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アドレナリン / Crank

Mark Neveldine, Brian Taylor

2006 UK/USA 87 Min. 劇映画

出演者

Jason Statham
(Chev Chelios - マフィアに雇われている狙撃犯)

Jose Pablo Cantillo
(Verona - マフィア)

Amy Smart
(Eve - シェブの恋人)

Efren Ramirez
(Kaylo - シェブの友達)

Dwight Yoakam
(Miles - シェブにアドバイスする医者)

Carlos Sanz
(Carlito - マフィアの親分)

見た時期:2006年10月

一去年の秋に見たのですが、あまりばかばかしいので記事に書く気にもならず、放ってありました。ステイサムが嫌いということは無く、トランスポーターは楽しく見ています。彼の出た作品は6つ見ていて、中の3つが主演です。元々は俳優ではなくスポーツ選手。その後モデルを経て26歳にして映画へ。最初は知り合いの監督に頼まれて出たようないきさつらしく、演技を勉強して俳優になった人たちとは経歴が違います。元スポーツ選手、演技にはそれほど入れ込んでいないということで、アクション・スターになったのは順当に思えます。彼を気に入ってこれまでに2度使った監督が2人いて、イメージもその路線で作られています。トランスポーターのスタッフは自分も水が好きなこともあり、ステイサムが泳ぐシーンも用意しています。

トランスポーターには彼のカッコ良さが上手く生かされていて、俳優が得をする作品です。それに比べアドレナリンではそういう主人公が崩れた場合こうなるという例を示したような作品で、反面教師としての教育効果のみ期待できます。「こういうアホはやるなよ・・・」という例を1時間半ほどの間に身を持って示すわけです。

しらふだったらかっこいいのかも知れませんが、シェヴの職業は闇の商売。マフィア専用の狙撃人です。一応カリフォルニアでは名の通った名人ということになっています。ステイサムなのでクールに仕事をこなす寡黙な男が似合いそうなのに、のっけからドジな目に遭います。こんな商売しているわりには脇が甘いと言うべきか、ライバルの男に見つかり、睡眠中に毒を盛られてしまいます。それがお笑いとしか思えない毒。

主人公シェブを演じるステイサムは英国人、冗談を理解する人なので、私はこの瞬間に映画全体がジョークなのだと解釈しました。それでないとこのばかばかしさは生き延びられません。解毒しないまま生存するためには一定量以上の量のアドレナリンが体内に必要だと言うのです。アドレナリンのレベルが落ちたら昇天。おいおい、そんな毒ってあるんかよ・・・。

しかし何とかその意味を理解したシェブは早速アドレナリン値上昇の旅に出ます。このままだと生存可能な時間は60分。映画が終わるより前に死んでしまいます。体調はすでに狂い始めています。

人の寿命が映画の上映時間内で尽きてしまいそうになる映画というのはたまにあります。例えはクリストファー・ウォーケンにしたたか脅されるジョニー・デップは映画の上映時間内にウォーケンの言う通りにしないと幼い娘が殺害される、もし言う事を聞かなかったら自分が殺されるという目に遭います。イスラエルの有名な将軍の息子ダヤン氏はある日普通に医者を訪ねたら病気であと92分の命だと言われ、映画上映中に自分がどういう風に死ぬか決めなければなりません。2作ともまじめに作ってある作品で、デップの方はスリラー、ダヤンの方はいくらかブラックな要素の入ったコメディーとしてとても練れた作品です。それに引きかえ・・・。

シェヴが慌てて相談した医者に「アドレナリン濃度を一定に(高く)保て」と言われ、背に腹は変えられず素直にそのアドバイスに従います。そのために迷惑するのは周囲。見放す者あり、一応助けようとするものありですが、全体にはそれまでの人生で徳があまり高くなかったためか、マジで親身になってくれる人はいないというか、白け鳥が飛びます。本人もそれを感じてか、必死になるのは自分だけといった雰囲気になります。

恋人にはまっとうな仕事をしていると言ってあったシェブですが、この期に及んでもう隠し切れず事実を話します。マフィアと無関係の生活をしていた彼女にもマフィアの手がのびかけ、自分の命を救うだけではなく、彼女も守らなければ行けないことになってしまいます。

と言ったわけで、ある日突然今までの生活のパターンが崩れ、恐ろしく短い時間の中で正しく対処しなければならず、しかも自分の事だけを考えているわけに行かないという切羽詰った状況が人工的に作られ、ステイサムはその中で飛び回ります。

彼が必死なのは分かりますが、周囲がめちゃめちゃに振りまわされ、その意味はと問われると「はて」。立派とは言えない仕事をしてこれまで人を殺して来た男に同情しろと言われてもねえ。恋人に身元を偽って暮らして来たのにここで急に「俺はマフィアだ、切羽詰まっている」と言われても恋人がそう急に新しい事態に適応できるか。なにせ1時間ですからね。マフィア間にあれこれあって、彼が毒を盛られてしまうということは考えられるかも・・・、まあそれは百歩譲るとしても、こういう職業だからリスクは色々計算しておかないとねえ。と、どこを見ても自業自得ではないかという作品です。

全体の深みはゼロ。全体がジョークではありますが、自業自得という面が最初からあるのでいささか白けてしまいます。ステイサムがなぜこれまでのクールなイメージを崩したのかは分かりませんが、クールとバカの両方をやって間口を広げようとしたのかも知れません。

彼は自分の出る幕が映画市場のどの辺なのかを良く理解している俳優で、ジェームズ・ボンドにならず、ジャッキー・チャンにならず、ヒュー・グラントにならず、ジョニー・ワイズミュラーにならず、口を閉じているとアクションのできるファッション・センスのいい2枚目、口を開くと2枚目半で泳ぎの上手い、文句たらたらののしると愉快な、今までに無いタイプの主演者です。男性に好かれそうなタイプですが、女性もこういうのがいいという人がいるかも知れません。恋人にはしたくないかも知れませんが、人事だと思って見ているのは楽しいです。

関連作品: トランスポーター  トランスポーター 2  トランスポーター 3

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