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クリムゾン・リバー  深紅の衝撃 /
Les Rivières Pourpres /
The Crimson Rivers /
Die purpurnen Flüsse

Mathieu Kassovitz

2001 F 106 Min. 劇映画

出演者

Jean Reno
(Pierre Niemans - パリから来た特捜の刑事)

Vincent Cassel
(Max Kerkerian - 別な事件を担当している刑事)

Jean-Pierre Cassel
(Bernard Chernezé - 大学の医師)

Nadia Farès
(Fanny Ferreira - 女子大生)

Dominique Sanda
(Sister Andrée - 修道女)

Alexis Robin
(盲目の少年)

Didier Flamand (修道院長)

François Levantal (病理学者)

Francine Bergé (校長)

Laurent Lafitte
(修道院長の息子)

見た時期:2004年3月

要注意: ネタばれあり!

ジャン・レノが続きます。原作はジャン・クリストフ・グランジェの小説。緋色の川とか真紅の川と訳すのでしょう。どういう意味かは途中から分かって来ます。犯罪生物学者ベネケ氏が講演の時に例として使いたかった作品です。冒頭、まだタイトルや出演者が紹介され、筋は全く分からない時に死体が登場。その死体に蛆虫がわいているのです。ワーッ気持ち悪いと言っては行けません。ベネケ氏ならその場にいるだけでかなりの事を解き明かしてしまうでしょう。ちなみにちょっと時間は食いますが、この映画に出て来る検死官も色々発見します。おもしろいですよ。

登場人物は2人の刑事と怪しそうな大学の職員など数人。2人の刑事はちょっとたがが緩んでいて、乱暴者。左遷、停職、首などという言葉がちらつく、規格に合わない男たち。対する容疑者たちは古い大学町の伝統的な権威の世界、大学の職員や学生。

X−メンの寄宿舎かと思わせるような人里離れた小さな町にエリートばかりを集めた私立大学があります。町の住民はほとんどが大学関係者。日本で聞くと 不自然なように思えますが、スイスなどには田舎に会社が1つボンと建って、住民全部がその会社に関連する仕事についているというケースが時々あります。学生は知能か運動能力の優れた若者、たいていは親もその大学にいた人ばかりです。近くはフランス・アルプス山岳地帯で景色も良く、空気も良さそう。校内にはカメラが茶色を強調して撮影しているように、アンティークの家具、素晴らしい図書館などが見られます。由緒正しい、歴史のある学校らしいのです。

しかし平和をかき乱すような事件が起き、2人の刑事が鉢合わせします。1人は特捜課から派遣されて来て、全裸、生きながらにして手を切り取られ、目をくり抜かれ、何時間も拷問されたような大学図書館司書殺人事件を担当。Nobody という意味のドイツ語に似た名前のニーマン捜査官です。もう1人は墓荒らし事件を担当する刑事。「教会」に似たような名前 Kerkerian です。墓のほかに学校にも押し込みがあったのですが、金目の物は盗まれず、書類だけが消えていました。

大学関係者が非協力的なので捜査は難しいですが、権威を重んじる象牙の塔の住民が巷の警官に協力しないのは欧州では別に不思議なことではありません。捜査に当たる刑事が暴力好きであまりまっとうな人間でないことも手伝ったのかも知れません。

捜査は最初別々に進みます。ニーマンは学校関係者にあたり、運動能力と、学術的な能力に長けた女学生に質問を。大学の偉いさんよりはにこやかです。ケルケリアン刑事の方は20年前に事故死した子供の墓を荒らされた女性を探し当てますが、発狂していて修道院の施設に収容されていました。子供が目の前で大型車に轢き殺され、文字通りぺったんこになってしまい、残ったのは指だけ。その子の通っていた学校では当時の書類が盗まれていました。これは怪しい。やっとのことで見つけた写真を2人の刑事が見て、びっくり。顔はニーマンの事件の関係者にそっくりだったのです。

次の犠牲者が出、変な噂が耳に入り、やがてこの大学は普通の大学でないことが判明します。第2次世界大戦中に似たような事を考えた人がドイツにもいたのですが、血筋の良さそうな人間をかけ合わせ、さらに能力の高い人間を作り出そうという企画が大々的に行われていたのです。父親が教授だからそのコネで子供も教授になどという生易しい話ではありません。血筋の良さそうな人間に子供を産ませ、その子供をさらに血筋の良さそうな子供とかけ合せるということを計画的に行っていたのです。しかし血が濃くなると弊害も出るようで、時々問題な人も生まれたようです。それで外部から新鮮な血も必要になっていた・・・という話に発展。

古い作品な上、日本では結構受けたようで、見た方も多いでしょう。ここから先鍵になるネタをばらします。これから見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

魅力的な女性ではあるものの事件の第一発見者であり、いろいろ話が合い始めると容疑が濃厚になって来た女子大生。彼女を追いかけて行くと、もう1人彼女が現われたのです。一卵性双生児。片方は指が1本中ほどから欠けています。これが20年前交通事故で死んだはずのお富さん。母親が娘を救うために考えたトリックでした。まだ DNA 検査など無い時代ですので、死体のすり替えはできたのです。

ハリウッド映画の全てが好きなわけではありませんが、筋が分かりやすいという点は評価しています。クリムゾン・リバー  深紅の衝撃ではやや舌足らずの面があり、結局どうなっているのかは分かりますが、もうちょっと説明があってもいいか、という気がしないでもありません。特に頭が切れるように思えない普通の母親になぜ娘の1人が命を狙われていると直感できたのか、そしてなぜこれほど大掛かりなトリックを使って娘を隠しおおせたのか。直感した時にここまで行動して娘を隠す必要性をどうやってかぎつけたのか。そのあたりの説明がやや不足気味。双子の1人は全く善良な性格で、もう1人は残虐な性格。この2人と母親の関係ももう少し詳しく知りたかったです。原作が長過ぎて映画に収めるのが大変だったのでしょうか。

設定のアイディアは悪くありません。横溝正史や夢野久作のような血と狂気を出すために大都会から離れた古い田舎の大学町を選ぶ。映像の方は景色も楽しめるようにできています。しかし室内、特に町の中、部屋のシーンはカメラが凝り過ぎた感があり、やや疲れます。それに比べ屋外の、特に雪山のシーンは気に入りました。

ここで起きた犯罪は DNA 検査が容易にできるようになったため将来は駄目でしょう。先日もアメリカで数年前に盗まれた乳児が小学生ぐらいの年齢になって発見されました。火事で焼死と言われたのに死体が発見されず諦め切れなかった母親が不信感を持ち、よその子のはずのその子の髪を抜き取り警察に持ち込んだためばれてしまいました。乳児を盗んだ近所の女性は逮捕。盗まれた女の子は目を白黒。しかし本当の母親の元に戻りました。子供の替え玉を大型車に轢かせて死んだことにする手口も今後は難しくなります。

科学が発達するのはそういう意味では良いことですが、クリムゾン・リバー  深紅の衝撃の悪党たちは今後は子供を盗んだり、血筋の良い子をかけ合わせたりなどというまどろっこしいことはせず、遺伝子組換えをやってしまうでしょう。普通に生まれて、普通に育って、普通に死ぬのも難しい世の中が来そうです。

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