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KT

阪本順治

2002 J 138 Min. 劇映画

出演者

チェ・イルファ (金大中)

佐藤浩市
(富田満州男 - 自衛隊陸上幕僚監部二部、大和リサーチ所長)

キム・ガプス
(金車雲 - 韓国大使館一等書記官)

原田芳雄
(神川昭和 - 夕刊卜ーキョー記者)

キム・ビョンセ
(金俊権 - 駐日韓国大使館公使)

ヤン・ウニョン
(李政美 - アルバイトの語学家庭教師)

平田満
(趙勇俊 - 民団東京本部総務部長/金大中支持団体)

木下ほうか
(金君雄 - 韓青同副委員長/金大中ガード)

筒井道隆
(金甲寿 - 金大中ガード)

江波杏子 (金甲寿の母)

仲本奈奈
(高島俊子 - 金甲寿のガールフレンド)

大口ひろし
(塚田昭一 - 陸幕二部長)

柄本明
(Uchiyama Hiroshi)

利重剛 (Hong Soong-Jin)

香川照之 (Satake Haruo)

麿赤児
(Kawahara Susumu)

見た時期:2002年2月

2002年 ベルリン映画祭参加作品

ローマ字しか分からない部分もあり、出演者、役の名前、混乱しています。どうもすみません。

ベルリンに住んでいると韓国の人と知り合う機会が多く、皆親切にしてくれます。これまで北野武一辺倒という感のあった東アジアの映画に、最近は韓国から続々とおもしろい映画が飛び込んで来ます。そういう中で KT は日韓協力しあってできたという感じがします。

ベルリン映画祭で1番早く見られました。近隣の国が本当に仲良くするのは現実には難しいようで、近くにあってお互いをよく知っているだけに難しい問題もいろいろあるようです。それは日本と韓国だけの問題ではないようです。今年サッカーを共催してみて、やろうと思えば仲良くできるのではという思いを新たにしたところですが、そういう時に過去に何があったのかを教えてくれる映画ができました。

この作品を見た後すぐに全部ローマ字だった出演者の名前を何とか漢字で書こうというのでインターネットをサーフし始めて驚きました。日本ではまだ公開されておらず、ほとんど資料が集まりませんでした。大スターの原田芳雄とか、江波杏子、利重剛などいくつかのケースはすぐみつかりましたが、全部とは行きませんでした。(その後分かる限り追加しておきましたが、まだ分からない所があります。すみません。)

金大中事件が起きた当時、謎を残したまま放り出されてしまったという印象、何か変だけれど解明できないというもどかしさが普通の新聞を読んでいるだけ、特別なニュース・ソースが無くても伝わって来ました。そして、摩訶不思議な政治の世界だから、結局は解明されないだろうという諦めもありました。その頃にミステリー・クラブができたというのは全くの偶然です。金大中のその後の厳しい状況はずいぶん報道されていましたが、あの時にドイツとは違った結論を出した日本の行った政治決着というのは一体何だったんでしょう。

似たような拉致事件はドイツでも起きています。17人の留学生が拉致されました。その時ドイツ政府は全員を取り返しています。金大中自身が大統領を務める現在の韓国では考えられないことですが、当時は時々強引な事が行われていました。しかし今回出演している若手の俳優の世代では、この話を知らない人も多いと聞き、風化しないうちにこの映画を作ったのは良かったと思います。私たちの世代ではあの事件は今でも衝撃として記憶に残っています。

さて、映画は主演の1人佐藤浩市が自衛官で、三島由紀夫事件が起きているところから始まります。三島に白い花をささげ佐藤が愛国者だということが表現されます。愛国者というステータスは日本では複雑です。単純に《自分の国を大切に思う》という愛国者なのか、《政治的に外国を退ける》という意味合いが強いのか、その辺がはっきりしていません。映画の金大中は東京のホテルに滞在、自分の国にいると危ないという状況で、各方面から尾行がついています。当時の韓国は軍の力が圧倒的で、民主主義という時代ではありませんでした。冷戦もまだデタントがこれからという時期ですから、南北交流などというのは夢の夢という時代です。大使館員の金車雲がリーダー格になって誘拐計画が進みます。大使館員の間で本当はどんな会話が交わされたのかなどは知るよしもありませんが、実在の人物を思わせるような設定です。当時限りなく黒に近かった灰色の人物金東雲については比較的詳しく報道されていましたが、佐藤演じるところの富田という人物については報道されていませんでした。ここが仮説の部分でしょう。彼が守ろうとした韓国人の女性李政美 、江波杏子と金大中のボディーガードを務める息子金甲寿 、このあたりはぜひ監督にどこまでが実話なのか聞いてみたかったです。残念ながら監督はこの回でなく夜の上映の時に出席だったようです。この映画を計画した時は「こんな話を見たがる人はいない」と言われたそうですが、どっこい私たちの世代の人は今でも当時のことが胸に引っかかっています。

その後の東アジアの状況の変化には驚くばかりです。金大中とその後に続いた大統領は強引な太陽政策を取り、国民の意見は賛否が大きく分かれています。日本の側から見ているとちょっと早く進み過ぎるのでは、もう少し段階に分けて、韓国側の国民のコンセンサスを丁寧に得るようにしてからやった方がいいのではという気がします。

先日国際的に拉致を禁止する国際的な宣言が採択されましたが、自由意思で行った人ばかりでなく拉致された人もいる韓国。そして金大中も拉致被害者になった経験のある人なので、さぞや拉致には理解があるだろうと思いきや、予想とは違う方針のようで、びっくりしています。(2007年)

その後さらに驚くべき話が広がり、最近では何を信じたらいいのか分からなくなっています。2000年ノーベル平和賞を得た元大統領。受賞にあたって不思議な送金事件があったことが知られるようになりました。受賞は元大統領に取ってはどうしても必要だったと言われていますが、その理由は生臭い類の物だそうです。そして後継ぎに近い次の大統領の自殺。

2人の大統領を合わせて考えて見る方が話が分かりやすい面もあるようです。1人は自分の退任後の準備も着々と整えており、もう1人はそこまで手が回らなかったということなのかも知れません。顔だけ見て決めては行けませんが、金大中は戦争前に生まれただけのことはあって、長いスパンで物を考える人だったようです。後継の大統領は顔だけ見ると物を信じやすい人だったのかとも思います。「大丈夫だ」と側近に言われると、「ああ、そうか」と思う楽天家だったのかも知れません。2009年は金大中の名を知るものに取ってはあっと驚く年でした。(2010年)

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