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レクイエム・フォー・ドリーム /
Requiem for a Dream

Darren Aronofsky

2000 USA 102 Min. 劇映画

出演者

Jared Leto
(Harry Goldfarb - サラの不良息子)

Jennifer Connelly
(Marion Silver - ハリーの恋人、不良娘)

Marlon Wayans
(Tyrone C. Love - ハリーの友達、不良)

Ellen Burstyn
(Sara Goldfarb - ハリーの母親)

Christopher McDonald
(Tappy Tibbons - テレビショーに出て来るスター)

見た時期:2002年12月

ストーリーの説明あり

監督がはっきり意図して作ったか、大声で「キャンペーン映画だ」と発言したかは別として、暴力反対、麻薬反対などのキャンペーンに役立ってしまう作品というのが時々あります。超ハード・バイオレンスの新作アレックスも、ドイツでは途中で「見ていられない」と席を立った人は腹を立てていますが、最後まで見た人は反対に「いい作品だ」と言います。去年そういう意味で監督の意図はまあ、分からないではないけれど、充分効果が上がっていないという例を1つご紹介しました。そのデーモンラヴァーの抱える問題は、殺人をライブで撮影してそれを金儲けに使う事を告発するはずのところが、カメラ、美的感覚、モダンなライフスタイルの方に視点が誘導されてしまう点です。

もう1つの例としてはリベリオンが挙げられます。ヒットラー時代の各種のデザインをあまりはっきりした注釈無しに使っているので、戦後生まれの若い世代の人が、デザインだけを見ただけで政治的背景に思い当たるかという不安を感じさせます。外国の観客ですとさらにその傾向が強まるでしょう。

もう1つ似たケースがレクイエム・フォー・ドリーム。映画監督という商売をしている人の中には社会的な関心より前に芸術的な関心で動いてしまう人も多いです。映画というのは画家が筆を持つように、作家がペンを持つように、監督がカメラを持つ分野なので、それをどうこう言うものではありません。扱ったテーマがたまたま社会に大きく関係していると、観客の側に「こういうのあり?」という疑問が浮かんでしまうのであって、作る側には元から「・・・撲滅キャンペーン」をスタートする意志が無かったなどという場合も多々あるでしょう。

「麻薬撲滅のキャンペーンか?」という視点で見るとレクイエム・フォー・ドリームの比較の対象にはアレックスデーモンラヴァートラフィックなどが登場。時代、世相を描いているだけだとなると登場するのはアメリカン・サイコとかルールズ・オブ・アトラクション、それどころかあの頃ペニー・レインとなどという軽い話も比較の対象になります。家族、世代断絶のドラマなのだということですとこれまた全然違う物語を引き合いに出さなければなりません。

この作品は麻薬が至る所で簡単に手に入る現代の家族・恋人・友人関係崩壊の物語です。引っかかるのが監督の美的センス。色々な所で高く評価されている作品らしく、誉めている人が多いです。究極とは言わないまでも、かなり美的な表現に力のある監督のようです。この1つ前の作品も噂ではなかなかいいと聞いています。戸惑うのはそのすばらしい芸術的な能力と、原作の持つ底無しの(誇張抜きに底無し)転落ストーリーの悲劇と残酷さがマッチしてしまったということ。誉めたらいいのか、怖がったらいいのか分からなくなってしまいます。けなすような所はありません。監督の美術的視点だけでなく、集めて来た俳優のアンサンブルもなかなか。演技力ではエレン・バースティンが「さすが」とうなりたくなる実力。「演技派」「迫真の演技」などという言葉は嫌いなのですが、彼女には例外的にその言葉が大袈裟ではありません。。マーロン・ウェイアンズが「お主、コメディーばかりではないな」というマジな演技、そして演技はそこそこだけれどここは見てくれで勝負というところへジャレット・レトとジェニファー・コネリーを連れて来たのも正解。本人が1つのタイプの役に固定されない事を希望するのなら、この2人今後はかなり注意が必要です・・・なんて言おうと思いましたが、コネリーはちゃんと別な役でオスカーをもらってしまいました。

ここでストーリーに触れます。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ あらすじ

話は単純。男2人ハリーとタイロンが親友で、せこい事をやってお金をかき集めドラッグをやっています。2人は一発当てて大儲けしたいという希望を持っています。ハリーの母親がサラ。彼女は未亡人でハリーを溺愛していますが、息子はあまり家に寄り付きません。サラはごく普通のおばさんなのでいつも家でテレビを見ています。ある日彼女にテレビ出演の話が舞い込み喜びます。憧れのタピーの番組。「出演する前に少しダイエットして、お気に入りの赤いドレスに合う程度に痩せなくちゃ」ということでダイエットを始めますが、うまく行かず医者の所へ相談に。医者は副作用のある錠剤を処方します。で、中毒を起こして幻覚症状が出ます。彼女の息子には恋人シルバーがいますが、シルバーは不良少女。ドラッグもやります。タイロンにトラブルが起き、行きがかり上ハリーはタイロンの保釈金が必要になり、2人が貯めていたお金は当局に預ける羽目になります。金に不自由し始めてからはシルバーは身を売るような事も始めます。援助交際。

と言うわけで後半は4人の人生がどういう風に崩れて行くかをかなりのインパクトで説明し、最後は廃人、身体障害者、ムショ入り、セックスの餌食と話には時々聞くけれど自分では見たくないようなシーンで終わります。

バースティンの演技の手堅さは見ていて好感が持てました。鬼気迫るのですが、長年のキャリアは無駄ではなかったという確認のような演技。ウェイアンズもアホばかりでなくマジもいけるというのがよく分かる演技。なかなかいいです。ちょっと首を傾げたくなってしまったのがあとの2人。ジャレット・レトはアメリカン・サイコではばっさり殺される役。ファイト・クラブでは「天使の顔」と呼ばれている美貌をめちゃくちゃに破壊される役。ここでは顔こそそのまま残りますが、腕をばっさり。こういう役が好きなんでしょうか。ジェニファー・コネリーがもっと危ない役で、狼たちの町の次という感じ。セックスを売ったり、セックスの餌食になる役です。何だか見るたびに痩せ、オスカーを取った時は日本でよく言う激痩せという感じでしたが、オスカーをレクイエム・フォー・ドリームとは全く違う役で取ったという事で、巾の広さを世に示せて、まあめでたし。

とは言うものの、後味の悪い映画でした。

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