映画のページ

幻影師アイゼンハイム /
The Illusionist /
The Illusionist - L'illusionista /
The Illusionist - Nichts ist wie es scheint /
L'illusionista /
L'illusionniste /
El ilusionista /
O Ilusionista /
Iluzionista

Neil Burger

2006 Cz/USA 110 Min. 劇映画

出演者

Edward Norton
(Eisenheim - 奇術師)

Aaron Johnson
(Eisenheim、少年時代)

Paul Giamatti
(Uhl - 警視)

Ellen Savaria
(Uhl - 警視の妻)

Jessica Biel
(Sophie - 貴族の娘)

Eleanor Tomlinson
(Sophie、少女時代)

Rufus Sewell
(Leopold - ハプスブルク家の皇太子)

Eddie Marsan
(Josef Fischer)

Jake Wood (Jurka)

Tom Fisher (Willigut)

Karl Johnson (医師)

Andreas Grothusen (アイゼンハイムの父親)

見た時期:2008年12月

要注意: ネタばれあり!

★ 元は短編小説

スティーヴン・ミルハウザーの短編から作られた長編劇映画。原作のタイトルは幻影師、アイゼンハイムといい、映画と違うのは句点がついているかだけ。アイゼンハイムというのはドイツ語で《鉄の里》といったような意味ですが、現代の木村さんが《木の生えている村》とは関係が無いように、ただの苗字です。ミルハウザーは古い時代を舞台にした作品が多いのですが、監督はその趣味をたっぷりと取り入れています。アメリカが作った作品にはまがい物的な時代物の作品もあるのですが、幻影師アイゼンハイムはちょうどそこに凝り、売りにしています。幻影師アイゼンハイムプレステージを見た後宿題になっていたのですが、今回見ることができました。

★ 監督

長編2作目にしてこの出来。最近いきなり出来のいい作品を出して来る監督が増えました。

★ ノートン

ノートンはいい俳優だとは思うのですが、これまで好きではありませんでした。3人の奇術師の中でクリスチャン・ベイルが好きとかヒュー・ジャックマンが好きというわけではなく、3人の中ではノートンが1番優秀な俳優だとは思います。ただこれまで「彼の能力を十分に生かしたなあ」 と感心する作品には出会ったことがありませんでした。作品はあるのでしょうが、私がたまたま見ていないのだと思います。

デビュー作では天才俳優かと思ったのですが、デビュー作というのは色々な幸運が重なっていたり、裏に「こういう風に売り出そう」というプロジェクトがあったりして、それ1作でその俳優の真価を判断すると後でずっこけたりします。それで次を待っていたのですが、その後見た作品は何だか違和感があり、判断は保留にしていました。そうこうするうちに12年以上経ってしまいました。しかし幻影師アイゼンハイムを見て能力のあるきちんとした俳優だという確認が取れました。

★ キャスト

ほとんどの俳優は良い選択だと思いました。唯一違和感があったのはソフィーを演じたジェシカ・ビール。これまで彼女が見たいと思って選んだ作品は無いのですが、それでも数本見ました。幻影師アイゼンハイムの彼女は現代的で、ちょっと浮いています。

それは外見の話。最初ドイツ語で見ていたのですが、後になってちょっと英語で聞いてみたら、違和感の無い話し方をしていました。オーディションなどはやるでしょうから、監督は彼女の台詞の話し方で選んだのでしょう。となると、メイクの人がもうちょっと彼女を古い作りにしたら良かったのではと思います。

★ セット、ロケ

ビールの現代的な外見が浮き上がってしまった理由は、セットやロケにかなり気を使い、欧州の雰囲気を十分に出していたからです。

あの時代のウィーンは実際には町並みが多少薄汚れていたりはしたでしょうが、建物の感じ、そして王宮付近の雰囲気はとてもよくできています。爵位の真ん中あたりの位を持った知り合いがいたので、城(砦系の建築)の中がどうなっているかも具体的に知っており、幻影師アイゼンハイムのセットに嘘臭さが全く無かったので、私の評価もプラスの方向を向いています。ただ、貴族の家のように見え、皇帝の息子で次の皇帝になると予想されている人物の住居としてはいくらか地味かとは言えます。私はウィーンにはまだ行ったことが無いので、オーストリーがフランスのような派手な作りなのか、ドイツの地方の城のように実用を重んじた地味な作りなのかは知りません。

また幻影師アイゼンハイムの住居のセット、町の様子など、きれい過ぎるかなという点を除いて、ベルリンにもある古いアパートやお城(住居タイプの建築)のスタイルと同じで、見ていて納得します。森や田舎のシーンも南ドイツ、チェコ付近はああいう感じです。オーストリー、ウィーンに詳しい人が見たらアラが出るのかも知れませんが、ドイツに長く住んでいると、これがハリウッド映画かと感心します。

