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クライシス・オブ・アメリカ /
The Manchurian Candidate /
Der Manchurian Kandidat

Jonathan Demme

2004 USA 129 Min. 劇映画

出演者

Denzel Washington
(Ben Marco - クエートに派遣されたアメリカ軍兵士)

Kimberly Elise
(Rosie - マルコの恋人)

Jeffrey Wright
(Al Melvin - クエートに派遣されたアメリカ軍兵士)

Liev Schreiber
(Raymond Shaw - クエートに派遣されたアメリカ軍兵士)

Meryl Streep
(Eleanor Shaw - レイモンドの母親、上院議員)

Dan Olmstead
(John Shaw)

Jon Voight
(Thomas Jordan - 上院議員)

Vera Farmiga
(Jocelyne Jordan - トーマスの娘)

Bruno Ganz
(Delp - マルコを助ける男)

Pablo Schreiber
(Eddie Ingram)
Sidney Lumet
(Political Pundit)
Roger Corman (秘書)
Dean Stockwell
(Mark Whiting)
Josephine Demme
(自由の女神像)
Ukee Washington
(ニュースキャスター、本職)

見た時期:2004年6月


影なき狙撃者 /
The Manchurian Candidate

John Frankenheimer

1962 USA 126 Min. 劇映画

出演者

Frank Sinatra
(Bennett Marco - 朝鮮戦争に参戦した兵士)

Janet Leigh
(Eugenie Rose Chaney - マルコの恋人)

James Gregory
(John Yerkes Iselin - 国会議員)

Angela Lansbury
(Iselin夫人)

Laurence Harvey
(Raymond Shaw - 朝鮮戦争に参戦した兵士、アイスリン夫妻の息子)

Henry Silva
(Chunjin - ガイド、レイモンドの使用人)

James Edwards
(Alvin Melvin - 朝鮮戦争に参戦した兵士)

John McGiver
(Thomas Jordan - 国会議員、アイスリンのライバル)

Leslie Parrish
(Jocelyn Jordan - トーマスの娘)

Khigh Dhiegh
(Yen Lo - 心理学者)

見た時期:日本の日曜洋画劇場で放送された時

結末にかなり接近します。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

リメイクはたいていの場合オリジナルより質が落ちますし、ヒットしない場合が多いです。この作品もそういう風に言われることが多く、ドイツではヒットしていません。しかし他のリメイクに比べ出来は良い方に入るのではないかと私は考えています。オリジナルの方はジョン・フランケンハイマーなどという当時気合の入っていた監督で、いくつも見ごたえのある作品を出していました。対するリメイク監督ジョナサン・デミもリメイク監督などという呼び方をしては申し訳ない気合の入った監督で、長年語り草になっている羊たちの沈黙は彼の作品です。連れて来た俳優もデンジル・ワシントン、メリル・ストリープというオスカー俳優。しかしここで実力を示すのはワシントンではなく、ストリープの息子を演じるリエフ・シュライバー。これまでちょっと印象を残す程度の脇役が多かった人ですが、クライシス・オブ・アメリカではワシントンを抜く存在感で、ストリープと微妙な親子の絆のある息子を演じています。この堂々たる主演に感心しました。

タイトルの満州という地域名はオリジナル版では共産主義国が深く関わっているので合理性がありますが、リメイクでは満州という土地を絡ませる時代ではなくなっているので、《そういう名前のコンツェルンがある》という設定に切り替えてあります。前作のタイトルの真似をしてつけるのなら代わりに《砂漠の候補者》とか、《The Arabian Candidate》 などとしても良かったのかも知れません。しかしただでさえ紛争に次ぐ紛争でごたついているアラビア地域をさらに刺激する必要はないとの判断だったのでしょう。その上、オリジナル版と違い、「本当にその地域が直接関連しているのか」という疑問も起きるので、誤解を起こしやすい名前にせず、オリジナルの名前を拝借。 本当は《アメリカの危機》という日本語名が示すように、アメリカ自体の問題です。

朝鮮戦争、北朝鮮、中国、共産主義など当時明確な色分けがありましたが、時代は変わりました。共産主義者が敵扱いされる時代は去り、北朝鮮は要注意国ではあっても実際の戦争はしていません。その代わりに登場するのがイスラム系の国々。15年ほど前に起きた中東戦争が映画では事の発端です。(後記: などと言っているうちにさらに時代は変わり、北朝鮮はトラブル・メーカーの名前をほしいままにし、アメリカからなだめ役に任命されたはずの中国はアメリカの思い通りに腰を上げてくれず、何度も北朝鮮が花火で遊ぶようになっています。花火でも炎は出ます。扱いを間違えると大火事になる危険があります。・・・てな時代に入っています。)

