雑誌のページ

CSI vs. マーク・ベネケ

参考作品:
CSI: Crime Scene Investigation /
Den Tätern auf der Spur
USA/Kanada 2000 - @ 60 Min. テレビ

代表的な出演者

William L. Petersen
(Gil Grissom - ラス・ベガス版の主演)

David Caruso
(Horatio Caine - マイアミ版の主演)

Gary Sinise
(Mac Taylor - ニュー・ヨーク版の主演)

Joe Morton

読んだ時期:2007年1月

CSI というテレビの連続犯罪ドラマをご存知の方も多いでしょう。日本とドイツでは全然違う物が受けるので、ドイツで大ヒットのアメリカのテレビ・ドラマが日本では深夜に回り、視聴率が限りなくゼロに近いなどということもあります。どうやら日本では評判がいいらしい CSI が最近ドイツの最大手の一般向き雑誌に取り上げられました。ドイツにもファンが多く、インターネットなどでも話題になっている作品です。ドイツを含むドイツ語圏の国で放送されているようです。ドイツでのタイトルの意味は《下手人の跡を追う》です。オーストリーやスイスのタイトルは不明。この雑誌のこの種の記事としてはかなりページ数を割き、その上ドイツ人の関係者にまで取材しています。その中でおもしろいと思った点に触れます。

マーク・ベネケという人を覚えておられますか。以前1度ご紹介した犯罪生物学者、検死昆虫学者です。犯罪現場の痕跡や死体から取ったサンプルを徹底的に調べて犯人逮捕に協力することを職業にしている青年です。ボーン・コレクターのリンカーンとアメリアがアメリカでは有名ですが、ドイツでは架空の人物ではなく、実在のマーク・ベネケが有名です。彼は特に昆虫が得意部門で、死体にわいた蛆虫の様子で、死んだ人物に何が起きたかを調べ上げたりすることができます。私には青年に見えるのですが、そろそろ中年かも知れません。いずれにしろ精神状態は青年か少年です。ストレス責めに遭ってくたくたの人が多い中、自分の職業に情熱を持って取り組む人は最近では珍しいのですが、ベネケという人はそれをずっと持続しています。

この人が CSI がらみのインタビュー記事にゲストで登場して、CSI はどのぐらい真実味があるかという質問を受けていました。あちらを見てくださってもいいのですが、ベネケ氏は本物。警察のための生物学的な分析を職業としている人で、非常に些細な事から大方の予想を逆転させるような結果を導き出すことも多々あります。彼のような職業の人は病死や老衰死だったはずが、殺人や放置死だったり、謎の血痕が犯罪と関係の無い理由でついたことを証明したりといった感じで覆してしまうこともあります。

そういう現場でスリル満点の仕事に携わる人から見ると CSI は眉唾もいいところなのだそうです。私はベネケ氏には2度ほど会ったことがあり、言葉も交わしているので、雑誌からこういう質問を受けたら、本気を出して答えているのだと思います。何事にも夢中になれる人なのです。

彼は CSI をけちょんけちょんの滅多切り。言う事は理にかなっています。

「我々のような人間がテレビでは同時に捜査をやっている!客観性は何処へ!?」と呆れながら一刀両断。「血、繊維、昆虫、その他諸々何でも扱うが、犯人は絶対に扱わない!」なるほど。「我々のような人間は絶対にあんなエレガントな服を着て仕事には現われない。その場で着る服というのがあるんだ。カシミアやイタリア製の皮の服じゃない」、「我々のような人間は絶対に死体の髪に手で触ったりしない。そんな事をしたら証拠の破壊になってしまうじゃないか!」、「テレビを見ていると超人のごとくあっという間に分析が出てしまうが、実際は1000倍ぐらい時間がかかるんだぞ」など、本当に文句たらたらのけちょんです。文句と言っては行けません。実際の現場に関してはベネケ氏の言う事だけが正しいのでしょう。そして仕事中のベネケ氏の写真がバッチリ出ています。彼はラテックスの手袋が大好きなのですが、この日は派手な緑色の手袋姿。

