして、
もっと嫌われるの覚悟で、それまで以上に、ノリちゃんに付きまとったりしたし、
言動も、ホントの恋人か、それに近い人のつもりで言っていたの。
私の行動がどんなに、ノリちゃんの気に触っても、離れちゃうよりもいいって」
そう言って、瑞希は、私の顔をじっと見る。
「でね、最近、もともとノリちゃんのこと大好きだったけど、
意図的に、恋人のつもりでいたら、ホントに紀ちゃんの恋人になった気分になっていて。
で、その、恋人の視点でノリちゃんの行動を見ていたら、
気づいたの。多分、ノリちゃんが冷たくなった理由は、あのことだって」
そう言って、瑞希は、涙を流しはじめていた。私は、そんな瑞希を、ただ、じっと見つめていた。
「私ね、和泉さんに嫉妬したの。ノリちゃんの友達の和泉さんに。
ノリちゃんとクラスが同じで、同じ部活のマネージャーの和泉さんが、
ノリちゃんに楽しそうに話しているのを見て、ものすごく嫉妬したの。
『私のノリちゃんをとらないでって』思った私自身にも、
驚いたけど、何より、その気持ちを抱いたことで、
はじめて、ノリちゃんが冷たくなった理由がわかったの」
瑞希の涙が、頬をつたい、顎の先にたまり、床に落ちていく。
瑞希はそんなことは些細なこととばかり、続きを言おうと、口を開こうとする。
「もういい!」
「もういい!瑞希!」
私は、小柄な瑞希の体を、抱きしめていた。涙で濡れている顔が胸にあたる。
洋服が、私のせいで流させてしまった涙で濡れていく。
幼稚園に上がる前からお隣同士で、ずっと一緒に過ごしてきた私たちだったが、
こうして、抱きしめるのは初めてだった。
だけど、私は、ずっと、瑞希を抱きしめたいと思っていたのだ。
「瑞希が悪いんじゃ・・・ない。私が・・・子供だったんだよ。
私のわが・・・ままで、勝手な思い込みで、瑞希をこんな・・・に苦しめてしまったんだよ。
いけ・・・ないのは、悪いのは・・・全部、私・・・なんだよ」
私は涙声になりながら、何とか言葉を発した。
瑞希を苦しめてしまった。そう、初めは私の嫉妬から、
瑞希に対する態度が冷たくなった。そして、冷たくしているうちに、
私は、瑞希と離れたほうがいいと思うようになり、さらに冷たくするように勤めてきた。
そのうち、何で冷たくするのかと言うことは考えなくなり、
ただ、冷たくするのが私の義務のように振舞ってきた。
信じていたから。好きな人が幸せになるのに、自分が邪魔なら、離れるべきだと。
隣同士だし、学校も一緒。急に冷たくすると、みんな不審に思うし、
お互いの両親が黙っていないだろう。だから、少しずつ、少しずつ、
距離をおこうとしてきた。瑞希に対する態度を変え始めてから、
なぜか、瑞希は私に対して、なれなれしいとも思える行動をとるようになっていたので、
多少、冷たくあたっても、みんな、それほど不思議には思わなかった。
高校卒業時に、瑞希に冷たくなった訳を話して、2度と会わないつもりだった。
こんな形で、自分の計画が崩れるなんて思っていなかった。
まさか、瑞希が、直感とはいえ、私の行動を読んでいたなんて。
ましてや、私の心の中を読んでいたなんて。
私は、そう、瑞希のことを大切な人と思っていながら、
何にも、瑞希のことを考えていなかったのだ。
勝手に、「瑞希のため」と自分に言い聞かせ、
瑞希につらい思いをさせてしまったのだ。
一番の誤算は、瑞希が、私のことを「特別な人」としてくれたことだ。
もともと、私の方が瑞希に対して、まるで恋人のように振舞うことを好んでいた。
表面は、冗談に見せていたが、心中は、気づかれてはいけない、「片思い」だった。
「あのこと」以来、冷たい素振りを見せ始めた私に対して、今まで私が振舞っていたように行動し始めたのは、
私に、前のように私になって欲しいからだと思っていた。
