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レインメーカー /
The rainmaker /
Der Regenmacher

Francis Ford Coppola

1997 USA 135 Min. 劇映画

出演者

Matt Damon
(Rudy Baylor - 法学生)

Danny DeVito
(Deck Shifflet - 法律事務所の助手、司法試験にはまだ合格していないが、法律に詳しい)

Mickey Rourke
(J. Lyman Stone - ルディーが就職する法律事務所の経営者)

Claire Danes
(Kelly Riker - ドメスティック・バイオレンスに悩まされている既婚女性)

Andrew Shue
(Cliff Riker - ケリーの暴力亭主)

Roy Scheider
(Wilfred Keeley - ブラック事件の被告、保険会社の経営者)

Jon Voight
(Leo F. Drummond - 保険会社の法律顧問、弁護士)

Virginia Madsen
(Jackie Lemanczyk - 保険会社の元従業員、裁判の証人)

Johnny Whitworth
(Donny Ray Black - ブラック事件原告、白血病患者)

Mary Kay Place
(Dot Black - ブラック事件原告の母親)

Red West
(Buddy Black - ブラック事件原告の父親)

Dean Stockwell
(Harvey Hale - ブラック事件担当の判事)

Danny Glover
(Tyrone Kipler - ブラック事件をホールの死後引き継いだ判事)

見た時期:2003年12月

要注意: ネタばれあり!

大分前の作品でもう見た方が多いでしょうが、結末などがばれますので、見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

レインメーカーというのは干ばつなどの時に雨を降らす人のことなのだそうです。自国には梅雨があって、あまり極端な干ばつを知らない私には耳慣れない言葉ですが、ラガーンを見ていると、「何でもいい、誰でもいいから雨を降らせてくれ」という気持ちは伝わって来ます。これが「良き事をもたらす」という風に転用され、今回見た作品ではある判事がレインメーカーの役を果たしています。ところがどういうわけかこの判事を演じた俳優、ダニー・グローバーがクレジットされていないのだそうです。それを更に発展させ「大儲けをする」という意味もあり、そうなると作品中ではレインメーカーはみつかりません。

原作はグリシャムの原告側代理人。グリシャムがヒットしている時、マット・デーモンがヒットしている時、私は全然違う作品を見ていたのでブームは逃しています。ある映画雑誌が「毎月付録に DVD をつける」と言い出し、それにつられて買ったのがこれ。雑誌がとても安いので、DVD はタダで貰ったようなものです。この雑誌を出しているのが Kinowelt (「映画の世界」という意味)という会社で、雑誌は副業。映画の配給などを専門にやっている大きな会社です。ところがこの会社が映画雑誌を発行し、読者に貢献する付録をつけると言い出したとたんに同業者が訴えて、あっという間に負けてしまい雑誌は廃刊に追い込まれてしまいました。当時その他に Cinema と Hollywood という雑誌があり、私は各雑誌の批評を色々読み比べながら次はどの作品を見ようかと物色していたのです。老舗と言えるのが Cinema。写真もきれいで記事も上品です。Hollywood はそれに比べると写真はコピーをさらにコピーしたみたいで、記事はやや下品なのですが、本音が読めておもしろく、両者を比べるのを毎月楽しみにしていました。ところが Kinowelt が閉鎖に追い込まれている頃、ドサクサにまぎれて Hollywood も無くなってしまったのです。以来主要な映画雑誌は1つだけ。私は神様でも業界雑誌でも、1つしか選択肢が無いと聞くと不信感を持ってしまうのです。やはり比べる自由は欲しい。DVD、ビデオの専門誌があるので厳密に言えば映画雑誌は Cinema 1つきりというわけではありませんが、やはり代表的なものが複数ある方がいいです。(若者向きの国営ラジオに辛口の解説者が登場するので、最近はそれと比べています。公開の当日この人が解説をしますが、必ずしも誉めるわけでないので、聞いているとおもしろいです。マトリックス(3)などはけちょんけちょんに言われていました。私はまだ見ていないのですが、比較の結果が楽しみです。)

さて、その Kinowelt に貰った唯一の付録、それがレインメーカー。家では DVD が見られなかったので暫く宝の持ち腐れでしたが、最近は見られるようになり、見てみました。