とにかくアメリカでは成功したシリーズで、第1シリーズ、ラス・ベガス版が2000年に始まり、少なくとも今年の春頃までは現在進行中。第2シリーズ、マイアミ版が2002年に始まり、これも現在進行中。第3シリーズ、ニューヨーク版が2004年に始まり、これも -ing。大盛況です。

しかも劇映画で活躍するような俳優を主演に持って来ています。左上をご覧になると分かりますが、渋い人をチーフにしています。そしてサンセット77ハワイアン・アイサーフサイド6などで時々他の都市の主演が別な都市でゲスト出演したようなクロスオーバーもあるようです。さらに小耳に挟んだのですが、私がひいきにしているリエフ・シュライバーが間もなく代役で登場するのだそうです。キャスティングを担当した人は私好みの趣味を持っています。

聞くところによるとかなりできのいいシリーズで、警察の役割分担がどうのという現実的な見方をせず、テレビの犯罪ドラマ・シリーズだと割り切って見るとおもしろい物語が満載されている様子。恐ろしい数のプロットを惜しみもせず大盤振る舞いしているそうで、単純計算でも1シーズンに3都市の出来事を合計すると、120から150のストーリーを思いついているようです。

以前見たことのあるアメリカの犯罪ドラマ・シリーズとは違うという話で、必ずしも毎回起きるのが殺人ではなく、そのため犯人がいないケースもあるそうです。事故とか偶発的な出来事も脚本に取り入れているのでしょう。アメリカの法律は融通が利かないことがあり、特定の州では警察は不自然な死の場合自殺か他殺に決めなければ行けないこともあったようなのです。それで事故死でも自殺か他殺と決めつけなければならず、事故扱いが無いこともあったらしいのです。シリーズに予想と違って偶然だったとか、殺すつもりではなかったのに死んでしまったなどという例が入っていると、杓子定規で融通の利かないイメージを良い方に塗りかえるのに役立つと思います。

制作側が何を狙って力を入れているのかは分かりませんが、素人でも考えつくのは「あとで正確につきとめられるから、下手な殺しはやるな」という忠告。日本では警察の現場検証が以前から細かく、殺人など血なまぐさい事件でなく、車の追突や事故でも塗料から相手をつきとめられることはなり前から知れ渡っていました。ニュースなどでも「ここまで検査で分かるんだぞ」と時々報道していて、轢き逃げや現場からの逃走をするより、さっさと警察に届けてそれなりの処理をした方が、早く普通の生活に戻れるという考え方の人も多いと思います。日本ではそれが出来事を犯罪にしてしまわず、穏便に収める役に立っているとも言えます。アメリカはそれに比べると無法地帯のようなイメージができていましたが、こういう番組を作って全国的に放送すると、モラルがどうのということでなくても「こりゃばれるわ」と思って止める人も出るのではとの希望的観測をつい持ってしまいます。甘いか。

あとは調査する側の人員と犯罪をやる側の人員のバランスの問題。その辺はまだ全然うまく行っていないようで、以前はあれほどの検挙率を誇っていた日本も最近はずっと手一杯。人がなぜこうもたくさん犯罪に走るかと聞かれると、割に合うと信じている人がいるからという答が浮かびます。そこにブレーキをかけることができるか、そこが勝負のようです。

テレビにこんなおもしろいシリーズができてしまうと、映画館に足を運ぶ人が減ってしまうのではないかと危惧したくもなりますが、映画館は映画館でまた別な良さがあるので、劇映画は是非映画館で見たいものです。井上さんも今年は少し多めに映画館に行こうかと考えている様子。井上さんの方からも時々映画の記事が出ます。おもしろい映画があるぞと教えられることがあり、私も注目しています。

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