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2002 USA/D 118 Min. 劇映画
出演者
Kurt Russell
(Eldon Perry - ロサンジェルス警察のベテラン刑事)
Scott Speedman
(Bobby Keough -ロサンジェルス警察の新米刑事 )
Michael Michele
(Beth Williamson - ロサンジェルス警察の内勤、ボビーの恋人)
Brendan Gleeson
(Jack Van Meter - ロサンジェルス警察の汚職部長)
Ving Rhames
(Arthur Holland - ロサンジェルス警察の汚職撲滅派代表格)
Dash Mihok
(Gary Sidwell - ギャング)
Jonathan Banks
(James Barcomb)
Lolita Davidovich
(Sally Perry - エルドンの妻)
Khandi Alexander
(Janelle Holland - アーサーの妻)
Dana Lee
(Henry Kim - 強盗に入られた店の韓国人主人)
Chapman Russell Way
(Eldon Perry III - ペリー夫妻の息子)
見た時期:2003年6月
原作の小説は読んでいません。
カート・ラッセル会心の演技です。渋い作品で、同じエルロイの映画化作品でも LA コンフィデンシャルのような子供っぽさがありません。興行的にどれほど成功するかは分かりません。週末映画1本3ユーロの割り引き大会中でも、公開されたのは23時、最終回。使われたホールは20ほどある中で場末に入るような・・・いえ、これは場が館の末の方にあるというだけで、シートは清潔なすわり心地の良い、掃除の行き届いたホールです。それにしてもこんな作品に投資するとはドイツもオツな事をやるなあと思いました。
カート・ラッセル演じるところのエルドン・ペリーはロサンジェルス警察のベテラン刑事。警察機構の裏も表も知り尽くしていて、上司の命令なら汚い事、違法な事もやります。新しく入って来たボビー・キーオフはまだ甘ちゃんで、正義とか公正などという夢のような事を信じています。前半はこの若者の理想の世界が崩れていく様を描いています。実は彼の周囲は汚い現実を知る人間ばかりで、それぞれが身の処し方をとっくに決めており、シニカルになっている人もいるのですが、ボビーにはまだその辺が見抜けていません。
エルドンは、元々は良い人間だったようですが、こういう環境で行き抜いて行くためにいつか現実と妥協したようで、それ以来自分のやっている事に自分で目をつぶり、上に言われた事を良心と照らし合わさずにやっています。LA コンフィデンシャルに出て来たケビン・スペーシーをちらっと思い出しました。エルドンの妻サリーはある程度良心があり、エルドンの良い面をよく知っていたため、深みにはまって崩れていくエルドンを見ていられず、アルコールに手を出しています。
現実の汚さを知っている人間があと2人登場します。1人はボビーの恋人ベス。インテリ美人で知り合ってまだ間がありませんが2人はルンルン。ボビーが彼女とステディーな仲になろう、それこそ将来を一緒に計画しようかなどと思い始めている頃、彼女の方は覚めていて、苗字すら教えません。ボビーの苗字も知りたがりません。まだ2人で生活設計をするのは早過ぎると考えています。人生には何が起きるか分からないということを身を持って知っているかのような賢い女性。こういうインテリでしっかりした女性像を1度ストレンジ・デイズで見たことがあります。
もう1人は彼女の上司のアーサー・ホランド。彼は1人で腐敗した警察に「だめだ」と言っている人間で、長年努力したけれど報われないので、クリーブランドあたりに引っ越そうかと考えているところです。しかし現在巻き込まれている事件に対しては、信念を貫き、不正は暴いてやろうと考えています。その彼にしっかり協力するのがべス。
