GOURMET LABORATORY
 
ヒラメのトリュフ風味(乱切りトリュフの場合)
 ヒラメのトリュフ風味
冬の味覚トリュフとヒラメを使った料理を紹介します。       2004年1月31日

黒いダイヤとも呼ばれる高価な冬の味覚トリュフ。この冬のクリスマス・ディナーの魚料理は、贅沢にもこのトリュフをたっぷり使ったスペシャリテ、<ヒラメのトリュフ風味>でした。
実はこの献立、長いことそうしたいと思いながらも決してクリスマスには実現できない料理でした。クリスマスにこのような献立を実行するには、それなりに苦労があるのです。



クリスマス・ディナーのための魚料理は、時にその後のお店の献立に大きな影響を与えます。一言で言えば困る場面。つまり、暮れの忙しさの中、かなり疲労がたまり、時間的にもキッチンが追いつめられているところへ、小さく分割して満杯の予約がある。新鮮な地元の材料を確保できる約束がない。準備する時間の約束がない。作り置きもできない。しかもそれが、数日間続くのです。

万事が窮しそうな、そんなきびしい場面。それををなんとかクリアするために知恵を絞るから、思いがけず説得力のある料理ができたり、以後の献立に応用されるものが生まれるというわけです。

例えば冷たい前菜として人気のある舌平目のテリーヌ。これなんかももとはクリスマスの温かい魚料理として作られたものでした。

フライパンでサッと焼いて香ばしい風味を付けた舌平目をあらかじめ用意した型に敷き詰め、マッシュルームと香草で風味を付けたホタテ貝と甘鯛のムースを詰めて再び舌平目で覆う。これを蒸し器で蒸し上げて、仕上がったら上下を返して型から出し、直ちに、上面となった湿った底面に新しいバターを塗り、サラマンドルで改めて香ばしく焼き上げる。切り分けたものに香草のエミュルション・ソースを添える。キャビアを添えたり、酸味のあるホタテ貝のクリームもいい。

<舌平目のテリーヌ>は、もともとそんな考えで作られた温製料理でした。すてきな料理だし、クリスマス一回きりでそのままお蔵入り。ではもったいない気がして、それを冷製料理として日頃皆さんに楽しんで頂けるようにしたのが、今のマリオの<舌平目のテリーヌ>であるわけです。

さて、このような料理がどうして、クリスマス・ディナーの魚料理に適しているかというと、まず第一に鮮魚への依存度が割に低いことが上げられます。それでいて、舌平目を基調にして作られているしいるし、甘鯛のように味がよくてしかも冷凍による風味の劣化が少ない魚を組み合わせて一緒にムース(すり身にした加工品)をつくるから、ホタテ貝のような冷凍素材があからさまに全面に出ることはありません。こうすれば、提供する料理の面目や品質を失うことなく、直前に確保しなければならない鮮魚の種類と量がより低く抑えられ、仮に、寒波などで海が荒れて漁がないようなことがあっても、おおむね乗り切ることが可能です。しかもある程度の人数分について<一斉調理/分割提供>というスタイルが使え、おまけに、しばしばサービスのボトルネックとなるソースは、別仕立てでOKです。

これに比べれば、ヒラメのトリュフ風味などどだい無茶な話です。鍋は同じでも一個一個の料理だし、ソースは料理と不可分一体で、加熱調理終了後に一々調整しなければなりません。しかも、100l天然素材に依存し、冷凍保存も、あらかじめ調理しておくこともできず、海が荒れたらそれで一巻の終わりの献立です。

ところが、そんな危うい献立がこの冬現実のものとなりました。メディア主導で巻き起こされた、一時期のクリスマスディナー・ブームが不況も手伝って一定の落ち着きを取り戻し、天気予報に頼って漁を見通し、それで献立を考えても無理が生まれない状況になったからでした。つまり、それだけヒマになったということではありますが・・・、しかし、それはある意味喜ばしい事でもありました。

さて前置きが長くなりました。問題のヒラメのトリュフ風味です。

この料理の仕上がりは繊細です。しかし調理は実に簡単。ヒラメは5枚におろして皮を取り、アラは、あらかじめフュメ・ド・ポワソンにしておきます。

ヒラメのトリュフ風味
材料4人分 中ぐらいのヒラメ二匹。マデール酒80t。フュメ・ド・ポワソン240t。クール・ブイヨン80t。トリュフ・ジュース2〜30t。トリュフ(スライスまたは粗みじん切り。)バター25〜30c程度(好みによる)。
 *フュメ・ド・ポワソンとクール・ブイヨンについては→フュメ・ド・ポワソンとクールブイヨン

