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Wächter der Nacht - Nochnoj dozor

ぶっ飛びのロシア映画

Timur Bekmambetov

2004 Rußland 114 Min. 劇映画

出演者

Konstantin Khabensky
(Anton Gorodetsky)

Dmitry Martynov
(Yegor - アントンの息子)

Mariya Mironova
(イゴールの母親)

Valeri Zolotukhin
(Kostya - アントンのかつての隣人、吸血鬼)

Vladimir Menshov
(Geser - コスティアの父親)

Aleksei Chadov

Mariya Poroshina
(Svetlana)

Galina Tyunina
(Olga - ふくろう)

Yuri Kutsenko
(Ignat)

Zhanna Friske
(Alisa Donnikova)

Ilya Lagutenko
(Andrei - バンパイア)

Anna Dubrovskaya
(Larisa - バンパイヤ、アンドレーの愛人)

Viktor Verzhbitsky
(Zavulon - 闇世界の支配者)

Rimma Markova
(Darya Schultz - 魔女)

Aleksei Maklakov
(Semyon)

Aleksandr Samojlenko (Ilya)

Anna Slyusaryova (Lena)

見た時期:2005年9月

2005年ファンタ前菜参加作品

このページでは何もばれませんが、次に進むとばれます。

今年の春ファンタの前菜に出、ティケットも買ってあったのですが、急な用ができて見られませんでした。特にナイト・ウォッチを逃したのは残念だったのですが、仕方ありません。ところが最近になってこの時逃した作品や、他の都市では出てベルリンのファンタに出なかった作品にめぐり合うことがあり、じわじわと敗者復活戦を勝ち進んでいるところです。特にナイト・ウォッチの懸賞に当たった時は大喜び。ファンタではノーカットで見られるのですが、ロシア語。懸賞で見られた時は多少縮めてあったのですが、ドイツ語。ロシア語を聞きながらドイツ語や英語の字幕を追っていたのでは恐らく筋が飲み込めなかったと思うので、こういう妥協には文句は言わないことにします。

日本版ファンタではフィナーレに出たという話を聞きました。

のっけから結論をばらしてしまいますが、すばらしくおもしろい上に、手法に工夫が見られ、古臭い画面を見ていながら随所に映画人のやる気が見える斬新な作品です。筋は後から考えてみるとわりに単純なのですが、その結論に至るまでに紆余曲折があり、頭が混乱しない程度に複雑な演出にしてあります。観客を疲れさせない程度という匙加減がいいです。

タイトルはロシア語なので私にはからっきし分からないのですが、ドイツ語では《夜の番人》となっています。続編が2つ続くのですがどうやらその1つは《昼の番人》と言うらしいです。ロシア語もドイツ語もインドヨーロッパ語の一部と考えると Nochnoy dozor の Nochnoy が《夜》で dozor が《番人》なのかも知れません。続編は Dnevnoy dozor と言うので、Dnevnoy が《昼》なのかも。本当はこんな安易な事考えずロシア語辞典を引くか、その辺のロシア語が分かるドイツ人をつかまえて聞いてみないと行けません。

舞台は中世と現代のロシア。中世は物語のきっかけを観客に知らせるだけなので、セットでも良く、どこかその辺の橋で撮影してもいいようなシーンです。戦国時代の大乱闘を演じて見せれば用は足ります。この時の出来事のおかげで長い間2つの対立するグループにバランスが保たれていたのに、現代になってある事件が起き、バランスが崩れその後の騒動に発展するという筋運びです。

ここからは気合十分、真剣勝負で、2時間弱しっかり持たせています。手を抜いているシーンはありません。ロシア映画の根性集結。以前は総力をあげて規模の大きい映画を作る国でしたが、映画というメディアを国家の宣伝に使っていたためか、共産主義体制が解体し始めてからとんとロシア映画という話は聞かなくなっていました。