犯罪物だとは見当がついていたのですが、私が考えていたのとは全然違う展開。この作品の監督があの大物の父コッポラ(娘の話はこちら)だったというのも私には意外に思えました。コッポラという名前を聞くとつい誇大妄想狂的超大作を頭に浮かべてしまうのですが、実はこの人は地味な作品も作っています。レインメーカーで大作と言える部分は大ヒットした原作者と連れて来た俳優。地味と言えるのは扱っているテーマと撮影。派手なアクション、豪華なセットは無く、もっぱらストーリーの中身で勝負しています。

主演はマット・デイモンですが、ダニー・デ・ビートも主演のようなものです。暗い、暗い、暗い話を多少でもコメディー・タッチにしているのはデ・ビートの功績。この部分が無いと暗過ぎて観客から嫌われるでしょう。法学生で世間を理論と理想の物差しで見ている青年ルディー役にデイモンはぴったり。「世の中は全然きれいな所ではないのだ」と最初にカツを入れるのが、いかがわしい弁護士事務所の経営者、ミッキー・ルーク演じるところのストーン。適役。ストーンから「その若いのに手ほどきしてやれ」と命令を受けるのがいかがわしさを実践で見せるデック。演じるデ・ビートは適役。

汚いものを「汚いんだぞ」と言う法律事務所で、汚い話を少しずつ身につけて行くルディーは、ま、それでいいでしょう。汚い話をきれいなものに見せて、すましているのがジョン・ボイド率いる顧問弁護士の大集団。皆パリっとしたスーツに身を固め、貧しくて法律の知識の無い人はそれを見ただけでビビってしまうような出で立ち。裁判の演出も手慣れたもの。駆け出しのルディーをビビらすこと数回。あわやというところへいかがわしいトリックに長けたデックが現われ急場を救うこと数回。この辺がスリルに満ち、笑いを誘います。ディックはいんちきも得意なのですが、重箱の隅をつつくように詳しく法律書を読み、僅かな抜け道を見つける名人でもあります。法律書に書いてあるのなら、一般に知られていない条項でもいんちきではありません。

本来のストーリーは、保険会社がいかさまをし、掛け金は巻き上げるけれど、病人が出た時にほとんど保険金を支払わないという話です。タバコ会社、製薬会社、保険会社など大きな産業を攻撃するような映画を作るのはなかなか大変だと思いますが、コッポラは大胆にこのテーマに切り込んでいます。ということは原作の方でもそういう筋になっているわけで、それがベストセラーになっているということは、読者がこの種の話に関心を持ち、支持しているということでしょう。当時グリシャムは売れまくっていました。

ルディーはまるでドン・キホーテのようにほとんど望みの無い状況で、チーフの助けも借りることができず孤立無援。チーフは不正がばれ、お尻に火がついて常夏の島へトンズラなのです。頼りになるのはいかがわしいデック1人。幸いルディーはサンチョ・パンサのように性格の違う、機転の利くパートナーに恵まれ、お互いを補い合いながらかろうじて勝訴へ。

ところが勝ってはみたものの原告は時間切れで病死。保険会社は敗訴が原因で似たような事件の訴訟が山積み。社長は資金をどこかへ隠し、国外逃亡寸前に逮捕。お金の行き先は恐らくルディーのチーフもトンズラした南国でしょう。原告にはお金は一銭も入って来ません。結局ルディーに残ったのは名声だけ。無いよりはいいですが(暗い、暗い、暗い結末がこれです)。

途中で家庭内暴力の犠牲者を救い(暗い)、彼女と結ばれるようになりますが(多少明るい)、2つのテーマを取り上げたせいで、やや焦点がボケます。家庭内暴力の方はわりとあっさり片づけているので(ぜひ別な映画作って下さい)、最後焦点は保険会社の裁判に戻って来ます。

今見るとそれほどの問題作とは思えませんが、それはイラク事件で国民の注意が海外に向いてしまったからでしょう。アメリカは時々国内の問題に目を向けることもあり、自ら間違いを正して行こうという姿勢が見える時もあります。その時の大統領の姿勢や、政治の風向きに左右されますが、レインメーカーはちょうどそういう時期の作品だったのでしょう。レインメーカーに続いてシビル・アクション(1998)、エリン・ブロコビッチ(2000)が作られ、エリン・ブロコビッチはオスカー、ゴールデン・グローブにノミネートされ、ジュリア・ロバーツが両方を取っています。

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