2003 Schweden/UK 115 Min. 劇映画
出演者
Jacob Eklund
(Johan Falk - 引退した刑事)
Marie Richardson
(Helen - ヨハンの連れ合い)
Hanna Alsterlund
(Nina - ヨハンとヘレンの娘)
Ben Pullen
(Phoenix Kane - 金融のエキスパート)
Irina Bjorklund
(Rebecca - ケインの妻)
David Fredrickson
(Harrows - 金融関係の会社社長)
Nicholas Farrell
(Frank Devlin - ハローズ配下のセキュリティー会社社長)
John Benfield
(Stevens - デヴリンの部下)
Christian Greger
(Josef Martins - ケインの仲間、ブティックのチェーン経営)
Robert Giggenbach
(Tony Sorensen - ケインの仲間、運送会社経営)
Laszlo Hago
(Hans Ebenhardt - ケインの仲間、レストラン・チェーン経営)
Emmanuel Limal
(Rocca - トニー配下のヒットマン)
Sylvester Groth
(Dauphin - トニー配下のヒットマン)
Lennart Hjulstrom
(Sellberg - ユーロポールの刑事)
見た時期:2005年10月
ストーリーを取るか、俳優の演技や監督の演出を取るかを迫られる作品というのがあります。以前噂の真相 ワグ・ザ・ドッグを見た時も有名スターが2人も出ているのに手抜きだなあと思った一方、強引に筋で持たせている作品だと思いました。世相を反映してタイムリーな上、こんな事をやるのかと好奇心をそそられるストーリーのため、1人でも主演を張れるようなスターが雁首2つ揃えていつもの実力を出していないのは許しちゃおうなどと思いながら見ていました。
スウェーデン語はできないのですが、Den Tredje vågen の綴りから想像すると、《3つ目の道》という意味かなと思います。この作品は3部作の3番目なのだそうです。前の2つは見ていません。
Den Tredje vågen はスウェーデンと英国の合作で、演技や演出よりストーリーを優先した作品です。俳優は普段上手なのかも知れませんが、この作品は演技の競い合いというタイプの作品ではありません。よく見ると細かい表情を出している人もいますが、目立ちません。ストーリーが複雑で俳優の演技指導をいちいちやっている暇が無かったのかも知れませんし、ロケが何カ国にもおよび、天候の悪い時に夏の日を装わなければならなかったりし、俳優は各国から動員されているので細かいコーディネーションをやっている暇がなかったのかも知れません。
登場する国は英国、オランダ、ルクセンブルク、ドイツ、スウェーデンで、扱っているテーマは金融犯罪です。冒頭にユーロポールの偉い人がテレビに出て来て演説をします。これまで一般には分かりにくかった国際的な組織犯罪をできるだけ具体的に説明して、一般の理解を得ようというPRも兼ねています。演説で「産業の各部門が協力し合って国際犯罪が行われている、実際に物を密輸するための大型トラック、物の動きだけでなく、それに関わっている一見合法的に見える金融関係者まで関わっていて、非常に広範囲だ」と、熱心に説明しています。この演説がどこまで功を奏すか本人もまだ楽観していませんが、少なくともメディアは前より興味を持っただろうなどと同僚と話しています。
このシーンと、ロンドンで若いやり手の金融の専門家仲間が何やら大掛かりな仕事の打ち合わせをしているシーンが、物語の全てを語っています。実は最初に全部ネタはばれているのですが、それを理解するのに素人の観客は2時間近く映画に付き合わなければなりません。見終ってこれは経済学の講義だったのかと思いました。しかし悪いアイディアではありません。普通の新聞を読んでいて、「何々が摘発された」と書かれていても一体それが何の意味を持っているのか分からない事が多いではありませんか。こういう映画を1度見れば前より話がよく分かるというものです。