それでも、いつか私のことが嫌いになって、離れてくれると信じていた。
まさか、振舞っているうちに、私のことを、「本当の恋人」と思ってくれていたなんて。
もっと早く気づくべきだった。私が瑞希に対して思った感情を、そのまま、瑞希に追わせてしまったのだ。
いや、やっぱり、結果とはいえ、こうなるべくしてなったのかもしれない。
お互い、このことがなければ、胸の内を明かせなかったかもしれない。
ご近所の、幼馴染で、友人で、妹で、母親代わりで、そして女同士の私たち。
互いに、潔癖症の毛があるので、同性である自分たちのことが好きなんて、
告白できなかっただろうから。
「ノリちゃん」
瑞希の声が聞こえる。
腕を少し緩めると、
瑞希の顔が、私の前に現れた。
「ノリちゃん、今なに考えているか言わなくていいからね。
もう、わかっているから。わかっているから何も言わないで」
そう言って、真っ赤になっている顔を、いつもの、あの明るい笑顔に作り変える。
まだ、涙がとまらないその顔を見て、私は、自分の今まで抑えていた気持ちが、
爆発するのを感じた。
「・・・・・・!?」
信じられないという表情をする瑞希。
私は目を閉じ、唇で、瑞希の涙をぬぐいはじめた。
瑞希は、一瞬からだをこわばらせ、目を見開いたが、
次の瞬間、目を閉じ、私にからだを預ける。
しばらくすると、瑞希の涙は止まった。
それでも私は、瑞希の頬に唇を這わせていると、
軽く、洋服を引かれた。
お互い目を開け、じっと、見つめ合う。
そして、再び目を閉じると、唇をあわせる。
自分たちの感情に振り回されながらも、
自分たちは、あるべきところに収まった。
そう、二人は感じていた。
二人は、ひとつ。もう誰も、自分たちを離せない。
「瑞希、愛してる・・・」
「ノリちゃん、私も愛してるよ・・・」
「初めて、自分の感情に正直になった気がする。
瑞希、生まれてから、今までずっと一緒だったけど、
これからも、一緒にいたい。自分勝手で、感情的で、
周りが見えなくなることもある私だけど、瑞希と一緒なら、
自分に自信が持てる。瑞希のことを誰よりも愛しているっていう自信を」
長い時間、互いを感じあった後、一度、体を離し、私は瑞希に話し掛けた。
「ノリちゃん、私だって、負けないくらい、感情的だよ。わがままで、
やきもち焼きで、泣き虫で。それに負けず嫌い。私、絶対負けないよ」
「瑞希?」
「ノリちゃんが私のことを愛してくれている以上に、私もノリちゃんが好き・・・愛してる」
どちらからともなく互いの背に腕を回す。
相手の体温を、心を、すべてを感じるために、力を込める。
感じる。ぬくもりを。鼓動を。お互いの存在を。
離さない。離せるものか。ようやく、ようやく正直になれたのだから。
「ノリちゃん、痛い」
「ごめん。瑞希は私から逃げないってわかっているんだけど、
なんか、夢じゃないかって思っちゃって」
「そうですね、きっと夢なんですよ。今、二人とも、夢の住人なんですよ。
誰もいない、二人だけの空間で、ずっと、お互いのことを愛し合うの・・・」
顔を赤らめ、最後のほうは囁くような声で、瑞希が言う。
「そうだね。夢だったら、何だって出来るもんね。
・・・私、瑞希のすべてを自分だけのものにしたい」
「ノリちゃん、私も、私だけのノリちゃんにしたい」
「とりあえず、お風呂に入ろうか。前みたいに、一緒にね!」
小さい頃に戻った感じだ。お互いの背中を洗いあう。
前と違うのは、お互いからだが大きくなり、
体が「大人に」近づき始めていると言うこと。
二人とも、妙に意識をしているの感じたから、
体と髪を洗い、湯船にさっとつかった後、すぐに出た。
洗面所は二人で着替えるのは狭いので、
バスタオルだけを巻き、私の部屋に向かった。
部屋に入る。二人とも、寝巻きの準備はしてある。
