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ステップフォード・ワイフ /
The Stepford Wives /
Die Frauen von Stepford

Frank Oz

2004 USA 93 Min. 劇映画

出演者

Nicole Kidman
(Joanna Eberhard - テレビの有名な司会者)

Matthew Broderick
(Walter Kresby - テレビの副社長、ジョアンナの夫)

Fallon Brooking
(Kimberly Kresby - ジョアンナとウォルターの子供)

Dylan Hartigan
(Peter Kresby - ジョアンナとウォルターの子供)

Bette Midler
(Bobbie Markowitz - 有名な作家)

Jon Lovitz
(Dave Markowitz - ボビーの夫)

Glenn Close
(Claire Wellington - 有名な脳外科医)

Christopher Walken
(Mike Wellington - 元マイクロソフトの重要人物、クレアの夫)

Roger Bart
(Roger Bannister - ジェリーのパートナー)

David Marshall Grant
(Jerry Harmon)

Faith Hill
(Sarah Sunderson - 元航空会社の重役)

Matt Malloy
(Herb Sunderson - サラの夫)

Kate Shindle
(Beth Peters)

Tom Riis Farrell
(Stan Peters - ベスの夫)

Lorri Bagley
(Charmaine Van Sant)

Robert Stanton
(Ted Van Sant - シャーマンの夫)

Lisa Masters
(Carol Wainwright)

Christopher Evan Welch
(Ed Wainwright - キャロルの夫)

Colleen Dunn
(Marianne Stevens)

Jason Kravits
(Vic Stevens - マリアンの夫)

Andrea Anders (Heather)

Mike White
(Hank - ジョアンナを殺そうとする男)

見た時期:2004年9月

要注意: ネタばれあり!

この作品は取り上げるとネタがばれざるを得ないようなストーリーです。70年代の作品を見た方、原作をご存知の方はこのまま先へどうぞ。まだ全然ストーリーをご存知ない方は、ここで一度考えて先に進むか決めて下さい。

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アイラ・レヴィンの原作(1972年頃)の2度目の映画化で、1度目(70年代中頃、その後テレビ化)の方がいいという評判の作品です。最初の映画化は見ていないので、そのコメントは控えます。リメイクの方は結論から考えると支離滅裂で何のために作ったのか良く分からない筋になり、脱線という感がぬぐえませんが、部分的に見るとなかなか意味深です。

話の発端は、凄腕のテレビ司会者ジョアンナが壁にぶち当たり引退を余儀なくされるところから。容赦無く男性出場者を斬って落とし、女性の力を誇示する番組の司会をやっていたら、そうやって家庭を崩壊させられた男性に番組の最中に暗殺されかかり、彼女は放送局の女上司から首にされます。夫ウォルターはテレビ会社の副社長でしたが、心の優しい人だったらしく、彼女に同調し、辞表を提出して引退。2人ともまだ若く、年金生活という年齢ではありませんが、稼ぎまくっていたので、辞めたからと言って、インサイダーの夫婦のようにお金に困ったりはしません。

ジョアンナはストレス過剰でパニック状態に陥り虚脱状態。静養を兼ねて家族でコネティカット州ステップフォードに引っ越して来ます。引退とはいえ、大きな家を借り、贅沢な生活。仕事は無いので、男性はメンズ・クラブ、女性は文学のサークルへ。1日中そうやってぶらぶらするのが新しい生活です。

ニューヨークで生き馬の目を抜くような戦いを勝ち抜いていたジョアンナは、ファッションも黒が中心のモダンな趣味。家事などは彼女の仕事ではありませんでした。ステップフォードの女性たちは皆嬉々として家事にいそしみ、黒などという辛気臭い色は身につけず、花柄の明るいドレスをまとっています。まるで40年代に戻ったような明るい世界。皆にこにこして新入りのジョアンナを迎えてくれます。

ジョアンナはためらいながら少しずつ町になじもうとしますが、これまでの生活とあまりに違うので、すぐにはなじめません。最初は同じく新入りの元売れっ子ユダヤ人作家ボビーと仲良くなります。彼女もストレスが過ぎたのかアルコールに手を出すようになったらしく、生活をやり直すべくこの町に来ています。

