★　事件が起きる前（過去）

元々はミルトンという師匠の奇術師一座から始まる物語です。年配のミルトンは2人の若手の奇術師志望の青年アンジエとボーデン、手品の仕掛けを作る技術者カッター、舞台で人目を引きながら観客の注意をそらす美女のアシスタントのジュリア、その他の裏方などからなる十人弱の一座を持っています。現在はミルトンと美女のアシスタントが舞台で喝采を浴び、弟子2人は桜として客席に座っていたり、出し物が終わると片づけをしたりします。技術者は手品の仕掛けを作ったり新しい事を思いついたりします。2人の弟子もアイディアは一緒に考えます。舞台によっては若い弟子がアシスタントをすることもあります。

★　時は1899年、場所はロンドン。

技術者の普段の仕事は発明や機械の組み立てですが、ミルトンが水中脱出の出し物をする時は危険に備え水槽のガラス面を斧で壊すべく待ち構えています。水中脱出はミルトンの見せ場でフィナーレに行われます。魅力一杯のジュリアの手と足を縄で縛り、水槽に閉じ込めます。彼女は1分以内に縄抜けをし、見事外に出て来るという趣向ですが、万一失敗した時のために、カッターは時計で秒数を計り、1分経っても出て来なかったらカッターがガラスを割るという打ち合わせになっています。

若い弟子の1人ボーデンは貧しい家の出身。もう1人のアンジエは裕福。ボーデンは新しい仕掛けを考えたり、客をあっと言わせる危険な技をやろうという方向に情熱を注いでいます。アンジエはトリックの工夫より喝采を浴びる事の方が重要。映画全体を見ているとボーデンは「喝采は結果であり、目的は自分の新しいアイディアを実現すること」と考えているかのようで、アンジエには喝采が最大の目的のように見えます。この差はまだ最初の段階では問題ではありません。

ボーデンはこの時点では独り者。アンジエは師匠のアシスタントと結婚していますが、子供はいません。ボーデンはその後師匠と一緒にどこかの舞台で演じている時に知り合った女性とデートをし、やがて結婚します。そして娘が1人生まれます。それがちょうど2人の若い弟子が独立して自分の舞台をやり始める頃と一致します。

★　悲劇的な事故　‐　ボーデンの健忘症

ある日水中脱出の出し物が上手く行かずジュリアが死にます。アンジエはボーデンがジュリアの手を縛った時の結び方に原因があると考えボーデンを非難します。この夜の出し物の前、楽屋では皆で縄の結び方の話し合いがあり、手を結ぶ方法を変えようということになっていました。舞台の上では新しい結び方をするに当たってジュリアがボーデンにOKの目配せをしており、師匠もそれを止めていません。しかしアンジエはジュリアの足を結んでいたのでその様子を見ていませんでした。しかしそれでも責任を感じて葬儀に来て謝るボーデン。

アンジエはその時ボーデンに「あの日どういう結び方をしたのか」と聞きますが、ボーデンは「よく覚えていない」と答えます。それが気に入らずアンジエはボーデンにひどく腹を立てます。この事件を機に一座は解散状態になり、2人はミルトンから独立して自分の舞台をやり始めます。

★　独立した2人

アンジエはミルトンの評判が落ちたことで失業したカッターを自分の技術者として雇います。アシスタントには新しくオリビアという女性を起用。ジュリアに負けないぐらいのセクシーな女性です。 ボーデンはちょっと前に師匠の舞台がきっかけで知り合ったサラを篭脱けのトリックを応用して口説き、結婚にこぎつけます。間もなく娘のジェスが生まれ、家庭的には幸せいっぱいです。

しかし事件が2人に大きく影を落とし、アンジエとボーデンはそれから次の事件が終わるまでことごとく張り合います。相手の舞台を見ては工夫を凝らし、相手より扇情的な舞台にしようと競います。

★　アンジエの新しい芸

独立後のアンジエはカッターの薦めでミルトンの所でやっていた小鳥を消す芸を改良します。ミルトンの所では毎回小鳥を籠ごとつぶすため、舞台の度に小鳥が1羽死にます。後片付けはボーデンやアンジエの仕事。カッターの新しい芸では小鳥は死なずに済みます。

ところがアンジエがこの芸でデビューを飾ろうとした日、客席にいたボーデンの妨害を受け芸は大失敗に終わります。

★　精進のための研究が・・・

カッターはアンジエに手品だけでなく視野を広げるために新しい物を見るように薦めます。当時ちょうどテスラという科学者が電気関係の研究をしており、町でその実験を公開しようとしていました。人々がまだランプを使っていた時代です。史実によるとテスラはエジソンとのライバル関係に悩まされた人物で、本当に妨害工作が両者の間に起きたそうです。

この日はテスラが巨大な機械をセットし、奇術の舞台のように観客を集めて研究成果を見せようとしていました。ところが危険だということで当局から禁止されてしまいます。ちょうどそこにいたアンジエは観客の中にいたボーデンを発見。彼の後をつけます。

