高校3年生になってまだ日が浅いある日のこと。
私は幼馴染で、クラスも一緒の啓子に休み時間に話し掛けられた。
「ねぇ、由紀子、今日の放課後、空いてない?」
机に座って次の時間の準備をしている私の目の前に立つと、
啓子は私に今日の予定を聞いてきた。
「今日?大丈夫だけど?」
「あのね、付き合って欲しいんだけど、いい?」
啓子は以前からN高に気になる人がいて、告白したいと
私にずっと相談してきていた。それで、私が、
「告白をしなければ、何も始まらないわよ…」
と、先日、背中を押してあげたから、
ついに告白する決心をしたのかもしれない。
「例の彼ね・・・。いいわよ、でも、私が一緒でいいの?」
「一人だと怖くって。由紀子が一緒なら心強いし。いいでしょう?」
もちろん、自分が啓子の背中を押したからには、そのままにはしたくない。
友人として、啓子の恋が上手くいくようにサポートしたいけど、
実際は、ついていくだけになってしまうだろう。
それでも啓子の気持ちが楽になるのならと、快く承諾した。
駅前広場の時計の前で18時に待ち合わせをしているというので、
私達は一度自宅に帰り、私服に着替えた後、
早めの時間に互いの家の近くで待ち合わせをした。
ほぼ同時に二人がつくと、駅に向かって歩きながら、
啓子は簡単に、約束を取り付けるまでの経緯を私に話してくれた。
「あのね、中学3年の時に私達とクラスが一緒だった一志っていたでしょ?」
「いたわね。もしかして、彼、N高に行ったから、お願いしたの?」
「ぴんぽ〜ん!何とか彼にお願いして、今日、会ってもらえるように
約束を取り付けてもらったの。そうする勇気をもらえたのは、由紀子のおかげよ!」
「なにをいっているの。啓子が積極的になった結果よ。上手くいくと良いわね!」
「ありがとう由紀子。私、がんばるね!」
駅までは歩いて10分ほどの所にある。
近づくにつれ、啓子の話し方に余裕がなくなってくるのがわかる。
「あ〜っ、どうしよう、ドキドキするよ!」
片手を胸に当てている。かなり緊張しているようで、
ピリピリした空気がすぐ隣を歩く私にも伝わってくる。
「告白する前に落ち着いている方が変よ」
そう、微笑みながら啓子に話し掛ける。
「由紀子は付いてきてくれるだけだから良いけど、告白する私の身にもなってよ」
付いてきてと言ってきたのが自分だと言うことを棚に上げているけれど、
それも告白前で頭の中が色々な事を考えていっぱいだからと気にもしていなかった。
私は、啓子の手を握ると、色々と言葉をかけ、落ち着けてあげていた。
私達は、約束の15分前に時計台の前に到着した。
約束相手はまだ見当たらなかった。
「良かった、待たせちゃったら、時間にルーズな子と思われちゃうもんね」
ホッとしている啓子を見て、ちょっと安心をした。
「あっ、啓子、向こうから歩いてくる彼がそうじゃない?」
こっちに真っ直ぐと向かってやってくる、
背が高く、スポーツマンタイプの男性をみて、私は啓子に確かめてみた。
「そう、彼よ…」
緊張が頂点に達したのか、体が固まっているように見える啓子。
私はそんな彼女の背中に片手をやって緊張をほぐそうとしてみる。
深呼吸をする啓子。すぐ脇に立つ私には何もすることができないので、
「せめて…」と思いながら、この恋が上手くいくことを心の中で願っていた。
どんどん、彼は私達2人の前に近づいてきた。
そして、ほんの少し手前で止まると、
なぜか私の方に向かって、声を掛けてきた。
「あなたが伊藤啓子さん?」
「えっ?いえ、違います。彼女が伊藤啓子さんです」
相手が啓子の外見のことを知らなくても当然とはいえ、
彼はなんのためらいもなく、私に声をかけてきた気がした。
「は、初めまして…い、伊藤…啓子です」
緊張しているらしく、普段より、かなり高い声で話す啓子。
私は、そんな彼女の姿を見ながら、2人から距離をおこうと、
足を後ろに動かそうと思った瞬間、彼が私に再び話し掛けてきた。
「俺、付き合うなら君の方が良い。君の名前は?」
「私は彼女の友人です…あっ、啓子!!」
告白する前に断られてしまったのと同じ状況になってしまい、
啓子はあまりのショックで泣きながら走り去ってしまった。
私は、すぐに、N高の彼に「私は付き合えません、ごめんなさい…」
と、だけ言うと、啓子の後を追いかけた。
何とか、駅から少しはなれた住宅地で啓子に追いつく。
「まって、待ってよ啓子…」
腕を掴み、何とか啓子を止める。
「ハァハァ…」
「ゼェ…ゼィ…」
二人とも全速力で走ったので息が上がっている。
啓子はその息が整う前に、私に向かって叫んだ。
「… 由紀子・・・由紀子な・・・んかと一緒に・・・行かなければ・・・良かった!!」
「啓子、私は…」
何とか話を聞いてもらおうとするが、彼女は聞いてくれない。
2人とも、何も話さず、息を整えようとする。
しばらくして、息が落ち着いたのか、睨み付けるようにして、啓子が私に泣き叫んだ。
「由紀子と一緒に行かなければ、きっと彼は私と付き合ってくれた!
由紀子がいたから、彼は私の方を見てくれなかった。
…由紀子なんかいなければ良かったのよ!!」
それは啓子の一方的な思い込みだった。
少なくとも、さっきの事に私だけが責任があるとは思えない。
でも、彼女は逆上して、すでに手がつけられない状態になっていた。
私は啓子に何とか落ち着くように何度か説得しようとしたが、
すでに私の言葉は彼女の耳に届かなくなっていた。
「嫌い、由紀子なんて大嫌い。もう顔もみたくない!!」
そういって、彼女の腕を掴んでいた私の手を振り払うと、
彼女は再び全速力で走り去ってしまった。
自宅に帰ってからというもの、啓子のことが頭から離れなかったが、
さっきの彼女の状態を思い出し、電話を入れても切られるだけだろうと思い、
明日、学校でゆっくりと話をすることに決めた。
その時考えているより、ずっと大変になることを私はまだ知らなかった。