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ニューオーリンズ・トライアル /
Runaway jury /
Das Urteil - Jeder ist käuflich

Gary Fleder

2003 USA 127 Min. 劇映画

出演者

Bruce McGill
(Judge Harkin - 判事)

Joanna Going
(Celeste Wood - 原告)

Dylan McDermott
(Jacob Woods - 乱射事件の犠牲者)

Jack Massey
(Henry Wood - ウッド家の遺族)

Dustin Hoffman
(Wendell Rohr - 原告側弁護士)

Jeremy Piven
(Lawrence Green - 原告側の陪審アドバイザー)

Stanley Anderson
(Henry Jankle - 被告)

Bruce Davison
(Durwood Cable - 被告側弁護士)

Gene Hackman
(Rankin Fitch - 被告側の陪審アドバイザー)

Marguerite Moreau
(Amanda Monroe - フィッチのアシスタント)

Nestor Serrano
(Janovich - 被告の商品を大量に売った男)

Nick Searcy
(Doyle - フィッチの手下)

Gerry Bamman
(Herman Grimes - 陪審員長、盲人)

John Cusack
(Nicholas Easter/David Lancaster - 陪審、電気屋勤務)

Bill Nunn
(Lonnie Shaver- 陪審)

Guy Torry
(Eddie Weese - 陪審、エイズを隠している)

Luis Guzmán
(Jerry Hernandez - 陪審)

Rusty Schwimmer
(Millie Dupree - 陪審)

Nora Dunn
(Stella Hulic - 陪審)

Rhoda Griffis
(Rikki Coleman - 陪審)

Cliff Curtis
(Frank Herrera - 陪審、フィッチが陪審員長に希望していた男)

Corri English
(Lydia Deets - 陪審、アル中の気がある)

Fahnlohnee R. Harris
(Sylvia Deshazo - 陪審)

Jennifer Beals
(Vanessa Lembeck - 陪審)

Rachel Weisz
(Marlee Brandt - イースターの友人)

Celia Weston
(Brandt - マーリーの母親)

見た時期:2004年5月

要注意: ネタばれあり!

オリジナルのタイトルはちょっと不似合いな感じで、ドイツ語の方が多少良いです。《判決 - 誰でも買収できる》といいます。しかしこれも本筋とはちょっと違います。日本語のクラシックなタイトルの方がぴったり来ます。原作ではタバコ産業がテーマでしたが、現代には合わないというので、武器の産業に変えてあります。ボウリング・フォー・コロンバインが受けるような時代ですし、ドイツでも似たような事件が起きています。ただ、武器産業に正面から戦いを挑むような調子の作品ではなく、気の毒な未亡人が涙ながらに訴えるという形式を取っています。その辺はレインメーカーと似ています。

名優(盟友?)ダスティン・ホフマンとジーン・ハックマンが一騎打ちするはずでしたが空振り。しかし、それでもまあ楽しめる作品に仕上がっています。初めての共演なのだそうですがハックマン、ホフマンは昔から友人で、一時は同じアパートに同居して演技の勉強をしたという仲。このアパートにはロバート・デュバルも同居していたのだそうです。3人とも容姿で受けるスターではなく、演技の渋さで受ける俳優になりました。

お涙頂戴路線、大スターの一騎打ちは湿った花火みたいになるのですが、それでも見る価値があったのは、若手2人のおかげ。それに加え私にはアメリカ南部のフランスのフレーバーの強い文化が見られ、失望するというほど悪い評価にはなりませんでした。

この日8つほど選択肢があったのですが、すでに見た映画が数本。これを除外すると、アシュレー・ジャッドのスリラー、ジュリア・スタイルズがリース・ウィザースプーンの後釜を狙ったようなポスターのお姫様物、ドイツの有名なシリーズのパロディー物、ブラッド・ピットのサンダル映画などで、帯に短し襷に長し。大きなスクリーンでヴォルフガンク・ペーターゼンの SF を見たかったのですが、公開は来週。というわけで最後まで迷った挙句に、安全パイ。

大スター2人だから安全パイと思ったら、そうではなく、意外なことにジョン・キューサックとレイチェル・ワイズに救われた形になりました。つまらない筋なのですが、2人のおかげでミステリー性が強まり、アクセントがつきました。

ではネタばらします。見る予定の人は退散して下さい。
目次へ。映画のリストへ。

冒頭に銃を乱射して十数人の死傷者を出す事件が短く出ます。犯人の動機、その他は本筋に関係ありません。要は銃砲を使った事件で、死者が出、遺族が銃を作った産業を訴えたという、グリシャムの典型。原作がタバコ産業だったとなると、あちらでは犯罪ではなく、病死なのでしょう。グリシャムにとってはタバコ産業も、武器産業もただの小説の材料。要は、弱い一市民が大きな相手に向かって盾を突いて、がんばるというところが重点。