プロットは穴だらけ、俳優の演技も打ち合せ不足で、誰が善人、誰が悪人という区別がうまくできておらず、最初悪人のスタンスで出て来た人が後半頼りになる善人になってしまったり、善人で出て来ているのに動きが鈍く、この人本当にやる気があるのかしらと思って、もしかしたら寝返るのかと思わされたり、統一が取れていません。後でどんでん返しをするための監督の作戦とは違います。
映画としての出来具合はと言うと、前半退屈はしないですし、ついて行ける速度でどんどん舞台が変わり話が発展して行くのでおもしろいのですが、後半ドイツのシーンになってから終わりまでの物語中ではさほど長くない時間内に重要な出来事が集中的に展開し、密度のバランスが取れていません。
前半はある女性が夫の放つ追っ手に追い掛け回され、警察に駆け込むまでというロードムービー的な犯罪映画になっています。後半の後ろ半分はドイツの町の中で起こる出来事に集中。集中とは言え、いくつかの筋の人間が入り乱れ、狭い所でありながらめまぐるしく場所が変わり、その上寝返りがあるので、状況がくるくる変化します。特に犯罪の計画内容、なぜ今その関係者がその場所に集まるのかの説明が早過ぎ、観客が1つを理解する時間がないうちにもう次の動きに入っているという風なので、話について行くのが大変です。1人の女性がその全てを把握していて、周囲の人にそれを説明するという形で語られるのですが、周囲の人が畑違いなのにすぐそういう複雑な話を理解すること自体が不思議でした。逆にハリウッド映画と違いセキュリティー会社の追っ手のような男でもちゃんと立派な頭を持っているという風に描かれているのはいいかも知れません。しかしここでずっこけるのは、この男実は優秀なセキュリティー会社の社長と第1の部下。社長ともあろう人がなぜ御自ら車を運転して追って来るのか、とまた別な事を考えてしまいます。
といったわけでちぐはぐになっていたり、信じるのが難しい展開もあるのですが、それは一応目をつぶりましょう。話の本題は全然違う所にあるのです。
発端はロンドンの大邸宅に住む若い夫婦。夫フェニックスは金融のエキスパート、夫人レベッカも似たような仕事で会社に勤めています。夫が共同でプロジェクトを動かしている他の3人に計画の最終段階を説明しているところか始まります。仲間は合計4人。フェニックスが金融のエキスパート。トニーが大型トラックの運送会社を動かしている男。その他にブティックのチェーンを動かしているジョセフ、レストランを動かしているハンスが加わっています。
4人の計画を知らなかった夫人のレベッカは手紙を見てその事を知り夫に怒りをぶつけます。10年ほど前に似たような事をやって1度ひどい目に遭い、その後やらないという約束が2人の間にできていました。夫人は真っ直ぐな人。計画実行を目前に4人と夫人で食事に行くことになっていたのですが、家では夫人が家を出る決心。それを無理に止めようとするフェニックスとの間で殴り合いになり、夫人は怪我をします。フェニックスは夫人を連れずに家の前に車を止めている3人の所へ戻ろうとして交通事故に遭います。病院に担ぎ込まれたフェニックスを見舞う夫人と男3人。しかし夫人はそのまま姿を消します。
夫人とのトラブルについて聞かされたトニーは早速配下の者を手配。夫人がいきなり消えたので、夫人の勤めていた会社にも私設の刑事を派遣します。ここですでに背筋が寒くなります。本当の警察より良く機能する組織をこういう金融の会社が持っているのです。時々ハリウッドの映画を見ていても誘拐事件を扱い、穏便に済ませるためのセキュリティー会社という話題が取り上げられます。外国で日本人の商社マンが誘拐されたりした場合にもたまにそういう会社の話が出ますが、一般の人が実態を知ることはまずありません。かなり要約した形ではありますがその辺をこの映画では説明しています。準主演のデヴリンとスティーヴンスは映画で私たちが知っている刑事とそっくりの聞き込みをします。唯一違うのは、彼らは身分証明書の代わりに名刺を出すこと。手際の良さは一流の刑事並み。だからこそセキュリティー会社に採用されたのでしょう。本当の警察から人材が流れ出しているのかも知れません。
