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2007 USA 101 Min. 劇映画
出演者
Will Smith
(Robert Neville - 科学者)
Salli Richardson
(Zoe - ロバートの妻)
Willow Smith
(Marley - ロバートの娘)
Alice Braga
(Anna - 生存者)
Charlie Tahan
(Ethan - 生存者)
Emma Thompson
(Krippen - 癌の新薬を発明した科学者)
見た時期:2008年1月
2度目のリメイク、合計3本の作品があるので、前のどれかをご覧になった方は読み進んでも大丈夫です。今度が初めてという方は警戒警報。ネタがばれます。 見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。
★ 3度目の正直か、3回とも成功か
原作は50年代アメリカで書かれたSF小説吸血鬼。映画化は3回目で、60年代に地球最後の男として、70年代に地球最後の男オメガマン として映画化されています。私は2作目、チャールトン・ヘストンの主演作を見ています。ですからだいたいどういう話かは分かっていました。
さっきウィル・スミスのインタビューを読んでいて発見。ストーリーの印象ががらっと変わるような事を言っていました。ここで書いてしまうとネタがばれ過ぎるので、下に書きます。【下へ】
★ 1人芝居
地球最後の男から37年も経った今再々映画化です。大きく時代が変わり、主演はウィル・スミス、舞台はニューヨーク、時代は数年先の未来です。職人的俳優ではなく、元々はラップで有名なスターだったウィル・スミスが前半ほとんど1人芝居をします。いわゆるスターだと思って見ていればいいのですが、後で考えてみるとかなり良く持っています。演技派という振れ込みをしていませんが、共演する俳優無しで彼1人の表情や台詞だけとなると、Secret Honor でリチャード・ニクソンを演じたフィリップ・ベイカー・ホールと同じ事をやっているのではないかと思い出し、感心しました。好感度が増したのは、「俺は演技派なんだ」という雰囲気を全然出していない点です。しかしこの人はやれば何でもできてしまうのです。
★ ストーリー
2008年だか2009年だかに伝染病が地球に蔓延し、人類がほとんど滅亡してしまいます。原因は研究中の手違いか失敗。癌の新薬を開発したのですが、とんでもない所に落とし穴があったのです。あっという間に世界中に伝染してしまいます。政府は避難命令を出し、感染していない人だけニューヨークの外へ出しますが、どうやらその後外の世界もやられてしまい、生き残っているのは我らが英雄ウィル・スミス1人の様子です。
演じるは科学者ロバートで1人きりになっても抗体を作るべく研究を重ねています。唯一の友達は4つ脚のサマンサ。自宅で飼っていた犬です。よくなついているので家族のように毎日言葉をかけながら暮らしています。
前半はロバートの日常生活が丹念に描かれます。ちょっと長過ぎるので1割か2割削ってもいいとは思いますが、この部分は後半との対比があるので重要です。
★ 人がいない生活
ロバートは昼間銃を担いでサマンサと一緒に外を出歩いています。ニューヨークの町を車であちらこちら出向き、鹿がいると撃とうとします。食料にでもするのでしょう。その辺の店から缶詰の類を家に運び込んでいますが、生野菜としてとうもろこしを育て、どうやら蛋白源は鹿のようです。退屈しのぎにDVDの店から時々映画を家に持って帰っている様子で、シュレックのファンです。他に誰もいないので持って行った切りにしておいても盗んだことにならないのですが、ロバートは1人でも礼儀を守り、レジに持って行ったりしています。見終わった物も返しているのではないかと思われます。昼頃になると決まった場所に出向きます。誰かを待っているような様子。
ロバートの朝から午後までの様子を見ていて自分と似ているなと思いました。あんな贅沢なアパートではありませんし全く1人というわけではありませんが、1人で過ごす時間が長い人はどこかロバートと似てしまいます。
