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バレー・カンパニー /
The company /
The Company - Das Ensemble

Robert Altman

2003 D/USA 112 Min. 劇映画

出演者

Neve Campbell
(Ry - バレー・ダンサー)

Marilyn Dodds Frank
(ライの母親)

John Lordan
(ライの父親)

Mariann Mayberry
(ライの義理の母親)

Roderick Peeples
(ライの義理の父親)

Domingo Rubio
(Domingo - ライの踊りのパートナー)

Sam Franke
(Frankie - ライの元恋人兼踊りのパートナー)

Emily Patterson
(Noel - フランキーの恋人)

James Franco
(Josh - レストランのコック)

Malcolm McDowell
(Alberto Antonelli - バレーの団長)

David Gombert
(Justin - 本番前に役を下ろされるダンサー)

Yasen Peyankov
(ジャスティンの教師)

Lar Lubovitch
(マイ・ファニー・バレンタインの振付師)

Robert Desrosiers
(青い蛇の振付師)

Larry Glazer
(チェロ弾き)

Mark Hummel
(ピアニスト)

Paul Lewis
(ピアニスト)

Barbara E. Robertson
(Harriet)

William Dick
(Edouard)

Susie Cusack
(Susie)

Deborah Dawn
(Deborah - プリマ)

John Gluckman
(John - 新入り)

Maia Wilkins
(Maia - マイ・ファニー・バレンタインのプリマ)

Suzanne L. Prisco
(Suzanne - 負傷するバレリーナ)

Davis C. Robertson
(Alec - ダンサー)

見た時期:2004年9月

バレー・ダンサーの日常のエピソードの集積なので、ばれて困るようなネタはありません。

この種の映画の中ではしっかりとした出来で、作った本人は満足しているのではないかと思います。作った本人はネイヴ・キャンベル。自分で台本を思いつき、監督にロバート・アルトマンを頼み、シカゴのバレー団、ジョフリー・バレー・オブ・シカゴの協力を得て出来上がりました。

見終わって感じたのはうまく押さえが利いているために最終的に感じのいい作品に仕上がったという点。アルトマンは大勢の人間が出て来る作品をまとめ上げるのが上手ですが、バレー団のように大勢だと、彼に任せるというのは賢い選択。ただの女優が台本を送っただけで引き受けてもらえるような売れない監督ではありませんが、どういうわけか話が通って、企画は実現となりました。

後で聞いたところによると、ネイヴ・キャンベルは元々訓練をちゃんと受けたバレリーナで、小学校に入った頃から、10年ほど前女優の仕事に鞍替えするまでに基礎訓練はできており、現役のバレリーナとして活躍していたそうです。途中でスクリーム・クイーンとして成功したため、そのままでもスター街道を驀進できそうでしたが、長年の夢を実現させたく、バレー映画の脚本を書き始めたそうです。

自分がバレリーナとしての生活を知っているというのは強い。インサイダーであります。しかもバレーが好きと見え、バレーやダンサーを損なうようなエピソードは無く、この仕事がいかに大変かという話がほとんどです。お涙頂戴でも、マゾっぽい根性物でもない地味路線で成功させています。わずかに批判的なのはステージ・ママやステージ・パパに対する目。しかしそれも極端なエピソードは出していません。そういう弊害も含めたバレーの世界全体にあたたかい目を向けています。

主演をめぐっての内部での競争、抜け駆け、怪我に対する恐れ、しょっちゅう金欠病で、アルバイトをしなければやって行けない生活、親の圧力、ひいきにされているダンサーと、そうでないダンサー、演出家の持ち込むわけの分からない演出プラン、まだ曲が書けていないのに練習は始まる、バレー団の経営者が抱える資金ぐりの悩み、その上時代を反映してかエイズに対する警戒もエピソードに取り入れられています。

この種の映画は、オーディションをめぐってのドラマにダンスを盛り込んだものがすでに出ていて、またかと思いますが、バレー・カンパニーは一見に値します。アルトマンの功績なのか、バレー好きのキャンベルの功績なのか分かりませんが、バレーというもの、それに携わる人たちについて良い後味を残して終わります。人に優しい終わり方。こういう作品は最近少なくなったように思います。

キャンベルのバレーの実力はそこそこ。超一流というわけではありません。アラが目立たないようにするためか、あまり超人的な振り付けにはなっていません。ボリショイ・バレーとは趣も違います。最初クラシック・バレーだと思って見に行ったので、バレリーナが太っているのに驚きました。日本人やロシア人のバレリーナよりかなり太くがっしりしています。それだけ健康そうで、私には好感が持てました。この間チョコレート(アイスクリーム?ハンバーガーではなかった)を食べ過ぎて太くなったため首になったロシアの美人プリマドンナでも、シカゴのバレー団だったら入れてもらえそうです。男性は女性を持ち上げるのですからがっしりしているのは当然ですが、男性もロシアのバレー・ダンサーとはやや違う体型の人が多いです。

見せられたのはクラシック・バレーではなく、モダン・バレー。専門家ではないので《モダン》という用語は違っているのかも知れませんが、チャイコフスキーとかストラビンスキーでなく、モダンな音楽、ジャズ、時としては自分たちで作曲した曲も使います。ダンサーはしかし全員クラシックの訓練を受けていて、体の動きもクラシックの手法をおおむね取り入れています。斬新なのは振り付け。ここが勝負です。のっけにクレジットと一緒に見せられるテープを使った演出はうまく行った例の1つです。この種の演出は下手をするとずっこけて、ばかばかしく見えるものですが、きれいに決まっています。エンド・クレジットが出る時にもう1度見たかったですが、冒頭に1度しか出て来ません。撮影のアングルが良くて、観客が客席から見るのとは違う角度でも見られます。

