〔1〕

放課後の教室。私は、窓際の机の上に腰掛け
片足をもうひとつの足に乗せ、その上に、ひじを置き、
退屈そうに、窓の外で、部活に励んでいる、他の生徒を見ている。
(よくあんだけ真剣に取り組めるよ…)

部活は帰宅部である。
理由は、「やる気」が起きないので、やらない。
ただそれだけである。 受験勉強も、
大学に行く意義が見いだせなくて、
手につけていない。高校も、やめたいが、
やめたところで何をするきも起きないので、
親の金でいけるのをいいことに、
時間つぶしの間として利用している。

「無気力、無関心、無感動」
多少は私のことを知るものに、
私の性格を、簡単に言えばこうなるらしい。
それは、間違っていない。
授業中は、しょっちゅう居眠り。
学校内では常に一人で過ごし、
話し掛けても、最低限の言葉を無愛想に呟くだけ。
そういわれないほうが、自分でも不思議になってしまう。

ただ、私は、いわゆる「落ちこぼれ」ではない。
先生達のウケこそよくはないが、「どこで勉強しているんだ?」
と担任に首を傾げられるほど、成績は学年でもトップクラスなのだ。
運動神経も、良い。顔も、目つきが鋭いが、きりっとした顔立ち。
男性と間違われるほどのショートヘアーで、
「かっこいい」と言われてもおかしくない顔だ。もし、
今の自分の取っている態度と、まったく逆をしていたら、
周りの生徒が放って置かないほどの、人気者になっていたはずである。
だが、そんな風になる気はない。なりたいとは思わない。

「帰るか・・・」
そう思って、軽く机から飛び降り、脇に掛けてある、
鞄に手を伸ばそうとすると、扉のところに、人の気配を感じる。
(挨拶するの面倒だな、無視するか)と私は思いつつ、
気配がするほうに視線を向ける。
気配のもとは、同じクラスの、藍子だった。

藍子は、私の方に向かって歩いてくる。
まっすぐ、私のほうを見ながら。
私は、何も言わず、向かってくる藍子を見ているだけである。
「沙紀さん、やっぱりいましたね」
目の前まで来て、藍子が話し掛けてくる。
私は、この藍子が苦手である。
無愛想な私に、他のものは、話し掛けてくることなどほとんどないのだが、
藍子だけは、私を見かければ、必ず、話し掛けてくるのである。
当然、私は返事も何もしないのだが、本人は、一向に気にしていないようである。

すでに鞄を手にとっていたので、私は、藍子を無視して、帰ろうとする。
すると、藍子は、私の腕をつかんだ。
「待ってください、沙紀さん。私、あなたに話があるんです」
(私にはない)つかまれた腕を振り切ろうとしたが、
体全体でつかんできていたので、振り切れない。
とりあえず、藍子を睨み付けようとする。
藍子の目が、私の顔を真っ直ぐに見ている。

「沙紀さん、好きなんです。付き合ってください」
睨み付けようとする私の目を、藍子は、大きな黒い瞳の目で受け止めるかのように
見つめながら、自分のすべての感情を絞り出すかのような声でそう言った。
「告白する人を間違えているよ」
普通ならドキドキさせられるような台詞を聞いた後でも、
私は、冷めていた。どんなに無視しても、話しつづけてきた藍子である。
よほどのお人よしか、私に特別な感情を抱いていることはわかっていた。
だが、私には付き合う気がない。みんなが避けるほどの、
無気力・無関心・無感動・無愛想な私に、
恋心を抱くこと自体、間違っているのだ。
それ以前に、同性なのだ。

藍子は、他校にファンがいるという程の、かわいい、
お嬢様タイプの人間である。165cmと言う、男性にしてみれば理想の身長。
腰まで届く、まるで流れているかのような長い黒髪。
顔は丸くて小型。構成するパーツは、一つ一つが小さい。
でるところは出ているし、締まるべきところはしまっている。
まるで、黒髪のフランス人形のように、かわいいのだ。
女子高のうちの学校では彼氏は出来ないだろうが、
外で、いくらでも出来るはずなのだ。

「いえ、間違っていません。私、あなたのことが好きなんです。
ずっと前から。前々から、告白したいと思っていたのですけど、
なかなか機会がなくて・・・。沙紀さんのことですから、
人前で告白されたら、付き合ってくれるものも、
付き合ってくれなくなると思って。ずっと、今日のような
機会を伺っていたんです」 ずっと、私の目を見つめながら、藍子が言う。
どうやら、冗談ではないらしい。

「関係ないね」
それだけ言うと帰ろうと再び試みる。
藍子は表情を変えず、私のほうを見つづける。
その瞳に、気のせいか強い光がともった気がした。
「沙紀さん、私、誰よりもあなたのことを理解しています。
あなた以上にあなたのことをわかっているはずです」

「あんたは、私じゃない」
「そうです。私は沙紀さんじゃありません。でも、
沙紀さん、あなた自身で、『私はこんな人間だ』って
決めつけているんですよ。あなたは本当の自分を
知ろうとしていないんです」

反論するか考えていると、教室の外から、声が聞こえる。
「藍子、忘れ物はもう見つかったんでしょ?帰ろうよ」
どうやら、藍子の友人のようである。
「いま行くから待っていて!」
そう言うと、藍子は、メモに何かをすらすらと書き、
「私、待っていますから。本当の沙紀さんを」
そういってそのメモを無理やり私に渡し、
教室から出ていった。



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