本来の主人公はわけあって今は警察を辞め、田舎にでも引っ越したいと思っている男ヨハン。3部作ということですので、他の作品を見たら事情が分かるのかも知れませんが、それを知らなくても話について行けます。ぶらぶらしているのは良くないと思った夫人と言えるようなステータスのガールフレンド、ヘレンが知り合いとの間を取り持ち会見にこぎつけます。何とそれが冒頭演説をしていたユーロポールのおじさん。話の最中にヘレンの名前が出て、頭に来たヨハンは「余計な事して」と話をだめにして出て行きます。
その後ユーロポールのおじさん、若い部下は若い女性と話をしています。それがレベッカ。ロンドンで警察に行っても署内に情報網が張ってあることを承知しているのでわざわざ船で大陸に渡ります。そこからデン・バーグに向かい、おじさんに助けを求めます。助けようかな、止めようかなと思案しているところへ、ヘレンからせっつかれたヨハンが戻ります。ちょうどその時どこからともなく制服のような物を着た妙な男が2人おじさんに近寄り、レベッカを奪回しようと警察風を吹かせます。しかしおじさんも警察官なので、自分の身分証明書を提示。頭は悪くないので、全然知らない人間がレベッカという名前を知っていたことを不審に思います。部下も馬鹿ではないので、ピストルを抜こうしたところで相手も発砲の構え。ヨハンはちょうどそこへ現われます。
結局ドンパチになってしまい、からくも生き残ったヨハンとレベッカは一目散に逃げます。現場の様子はツーリストがビデオに撮っていました。そこから身元割り出しの仕事が始まりますが、時間がかかります。
警察の仕事はご免だと言っていたヨハンは急にお荷物を背負い込む事になってしまいます。仕方なくヘレンと娘も巻き込んで逃避行。レベッカは一方では会社が送り込んで来るデヴリンとスティーブンスに追われています。その他に個人的な理由か仕事上の理由か、夫のフェニックスの側からも追っ手がついています。その手配をしているのはトニー。トニーの手下はデヴリンより手荒です。
道中徐々に事情がレベッカの口から説明されて行きますが、それはミュンヘンに着いたところで頂点に達します。レベッカを護る者、追っている者はちょうどサミットが行われるミュンヘンに集まって来ます。最悪のタイミングで、町はデモ隊にめちゃくちゃにされているところです。
このシーンは監督は良くできたセットだなどと言っていますが、シーン自体は現実的ではありませんでした。確かに世界銀行やサミットが行われると学生がデモをかけたりしますが、ドイツではこの映画に出る市民戦争のようなシーンはまず展開しません。警官も映画ではバンバン撃ちまくっているのですが、そういうこともまずありません。一般人が近づけないような禁止区域を作ってしまうので、人と人がぶつかること自体が難しくなります。このあたりはドイツ人が見ると極端なシーンと受け取るようです。しかしまあ監督が言いたかったのは、フェニックスたちがやろうとしている事がデモの日に重なったので計画が狂うということなのでしょう。
レベッカを追っていたデヴリンたちはヨハン、レベッカ、ヘレン、娘の4人がオランダから南下し、デュッセルドルフに向かうのを追います。ホテルにいた4人を発見。女3人を先に逃がそうとヨハンはホテルに残りますが、レベッカはデヴリンたちに捕まってしまいます。そこへトニーが放った追っ手が発砲して来て、デヴリンの部下が負傷します。デヴリンたちがレベッカを追っていることが知られている上、発砲までされたためデヴリンは疑問を持ち始めます。事はエスカレートし、夜中にカーチェースにまで発展。デヴリンの会社がフェニックスに買い取られていることなど、これまで知らなかった話がレベッカの口から飛び出し、デヴリンに取っては敵味方が逆転し始めます。
