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松田優作の息子はコメディーに向くか

悪夢探偵 / Nightmare Detective

塚本晋也

2006 J 106 Min. 劇映画

出演者

松田龍平
(影沼京一 - 人の夢に入れる男)

hitomi (霧島慶子 - 刑事)

安藤政信 (若宮 - 刑事)

利重剛

大杉漣

塚本耕司

津田恵一

宇野祥平

原田芳雄 (大石恵三)

猪俣ユキ (自殺した少女)

村木仁 (自殺した中年男)

ふせえり (中年男の妻)

塚本晋也 (ゼロ)

見た時期:2007年4月

2007年春のファンタ参加作品。

向きそうです。

★ 松田家のイメージ

私は暗〜いイメージを持っていました。松田優作が明るいイメージの人ではありませんでしたし、彼の死後幼な子を抱えて窮地に陥った夫人はネクラとしか思えない暗いイメージをふりまいていました。夫の死後襲って来た雑用の波に呑み込まれ大変なストレスだったと見え、交通事故まで起きてしまいました。

松田優作のような人が現役で死ぬと、契約問題、夫の収入で支払えた請求書の処理、子供の学校などとにかく色々な問題が起きると想像できます。実際それらが一挙に押し寄せて来た様子でした。当時松田家の人々は私の家の近くに住んでいたので、ちょっとニュースに注目していました。

その後大分して夫人は何とか新しい道を歩み始めた様子で、映画を見たこともあります。いくらか明るい雰囲気になっていました。

★ 育った息子

それからもう何年も経ち、いつの間にかあの幼な子が映画に出たり、ニュースで取り上げられるようになっていました。聞くところによると芸能人の多い高校に通ってはいたものの特に親の後を継ぐ予定ではなく、大島渚が「出ろ」と言うまでは芸能人ではなかったそうです。なぜ大島渚が松田少年に声をかけたのかは分かりません。というかそれほど詳しくないので知りません。松田家と懇意にしていたのは原田家でした。

悪夢探偵には父親が仲良くしていて、近所に住んでいたという原田芳雄が出演。その他脇は落ちついた配役です。

★ 悪夢探偵の出来

悪夢探偵の結論を言ってしまうと、落第。ファンタのレベルを考えると及第点はあげられません。最近日本から来る作品にはあまり良い物が無いので、日本の作品のレベルだけで考えると中ぐらいです。まず最初に主演の女性がミス・キャスト。アンフェアの雪平を思わせる有能刑事のはずですが、写真映りを気にし過ぎ、役に入り切っていません。映画に主演で出るからには、自分がカメラにどういう風に映っているのかを気にするのは当然ですが、気にしているということは悟られないように演じるのが俳優。本職であれ、ゲストであれ、その辺は一応自然に見えないと行けません。

とにかく最近ファンタにはあまり日本から力作が来ません。悪夢探偵はシリーズ化されるとか、ハリウッドでリメイクするなどの話がありますが、それにしては弱いです。ストーリーが弱くても主演のキャラクターでカバーするという手があります。トリックなどはそのいい例です。主人公の2人の掛け合い、そこへさらに引っ掻き回すために登場する刑事の漫才がおもしろくて、本筋はどうでも良くなってしまうことがあります。悪夢探偵にはそこまで持って行くだけのキャラクターがありません。松田龍平にはユーモアのセンスがあるようで、上手に使えば愉快なキャラクターに仕上がりそうなのですが、それにはボケとツッコミのように彼を受けとめるパートナーが必要です。例えばアンフェアですと雪平の個性を受けとめる人物が何人かいました。ところが悪夢探偵では松田を受けとめる人がいません。鉄砲を撃ったはいいけれど、当たる的がありません。登場人物の性格が練れていないのです。脚本がそうなっているので仕方ありません。

★ ストーリー

妙な死に方の死亡事件が2件起きます。殺人事件と言えないところがミソ。明らかに自分で自分を傷つけて死んでいるのですが、自殺と断定しにくいのです。共通点は最後の電話。携帯には0という相手に電話をしています。1人は鍵のかかった自室で死んでいるのが発見されましたが、もう1人は死んで行く最中目の前に妻がいました。妻の証言が妙。

警察は携帯電話で自殺教唆が行われたのではと疑い始めます。ここからなぜか話が飛躍して担当刑事の1人が、他人の夢の中に入れる男を助っ人に頼みます。協力を嫌がる《悪夢探偵》を無理矢理拝み倒して連れて来ます。拝み倒すと言うより、断われない事情を作って無理やり参加させてしまうのですが、松田が断わるシーンが愉快です。シリーズにするのならこのシーンは膨らませたらいいと思います。

思いあぐねて悪夢探偵の目の前で0に電話してしまった若宮刑事。おかげで若宮はとんでもない目に遭いますが、事件は進展します。0にかけるとそこには男がいて、「よっしゃ」と死なせてくれるのです。自分が死にたいと思ってかけたのですから、ある意味で自分が招いた災厄。しかし普通なら自殺志願者が寸前に思いとどまればそこで止まります。悪魔探偵では一旦0に電話すると後戻りができません。

私はリングのようなテーマは大嫌いなのですが、悪魔探偵のテーマにはそれほど嫌悪感を抱きませんでした。全体がお遊びとはっきり分かるように作られているためではないかと思います。リングはただ相手を怖がらせるためだけに作られた作品と分類し、ソウの横に並べています。それに比べると悪夢探偵は元から非現実的なことをはっきりさせてあり、フェアに思えます。

誰か上手な脚本家を呼んで来て、悪魔探偵で使った素材を全部渡して、オーバーホールしたら、もう少しましな作品が作れたかと思います。その際松田君を主演にしておいても、おもしろいシーンが作れたかも知れません。続編を作るのだったら、修復専門家を1人雇ったらどうかと思います。

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