作り方
  1. ヒラメのおろし身は一切れ40cぐらいに切って下味をうち、形よくたたみます。一人前3片、コース料理なら2片が目安。スライス・トリュフを用いる場合は切り身に挟み込むとよいでしょう。

  2. すべての液質を平鍋にとり、一煮立ちしたらバター一片と魚を加え、煮立たせぬよう魚を煮ます。煮えた魚は温かい皿にとって保温し、乾燥と放熱を防ぐためにフィルムとアルミ・フォイルをかけておきましょう。

  3. 他方で煮汁を手早く煮詰めます。粗刻みのトリュフはこのとき入れてください。煮汁が煮詰まったらかき混ぜながら小片にしたバターを順次加え半透明のソースに仕上げます。改めて調味し、レモンジュースをごく少量垂らしてできあがりです。(このレモンジュースは酸味を付けるためではありません。塩味を実際に使われているよりも強く引き立てるテクニックです。)
    オーンブルのムースとトリュフ
最後に温めた皿に魚を形よく盛りつけ、付け合わせを添えて魚を覆うようにソースをかけてこの料理はできあがります。がしかし、どんな付け合わせを用意すればいいでしょう。例えば、ニンジン。カブ。ネギ。カリフラワーその他のキャベツの仲間。ジャガイモ。レタス。アスパラガス。サヤ豆。マカロニ。フレッシュ・ヌードル。調理にそれなりの工夫はいるものの、この料理はどんな付け合わせも受け入れます。お好みのものでおためし下さい。たとえばクリームで煮たカブで十分おいしいですよ。

ミヨネーの故アラン・シャペル氏の店に<アヌシー湖のオーンブルのムースとそのバター>というスペシャリテがありました。オーンブルというのはこの湖特産のマスの仲間ですが、この料理でもトリュフは大活躍をしますから、ちょっとその作りを紹介しておきたいと思います。

アラン・シャペル氏の<アヌシー湖のオーンブルのムースとそのバター>
オーンブルのムース
材料
6人前
200cのマスの正肉。全卵2個。塩コショウ。卵黄5個。ナッツメグ少々。250tの生クリーム。250tの牛乳(一度煮立てて冷ましたもの)。
作り方 フードプロセッサーでムースにします。かたいものから順にすりつぶしてゆき、最後が生クリームと牛乳です。シノワで漉しとり、1人前ずつ型詰めして茶碗蒸しの要領で湯煎にして火を通します。
オーンブルのグラス (出し汁を煮詰めてグラスにします。)
材料 料理に使うマスのアラと骨とクズ肉。バター20c。
白ワイン500t(シャルドネ)
30cのニンジン。20cのタマネギ。20cのセロリ。薄切りマッシュルーム3個分。タイム一枝
作り方 野菜のすべてをバターで煮て、アラと骨を加え霜降りにする。白ワインを加えてアクを取りながら10分ほどことこと煮出す。できあがった出し汁は別の鍋に漉し取り、あらためて極限までに詰める(グラス)。
ソースの仕上げ
材料 トリュフ・ジュース100t。マデール酒50t。
上述の出し汁から作ったグラス。別に、味の不足を補うための少量の淡水魚のグラス。溶かしたバター30c。フレッシュ・トリュフの薄切り6枚。
作り方 ソースの作り方は上記のヒラメの場合と同じです。最後にフレッシュ・トリュフの薄切りを加えます

本当に贅沢な料理です。しかも軽快。私たちがアランシャペルの店を訪ねてこの料理を味わったのは1981年のことでした。以来、マリオの店では、この湖の魚オーンブルをアメゴやニジマス、オマール海老などに換えてたくさんの方に召し上がって頂きましたから、あるいはご記憶の方がおられるかも知れません。音楽にさまざまな編曲があるように、料理にアレンジや、パロディー、モジリはつきものです。この機会に、あなたなりの楽しいトリュフ風味を作ってみてはいかがでしょう。

2004年1月31日 マリオ 
 

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