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2008 USA/D 110 Min. 劇映画
出演者
Morgan Freeman
(Sloan - 暗殺者集団フレータニティーのボス)
Angelina Jolie
(Fox - スローンの部下)
Common
(Gunsmith - スローンの部下)
Terence Stamp
(Pekwarsky - 弾丸を作る職人)
James McAvoy
(Wesley Gibson - しがない会社員、xxx の息子)
Thomas Kretschmann
(Cross - 暗殺者)
Marc Warren
(The Repairman - スローンの部下)
Dato Bakhtadze
(The Butcher)
David O'Hara
(Mr. X - 標的にされた暗殺者)
見た時期:2009年1月
★ 3部作を終える前に3流映画か
あの Ночной Дозор の監督がアメリカ進出です。3部作はまだ Дневной дозор までしか行っておらず、中断中。Сумеречный дозор まで行けば完結です。Сумеречный дозор はアメリカで作るのだそうです。
こういう監督だと知らずに見たら、ウォンテッドは3流だという印象を受けたでしょう。原因ははっきりしません。Ночной Дозор の出来がとても良かったので、同じ監督がこんな駄作を作るとは考えませんでした。もしかしたらドイツ版は大巾カットをしたのかも知れません。ドイツには時々そういう事があり、エドワード・ノートン版のハルクもそのために見た人が何が何だか理解できないような作品になっていたそうです。
Ночной Дозор もお金はたくさん貰って作ったらしいのですが、続編の Дневной дозор では監督独特の雰囲気が消えていました。先が思いやられます。
ウォンテッドにベクマンベトフが作ったと言われるとなるほどと思えるシーンがあることは確かです。画面の色、作り方に Ночной Дозор と似た部分があります。主演のジェームズ・マカヴォイは3部作の主人公コンスタンティン・ハベンスキーと似た雰囲気の人です。その上コンスタンティン・ハベンスキー本人も出演しています。
それだけでは足りないと思ったのか、テーマも Ночной Дозор に似た2極の対立。しかしとんでもない方向に行ってしまいます。
Ночной Дозор はまだ3作目ができておらずどういうオトシマエになるか分からないのですが、2作目までのところでは、1300年代頃まで血で血を洗う争いをやっていた2つの勢力が「このまま行くと両方がが滅ぶ」と悟り、戦争を中止。相互の約束で住み分けを始め、1992年まで平衡が保たれていて、それを映画の主人公が知らずに破ってしまったという話です。導入の部分で十分ミステリーが醸し出され、不思議な、わくわくするような雰囲気の中で物語が進みます。
ウォンテッドにもこれと似た2つの世界があり(何で西洋の話はいつも2極なんだろう)、大きさは半々ではなく、ごく僅かな特殊な人たちと、何も知らない大衆という風になっています。そして呆れたことに、この特殊な人たちは世の中で邪魔になる人を密かに消してしまうという役割を担っているのです。何じゃこれは、ムカッ。
主人公がだらけた性格になっていて、この僅かな特殊な人たちに特訓を受け叩き直されるのですが、彼のだらけぶりに観客がムカッと来るように仕向けられた作りになっています。しかし私はそんな事はどうでもいいと感じました。人間というのは危機感を持つと自然にしゃきっとするもの。彼にはあの時点までしゃきっとしなければ行けない理由が無かったのでしょう。
ところがこのだらけた青年がある日僅かな特殊な人たちにリクルートされます。どこの誰が送って来るのか良く分からない2進法で書かれた指令を ASCII に読み替えると、そこには殺すべき人物の名前が書かれているという次第。2進法の指令は繊維に織り込まれる、そしてこの特殊な人たちは繊維工場で働いている工員という設定です。報酬は高額で、いきなりだらけた青年の口座に300万ドルが振り込まれます。そのだらけた青年を演じているのが、ウガンダでもだらけていたジェームズ・マカヴォイ。あのイメージがまだ新しいので、そういう意味では良いキャスティングです。
しかしそんな事に感心している暇は無く、私はここで躓いてしまいました。一体どこの誰がどういう理由で社会の一部である誰かを勝手に「消してしまっていい」と決めるのか、そしてこの特殊な人たちが1000年もの間秘密組織を作っていて、黙々と人を消して歩いていたなんて、まったくもってひどい話です。結局最後までこの躓きから回復しませんでした。なんちゅう自分勝手な思い込み、ムカッ。
当の本人たちは「自分たちは神から選ばれた特殊な人たちで、言わば神の道具なのだ、神が自分たちに誰を殺すべきか知らせて来るのだ」と説明を受けます。元だらけ青年のウェスリーは「人を殺せと命令する神なんてろくな神ではない」とは考えません。ところでその神からの連絡を見ることができるのはグループのボスのスローン1人。ほんまかいな。