冷戦後東欧の映画産業で最初に世界にアピールしたのは本尊のロシアでなく、近隣の比較的小さな国の方でした。チェコは今ではハリウッドの下請けを一手に引き受けるまでになり、私が気に入っている作品も何本かチェコで撮影されています。チェコに一足先を越されまだぱっとしませんがポツダムにある旧東ドイツのスタジオも改装され、アメリカから仕事依頼が来たりもするようです。しかしチェコも旧東ドイツもまだ世界をアッと言わせるような独自の作品を作るには至っていません。これは恐らく時間の問題でしょう。ドイツ人の監督は続々とハリウッドに目を向け、仕事を引き受けたりもしていますので、いずれはその中から世界に通用する現代ドイツの作品を作る人が出るでしょう。そういう人たちは国内に留まるドイツ人映画人にも刺激を与えると思います。先日ご紹介した Antikorper などは随分いいセン行っていました。

自分の国のテーマを扱っても外国に通用するおもしろい映画というとハンガリーに先を越されています。ハンガリーもよく撮影に使われる国ですが、なんとハンガリーまで出掛けて行って東ドイツのシーンを撮影する人がいるのです。壁が崩壊した後旧東ベルリンは過去を拭い去ろうと必死で町の改装をしてしまい、近代的に見えるようになってしまいました。私は未来を見るには過去からスタートしなければ行けないといった考え方もするので、自分の過去の歴史を自分で消してしまうような考え方には賛成していません。仮に過去に間違いや失敗をしても、それも自分の将来ためにはプラスの要素になると思うのです。ですから旧東ドイツがあまりにも急速に過去の色を消してしまったのには戸惑いました。そして皮肉なことに東ドイツのシーンを撮影するために、東欧の近隣国にロケハンに行き、ハンガリーの建物を使ったりすることがあるのです。

そのハンガリーがちょっと前にプダペストの地下鉄をテーマにした摩訶不思議な作品をファンタに持ち込んで来ました。これはファンタ以外の映画館でもかかり、ベルリンでは良い印象を残しています。本国でも大成功だったと聞いています。

そこへ遅れ馳せながら登場したのがロシア産のナイト・ウォッチ。あれほどの人材、規模を持ちながら長く沈黙を守っていたロシアで、大ブレークしたそうで、続編、続々編が出るという話も聞いています。原作が長いのでそうなるのでしょう。ロシアは過去にも超長い作品が得意でしたが、見ると疲れそうという印象を持っていました。その点ナイト・ウォッチはこれが6時間7時間の映画の3分の1なのだとしても、全く疲れず、全編ハラハラしながら見ていました。ロシアらしからぬ超エンターテイメント作品です。

ところがもっと愉快なのはその超エンターテイメントが上手にカムフラージュされている点。旧ソビエト時代のおもしろくもなさそうなアパート、廃棄された建物、これと言ってモダンにも見えない町が実に効果的に使われているのです。物凄いカーアクションもあるのですが、それに使うのが古臭い型の中型トラックだったりするので、まさかこの車があんなジャンプをするなどとは誰も思わないのです。直後に見たトランスポーター 2 とは違いますからね。どちらかと言えばシン・シティーの乗りが上手に隠されているのです。

凄いドラマが展開する場所が、中年のおばさんの普通のアパートの台所だったり、大怪我をした主人公の大手術を公務員のオフィスでやったりと、予想もできない日常性と非日常性が稀に見るハーモニーで組み合わされているのです。後で考えるとあり得ないような要素が全編で調和しながら出て来るので、見れば見るほど魅了されます。

いやあ、これは凄い、とまだ見ていない人には薦めて歩きたい作品。筋をばらしてしまって良いんだろうかと迷った末、筋は別なページに書くことに決めました。

後記: 続編に関して番狂わせ。2004年のナイト・ウォッチに続き2005年に Nochnoi Bazar という冗談のようなタイトルのコメディーをナイト・ウォッチの出演者で作り、2作目デイ・ウォッチまでは順調に進んだのですが、そのままハリウッドに取り込まれてしまいました。その結果生まれたのがウォンテッド。出来はあまり良くありません。なのにウォンテッドは現在続編企画が進行中。その他の予定を見てもナイト・ウォッチの気配はありません。(2011年1月)

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