行きついた先はボーデンの私生活。彼が幸せな結婚をし、子供までできたことを知ります。「あの幸せは俺が先に味わうはずだったのに・・・」めらめらめらめら・・・。

★　ボーデンの新しい芸

ボーデンの得意の出し物は瞬間移動。舞台の上、数メートル離れた所に2つのドアを立て、ボーデンは片方のドアからすっと消え、あっという間に別なドアから現われるという芸です。観客には舞台の右手のドアを開けたとたんにボーデンの姿が消え、1秒もしないうちに数メートル離れた別のドアを開けて本人が出て来るように見えるのです。

1つ目のドアの所の床に穴があって、ボーデンはその中に飛び込みます。その後どうやって別のドアから現われるのかは映画の観客には分かりません。

これを客席で見たアンジエやカッターはボーデンが影武者を使っているのではないかと疑います。しかしボーデンには1つ確実な目印があります。

オリビアがボーデンの舞台を見た時その手をしっかり見て確認していたので、ボーデンは確かに1つのドアから別なドアに瞬時にして移ったという結論になります。

★　張り合うための産業スパイ

他の奇術師の技を勉強するのはこの業界では常識。ミルトンが師匠だった頃にもアンジエとボーデンは中国人の奇術師の技を研究しています。その時に見たのは水を一杯にはったガラスの金魚鉢を取り出す芸。よぼよぼの老人が重い金魚鉢を瞬時に出して見せます。この老人はそんな鉢を脚で抱える筋力があるはずですが、楽屋を出て帰宅する様子を見てもよぼよぼ。

ボーデンが瞬間移動で注目を浴びた時、アンジエは別な芸を考えず、ボーデンを超えるセンセーショナルな瞬間移動をやろうと思い立ちます。これが新しい悲劇の出発点になります。

ボーデンの芸は《運ばれる男》というキャッチフレーズで評判を取るのですが、アンジエはそれをさらに扇情的にして《新運ばれる男》という芸を考え出します。アンジエもドアを2つ舞台に立て、片方のドアを通る時にシルクハットを投げ、もう1つのドアの所で自分の投げた帽子を受け取るという風に改良してあります。

ボーデンのトリックを確信を持つほど見抜けなかったアンジエは飲んだくれの俳優を影武者として雇い、自分が最初のドアをくぐり、穴から舞台の下に飛び下り、俳優が2つ目のドアから現われる役をやります。

これは上手く行き拍手喝さいですが、1つアンジエにとっては大きな問題があります。守備良く行った後喝采を受けるのは俳優の方で、自分に注目する者はいないのです。ボーデンですとあまり問題ではないようですが、人の喝采に飢えているアンジエにとっては大きな問題です。じゃ、アンジエが喝采を受ける側の役をやればいいと素人の私なら考えますが、きっとそこまでの芸を俳優にやらせるわけに行かないのでしょう。

アンジエはボーデンにカリカリされられることが多く、ボーデンの方は自分に迫って来るアンジエという火の粉を振り払うという立場に陥ります。アンジエはジュリアの死後新しいアシスタントのオリビアと愛人関係。しかしボーデンへの競争心からアンジエはオリビアをボーデンの所へスパイとして送り込みます。オリビアはアンジエを愛しているのでこの提案を断わりますが、説得されてしまいます。

★　妨害競争

飲んだくれの俳優を使った《新運ばれる男》は観客の前では大成功ですが、俳優が誰かに入れ知恵され、アンジエに金を要求し始めます。徐々に俳優は図々しくなり、ある日とんでもない事になります。俳優が予定のポジションに現われず、アンジエが舞台の下に飛び降りてみるとそこには落下の衝撃を受け止めるマットが置いてありません。数メートル下に落ちたアンジエは片足を骨折。同じ時、舞台にはいつもの俳優でない男が現われるのですが、それがボーデン。俳優は縄で縛られ舞台の上に吊るされていました。またしてもアンジエはボーデンに恥をかかされます。

★　強行手段

ボーデンはオリビアが来た時アンジエの助手だと知っていたので最初疑いの眼で見ますが、結局は雇うことにします。オリビアはアンジエのために良かれと思いボーデンのメモ帳を借り出して来たりしますが、暗号で書かれているため読めません。コピー機などが無い時代なのですぐ返さなければなりません。結局アンジエがボーデンの仕事場を襲わせ、泥棒が入ったということでオリビアに罪がかからないようにしてメモ帳を失敬します。しかし暗号なので目下のところ宝の持ち腐れ。

アンジエ、カッター、オリビアと3人寄ってもボーデンのトリックを見破ることができず、解読方法が分からずメモ帳が読めない上、観客の前で恥をかかされたため、アンジエは思い切った手を使います。ボーデンの所で働いているファロンという技術者を拉致し、箱に閉じ込めて地中に埋めてしまいます。暗号解読の方法を教えなければファロンの居所も教えないという脅迫でボーデンは解読用の5文字を言います。それは TESLA でした。