退役軍人マルコが、戦争後遺症に悩まされています。彼の部隊は敵の急襲を受け、危ういところで助かったのは隊にいたレイモンド・ショーが英雄的活躍で敵をやっつけてくれたおかげ。戦争後遺症で悩んでいるのはマルコ1人ではなく、メルヴィンも。メルヴィンは重症らしく、マルコに相談に来ますが、あまり深く考えていなかったマルコは追い返してしまいます。

マルコと同じ隊だったレイモンド・ショーは母親に頭の上がらない一人っ子で、輝かしいキャリアの全てが母親のお膳立て。自分はただその言いつけに従ってコースに乗っているだけの人生。それを自分では嫌だと思っているのですが、強引な母親に100%言いくるめられてしまい、今では次期選挙の副大統領候補になってしまっています。

マルコはレイモンドとメルヴィンの間にいて、ある日愕然とします。レイモンドの戦歴についてまるでテキストを丸暗記したように誉め言葉が続々と頭に浮かびます。ちょっと調べて見ると、同じ隊の生存者全員にその兆候が見られます。「尋常ではない」と思い始め、マルコは1人でさらに調べます。自分の記憶にも不自然なシーンが浮かんで来ます。その上自分の体には秘密諜報員ジェイソン・ボーンでもないのに妙な物が埋め込まれています。軍の関係者に聞いても戦争後遺症のノイローゼだと言われるだけですが、マルコはあれこれつき合わせてみて、隊のメンバー全員がマインド・コントロールを受けているのではないかという疑いを持ち始めます。

マインド・コントロールという考え方は今でこそカルト系の宗教や、妙な新学習システムなどで使われるようになり、時々問題化しますが、1962年にはまだ新しいアイディアで、オリジナル版を見た人は結末に大いに衝撃を受けたものです。それがフランケンハイマーは凄い、デミはリメイクをしただけだという印象に繋がるのでしょう。しかしそういう時代の流れを忘れて作品だけを見ると、デミもがんばっています。

私個人もマインド・コントロールという方法には反対で、たとえそれが語学を学ぶための方法であっても、自分で丹念に辞書や文法書を見て覚える古臭い方法の方を信用しています。 語学というのは流暢にしゃべることが勝負ではありません。骨になる文法を覚え、肉になる最低限の数の単語を覚えた後は、自分が何を言いたいか、何を知りたいかだけが勝負。自分が日本人として生まれたのなら、自分のしゃべる外国語に日本のアクセントや癖が出てもかまわないではありませんか。勝負は話の内容でつければいいのです。っと私が思うのは、物凄いキスワヘリのアクセントでフランス語を話すアフリカ系の人の影響もあります。語学を習う方法には暗い部屋に横になって、先生が心地よい静かな声で単語や文章を読み、生徒は目を閉じバックグラウンド・ミュージックを聞きながらなどというのもあります。しかしそういう方法を悪用したら・・・満州候補者への道は近い・・・。で、私は日本のアクセント丸出しのドイツ語をしゃべっております。

さて、話はどんどん進み、マルコは少しずつ真相に近づいて行きます。怪しそうに見えて来るのがレイモンド。しかしレイモンド自身何かしらのコントロールを受けているようなのです。一体誰が。そこで顔を見せ始めるのが満州グローバルという名前のコンツェルン。そこにレイモンドの母親が深く関わっていました。彼女は自分の権力欲を満たすために息子をコンツェルンに売り渡していました。コンツェルンは計画が順調に進んでいる間はレイモンドに満足していましたが、母親は副大統領ではなく大統領にと欲張り始めます。ここで母親とコンツェルンの間にきしみが生じます。

レイモンドはこれまでずっと母親の言うことを聞いてはいましたが、状況に満足はしていませんでした。マルコと話しているうちに自分でも全貌を理解し始めます。しかしマルコと違い、立場上も性格的にも母親にがんじがらめにされていて抵抗することができません。しかし自分が大統領になることは避けたい。そこで一世一代の賭けに乗り出します。マルコはマルコでコンツェルンに操られ、不本意ながら催眠術にかかったかのような行動に。

このあたりからオリジナルと比較したりしなければかなりスリルが盛り上がります。そしてリエフ・シュライバーとメリル・ストリープは危険なほどの息の合った演技を見せます。プロだなあと納得。ワシントンがかすむ瞬間があります。

オリジナルの日本語タイトルが示すように狙撃をする人がいるのですが、リメイクではいったい誰が誰を狙撃するのか。そして最後の瞬間。アメリカは助かりますが・・・。

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