映画のページ

風の痛み /
Brucio nel vento /
Burning in the wind /
Brennen im Wind

Silvio Soldini

2002 I/CH 118 Min. 劇映画

出演者

Ivan Franék (Tobias)

Barbara Lukesova (Line)

Ctirad Götz (Janek)

Caroline Baehr (Yolanda)

Cécile Pallas (Eve)

Pavel Andel (Kristof)

Petr Forman (Pavel)

見た時期:2002年7月

要注意: ネタばれあり!

珍しく人に薦めたくない映画を見ました。

ベルリン映画祭にも参加し、ドイツでは誉められています。暗い暗い話を書いた作家は Agota Kristof、それを映画にしたのはあのからっと明るい Silvio Soldini 監督。ミスマッチです。

(ポリティカリー・)インコレクトのエピソードだらけで、子供を連れて行ったら後で質問された時返事につまります。東欧のどこかの貧しい村という設定にしてあります。出演者に有名な監督ミロシュ・フォアマンの双子の息子の1人が出ていて、クレジットにプラハと出ていたので、チェコの話だと考えていいのかも知れません。まずは母親が村で売春をやっていたというので、前半は「売女、淫売の子」という言葉がぽんぽん飛び交います。主人公の母親を妊娠させたのが村の小学校の教師。そしてその先生が教えているクラスで隣に座るのが教師の娘。本人は知りませんが、観客は異母兄弟だと知っています。教師は体良く母子を村から追い払おうとします。10代半ばの息子トゥビアシュはその時教師を襲い、村から出奔。本人は刺し殺したと思っていたのですが、実は怪我だけで済んでいました。

トゥビアシュは偽名を使いスイスへ入国、時計の工場で働き始めます。チェコという国はドイツと隣り合わせになっていて、その気になれば壁があった頃でも徒歩で西ドイツに入国することが可能でした。いったん西ドイツに入国してしまえばこれまたヒッチハイクや徒歩でスイスまで行くことも可能です。作品の中ではそれほどはっきりと年代を示していませんが、トゥビアシュが出奔した頃にはまだ壁があったのかも知れません。青年になってからのエピソードでは異母妹(年は分らないので姉かも知れません)が正式に国外に出ているので、こちらは壁が無くなってからのことでしょう。

トゥビアシュは国を出てから何事にも夢中になれず、毎日を暗い雰囲気で送っています。恋人はいるにはいるけれど、あまり真剣ではありません。頭の中はリナという理想の女性のことばかりです。この女性は実際には存在せず、トゥビアシュが母親のイメージから作り出したもので、本人もその事をよく知っていました。ある日森で行き倒れになり、肺炎を起こして入院します。間接的には自殺未遂だったため、病院で精神科の医者がつきます。ドイツでは自殺に失敗すると退院するまで精神科が面倒を見ます。スイスもそうなのかも知れません。そこではリナという女性、トゥビアシュの子供時代についてはごくあっさり語られますが、そこから映画では本人の回想が始まり、観客には物語がそれほど単純でないと分かります。

上に書いたような子供時代の回想があり、そこへ成人し、子供を抱えたリナが現われます。夫が科学者でスイスの研究所に来たためついて来ました。家計を助けるためにトゥビアシュと同じ工場で働き始めます。国では彼女は大学を出て教師をしています。トゥビアシュは再会を機に長年あこがれていた女性がリナだったと思うようになります。そしてストーカーに変身。一瞬にして生き甲斐を見つけ出し、人生の目的はリナと一緒になることだと思い込んでしまいます。(幸い?)リナもそれほど幸せな生活をしていたわけではないのでトゥビアシュの強引なアプローチになびき始め、あれこれ出来事が続いた後2人で駆け落ちします。ここに至るまでに堕胎、殺人未遂、不倫、自殺などのエピソードが続きます。無茶苦茶な話をコメディーという形で見るのには慣れていましたが、シリアス・ドラマで目の前につきつけられると寝覚めが悪いです。

舞台はスイスのフランス語を使う地区。ということは産業的にそれほど豊かな地域ではありません。時計工場は田舎にあって、トゥビアシュはバスで通勤しています。スイスにも夏は来ますが、映画の場面では雪が積もっていたりどんよりと曇っていたり、憂鬱な話とぴったりマッチした天気です。前に紹介した幸せになるためのイタリア語講座も暗い雰囲気で始まる話で、映画の中の天気もあまり良くなかったです。両方とも話はイタリアで終わるのですが、幸せになるためのイタリア語講座の方はやりきれない生活の中から徐々に小さな幸せを見出して、皆がそれぞれ幸せになるというという終わり方。風の痛みは手段を選ばず異母妹を亭主から奪い取り、相手に怪我をさせて放り出し、イタリアへ駆け落ちして新生活をという終わり方。ストーキングを「まれに見る一途な情熱」と言って誉めている批評家が何人かいましたが、何か勘違いしているのではないかと思います。前の作品ベニスで恋してとは対照的です。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画一般の話題     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