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Bollywood / Hollywood

Deepa Mehta

2002 Kanada 103 Min. 劇映画

出演者

Rahul Khanna
(Rahul Seth - 御曹司)

Lisa Ray
(Sunita Singh - 御曹司の偽装婚約者)

Rishma Malik
(Twinky - 御曹司の妹)

Jazz Mann
(Bobby - トゥインキーの婚約者)

Moushumi Chatterjee
(Mummy ji - 御曹司の母親)

Dina Pathak
(Grandma ji - 御曹司の祖母)

Kulbhushan Kharbanda
(Mr. Singh - スニータの父親)

Neelam Mansingh
(Mrs. Singh)

Ranjit Chowdhry
(Rocky - 御曹司の運転手)

Leesa Gaspari
(Lucy - 御曹司の家の家政婦)

Mike Deoi
(Killer Khalsa - スニータの見合いの相手、レスラー)

Jolly Bader
(Daddy Ji - 御曹司の死んだ父親)

見た時期:2003年前6月

要注意: ネタばれあり!

ラジオなどを聞いていると、ストーリーがぺらぺらに浅いとか言っている一般のファンもいました。ラジオでは普通は局と契約をしているフィルム・ジャーナリストがあれこれ言うのですが、この日は聴取者に電話をかけて、時間をたっぷり与え、言いたい事を言わせる番組だったため、一般の人の(本当の)感想を聞くことができました。確かにこの作品を誉めるには正しい時期、正しい順序を選ばないとだめなのですが、運良くそれが皆ぴったりで、私には楽しめました。去年と同じく1年で1番日の長い6月最後の週末、クリストファー・ストリート・デイとラブ・パレードのお祭り騒ぎが始まる時期、ベルリンの一流映画館が金土日の3日間映画料金を1本3ユーロに割り引き。映画館が開いてから閉まるまでどれを見てもこの料金になります。新品の公開したての作品がどれでも見られます。去年はちょっと多めに見ましたが、今年は週明けに用があるので、少し押さえ気味。余力を真夏のために残しておかなければ行けません。

その1本目として選んだのが Bollywood / Hollywood。大手の映画雑誌にはケチョンケチョンに書いてありました。上に書いた聴取者よりもっと低い点。しかしちょっと前 ラガーン という超大作225分を見て新鮮な驚きを味わったばかりなので、敢えて選びました。3ユーロでもうちの家計には安いとは言えませんが、正規の値段払って後で後悔するよりは、割引の日に見た方がいいでしょう。いくつもあるホールの中では小さ目のホールを使い、中はガラガラ。去年は地味だと思った映画でも満員で入れなかったことがあるので、早めにティケットを買いましたが、宣伝が始まってもガラガラ。後ろに英語を話す人が2人ほど、他には若い人がちらほら。それだけ。オリジナルの言語で上映されたからかも知れません。ま、好きな場所に座れたので他の事はどうでもいいです。

筋は思ったように他愛ないもので、ラガーン で初めて知り合ったインド式のミュージカル。時々主人公が歌い出したり踊り出したりします。しかし徹底したミュージカルではなく、ドラマの方に主力を置いています。音楽は ラガーン に比べ現代的で、ロック系のポップス。リズムも若い人が踊りやすいような楽しいアップテンポのものです。深刻な話を期待していなかった私にはドラマの筋はまあ適度な重みがあり、まったくのアホドラマには思えませんでした。

雑誌が何をけなしたかったのかよく分かりませんでしたが、あれもこれも適度にということで虻蜂取らずになったのかも知れません。モンスーン・ウェディングというミュージカルでない家族ドラマがドイツではいい評判で、あれを見た人には Bollywood / Hollywood の掘り下げ方が足りないと思えるかも知れません。また、ラガーン のように徹底して善悪を白と黒に分け、長編を歌と踊りで4時間弱持たせてしまう迫力もありません。弱さから言うとヘザー・グレアムがジミ・ミストリーと共演したザ・グル程度、あまりレベルが高いとは言えません。舞台はインドでもなく、アメリカでもイギリスでもなく、カナダ。これまた中途半端な土地です。