1日中横になっていてもいいのですが、それでは1日が無駄になってしまい損をしたような気分になります。それであれこれ用事を作って規則正しく過ごしています。ロバートも日が昇ると起きて食事、その後外出という風にきっちり決めている様子です。
人が全くいないニューヨークの撮影が話題だったようです。私はちょっと28日後・・・のロンドンのシーンを思い出しました。道路には車が混乱した様子ででたらめに停まっている個所もあります。時々回想のシーンがあり、そこでは大混乱に陥ったニューヨークが描かれています。
★ 夜の生活
・・・などと書くと、何だか怪しげな桃色の雰囲気かと思いますが、そうではありません。夕方になると生活は一変します。きちんと時間を決めて帰宅し、すぐ厳重に窓やドアを鉄の扉で閉鎖してしまいます。電源と水はどうやって確保しているんだと突っ込みを入れたくなってしまいますが、どうやら電気と水道はちゃんと機能している様子。犬を風呂に入れてやったり食事を作ったりののどかな生活に見えたのですが、実は敵の襲撃に備えているようなのです。
大きな地下室があって(とは言ってもこの種の家としては普通の大きさ)そこを研究所に改装しています。コンピューターもあり、色々な医学的な機材も揃っています。そして毎日日記のように研究成果を録画しているのですが、成果は上がっていません。
一体なぜこんなに厳重な警戒をしているのだろう、何を研究しているのだろうという点は地球最後の男オメガマンを知っているのでばれています。このタイトルを見ただけで、内容は半分以上ばればれです。
★ 敵がいた
万一生存者が残っていた場合に備えてロバートは毎日ラジオで落ち合う場所を放送しています。そのため毎日昼決まった場所へ出向いていたのです。そして昼間でも暗闇はご法度。闇の中に敵が潜んでいるのです。それはゾンビ。伝染病にかかっても死んでいない人たちがゾンビ化してその辺の人間を襲うのです。ここで本来はずっこけてしまうはずですが、ゾンビの描き方はチャールトン・ヘストン版よりいいと思います。コンスタンティンを作った監督なので、ゾンビの姿は監督の美学に合わせてあります。結構恐いし、豹か狼のような勢いで襲って来るのでスピード感もたっぷりです。それまでわりと現実的な描かれ方をしていたウィル・スミスのシーンに対していきなりゾンビなので拍子抜けしてもおかしくないのですが、恐い描き方で、ずっこけずに済みます。
★ 成果無し
放送で呼びかけても成果無し、研究も成果無しの毎日が続いていました。研究というのは人間をゾンビに変えてしまう菌に対するワクチン製造の試みです。こういった説明の合間にロバートにとってはトラウマになっている妻と娘との別れが頭に浮かびます。そういう彼に取ってはそれまで家族のように一緒に暮らしていた犬のサマンサがついていてくれるのが大きな慰めです。
どうやら時々ゾンビを生け捕りにすることに成功するらしく、これまで何十人か人体実験をやっていました。いずれも失敗。最近捕まえた女性ゾンビにまた新たな試みをしていますが、結果は思わしくありません。
★ 聞くも涙の物語
途中でゾンビとの戦いもあり、そこでゾンビは紫外線に弱いことが分かります。ああ、なるほど、だからロバートは夜出歩かないんだ・・・。ある日ゾンビとの戦いでついにサマンサが噛まれてしまいます。科学者として知り過ぎるほど良く知っているのでサマンサを殺さなければならなくなります。
ここは本当に悲しいシーンです。猫や犬を飼っている人にはジーンと来るシーン。ああ、なるほど、そのために前半あんなに長い時間かけて彼の日常生活を描いていたんだと納得します。私も涙の1歩手前。ウィル・スミスはいいキャスティングでした。彼は人なつっこい感じですし、人とのお喋りを楽しむタイプに見えます。そんな人がニューヨークでたった1人になってしまうというのは残酷です。社交性と孤独の差を上手に出せる俳優を見つけて来なければだめです。キアヌ・リーヴスやマット・デイモンですと人類が滅亡していなくても孤独そうで、人類が滅亡しても日常生活は変わらないような気がしてしまいます。その点スミスだといかに彼が人を恋しがっているかという描写に説得力が出ます。