原作も、最初の映画化作品も見ていなかったので、先が読めませんでした。それで私はこの町全体がセレブ用の精神病院のサナトリウム、プライバシーが守れて、家族と一緒に治療に当たるのかと思いました。町の入り口に門番が立っていて、車が入るとすぐ門を閉めてしまったのでそんな印象を受けました。ですからクリストファー・ウォーケンは心理学者で、病院長か何かではないかな、と全然間違った予想を立てていました。

他の人に比べなじみ易いボビー(ボビーの服の色は黒)と、ゲイの女性風男性ロジャーと仲良くなり、3人でいろんな事を話すようになったジョアンナ。それなりに楽しくしていますが、まだ前の生活との切り替えはできておらず、この町に一生住むには町の他の女性と差があり過ぎます。

ジョアンナたちが他の住民との溝を深めて行くのに対し、ウォルターの方は徐々にメンズ・クラブになじんで行きます。いったい他の女性はどうなっているんだろうという好奇心も手伝って、ジョアンナたちはメンズ・クラブを探り始めます。というのは町に来てすぐの頃1度1人の女性が癲癇発作のような状態になり、パーティーの最中に倒れるのですが、誰も治療したり救急車を呼ぼうとせず、マイクに任せたのです。マイクが何をしたのかは分かりませんが、その女性の頭からは火花が散り、それをジョアンナは目撃しているのです。

その他にもおかしな事が時々起きているので、3人はメンズ・クラブに探りを入れようということで意見が一致。ところがその直後からロジャーとボビーの様子が一転。別人のように町に従順になってしまいます。ボビーはブロンドになり、洋服は花柄。ちょっと前まではブルネットで黒い服を着ていたのですが。ロジャーはばりっとした背広姿。それまでは明るい柄物のシャツを愛用していました。次はジョアンナの番でした。

ついにジョアンナも2人と同じように変えられてしまう日が来ました。そして彼女の改造に夫のウォルターも反対しません。メンズ・クラブのメンバーの妻たちは家事とセックスに時間をかけ、決して夫に口答えをしない人たち。全員かつては女判事、大会社の女重役、有名女流作家などと世の中をリードするような職業についていた人たちです。

ジョアンナもそのパターンにぴったり当てはまります。そして従順な女性に改造する秘密はメンズ・クラブの地下室に。その指揮を取っていたのが元マイクロソフトの偉いさん、マイクだったのです。ジョアンナも次の日からはブルネットだった髪をブロンドに染め、家ではケーキを焼いたり、料理をしたり。服も明るい色に変わりました。

これで町にとってはうるさい事を言って逆らう人がいなくなり、めでたしめでたしです。それで舞踏会。

・・・っとここまで見ていると、(第1)キッドマン夫妻が深く関係していたある宗教団体のことがオーバーラップして来ます。キッドマンは養子にしていた子供たちがその宗教団体の教育を受けることに反対していて、それが離婚の原因かとも言われていました。前亭に比べ、キッドマンはこの団体にのめり込むことはなかったという話も聞こえています。前亭はこの団体のナンバー・ツー。ブローデリックの役が放送局の副社長と聞いて、偶然なのかなあと思ってしまいました。彼は髪が黒くて、キッドマンよりいくらか背が低いのです。意味深だなあ。その上キッドマン夫妻は一時オーストラリアへ引っ越して家族で暮らすなどという噂も流れていました。2人はゴージャスなセレブなのである事無い事あれこれ言われていましたが、ステップフォード・ワイフはその辺の虚実がうまくミックスされています。原作もこうなんだらろうか。

ネタがばれますが・・・

いくつかキッドマンの私生活とダブったかに見えるシーンが出た後、話は大転回。SF 色が前半より目立って来ます。女性たちはマイク以下の男性軍に人間としての機能を制限されていたのです。肉体はそのままですが、脳にチップを埋め込まれ、職業に就こうなどという野望は全部消え、ただただ夫の希望に従うだけです。