逆に現実を汚くしている人間もいます。例えばエルドンとボビーの上司やその配下の同僚。署内の多数派。
ホランドに言われて最近起きた韓国人商店強盗事件の書類を調査中にベスは調査対象になっているのがボビーだと知りショックを受けます。「だから言わないこっちゃない、寝たぐらいで名前を教えなくて良かった」と言えるシーンですが、彼女は傷ついてしまいます。
商店の強盗事件では店にあった金庫が盗まれ、たまたまそこにいた人や入って来たお客さんが数人殺されています。この事件の黒幕は警察の内部の人間、ボビーとエルドンの上司に当たるジャック・ファン・メーター。この俳優は28日後で全然違うヒューマンな演技を見せたばかりですが、今回はブライアン・コックスがやりそうな悪役です。また、ヒットマンでありながら人情が分かる役をやったこともあります。自分の配下の犯人2人を逃がすため事件に関係のない他の悪事をやっている男を替え玉にし、逮捕するふりをして射殺するよう命が下ります。
エルドンはこういう事が違法だと考えるぐらいの頭はありますが、これまでも何度かそういう修羅場をくぐって来ているらしく、仕方ないと出動。濡れ衣を着せられる予定の男も清廉潔白とは程遠く、数々の悪事をやっているので、ロサンジェルスから悪人が1人減るという帳尻の合わせ方で自分を納得させます。付き合わされるボビーは前回仕事をしくじっていたため、今回は良心の呵責で吐き気を催しながらやり遂げます。事件後の公式の事情聴取では適当に話を繕い、録音させます。録音係も心得たもので、ボビーが言い間違えると、ちゃんと辻褄が合うように訂正してくれます。
強盗事件はホランドが追いかけているため、ファン・メーターの元の計画からだんだん外れて来て、収拾がつかなくなって来ます。それでファン・メーターは1箇所にエルドン、ボビー、替え玉でなく本当の強盗2人をハチ合わせさせて一挙に片付けようとします。ボビーにベスも同伴したので筋書きがまた外れボビーは死に、ファン・メーターが死んでもらいたかったエルドンと予定に入っていなかったベスが助かります。さすがにボビーの死にショックを受けたエルドンはこれまでのやり方を180度ひっくり返して、本当の犯人の追いかけ始めます。
アクションや SF に出慣れているカート・ラッセルにしては少な目のアクションですが、ここで少し粗っぽいカーチェースがあります。時は1992年4月、タイミング悪くロドニー・キング暴行事件(史実)が起きます。キングが4人の警官から過剰な暴力を振るわれているシーンがビデオに収まり、メディアに流れたため韓国人と黒人が多く住んでいるロサンジェルスの地区が暴動に発展します。エルドンはそれが始まった地区、まさにその時間にそこに突入。淀長さんが「怖いですねえ」と言わなくてもこわーいシーンです。例えば白人の強盗はエルドンが直接手を出さなくても黒人の暴徒に始末されてしまいます。もう1人の黒人の強盗をしょっ引いて、エルドンはその地区から出ますが、一瞬逃げ遅れていたら、エルドンの命も危かったです。
エルドンは自分も「先日の功績」とかで一緒に昇進することになっていて、そのお祝いのセレモニー会場に黒人強盗を連れて現われます。ファン・メーターはエルドンにこの会場に現われる前に死んでもらうべく画策していたので、番狂わせ。挨拶の席ではエルドンはホランド以外は誰も聞きたくないような話を報道陣もいる中で公表し、逮捕されます。これで多少なりともロサンジェルスには明るい光が差すというところで終わり。
