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Veer-Zaara /
Veer & Zaara - Die Legende einer Liebe

Yash Chopra

2004 Indien 192 Min. 劇映画

出演者

Shahrukh Khan
(Veer Pratap Singh - インド軍の救助ヘリのパイロット)

Preity Zinta
(Zaara Hayat Khan - パキスタンの金持ちの娘)

Rani Mukherjee
(Saamiya Siddiqui - パキスタン人の女性弁護士)

Manoj Bajpai
(Razaa Shirazi - ザラの婚約者)

Amitabh Bachchan
(Chaudhary Sumer Singh - Veerの父親代わりの親戚)

Hema Malini
(Maati - Veer の母親代わりの親戚)

Divya Dutta
(Shabbo)

Boman Irani
(Jahangir Hayaat Khan)

Anupam Kher
(Zakir Ahmed)

Kiron Kher
(Mariam Hayaat Khan)

Akhilendra Mishra
(Jailor)

Zohra Sehgal

見た時期:2005年5月

★ ドイツでブレークしなかったインド映画

ミュージカルです。井上さんの方から日本ではインドの映画が比較的頻繁に公開されるという情報が伝わっています。ちょっと前ドイツでも超長いラガーンという作品が公開され、英語圏向けのミュージカルも出たのでいよいよドイツでもインド映画がブレークかと思ったのですが、濡れた線香花火に終わりました。ボリウッドという言葉だけは知られるようになったのですが、実際の映画の方は滅多に見ません。例えばラガーンは2枚組のDVDになってお店で貸し出しています。劇場公開されたのは知っていましたが、メジャーの映画館ではなく、短期間でした。ドイツ人はミュージカルでなく、サラム・ボンベイのように、下層階級や貧しい人の暮らしを織り込みながら半ばドキュメンタリーのようにしてしまう作品の方がお好みのようです。こういうのを見ると知的な活動をしたという気持ちで家に帰れるのかも知れません。

それに引き換えミュージカルで皆が歌ったり踊ったりする話ですと、何事にも真剣に取り組みたがるドイツ人は自分が馬鹿に思えてしまうのかも知れません。私が見た僅かな数のインドが絡む映画では楽しく色とりどりで人が踊りまくりましたが、それでもしっかり社会問題を取り上げていました。ラガーンでは植民地支配をする英国人と重税にあえぐ農民という色分けがされていて、税金を賭けてクリケットの試合をするという奇想天外なストーリーでした。楽しく歌って踊りましたが、それでも農民の苦しい生活は十分伝わります。

★ メロドラマから外交問題へ

Veer-Zaara は主人公2人の名前です。お涙頂戴のメロドラマで、前半は2人の間がうまく行っている間の楽しいシーン、後半は22年後刑務所に入っているロメオ役のヴェールの苦しみが描かれます。歌と踊りは前半にたっぷり出て来て、恋する2人が別れなければならなくなるところからは深刻なドラマになります。

インドとパキスタンがあまり仲良くないというのが物語りの前提になります。外から野次馬的に食べ物や衣服の文化を見ていると似ているなあと思いますが、宗教がヒンドゥー教とイスラム教だと聞くと、そう簡単に仲良くなれないだろうというのは察しがつきます。両国とも親の決めた人と結婚というのが多い上、パキスタン人にはそう簡単に誰とでも付き合ってもいいと言う親はいませんし、ヒンドゥー教徒はそれに加えカースト制度があるので、同国人でも誰と結婚してもいいというわけには行きません。私たちの目から見るとすばらしく儲かる職業に見えるパイロットでも、インドの社会の最高の職業というわけではないのです。私がまだ知らないことがたくさんある両国ですが、それでもこの程度のことは耳に入るので・・・。

いくら事故で命を救ってもらったからと言って、インド人のパイロットとパキスタン人の良家の子女がそのままくっつくというわけには行かないことは最初から目に見えています。さらにこの良家の娘ザラには政治家として世に出たい父親がいて、父親はそのチャンスの足がかりになる良家の息子と娘をくっつけることに決めていました。と、この前提はまさにロメオとジュリエットです。

ザラはインドから来た乳母が死に際に「自分の灰はインドに戻して欲しい」と言い残したので、内緒で乳母の故郷へ旅立ちます。ところが目的地に向かう途中でバスの事故。その時救助隊のヴェールに命を助けられます。最初は言い争っていた2人ですが、やがて仲良くなり、ヴェールはザラを目的地まで送り届けるだけでなく、自宅にも招待します。

★ さらに社会問題も

自宅には早くして親をなくしたヴェールを親代わりに世話してくれる夫婦がいます。かつては教師で、理想を持っていましたが、一時頓挫。それをザラに激励されて、父親代わりのチャウダリーは学校を作るという当初の目的に戻ります。校舎の最初のレンガはザラが置きます。楽しい一時を過ごし、外国人ではあるがザラと結婚してもいいよみたいな事を身内に言われながらヴェールはザラを電車の駅まで送り届けます。

ここに現われるのがブリジット・ジョーンズのコリン・ファースとマトリックスのキアヌ・リーヴスを足して2で割ったようなラザー。良家の坊ちゃんですが、人生に幻想などは抱いていない将来の政治家。