筋をざっと紹介しましょう。結末もばらしますので見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

大金持ちの一家がカナダはトロントに住んでいます。父親は暫く前に病死。長男が家業を継いでいて、どうやら金回りは良いようです。子供3人のうち結婚適齢期に達した娘には婚約者がいて、結婚は目前。ところが長男は暫く前に白人の女性と婚約していて、家族は大反対。その女性が都合良く事故死。長男はしょげて一生結婚しないつもりになっているため、母親は嘆き悲しんでいます。何が何でもインド人の女性を押しつけるつもり。そのうえ長女は妊娠しているため結婚を延々と延ばす事はできません。一計を案じて長男はエスコート・ガールをみつけて来ます。彼女に金を払って婚約者のフリをしてもらい、適度なところで破談にする計画です。女性も契約条件に応じていざ作戦開始。

家族に気に入られたりして話はとんとん拍子に運びますが、芝居のはずが本当の恋に発展して話はややこしくなる・・・そして予定通りのハッピーエンド。実生活でインド人と婚約した女性などは、最初の婚約者が家族に受け入れられないというシーンなどで胸にナイフが刺さるような気分になるでしょうが、そういう事に関係のない生活をしている人にはあまりどうという事もなく進みます。国際結婚をしようという人はインド、アラビア、日本など相手の出身国に関係なく、付きまとう問題です。この作品ではそれほど花嫁候補の苦しみには触れていません。どちらかと言えば家によその人間に入って来られそうになる家族の戸惑いの方が強調されています。しかしそれもまた受け入れる側にとっては深刻な話で、受け入れてもらえない側が孤立感を抱くのと同じぐらい大きな問題。結局受け入れる側は多数、受け入れてもらいたい側は少数ということで、受け入れない家族が悪者扱いになってしまうことが多いですが、戸惑いという点では両者同じです。

ずっと以前インド人のお母さんが隣に座って涙を拭いているのでどうしたのかと慰めていたら、手塩にかけた娘が他のカーストの人と結婚したので泣いていたのだそうです。この場合はインド人同士。カーストもブラモンの人がクシャトリアの人と結婚するとかいうのではなく、同じかなり上の層の人で、婿になる人がその層の中で1つ下の階層に属しているのだそうです。これを聞いて、複雑な社会だなあと思ったことがあります。そのお母さんというのは別に人種だの階級だのと差別をやっているわつもりではなく、自分の娘が知らない階層に行ってしまうことを嘆いていたのです。結婚して娘を失うか、婿を得るか、これも考え方の問題ですが、よそに取られてしまったという気持ちがさまざまなカラーを帯び、人種問題になったり、階級問題になったりする時もあるようです。階級意識を持って「相手は低い、劣っている」と思っている人もいますが、知らない → 積極的に賛成しない → 避けるというケースも多々あるようです。 ま、その辺をあまり深く突っ込まずシンデレラ・ストーリーで幕を閉じるので、甘いなあという気がしないでもありません。

まあ、そんな感想も出ますが、払った3ユーロを惜しいと思わなかった理由は何なのだろうと考えてみました。1つには特に才能がきらめく音楽ではないのですが、聞いていてついメロディーを口ずさんでしまうようなついて行き易い作曲になっている点。この曲を聴きながら観客が客席で踊り出してもそれほど不思議ではありません。インド人が大勢来る映画館では本当に踊り出す人もいるのだという話を聞いたこともあります。歌い易い踊り易い音楽です。サウンド・トラックを買おうかとすら思いましたが、手に入るかどうかは全く不明。売っているかも不明。ドイツでは3流映画の烙印を押されてしまいましたからねえ。それにアメリカでなくカナダ映画だからハリウッド系の大手でもなく、困難が予想されます。歌のシーンでは俳優が音声と口を合わせようという努力もしていません。

そしてもう1つ特筆すべきは全体的にはシリアスなドラマなのですが、どういうわけか運転手ロッキーが出るシーンだけ変なのです。 あのリチャード・ギア主演のオータム・イン・ニューヨークにも出演した人で、顔には見覚えがありましたが、出演時間の半分ぐらいは運転手としての普通の役。主演の御曹司ラウールの相談役などを務めます。ところが時々シュールなシーンが現われ、両者にどういう関係があるのかはあまりよく分かりませんでした。とてもおかしなシーンです。

この2つ、誉める所が無いのに無理に引っ張り出した長所ではなく、自然に出て来た感想です。 この日これを先に見て楽しめて幸運でした。というのはその次に物凄い中身の濃い作品を見てしまったからです。次回はその話を

日本にいる方はもっと本格的なインド映画を見ることができるんでしょうねえ。《踊る何とか》というチラシを眺めているところです。ドイツはインドからの移住者が最近増えているので ラガーン が来た時にいよいよブレークかと思ったのですが今回は不発でした。

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