制作にチェコが関わっている理由は、最近大作がよく作られるスタジオがあるからというのが1つ。それだけではなく、チェコにこういう古い建物が残っているのも理由の1つでしょう。プラハはお金をかけて町の古さをできるだけ残そうと努力しているようです。ポーランドなども同じ試みをしたことがあるので すが、ドイツも含め欧州には旧市街と呼ばれる古いスタイルの町が多いです。当然時代物の映画のロケに適しますが、欧州の人がそういう町を保存したり再現するのは観光や映画撮影のためではありません。町の人が好むからです。週末にカフェに座ってコーヒーを飲み、ケーキを食べる場所が旧市街だと、何となく満足するのです。国民がそういう雰囲気を望むので、残せる所は残そうという動きになるようです。私も旧市街を散歩するのは大好きです。

ベルリンの壁が開き、東西紛争から劇的な融和に向かった頃、1度チェコの山にある町に招待されたことがありました。その人が立派な会場を借り切って友人を招いて映画を見せたりしたのですが、驚いたものです。その人は特に大金持ちというわけではないのですが、何とかそういう建物を借り切るお金を工面できたのです。当時は物価がまだ東は東、西は西のレベルだったので、その差でこういう事ができたのでしょう。

しかしそれよりもっと驚いたのは、そこが小さいながらしっかり昔の雰囲気を保っていたこと。当時東の国は経済的にかなり困窮していたので、ベルリンのお城(博物館として利用されている)のような豪華な飾りはありませんでした。しかし建物の様子を見ると、セット・デザイナーが来てちょっと細工したら物凄く豪華でクラシックな場所に化けるだろうと当時すでに思いました。幻影師アイゼンハイムでノートンがイリュージョンを見せる劇場もそういう感じの所でした。幻影師アイゼンハイムではどのぐらいをロケ、どのぐらいをセットで撮影したのかは分かりません。ただチェコという場所を使ったのは良い選択だったように思います。

と、これだけ舞台、調度品が本物らしく揃ってしまったので、ビールが現代的過ぎるように見えてしまいました。衣装には違和感はありませんでした。多分メイク、髪型、立ち居振舞いが現代的だったのでしょう。ドイツでは声優がドイツ語に吹きかえるので、彼女のオリジナルの声は聞けず、ちょっと不利だったかも知れません。

★ ライバルのつもりだったのか

プレステージも2006年の作品。ガイ・ピアスが2007年にハリー・フー ディーニの映画を作っています。この頃立て続けに手品物ができています。主演に比較的できのいい俳優を置いていること、時代がかっている点が共通していま す。それで各社競合しているのかと思いましたが、プレステージ幻影師アイゼンハイムを見終わって、少なくとも2つは全く違う内容だと知りました。ハリー・フーディーニの映画は伝記風の劇映画だそうです。ドイツでは DVDが出ているようなので、新しい宿題になりました。似た作品が3本ですが、テーマが重ならないように工夫はされているようです。

★ 似ていなかったストーリー

プレステージは2人の男が情熱的に奇術という職業を愛し、徹底的に目くじらを 立てまくり、カリカリしながらライバル意識の火花を散らすという作品でした。スリルは男の戦いにありました。更に凝っていたのは色々な所でダブル(二重)になっていた点。

ノートン版の幻影師アイゼンハイムはそれとは全然違う展開になります。ノートンが演じるのは19世紀末のアイゼンハイムという芸名の奇術師。マギー審司より規模が大きく、1人で舞台を使って当時としては大きな演目をやります。原題がイリュージョニストとなっていて、皇帝がいた頃のウィーンとしてはセンセーション。結構客が入り、儲かっています。

そのアイゼンハイムには幼馴染みの貴族の少女がいます。ソフィーと言って、5歳の頃からの幼馴染み。5歳の子供に階級が理解できるわけも無く、相思相愛。平民出身、職人の息子のアイゼンハイムと貴族のソフィーは若い頃駆け落ちも考えましたが、周囲に止められ、そのままそれぞれの社会に。

15年後、世界を旅した後ウィーンに戻って来たアイゼンハイムは本名を使わず、(当時そんな言い方はしなかったでしょうが)イリュージョニストとして劇場を構えます。テレビもラジオも無い時代。楽しみと言えば劇場訪問ぐらい。ですから瞬く間に人気が出ます。

ある日劇場にオーストリーの皇太子が婚約者を伴って見物に来ます。マジックで良くあるようにお客さんを舞台に上げて行う出し物を1つやります。その時皇太子に促されて舞台に上がったのがソフィー。15年ぶりで出会う2人。

それがきっかけでアイゼンハイムは皇太子の城に足がかりができて、招待を受けます。「我が城でイリュージョンをやってくれたまえ」と依頼を受けますが、現実派の皇太子は種を見破ってやろうと意気込んでいました。ちょっと行き違いもあり、皇太子とアイゼンハイムは仲良くなりません。

皇太子とアイゼンハイムとソフィーの他にもう1人重要な登場人物がいます。ウィーン警察の官僚で、もしかしたら次の警察長官の道も近いというウール。皇太子に便利に使われている人です。警護の面もあるので、2、3人の刑 事にソフィーを見張らせています。その1人がソフィーとアイゼンハイムの密会を発見、報告。