この後にどんでん返しがあるのですが、そこで理論的なものがガラガラと崩れます。クレアがクライマックスで大演説する《動機》というのが、プロットを崩してしまいます。しかし私は許してしまいました。この作品で私が見たのは、《自分は世の中を良くするんだ》という誇大妄想。それがジョアンナの側からとクレアの側から2通りのバージョンで見られます。そして60年前も現在も男性の考える理想郷はほとんど変わっていないというところ。そしてこの60年の間に前には無かった権利を得た女性が何をしたか。せっかく得た権利、自由を上手に生かし切っていない、空回りしている、あるいはせっかくたどり着いた高い地位の中で虚しさを感じている、など結果はあまり理想的とは言えません。そういったテーマを極端にして見せてくれたのです。

原作を書いた人は男性。当時張り切って社会に進出していた女性たちを快く思っていなかったのかも知れません。古き良き時代は良かったなあというわけ。あるいはそういう時代を懐かしむ男性に対する揶揄だったのかも知れません。ここは原作を読んでいない私には判断が下せません。

ショーダウンは月並みで、脱線したまま終わります。しかし《理想》というものに対し疑問を投げかけることができれば、この作品は役目を果たしたのではないかとも思えます。

バレバレやないか・・・。(陣内×則)

グレン・クローズ演じるクレアの正体がばれるまでの部分、全体の5分の4程度は私にも大体納得が行きます。そしてクレアとマイクとの力関係もそのあたりに来るまでに徐々に化けの皮がはがれつつあるので、真相が分かった時は全くの驚きではありません。しかし、私はそのちらりほらりと分かりかける真実を認めるのが怖いのでためらっているところへ、バッとばらされ、それなりの驚きもありました。ウォーケンの演技にコントロールが利いています。

がらっと理論が崩れて何だか分からない話になるのはそこからで、そのまま辻褄の合わない結論に飛び込んで終わり。陣内さんの口真似をして言うと、《お前、そんなたいそうな事言うのええけど、それやったら順序が逆やろ・・・。なんで先にあいつら変えよったんや。だれの味方や?》。ふざけている場合ではありません。この作品は男性女性均等のパーセンテージで見に行ったのですが、両方から同じ意見が出ました。プロットのずさんさに驚かされますが、がっかりして家路につくというほどの失望でもありません。華やかなスターが出ますし、ベット・ミドラーが出て来るシーンは結構笑えますので、損をしたという気分にはなりません。

配役が凝っています。主演は何と言ってもニコール・キッドマン。高いお金を払って呼んで来ておきながら、彼女には演技はさせていません。ただ筋に従って踊っているだけです。妙な顔を作ってみても全然おもしろくありません。ちなみにこれは SF コメディーとして作ってありますし、監督はフランク・オズです。笑いを取るのはしかしベット・ミドラーの仕事。彼女はチャーミングで、愉快です。

180センチ近いキッドマンの夫役には、間違い無く前亭を想像できるようにやや背の低いマシュー・ブローデリック。彼は目立っては行けない役なので目立ちません。その辺は役をちゃんと解釈しています。いつもニコニコやさしい亭主。

目立つべきはクリストファー・ウォーケン、グレン・クローズ夫妻。大物を2人呼んで来ており、がっぷり四つ。ウォーケンはいつもとちょっと違うヘアー・スタイルで、いつものような鋭い刺はありません。その代わり別なところであっと驚く為五郎。クローズは豪華な衣装、ヘアースタイルで、ゴージャスな登場。一見の価値ありです。

残りは個性は全然印象に残らず、ただただブロンドで美人でグラマーな女性軍とやや影の薄い男性軍。この人たちはその他大勢。(中には有名人も混じっています。)女性軍のキャラクターは役柄上画一的ですが、衣装、ヘアースタイルは華やかで目を楽しませてくれます。

なぜこの作品を作ったのかは分かりませんでしたが、なぜ今作り、キッドマンが主演なのかは納得できました。真面目なテーマを扱っているという点では es[エス] に負けませんが、アプローチの方法は全然違います。軽い気持ちで見に行って、アハハと笑って帰って来ることもできます。

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