★　舞台はアメリカへ

メモ帳の解読のためのパスワードを知り、ボーデンがテスラに関心を持っていたらしいので、アンジエは渡米します。アメリカに研究所を持っているテスラに頼み込んで自分のために《運ばれる男》のトリックに使えるような機械を作ってくれと依頼します。

テスラは気難しい男ですぐには承知してくれません。その上本人はエジソンとのライバル関係に煩わされている様子。大金がかかる上時間もかかると言われます。金はいくらでも払うと言われてようやく承知。

ところが暗号解読の文字を使ってボーデンのメモを読み終わると、トリックがかかれていないばかりか、テスラと自分は関係が無いと書かれていたのです。アンジエはまたしてもボーデンに一杯食わされたのでした。

一杯食わされたのはボーデンだけでなく、テスラにも。テスラはボーデンから機械製作の依頼を受けたことは無く、瞬間移動はテスラの意図した研究ではありませんでした。アンジエが1人で思い込んでいるのを訂正せず、金を出させていたのです。しかしテスラはその副産物とも言える結果にたどり着いていました。

アンジエがかんかんに怒って実験場に行くとシルクハットを使った実験が行われますが、帽子は1ミリも動きません。次に黒猫を使った実験をしても猫は移動しません。しかし実験はある程度成功したと言われます。半信半疑で森に行くと、そこにはおびただしい数のシルクハットがあり、黒猫も何匹かいます。

テスラの助手の話によると移動はしないのだが、電流を通すたびにコピーが出現すると言うのです。まだ何メートル先にそのコピーが現われるのかなど細かい点が定まっておらずもう暫く時間が必要とのこと。

かなり時間が経って、アンジエが業を煮やし研究所に訪ねて来ると、研究所は跡形もありませんでした。エジソンの回し者に襲われ破壊された様子。しかしテスラからの伝言があり、奇術用の機械は確保。アンジエは英国に戻ります。

★　裁判　（現在）

ボーデンがちょうど裁判にかけられていて、今にも死刑判決が下りようとしています。容疑はライバルの奇術師アンジエに対する殺人。かつて同じ師匠の元で修行をし、似たような芸を見せる2人の奇術師の度を越えたライバル関係の結果です。アンジエがやっていたのは師匠の頃からやっていた水中からの脱出で、彼が水に飛び込み1分以内に外へ出て来るはずなのに出て来ず、その現場にはボーデンが立っていたのです。

裁判ではちょうどカッターが証言中。殺人事件の原告側証人として出廷しています。裁判の成り行き上カッターは手品の仕掛けについて証言を迫られ、タネを明かすわけに行かないので、裁判官と2人きりなら説明をすると条件をつけます。許可が下りカッターは殺人の時に使われた機材は自分の発明ではないと証言します。この機械だけはテスラの手によります。アンジエが機械に近づけないようにしていたため、カッターは芸が行われていた間この機械の詳細を知りませんでした。

裁判にはボーデンの娘が顔を出しています。まだ小学生ぐらいの少女で、事件の前までボーデンの技術を担当していた裏方ファロンが娘についています。父親のボーデンと娘のジェスは裁判所で久しぶりに顔を合わせ、手を振ります。

裁判はボーデンに不利なまま進み、死刑判決。刑務所に収監されている彼の元に時々訪問者が来ます。1人はカドロウ卿という手品の小道具を収集している貴族の代理人。カドロウ卿はボーデンの奇術のタネを買い取ろうとしています。1番興味を持っているのがボーデンお得意の瞬間移動。カドロウ卿は手品好きで、死んだアンジエの芸も全部買い取ったとのこと。これは実は脅迫で、ボーデンが断わると現在ファロンが持っている娘の養育権を取り消すと言われます。ボーデンはまたその代理人にアンジエの日記を手渡されます。それを読み始めるボーデン。ボーデンは日記が偽者ではないかと考えています。

アンジエは実は生きていてカドロウ卿に化けていました。あるいはカドロウ卿がこれまですっとアンジエと名乗っていました。ボーデンの子供も手中に。ボーデンは殺人者として死刑、子供は取られてしまいそうです。そしてボーデンの仕掛けには興味を失います。牢屋で娘と最後の面会をして、死刑になるボーデン。もう予備のタネも仕掛けもありません。

ボーデンは最後にファロンと会った時に不思議な言葉を残します。「2人のために生きてくれ。」何やらお互い深く理解し合っている様子。

アンジエが死んだと信じ、カドロウ卿に機械が売り渡されたので届けに行ったカッターはそこで生きているアンジエを見てしまいます。

何やら自分の任務と心得ているようなファロンは生きているアンジエを見つけ射殺。この男には指が足りません。ボーデンと同じ指です。そしてボーデンとそっくりの顔。

という風に謎が謎を生むようなシーンが次々に出たところで、それを繋ぎ合わせると・・・。

蛇足