事件後2年ほどして裁判が始まります。原告は事件の遺族、被告は銃を作る産業。原告側はレインメーカーほど頼りない駆け出し弁護士ではありません。しかしホフマン演じるローアはベテランではあるものの、相手が大き過ぎ、分が悪いです。

対するハックマン。彼は弁護士を演じるのではなく、弁護士を全面的にサポートする陪審アドバイザー。こういう職業があるとは知りませんでしたが、大きな裁判ですと確かにこういう仕事に就く人がいると便利です。彼らは陪審に選ばれる人を徹底的に身元調査し、依頼人に不利になりそうな人物は選任の時に拒否。後で脅かせそうな人は保留しておいて、タイミングを見計らって脅しをかけ、依頼人に有利な判決に導こうという作戦会議をやる人たちです。

若い女性マーリーは陪審の1人、ニックの恋人のようですが、いきなり霍乱作戦に出ます。被告側、原告側の両方に揺さぶりをかけている上、ニックと通じている様子。いったい何が目的なんだろうとのっけから観客に疑問を抱かせます。

このあたりで食事のシーンなどが出るのですが、ニューオルリンズの町並みがニューヨークやカリフォルニアと全然違い、それを見ているだけでも楽しいです。南部の様子という点ではレインメーカーよりいいなと思いました。魅力的な土地です。こういう場所からブルースが生まれるのでしょうか。

被告側は金に物を言わせて法律違反にも関わらず、法廷闘争をカメラで盗み撮りし、出てくる名前を次々にコンピューターでチェック。陪審のあら捜しも大規模に行っています。必要とあれば陪審の自宅に押し入って盗み撮り、PC のドライバーをコピーなどやりたい放題。正直で正面から当たる原告側と雲泥の差、汚い手を使います。

しかしここでもニックはたかが陪審の1人なのに用意周到で、アパートが荒されるのはあらかじめ計算済み。別働隊のマーリーが被告側にしっかり脅しの電話をかけます。「あんた、やってくれたじゃないの」原告側と共謀している様子もないので観客はますます考え込んでしまいます。ここいら辺は上手に謎を作っています。

フィッチは勝つために陪審にじわじわと脅しをかけます。誰にでもある個人の秘密を暴き、本人にそっと知らせ、言うことを聞かそうと試みます。一方ニックはニックで、12人のティームの中で人気者になり、色々な人を慰めて回ります。ニックの人気のおかげで、彼の意見になびく人が増え、判決はニック次第という状況を狙っているかのようです。

外でマーリーは両方に大金の取引を持ちかけます。双方に1000万ドル要求。しかし原告側は断わります。原告側に断わられ、被告側の値段は50%値上げ。マーリーは被告側の手下に襲われ、危うく命を落としかけるというおまけつき。危険な賭けをしています。それでも観客に分からないのは、マーリーたちが何を狙っているのかという点。金が目的のようにも見えますが、何かもう少しありそうです。

何でも徹底的に調べるのが好きなフィッチはニックの調査を続行。手下が出身地らしい場所に出張。取り敢えず通っていた大学をつきとめます。別名で法科の学生でした。

ローアは最終弁論の前に最後の証人を呼びますが、なぜか現われません。したり顔のフィッチ。どうやら妨害作戦に遭ったようです。これで原告側は決定的に不利。しかし規則は規則。時間内に来ない場合はそのまま最終弁論に突入。お涙作戦を行いますが、それほど勝利の確信は持てません。あとはニックがどういう行動に出るかにかかっています。しかし弁護士はニックとつるんでいるわけではないので、勝利の自信はしぼみつつあります。

外でフィンチの手下が調査を続けている間に、ニックは11人の説得にかかります。大体はニックになびいていますが、手ごわい人もいます。陪審は結論に達するまで時間を十分取ってかまわないのですが、そうするとフィンチの手下が何かニックの秘密をを見つけてくるかも知れません。観客ははらはら。

ここから話がやや分かりにくくなります。ニックの手下は結局ニックの秘密を探り出します。ニックとマーリーは幼友達で、マーリーには乱射事件で犠牲になった家族がいました。その復讐が2人を用意周到な準備、実行へ駆り立てていたのです。当時裁判を遺族に不利な状況に持ち込み被告の無罪を勝ち取ったのがフィッチ。今回も当時とまったく同じ形の事件でした。表決の直前、フィッチは時間が無いとせかすのですが、手下は悠々と時間を取ってマーリーの母親に同情を示しながら話を聞いています。手下は一体誰の味方なのかとちょっと不思議に思いました。

時間はマーリーたちに味方をしました。ローアは送金を断わり、不利ですが、清く正しく最後の証人抜きで裁判を終えます、フィッチはマーリーに1500万ドル送金します。その上マーリーたちの秘密に迫っていたので、自信満々。しかしマーリーはフィッチたちのあじとを当局に密告します。フィッチの部下がマーリーとニックの素性、関係、そして罠に気づき、送金を止めようとした時にはすでにお金は送られており、アジトには警察が踏み込んでいました。めでたし、めでたし。