アイゼンハイムは特別に秘密を作っているわけではなく、ウールが尋ねるとあっさり「自分は子供の時からソフィーを知っている」と答えます。一方アイゼンハイムの耳には皇太子の良からぬ噂が届きます。ソフィーは生き延びるでしょうが、これまでの皇太子の婚約者、愛人は妊娠中絶を強要されたり、殴られ、1人は打撲の痕をごまかすためにバルコニーから放り出されたとまで言われています。ソフィーの口からは、オーストリーがハンガリーを乗っ取るためにソフィーの家柄が利用されるだろうという話も。

かつての愛を実らせたい2人、皇太子として絶大な権力を持つレオポルド。出世を望んで皇太子に仕えながら、あまり良心の咎める事をやりたくないウール。政治利用を嫌うソフィーは皇太子に「ハンガリーには同伴したくない」と言い出します。そんなある日、ソフィーは馬屋で大怪我をしたらしく、馬上でぐったりとなったまま森の方向へ消えてしまいます。捜索の結果川辺で彼女の遺体が発見されます。

この出来事の直前ソフィーがレオポルドと争ったらしいこと、レオポルドは泥酔していて何も覚えていないと主張していること、そしてソフィーの衣服から宝石が1つ発見されたことが映画の観客に手がかかりとして与えられます。アイゼンハイムは全く別な場所にいたため疑いはかかりません。

ソフィーの死後アイゼンハイムは出し物を変更し、死者の魂を呼び寄せるという出し物を行います。他の観客も自分の死んだ身内を呼び出してもらい、会話をしたりしますが、その場にソフィーも呼び寄せられます。劇場の観客はレオポルドが今回の事件に悪い意味で関わっているのではと感じているので、ソフィーに質問をしたりします。アイゼンハイム自身は悲しそうな顔をしてソフィーの亡霊を見るばかりで、多くを語りません。(映画が発明された時期とアイゼンハイムの時代がほぼ重なります。)

ウールは難しい立場に追い込まれ、アイゼンハイムを逮捕せざるを得なくなります。人々が皇太子に反感を募らせており、劇場で殺人の被害者かも知れないソフィーの亡霊を披露されてしまうと、人心を乱した罪というのがむくっと顔を出します。ウールは一旦はアイゼンハイム逮捕に踏み切りますが、アイゼンハイムを慕うファンが警察の建物までついて来ます。結局アイゼンハイムが人々に「あれは種も仕掛けもあるの、僕奇術師だから」との一言。それでその場は何とか収まります。

ソフィーは死に、アイゼンハイムはこの出来事の後劇場を元のマネージャーに渡し、何かを頼み込みます。ウールは調査を続けているうちにソフィーがレオポルドに殺されたのではないかと疑うに足りる証拠を見つけてしまいます。本人は覚えていないと主張するので、ここは袋小路。ところがソフィーの衣服から発見された宝石の他に、馬屋にも宝石があり、またソフィーが身につけていたロケットも発見されます。そして皇太子の剣の宝石が2つ欠けています。ソフィーは首の辺りを切られて死んでいます。その上皇太子は父親の皇帝の意思に反してクーデターのような挙に出ようとしていました。

遂にそれは皇帝の知るところとなり、皇帝は兵を送って来ます。追い詰められた皇太子は自殺。出世するはずだったウールは首。

★ どんでん返し

ここからポール・ジアマッティーにぴったりのどんでん返しに入ります。

ある意味でこれは古臭いスパイ大作戦(テレビ版)です。観客にはアイゼンハイムとレオポルドの一騎撃ちに見えますが、実はアイゼンハイムには何人かの協力者と、彼のトリックに知らずに乗せられ、アイゼンハイムに有利なように動いてくれる人がいます。

協力者の数は限られていますが、変装して出て来るので、映画の観客には別人に見えます。ソフィーは死ぬまでに色々1人で活躍し、役目を終えると田舎に姿を隠します。その後は騙されるのが役目のウールが順調に探偵業をやっているように信じさせられ、まんまとアイゼンハイムに乗せられます。ウールはアイゼンハイムが用意した証拠を発見し、徐々にレオポルドへの疑いを深めて行きます。

ウールはレオポルドを死へ追いやったように見えます。そうなるように願い、企んだのはアイゼンハイムです。実際レオポルドは危険な人物なので、とどめを刺さないと(死に追いやらないと)、後でアイゼンハイムやソフィーを発見すべく追いかけて来そうです。頭の悪いバカ殿ではなく、非常に現実的で分析的に物を考える人物として描かれています。

そして最後、アイゼンハイムが親切な人物なので、ウールは自分が引っかかったことを知ります。アイゼンハイムが黙っていれば、ウールは一生知らないままでしょう。皇太子に取り入って警察長官になるチャンスもあった人物ですが、ジアマッティー演じるウールはどこか善良で、警察を首になり、自分が引っかかったと知っても怒りはせず、笑い出します。感じのいい終わり方になっています。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