さて、この青年なぜこの特殊な人たちにリクルートされたかと言うと、彼にも特殊な血が流れていたからです。彼の父親は特殊な人だったのです。ところが映画が始まる前に敵の襲撃で死んでいたため、息子の彼が後継ぎとしてリクルートされたとか・・・言うじゃない。母親は彼に普通の生活をさせたかったので事情を話していなかったのです。
その話を聞いてだらけた青年は舞い上がってしまい、やる気満々。急にしゃきっとしてしまいます。大喜びでトレーニングに励みますが、長い間だらけていたので、そうすぐには武芸を身につけることはできません。それでも何とか持ったのはハニー・トラップさながら、色気をちらつかせるアンジェリーナ・ジョリーのせい。
何とかテクニックを身につけ、いよいよ本番。指令はモーガン・フリーマンから伝えられます。とまあ、順調に行き始めたところで話はぐにゃっと曲がってしまいます。
要注意: ネタばれ開始
トレーニングの甲斐あってようやくタフ・ガイになった主人公ウェスリー。スローンの指定する人物を殺しに行きます。彼らを妨害するのが父親をも殺した暗殺者のクロス。ウェスリーの日常は人を暗殺して回る役と自分たちを暗殺に来る勢力との戦いの2つになります。
できれば父親の敵のクロスをやっつけたいウェスリーですが、妙な事になって行きます。クロス暗殺を望むウェスリーにスローンは「ターゲットとしてクロスの名前が来たから、殺ってもいい」と言っておきながら、フォックスにはウェスリー暗殺の命令を出します。
クロス暗殺の命を受けたフォックスとウェスリーは、クロスと落ち合うためにペクワルスキーという弾丸を作る職人に仲介を頼みます。フォックスとはぐれたウェスリーは列車の中で1人でクロスに会います。車内で大きなドンパチとチェイスが起こり、フォックスは車で列車を追い列車に車ごと飛び込んで来ます。しかし列車は深い谷をまたぐ橋の上で頓挫。谷に転落しそうになるウェスリーを救ったのは何とクロス。そのクロスを撃ったのはウェスリー。ところがクロスは自分がウェスリーの本当の父親で、組織はウェスリーを騙していると言い残して昇天。
さらに追い討ちをかけて来るのがフォックス。ウェスリーをリクルートしたのは、クロスを倒せる唯一の男がウェスリーだったため。なぜかと言えばクロスが自分の息子を殺すのをためらうだろうから。その上フォックスにはウェスリーを殺せとの命も下っていたのでウェスリーを狙います。
何とかその場は逃げのびウェスリーはペクワルスキーに頼ります。ペクワルスキーはクロスの住んでいたアパートに案内。何とそこはウェスリーの家のすぐ近く。子供の頃から僕を見守っていたんだ・・・クシュン。
実はある日神からの殺しの命令書にスローンの名前が載っていました。その日からスローンは独立することに決め、神の命令は無視。勝手に殺しを働いて金儲けにいそしんでいました。ところがそれがクロスの知るところとなり、クロスだけは神の指示に従おうとしました。でクロスが組織から狙われ、クロスの方も組織のメンバーを狙うという事になっていました。
こういった話を聞かされたウェスリー。クロスはウェスリーに幸せな生活を送ってもらいたかったので、自分に万一の事があったらウェスリーをどこかへ逃がすようにと飛行機のティケットまで用意していました。しかしウェスリーはスローン退治に出かけます。
対決の場でスローンが言うには、メンバー全員の名前が命令書に書かれてあり、本来なら全員が死ななければならなかった、自分は君たちの命を守ったのだ・・・そうです。そこでスローンはウェスリーを殺すことをメンバーに提案。メンバーもその気になります。ただ1人命令の方が大切だと考えたのがフォックス。で、自分も一緒に死ぬことになることを承知でカーブする弾丸を撃ち、全員死亡。助かったのはウェスリーだけ。
★ 穴だらけのはちゃめちゃ映画
・・・でありました。荒唐無稽な話を映画化するのは構いませんが、勝手に「人を殺してもいい」と思い込んでいる人たちを見るのはあまり楽しくありませんでした。しかもその命令までをも無視して、勝手に殺し屋自営業を始めたのがモーガン・フリーマン。この人はアメリカでは珍しく顔の表情が全く変わらないのにハリウッドでスターの地位を長年保っていられる人。なので最後になるまで善玉か悪玉か分からないという利点があります。だからこの役に採用されたのかも知れませんが、見終わっても悪人という印象が出ず、やはりミス・キャストかと考え直しているところです。
Ночной Дозор もかなり荒唐無稽な話なのですが、私はとても感じのいいファンタジー映画だと感じました。3作揃ったらいつか全部通しで見てやろうかと思っているぐらいです。外国からハリウッドに来ると仕事の方法が違い、出したい実力が出せない外国人監督も多いですが、ベクマンベトフはベクマンベトフ・カラーを視覚的には出していると思います。脚本が無茶苦茶なのは漫画の原作に起因しているのでしょうか、それとも脚色をやった人が手抜きをやったのでしょうか。どうしようもない無茶苦茶な話でも飛び切り笑えるエンターテイメント作品に書き換える人もいます。その辺が上手く行かなかったのがウォンテッドでした。3作目はハリウッドで作ることになっているそうですが、ベクマンベトフ監督、モスクワに帰って作った方が後世に残る名作が作れるのではないかと危惧しているところです。
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