これはしかしアメリカ式の解決。自警団と同じ理屈です。相手がアンフェアな方法を使うから自分もアンフェアで行くというわけです。アメリカは自由、公平だなどを看板を掲げ、他の国よりいいと宣伝していますが、実情は弱い人がこういう手段に出ざるを得ない不公平さを抱えた国です。グリシャムが好きなテーマですが、映画では問題の根本的な解決方法は出されておらず、自警団勝利という矛盾のまま終了します。

アメリカ人が欧州人と違い自分を守るために銃を買って家に置くという考え方になるのは、自分で守らないとだめだからという諦めがあるからです。その辺にいる見知らぬ奴がいつぶっ放すか分からないから自分も銃を備えておくという悪循環。見知らぬ奴は、見知らぬ土地に来て何があるか分からないから銃を備えておくという悪循環。ここで欧州や、日本だったら、《全員で銃は止めよう》となるのですが、アメリカでは《みんなで銃を買おう》という風になってしまうのです。その流れを止めようという意図を持った映画ですから、焼け石に水程度の役にしか立ちません。アメリカは何しろ銃が大きな産業になってしまっている国です。ですから《銃を作るのを止めろ》と言う時には、《代わりにこれを作れ》という話も持ち込まないと、失業者が増えるので、到底賛成は得られません。この辺も考えた上で対策を練らないととだめですが、どうもここ数年で片付く問題ではないようです。

プロットが弱いわりには健闘した作品だと思いました。結局私に理解できないのは、アメリカ人がなぜここまで銃の所持にこだわるかという点。欧州でも銃を持っている人は時々いますが、事故もあまり聞きませんし、野放し状態ではなく、所持するにはいろいろ警察の書類が必要です。そしてたまに事件が起きると、そのたびに法律強化が検討され、実施されます。ずいぶん前だったと思いますが、アメリカからスターが来日し、手荷物の中に銃が発見され、騒ぎになりかけたことがありました。結局銃は税関に預け、帰国する時に返すということで話がついたようですが、日本のような当時まったく安全だった国で銃が必要だと考える認識の低さに驚きました。この人は日本をそれほど知らず、アジアの野蛮国へ行くのだから自分を守らなければ行けないと考えたのかも知れません。あるいは日本はローカルな国だから、休憩の時に狩にでも行こうと考えたのでしょうか。滞在中丸腰で、この人は恐怖を感じたのかも知れませんねえ。普段持ち慣れている武器を持っては行けないと言われると、心細くなるでしょう。こちら側から見ると、誰も武器なんか持っていない所へいきなりよそから銃を持った人に来られて、恐怖を感じるわけですが。このあたりの感じ方のズレについてもう少し考えた方がいいように思います。

後記:

★ 日本にも陪審制度!?

日本にも昭和初期から戦前に陪審制度がありましたが、敗戦より前、米軍の影響の無い時期に停止(廃止ではない)されています。陪審の法律が適用される事件が比較的少なく、辞退者が出ることもあり、付随するシステムに負担やリスクが伴うなど、実質的にあまり良く機能していなかったようです。加えて戦争で陪審員になりそうな人が少なくなるなどの事情も重なりました。

日本では裁判はおおむね信頼が置け、陪審員にアピールして有罪・無罪を勝ち取るより、経験の長い裁判長に任せようという風潮で来ていましたが、突然1999年から2001年の間に日本でも陪審員を使おうという話が持ち上がり、小泉政権の間に法律が成立しました。5年間一般に内容を説明し、2009年から実際に動き始めました。

私はその間ずっと外国に住んでいたのですが、どう見ても日本人のメンタリティーからすると自発的に思いつくように思えず変だなあと思いながら見ていました。外国が日本の死刑制度に不満を表明しているらしく、一般人を裁判に巻き込めば死刑判決が減るだろうと考えて向きがあったのかなどと思ったりもしました。ところが実施されてみると意外なことに刑が予想より重くなる傾向を示し、一般人の不満は加害者保護の生き過ぎにあったのだと知りました。

最初日本でどういう話になっているのか分からなかったので私は軽い刑や中程度の刑が予想される裁判に一般人が参加し、死刑や無期などの重い刑の裁判はプロの裁判官、検事、弁護士だけでやるのだろうと思っていたら、真逆で、死刑、無期、その他の重大事件が一般人に回って来ると知りました。なので裁判員は戸惑うだろうなあと思っていたら、それも真逆。日本人は生真面目で、悩みながらも事件に集中し、こりゃひどいと思ったら、さっさと重い刑を請求。普通の人がこりゃひどいと思える事件に、それ相応のオトシマイを要求するというバランス感覚が働いています。

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