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2002 D 90 Min. 劇映画
出演者
Hannelore Elsner
(Marie- 大女優)
Wanja Mues (カメラマン)
見た時期:2002年8月
この作品が日本へ行くか。多分行かないでしょう。非常にドイツ的な作り方です。最近の楽しいドイツ映画でなく、その前の世代の雰囲気がどっかと腰を据えています。ですからドイツ人のその世代の人たちに受けるでしょう。1960年代後半から70年代にかけて学生だった人たち。一般受けせず、インテリ層と言われる層に受けるでしょう。タイトルは《私の最後の映画》という意味です。
主演はちょっと前にも Die Unberührbare で難しい役を見事にこなして賞をたくさん取ったハンネローレ・エルスナー。2人目の男性は画面でカメラを動かしているだけで、全体はエルスナーのモノローグです。モノローグの映画ではロバート・アルトマンの Secret Honor でリチャード・ニクソンを演じていたフィリップ・ベーカー・ホールの方が役者が3枚ほど上です。しかしエルスナーは大根役者ではありません。内面が空っぽで年を取った女性、外見ばかりを必死に追いかけて、年を取ってみたら基礎になる物がぽっかり欠けていた女性を演じると、エルスナー=マリー、あるいはエルスナー=ハンナ・フランダース(次の記事へ)かと錯覚するぐらいの迫力で迫って来ます。
ドイツでは《物事にその時その場で直接ぶつかって自然に(必死に)生きている人》と、《ぶつかる前にたくさん考え、枠を作ってしまい、人生の中からその枠に合う物だけを自分で拾い上げ、枠にはめながら生きている人》を見かけます。エルスナーが演じている役は後者ですが、この映画自体がそういう作られ方をしています。Die Unberührbare では監督自身は枠を作らず現実を見る目を前面に出し、女優エルスナーは《現実の方が主人公が作った枠より先へ進んでしまったため世の中について行けなくなる》という悲劇を演じています。それでフランダースの方の結末には納得が行き、ヒルシュビーゲル監督の作品の結末には納得が行かないというか、彼の示すハッピーエンドに説得力が無いという結果に終わりました。
ベルリンの高級なアパートでこれまで大成功を収めキャリアの頂点に立っている有名女優がモノローグのビデオを撮影します。このフィルムは別れた夫などごく少数の人に宛てられたもので、一般公開や、ジャーナリストに提供するためのものではありません。彼女はちょうどエルスナー自身のように、ドイツで取り得る全ての賞を手にし、テレビではシリーズ物で成功しているという設定になっています。実際画面には金の熊(ベルリン映画祭の賞)やジュピター(人気投票で選ばれる賞)などが映ります。
私生活ではキャリアの頂点とは程遠く、夫の度重なる不倫に目をつぶり、自分も時たま不倫をし、子供を失い、長い人生のほんの一瞬幸せを味わい、その後は失意ということを繰り返して来たようです。美しさに恵まれ、職業で成功しても、内面が空っぽなところがエルスナーの演技で非常に良く出ています。
最後美しい所から醜い所まで全てを出し切ってしまい、彼女はモノローグ90分の間に選んだ思い出の品を持ち、他は全部捨てて、旅立ちます。本人は「これですっきりして新しい人生を始めるのだ」と言い、高級車に乗って町を出るのですが、大きな疑問が残りました。この女性はまだ分っていない・・・。こういう風に自分の人生の裏も表も語り、全てを捨てても、胸にぽっかり空いた穴は塞がらないという感覚が残ります。彼女はここで前の枠を捨てただけで、新しい枠を作っていない、しかし新しい枠を作ってしまったら、環境が変わるだけで、また同じ事を繰り返し始める、でも枠が無くても生きられるようにはまだなっていない、と心配になってしまいました。そこまでエルスナーの演技は行き届いています。
ここで主人公の職業が女優というのに説得力が出て来ます。ピザ屋さんで毎日何百とピザを焼いているとか、お蕎麦屋さんで、毎日何百もお蕎麦を作っているというのでなく、自分のでない人生を観客の前でなく、カメラの前で演じているという設定です。仕事中に人の反応を見ることも無く、お客さんからおいしいとかまずいとか言われるでもなく、知り合いのスタッフ、亭主である映画監督の前で演じているといつの間にか銀行口座にお金が振り込まれているという人生。マリーはエルスナーと同じぐらいの経験ある女優で、カメラの前で一瞬のうちに主婦になってみせたり、独身女性になってみせたり、七変化をとげます。それはまるで AI 坊やに故障が起き、次々に違うプログラミングに切り替わるのを見せられたような感じです。凄いと思うと同時に悲しくもあります。そういう役をこなせるエルスナーはベテランという名にふさわしいです。
参考作品: Die Unberührbare
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