映画のページ
Udo Kier
1944 Köln, Deutschland
この特集を始めるきっかけになったのは実はウド・キアーではなく、ロバート・デ・ニーロでした。それが理由もなくウド・キアーに変わってしまいました。なぜか分かりませんがこの人から始めようという気になり、気が変わらないうちに書き始めています。
生まれはドイツのケルン、戦争中です。現在はカリフォルニアに住んでいるそうですが、仕事は欧州の作品が多いです。キアーの私生活について資料があまり無く、今のところ人から聞いた話しかありません。ファンが直接メイルを送れば何か答が返って来そうですが、結婚したとか、子供がいるなどという話はあまり聞こえて来ません。
生まれた時の事情が劇的です。生まれてすぐ死ぬ運命にありました。お母さんが出産のため入院していた病院が爆撃を受け、就寝時間に1箇所に集められていた赤ちゃんの運命はどうやら、悲劇に終わったようです。たまたまその日、その時、ウド君のお母さんだけ、生まれたての息子を手元に置いておきたいと思った、その気まぐれが彼の運命、そして世界の怪奇映画の運命を変えたのです。キアー母子は救出されました。この話を聞いて思い出したのが10億分の1の男。ウド・キアーは実生活で強運を背負って生まれて来た・・・と言っては大げさですが、数奇な運命と呼んでもいいのではないかと思います。
戦争も終わりキアー青年は語学習得のために英国に渡り、その時知り合った映画監督にオファーを受け、1966年にデビュー。それがジゴロの役。その後のキャリアはファンタ速報でも触れましたが、ざっとこんな具合。
・ ジゴロ
・ ドラキュラ
・ バンパイヤーの役を何度も
・ フランケンシュタイン
・ アドルフ・ヒットラー
・ ナチの役をちょくちょく
・ ジャック・ザ・リッパー
・ ドクター・ジキル
・ O嬢を仲間の所へ誘い込む男
・ ゲイ
・ キラー
リストをチラッと見ただけで変な役が目立ちます。中には変態と言ってもいいような役もあったようですし、年齢制限がかなり高い作品もあります。シュヴァルツェンエッガーのような筋肉マンではありませんが、暴力色の強い作品もあり、当時としては子供向けの俳優ではなかったようです。
デビューが1966年で、大活躍したのが70年代、中にはカルト映画になったものもあります。おもしろいのは下積らしい期間が無く、かなり早い時期から出る作品は B 級でも、主演級の役を貰っていることです。ドラキュラ映画ではドラキュラを、フランケンシュタイン映画ではフランケンシュタインを、連続殺人映画では切り裂きジャックをと、どれもその作品の中心人物です。やはり強運がついて回っているのでしょうか。
出演した作品は100を軽く超えています。数だけを争うなら名脇役や、万年エキストラをやっている人でもそのぐらい出演している人はいますが、ウド・キアーの場合監督に気に入られて何度も出演、鍵を握る役、ちょっとアクセントを添えるために出演などというのが多く、軽々しく扱われる人ではないようです。
俳優ですから姿形にこだわるのが観客。そういう目で見ると、この人のどこが・・・というのが単純なる疑問。美男ではありませんし、肉体派というほど体を見せる俳優でもありません。ウドの大木でもありません。顔の1部が(たいては目ですが)すばらしくて、それで女性を引きつける・・・というのでもありません。ですがウド・キアー無しには映画を作らないと固く決心している監督が何人かいるようです。
演技力はと言うと、まあ、何と言いますか・・・、彼より上手な人もたくさんいますよね。
というわけでこの人より凄い人はいくらでもいるのですが、何かしら個性が気に入られて使ってくれる監督が必ずおり、それで話題になろうがなるまいがコンスタントに100を越える作品に出続けているようです。
この人をなぜコメディー特集で取り上げたか。変な話ですが、この人をマジの俳優として見ると、ドイツには嫌悪感を示す人もいます。私もあまり好きな方ではありません。ところがふとこの人がマジでなかったら、これはおかしい・・・と思い始めました。そしてよく考えてみると処女の生き血はどう見てもマジとは思えない!あれはビットリオ・デ・シーカなどという世界的に有名な監督を俳優として出演させている、箔のついた作品ですが、全く制作に関わっていないアンディー・ウォーホールの名前がポスターにでかでかと書いてあり、由緒正しいルーマニア貴族の末裔ドラキュラ伯爵が、節操の無い自称処女3人に翻弄される話でした。処女と思って食いつくたびに穢れた血を吸って中毒症状を起こす貧血気味の吸血伯爵という設定。そして最後の、4人目の、本物の処女を吸血鬼から救うために共産主義の下僕が彼女を犯すなどという無茶苦茶な映画でした。当時は処女だとか、吸血鬼だというところばかり宣伝で強調され、この荒唐無稽な設定は無視されていたように記憶しています。
その後20年近くウド・キアーの出る映画を見ていませんでした。ドイツではヴィム・ヴェンダースに気に入られていたなどという話を聞いていたので、猫またぎ、いえ、避けて歩いていました。再び見始めたのは90年代の終わりから2000年代。公開当時でなく遅れて見た作品もあり、大体以下の通りです。
・ ヨーロッパ
・ キングダム
・ ダンサー・イン・ザ・ダーク
・ ブレイド
・ JM
・ エンド・オブ・デイズ
・ Pigs will fly
・ マンダレイ
・ ブレイド
・ Revelation
・ アルマゲドン
・ シャドウ・オブ・ヴァンパイア
・ One Point O
・ Grind House - Death Proof
・ Metropia (声)
出演作は間もなく200を越えます。小さな役でカメオ出演している場合は見逃しているかも知れません。
後記: ファンタに出た The Theatre Bizarre と Iron Sky が追加です。
キアーのコメディー・フィーリングに気付いたのはブレイドを見た時。別にジェリー・ルイスやジム・キャリーのような事をやっていたわけではないのですが、吸血鬼という事を忘れれば、イタリア・マフィアのドンのような役。そこへヤッピー風に今売込み中の若い吸血鬼が現われ、見事してやられる役でした。新しい世代に取って代わられる保守的な吸血鬼。それを大まじめな顔でやっているのを見て、こちらはつい笑ってしまいました。
Revelation では2000年前のローマの兵士の扮装(脛毛剥き出し)でキリストの処刑に付き合っていました。後にこのシーンだけを特集してメル・ギブソンが1本撮っています。いい年してこんな事やるのかと半ば呆れて見ていたら、シーンが変わって今度は現代のバチカンの高僧に扮して出て来ました。この姿はけっこう決まっています。またシーンが変わって今度は遺伝子の組換え技術などを駆使して陰謀をたくらんでいる超ハイテクの悪魔。本人は決して笑わないのですが到底マジでやっているとは思えないのです。手を抜いているとか嫌々やっているというのではなく、本人は大いに楽しんでやる気になって演じています。この人はコメディアンになったわけではありませんが、自分のこれまでの歩みをパロディーと解して生きているのでは、私たちに見せている姿全体がコメディーになっているのではと思うようになりました。
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