でも、私は着る前に、どうしても瑞希を感じたくなった。
私の前に、背中を見せて立っている姿を見て、
私は瑞希に何も声をかけず、後ろから抱きついた。
瑞希も私がそう行動するとわかっていたのか、
身を硬くすることもなく、私の腕に、手を軽く添える。
お風呂上がりの瑞希のにおい。とてもいい香りがする。
タオルで髪を上げているので、首筋に視線がいく。
軽く唇を当てる。
「あっ!」
敏感に反応する瑞希。
私はかまわず、鎖骨付近や、肩の周辺に唇を這わせる。
「やっ、やだ・・・」
ちょっと瑞希が強張ってきている。
一度、唇を離し、耳元で囁く。
「力を抜いて」
そして、耳たぶを軽く噛む。
「あっ・・・」
瑞希の頬に赤味が増す。
私は一度、瑞希から体を離した。
そして、瑞希の体を自分のほうに向けた。
言葉は要らない。お互いのことは誰よりもわかっているから。
目を閉じ、唇を合わせる。腕を互いの背中に回す。
私は、そのままの体勢で、瑞希の体に体重を預ける形で、
すぐ後ろにある、ベッドに押し倒した。
*************************
「おーい、二人とも仲良くお留守番できたか?」
二人が紀子の家の居間でくつろいでいると、
互いの両親が、どやどやと、なにやら荷物を持って、入ってくる。
「はい、これお土産。温泉まんじゅうよ」
(いらない)と二人は思いつつ、
互いの両親に気を使って、手を伸ばして受け取る。
後から後から話が出てきて勝手に盛り上がっている4人を横目に、
二人は、紀子の部屋に行くと、ベッドに腰をかける。
「帰ってきちゃいましたね」
瑞希が心底残念そうな顔をする。
「しょうがないじゃん、もともと4泊5日って決まってたんだから。
それに、いたって…」
そういって、瑞希の唇に軽く唇を合わせる。
「これは出来るしね」
ニヤニヤと笑う紀子。テレ笑いを隠せない瑞希。
両親のいない間、互いの心と、体を求め合った二人。
今しか時間がないわけではないのだが、
「今」という瞬間を大切にしたかった。
すれ違ってしまった時間を取り戻したかった。
後のことなんて考えられなかった。
朝晩、限られた時間の中で、それでも二人は、
そのときが永遠に続くかのような行為に没頭した。
「それに、家だったら、両親と、私の部屋が別々の階だし、
どんなに瑞希が声出しても大丈夫だよ」
「ノリちゃんの意地悪…」
「なに俯いているの。私は、かわいい瑞希の、愛らしい声を聞くだけで、
天国に行く気分なのに、瑞希は恥ずかしいわけ?」
「…ノリちゃんて、エッチだったんだね」
「そうだよ。だって、大好きな瑞希が感じてくれるなら、私、どんなことでも出来るもの」
「私も…だよ」
蚊の鳴くような声で話す瑞希。
「えっ、なに?」
頬を赤らめながら、覚悟を決めたような表情で、紀子の方を見る瑞希。
「私も、愛するノリちゃんのためだったら、何でもする!」
そういって、体全体で紀子に体当たりしてきた。
下の階に両親がいることなんて関係ない。
二人は、ベッドの上に横たわり、服の上から、
体を弄りあう。
「二人とも、お夕飯外に食べに行くから、降りてらっしゃい!」
階段の下から、紀子の母親の声がする。
思わず、顔を見合わせる二人。
もうすでに体に灯がともりつつあったから、
体の方はすぐにはなすことが出来ない。
どうしようという顔をする瑞希。
強く抱きしめ、奪うような口づけをしてから、紀子が言う。
「まっ、これからは、いつでもとはいかないか。
でも、二人の一緒の時間は、これからもあるからね」
そう、二人は、今までも、これからも、ずっと一緒だ。
ふたたび、すれ違いが起きない限り。
あとがき
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