その後マイ・ファニー・バレンタインに乗せて恋をする男女を表わしてみたり、原色を強調したグループのダンスを見せたり、空中ブランコのように女性を吊って、滞空時間を引き伸ばしての演出など、工夫だらけ。それが失敗していないのです。

ドイツ人がこの種の演出で演じると、ダンサーが完璧過ぎて、人間であることを忘れたような表情、冷たくロボットのように動く恐れがあります(せっかくですからその際はクラフトヴェルクの音楽をお薦めしますが・・・)。時々劇場のコマーシャル・フィルムを見ることがあるのですが、見ただけで行く気を無くしてしまいます。それと良く似た演出であるにも関わらず、その上ダンサーはドイツ人に負けないぐらいしっかり練習に励んでいるのに、出来上がったものには血が通っています。そこがこの映画の収穫です。

最後の演目はぬいぐるみ風の登場人物が続出する童話風の演出なのですが、大人が見てもばかばかしく思えないような、ディズニーランドとは違った作品に仕上げています。これをドイツ人にやらせると・・・考えるのやめておこう。

アメリカ人だから、ドイツ人だからという見方は正しくないかも知れません。私は以前、ある女性に率いられたアメリカのバレー団の公演を見たことがあります。これまで見たことも無いようなモダンな振り付けでで楽しかったですが、この人たちも超人的な訓練を積んだのが舞台にもろ出ていて、シカゴのバレー団に比べると近づきがたいような面がありました。

ドイツ人が超人的な舞踏技術を身につけ、それを駆使して子供向きのファンタジー、メルヘン風の題目を踊ると、《見てくれ、評価してくれ、すごいだろう》という押し付けがましさが見えてしまいます。東洋など外国の踊りや習慣を取り入れた演出だと、まじめ過ぎて、祭りの気分などが吹っ飛んでしまいます。シカゴのバレー団はそこが決定的に違い、自分が演じているものに喜びを感じながら踊っているように見えます。《ダンサーの技術でなく、ストーリーを見てくれ》、《これはカップルの愛情なんだぞ》、《これはおとぎ話なんだぞ》、とそちらの方が強調されています。これがこのバレー団の基本的なコンセプトなのでしょう。このバレー団を選んだキャンベル他のスタッフの勝ちです。

結局これはグループを率いる人に左右されるのでしょう。団長になっていたのはマルコム・マクドウェル。これは半分ほどミスキャストだと思いましたが、半分は適役。ミスキャストだというのは彼は全然イタリア人に見えないのと(そりゃそうでしょう。英国人なんですから)、バレーのような芸術を理解する人に見えない点(キャグニー・ファンの彼がこれまで演じて来た役が先入観を生んでしまうのかも知れません。なんと言ってもこの方はあの時計仕掛けのオレンジのアレクサンダー・デ・ラージ氏なのであります)。音楽すら理解しないのではないかという風に見えるのです。私生活がどうかは知りませんが、画面には芸術家らしさが出ていませんでした。それこそウド・キアーの方が芸術を理解する人間を演じるのが上手なのではと思ったぐらいです。しかしキアーに出せない面というのもあります。経営を維持するために奔走する人、配役を決める時にはっきりした意見を持った人間、逆らうと怖いという面はマクドウェルがうまく出しています。この年代でその両方の演技を出せる俳優はいないかと考えてみましたが、有名人では名前が浮かんで来ません。何しろ大きな決断を下せる独裁者に近い権威もにじみ出ないと行けないのです。

で、マクドウェルで妥協せざるを得なかったのかも知れません。

残りのキャストのほとんどがバレー・ダンサーで、台詞は比較的少なめ。しゃべりは本当の女優のキャンベルとフランコにやらせておき、バレーに関連した日常しゃべり慣れている話はダンサーにもしゃべらせています。不自然にならずうまく行っています。

オーディション風のシーンはしつこくならず、さりげなく失望して去っていく顔、怪我をして断念する時の言葉に出せない失望など、バレー関係者にとって苦しいエピソードを軽く扱わず、やり過ぎずと、さじ加減がいいです。ここまで訓練した人が怪我をすると、観客はわざわざ説明してもらわなくても、ダンサーがどんなに悲しいかちゃんと分かってしまいます。ですから言葉は要らない、バッサリ。良い判断です。

ジェフ・フランコはダンサーではなく、コック。ライと知り合いやがて恋人になる役です。地味な役ですが、好演しています。スパイダー・マン2でも成長ぶりが見られますが、バレー・カンパニーでも控え目の調節の利いた演技です。この人はいい俳優になるかも知れません。

最近はドカーンと前に飛び出る映画ばかりですが、バレー・カンパニーは珍しく控え目。原作者の1人でプロデュースもやっているおなごが主演もやっているのに、あつかましくしゃしゃり出て来ないところがいい。ですから宣伝しようと思っても目玉商品が無く、予告編は地味になってしまうでしょう。しかし1度見た観客からは長い間覚えられる、そういう作品です。

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