ここはかわいそうでお涙頂戴でないと行けないのです。
★ 自殺計画中に起きた出会い
サマンサが死んでしまい自暴自棄になったロバートは死ぬと予期しながらゾンビに向かって行きます。当然ながら負傷。ところがそこへ突然女性と子供が現われます。気を失い、目が覚めたら自宅。若い女性と小さな男の子で、彼のラジオを聞いてやって来たそうです。ところが彼が出血していたので、血の匂いを追ってゾンビが家にやって来ます。そこで戦いになり、彼は2人を守るために自殺。最後ぎりぎりのところで完成したワクチンを持たせて彼女を旅立たせます。
ヘストン版でも彼は自分を犠牲にします。ロバートは避難して生き残った人間はいないと信じていたのですが、女性と男の子は信じておりその場所とされるところへワクチンを持って行くのですが、本当にそういう場所はありました。このあたりは28日後・・・をパクった感じに見えます。しかし両方ともテーマはほとんど似ているので、仕方ないでしょう。ちなみに28週後・・・というのもできたそうで、いずれ見てやろうと思っています。
似て非でない、要するにそっくりな作品ですが、ウィル・スミスの方は家族というテーマに重点が置いてあり、28日後・・・の方は生き残るということに重点があるので、両方見ても損はありません。
上にチラッと書いた話の本文です。
私はドイツで懸賞に当たって映画館で見たのですが、その時には全然違う印象を受けました。
何の話かと言いますと、伝染病の原因を作ったのが誰かという話。
あまり深く考えずに見ていると、癌の特効薬を発明したのがエマ・トンプソンで、効き目を早めるために、エボラのように伝染性の高いビールスを使って遺伝子交換をしたような印象を受けます。ところがビールスが変異を起こし進化してしまい(そういう事はあり得るのだそうです)、人間がゾンビになってしまう作用が生じ、それがエボラと同じような速度で伝染したので、あっという間に人類が滅びてしまったという風に思ってしまいます。映画館で見ていたのでDVDのように聞き直すことができませんでしたが、その場にいたドイツ人も私と同じ印象を受けています。
ところがウィル・スミスはインタビューで「自分が演じる細菌学者が失敗をしてビールスがあっという間に世界に蔓延してしまった」と発言しています。ウィル・スミス自身がドイツの映画雑誌の長いインタビューで「自分のせいで・・・」と話しているのでこの説に間違い無いはずです。
そうなると彼は珍しく悪役。人類のほとんど全員を殺してしまったマッド・サイエンティストを演じていることになります。そうだとするとあまり背負った罪がはっきり演技に出ていません。脚本がそう言う風に書かれていないのです。1人だけ生き残ってしまってかわいそうだというのが観客の受ける印象です。
こういう罪を背負った人だとなると、なぜ彼が自分の命と引き換えに若い女性と子供を生かそうとしたかの説明にはなります。ここでスミス、女性、子供の3人が助かるような演出にしてもアメリカのハッピーエンド映画として通用したでしょう。しかしそこで敢えて主演を殺してしまったのは、そもそもの原因を作ったのが彼だったという設定ならバランスが取れます。あれだけの数人を死なせてしまったのにおめおめと・・・という運びになっては、考え込む人も出ます。
もし彼がビールス蔓延の原因を作ったのだとしたら上映中かなり駆け足でその部分を通り過ぎてしまったことになります。何しろ大人2人が見ていて気づかなかった上、エマ・トンプソンが悪いという印象を受けてしまったからです。ドイツは吹き替えるので翻訳の過程で何かが抜け落ちたのか、あるいはオリジナルの脚本の段階でウィル・スミスをかわいそうな主人公にするか、自分の落ち度でとんでもない事になってしまった責任を背負っている人にするかはっきり決めずに撮影を始めたのか、その辺のところが良く分かりませんでした。特定のスターにはあまり悪い役をやらせないというお約束があるのかも知れません。いずれにしろ私たちはウィル・スミス=マッド・サイエンティストとは思わずに見ていました。【上に戻る】
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