私はインド映画には詳しくないのですが、出演しているのはかなりのスターらしく、ヴェールの父親代わりの人などは親子2代でスターをやっているのだそうです。主演のヴェールの俳優も相当知られた人らしいです。インド映画に疎い私もこの人が主演らしい他の映画の DVD の表紙を見ました。女性軍も負けてはおらず、弁護士とザラの女優は両方ともかなり知られているようです。

参ってしまうのはこの国には美男美女がザラザラいるという点。ヴェールは輝ける青春 の主演アレッシオ・ボニといい勝負のイケメン。ザラをやっている女性は私が見た中で1番美しいトルコ人と思っている知り合いに負けるとも劣らぬクラシックな美しさ。日本や韓国の芸能界のイケメンと言われている人に比べ、こちらに伝わって来るエネルギーが強いという印象を受けます。映画のスクリーンにはこういう派手な顔がいいです。スクリーン以外になると急転直下ロン・パールマンとか、伊東四朗、インパルスなどがいいので、私の趣味はあまり世の平均と考えないで下さい。(最近ひ弱アイドルで勝る日本で、《これはちょっと行けるかも》と思った力強い例外山崎虎児などもいますが。)

★ さらには人権問題も

物語は冒頭若い女性弁護士が人権問題の初仕事で不思議な囚人を訪ねるというところから始まります。彼は22年間番号で呼ばれていて、名前は知られていません。弁護士はヴェールという名前で話しかけます。すると長い沈黙を破り初めて口を開きます。最近流行りの記憶喪失の音楽家と違い、悲しい記憶がばっちり残っています。その彼から22年前の出来事が語られます。

上に書いたように家柄、国などが合わない2人が恋をし、婚約者や家族が障害になるのですが、その後の展開が現在の囚人生活の原因になっています。結婚式があわやキャンセルとなるほど2人の恋は熱くなるのですが、良家に泥を塗っては行けない、父親の政界進出という夢を壊しては行けないなどと説得をされ、2人はロメオとジュリエットウエストサイド物語のような婚前交渉も無しに別れます。

これだけでも悲劇で、誰かさんのようにせめて次に生まれた時一緒になれればいいと一瞬祈ってしまいます。しかしインドのお涙頂戴はこの程度では許してくれません。パキスタンにザラを訪ねて来て、結婚はできないと知り、傷心のままインドへ戻ろうとしているヴェールは突然警察に捕まってしまいます。そして真実が書いてない供述書にサインを迫られます。見せられたパスポートには彼のでない名前が書いてありました。

★ ついにテロ事件

そこへ登場するのがラザー。あのまま引っ込んでいれば多少同情票も集まった知的男で済んだでしょうが、ここからは嫉妬する卑劣漢に変身。ヴェールに別人になるように要求します。実はヴェールが乗ってインドへ帰ることになっているバスには爆弾がしかけてあり、乗客は全員死亡。その犯人としてある男が逮捕されたことになるのですが、ヴェールはその男として服役しろと迫られます。断るとザラの一生をメチャクチャにすると言われ、ヴェールは承諾します。ザラに自分は命を賭けると約束していたのです。命を賭けるのに1番いい条件だとばかりに、ヴェールは偽テロリストになることを承諾。そのまま服役。口は一切きかなくなってしまいました。話をすれば「自分はヴェールだ」と言いたくなってしまうからなのかも知れません。

一通りの話を弁護士に聞かせましたが、彼を救う方法はまだ分かりません。ラザー側に助けを求めるのは無理なので、ザラの家族を訪ねますが両親などは死亡。ヴェールの家族を訪ねるとそちらも2人とも他界していました。学校は建てられたと聞き、そこへ行ってみると、確かに学校はまだあり、子供たちがいます。そこで出会ったのはザラとお手伝いさんのシャボーでした。こういうお手伝いさんがいるところはロメオとジュリエットと似ています。しかしパクったのではないでしょう。インドやパキスタンの上流階級でしたら、そういう話は全く不自然ではありません。私が1度訪ねたエジプトの家も普通の家庭でしたが、お手伝いさんが1人いました。日本でも戦前には中流家庭でもお手伝いさんを頼んでいる家はたくさんあったのだそうです。知らなかった!

ザラは親の言う通りラザーと結婚。しかしヴェールが乗っていたバスが事故に遭い乗客が全員死亡と聞いて絶望し、離婚。それからヴェールの故郷に行き、そこで親代わりの夫婦を手伝って学校を経営していました。シャボーもそれについて来ています。ヴェールの親代わりの夫婦とは親子のように暮らしていたようですが、現在は自分たちがかなり高齢で、それ以上年上の人たちはもうこの世にはいません。弁護士はザラを証人として呼び出し、ヴェールは無罪放免。50歳を過ぎてのハッピーエンドです。

★ よく詰め込んだ

前半は楽しいミュージカルですが、後半はテロの問題、インドとパキスタンがもめる中で恋を貫こうとする難しさ、政略結婚など、良く考えると結構シビアな問題が織り込まれています。女性弁護士が男性弁護士と対決することの難しさ、女性の教育問題など、結構色々。この作品がドイツに買われたのはそのあたりが理由なのかも知れません。私の見た映画館はインテリが来るところで、ただアハハと笑っている映画はだめなのです(私はアハハ映画でもいいんだけれど)。

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