彼が同僚などに消されず正義を貫いたというところはちょっと絵空事風ですが、それ以外は月並みなハッピー・エンドではなく、エルドンの妻は即公衆電話から知り合いに連絡。有能な弁護士の手配をします。裁判が難航するだろうから凄腕の弁護士でないとだめだという推測当たっているでしょう。公衆の面前で自首をしたエルドンはホランドに「扱いの手荒くない刑務所に行けるようにしてくれ」と頼み(元警官だった犯罪者と子供に性的ないたずらをした犯罪者は刑務所で手荒な扱いを受けるとどこかで聞いたことがありますから、環境のいい刑務所というのはエルドンにとっては重要問題)、取り敢えず逮捕されていないファン・メーターは報道陣からやっつけられ、辞任は当然、恐らくは裁判所から呼び出しが来るだろうという暗示で終わるなど、現実的な話がいくつか出ます。ホランドとしては自分の証人を消されて事件がうやむやになるところ、180度方針を変えたエルドンに救われたわけですから、取引に応じるつもりはあるでしょう。エルドンの妻とホランドの妻は離婚の決心をして夫と遣り合うところまで行っており、職業が家庭に落とす影も色濃く出ています。ホランドは以前ベスと不倫歴があり、それは妻との間でも解決済みでしたが、今回の事件で新たに不倫中の写真が家に送りつけられています。
といったようにハリウッドにありがちなストレート過ぎる筋運びでなく、いろいろな影を出しています。私生活では安定した家庭を築いているカート・ラッセル。幸せな生活をしている人がこういう暗い話をさらっと演じて見せる・・・いつものわりと単純なアクションや SF とは違います。
ギャラとして大金を受け取るのはラッセルぐらいで、ほかの人は中堅の脇役ばかり。しかし脇役のアンサンブルは調和が取れていていいです。レイムスの役はちょっときれい過ぎますが、彼は清潔な側のシンボル的存在。片方にそういう人がいないと汚い役が映えません。俳優は皆渋い演技を競っています。ロドニー・キング事件はもっぱら読むだけで知ったのですが、凄かったようです。この作品ではそれを画面に何度か出していますが、直接のシーンは少なく、テレビを見ている登場人物という形が多いです。本当の暴動のビデオは見ていないのですが、聞くところによるとかなりの規模で、シティ・オブ・ゴッドを見ていなければ衝撃を受けたかと思います。
ドイツ公開は6月末からですが、これまでに見た報道は2つに分かれています。内容に触れて非常に誉めているケースと、すぐビデオや DVD に回ってしまうという話。LA コンフィデンシャル + トレーニング・デイといった論調もあります。ビデオに行くという報道には悪い映画とは書いてありません。良いけれど一般受けしないだろう、渋過ぎるという意味に取るべきなのでしょうか。
ロドニー・キング事件
1991年3月3日、いわゆる粗暴犯でなく、酔って車を運転してスピード違反でつかまった黒人青年ロドニー・キング氏が、その違反に似つかわしくない荒っぽい扱いを受け、重症を負う。骨折11、脳、内臓に負傷。翌日偶然自宅からその様子を撮影していた一般人がテレビ局にビデオを持ち込み放映。 現場にいた警官21人中4人起訴。裁判が白人に有利に働くよう画策し、1992年4月29日無罪判決に至る。判決直後から約1週間ロサンジェルス暴動事件にエスカレート。死者54人、負傷者2000人以上、逮捕者多数。
1992年5月、4月の暴動の最初の白人被害者の事件に関連した警官4人逮捕。夏の間公民権擁護派と白人至上主義派の間で激しい対立。
1993年2月25日、ロドニー・キング民事裁判。起訴された4人のうち2人有罪。キングに賠償金が支払われる。
いくつかのサイトを見ていると大統領選挙と絡み少数民族派の票を集めたいという思惑、似たような事件は日常茶飯事だったのにキングの時はビデオが外国にも流れた手前もあり、この事件はいくつか例外的な動きを見せたという意見もあります。
後記: トレーニング・デイとそっくりだったという記事を見ました。確かに予告で見たデンジル・ワシントンが同僚と話しているシーンにそっくりなシーンが出て来たりします。そりゃ結果として、人の関心はオスカー貰った映画の方に行ってしまうでしょうねえ。同じ脚本家に同じような仕事させたら同じような作品ができるのは目に見えているのにどうしてこういう事をするのかと思います。会社としては2、3本同じような物を作ってどれかが当たればいいと考えいるんでしょうか。映画1本作るのって結構高そうだけれど。ラッセルは手を抜いていなかったのでちょっと気の毒な感じがします。
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