レベッカをロンドンに連れ戻すのが役目だったデヴリンとスティーヴンスは考え直し、レベッカを連れてミュンヘンに向かいます。ヨハンはトラックをヒッチハイクしてやはり南下。ミュンヘンのホテルにヨハン、ヘレン、娘、レベッカ、デヴリン、スティーヴンスが集合。6人で作戦を練り始めます。携帯電話を盗聴器として使い、ビデオカメラでフェニックスの行動を監視できる場所に部屋を取ります。これもプロットの穴。何度も映画の中でホテルは満員で予約ができないと言っておいて、カメラ撮影にぴったりの部屋が突然ここに来て取れてしまうはずはないのですが。ま、その辺は片目をつぶって。
ここからは場所はミュンヘンのホテル街の一角だけ。舞台になるのは向かい同士になっているホテル2軒とそのすぐ横にある欧州銀行。実在する欧州中央銀行のことではありません。悪巧みをしている男たち4人がここに集合し、銀行から借入金を手配してもらい、短時間に金の出し入れをすることになっていました。レベッカからその計画を聞かされていた5人は、ユーロポールの1人でヨハンと信頼関係にある女性から情報を貰いながら、証拠集めに励みます。疑いは以前から持たれていたけれど尻尾がつかめないで逮捕できなかったのです。この辺もフェニックスがこの10年悪さを全然していなかったのか、時々やっていたのか話がやや混乱します。
6人の計画は、ヘレンがフェニックスのホテルの部屋に、デヴリンが銀行に盗聴用の携帯をしかけ、それを録音しながらビデオ撮影をして、ユーロポールに届けるというものです。4人の悪党は不正な方法で得た金をきれいな金にお洗濯する計画。1人が大金を動かすと目立つので、トラック業、ファッション産業、レストランと部門を分け、それぞれに合法的に金を儲けたふりをして、税務署に目をつけられないようにしながら裏金を表金に替えて行こうというものです。自分たちの会社を架空会社に売却し、銀行から融資をしてもらった金で店を買い戻すのです。素人の私にはこういう事が通用するのかは分からないのですが、映画の中ではこの方法によって、当局には目をつけられない、税金は合法的に避けることができる、買い戻す時の会社の値段は下がっているので会社は得をする、銀行は融資で金が動くということで四方八方満足なのだそうです。ここがこの映画で1番難しいところで、私は話の半分程度しか分かりませんでした。
ドンパチの方もかなり込み入っていて、狭い場所、短い時間に人質に取られたり取り返したりとめまぐるしく状況が変わります。結局悪漢はみな捕まるか死ぬかで、善人の方は全員怪我はしても無事という筋運びになります。しかしこのシーンはドイツの事情を知る人には不可能に見えるので、この作品がドイツで受けるかどうかは疑問。ドイツを悪く言っているとかいうのではないのですが、ドイツの制服警官やデモ隊を規制する人はあんなに銃を撃たないのです。そのため現実味が1度に失せてしまいます。監督としてはバンバン撃ちまくるシーンにそれなりの理屈をつけているのですが(そこを言うと究極のネタばれになってしまいますので沈黙)、その理屈も現実に合っていないのです。
ハッピーエンドが来るのですが、私にはヨハンの側に寝返った2人の将来が心配になります。ロンドンに帰ってやる事がたくさんあるという台詞があるのですが、こういう支配力のある会社を相手に2人の人間だけで立ち向かえるのか、ユーロポールはまだこれからという感じで、しかも警察の良い人材がああいうセキュリティー会社に流れているのではあまり有能な人間は上の方に残らないのではないかという気もします。
これはスウェーデンと英国の合作ですが、最近は映画、テレビにこういう犯罪、テロ事件を構造的な視点で扱った作品が時々出るようです。それも3部作とか、テレビですと短期のシリーズという形もとるようです。最近起きる出来事は表に出ている話と実際の話にかなりずれがあるらしく、目立つ事件が起きた後何ヶ月、時には何年かして、実はあれはこうだったと、信じられないような事が報道されたりします。事実の方が映画やテレビよりドラマチックなようです。私は口をあんぐり。時たま Den Tredje vågen のような説明をしてもらわないとさっぱり分かりません。そういう意味で存在価値のある作品です。
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