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Coffin Rock

Rupert Glasson

2009 UK/Australien 92 Min. 劇映画

出演者

Lisa Chappell
(Jessie Willis - 釣具屋の経営者夫人)

Robert Taylor
(Rob Willis - 釣具屋の経営者)

Sam Parsonson
(Evan - 病院の受付)

Terry Camilleri

Geoff Morrell

Jodie Dry

Joseph Del Re

見た時期:2009年8月

2009年ファンタ参加作品

あらすじ説明あり。ネタがばれますが、監督は秘密を観客に隠していないので、最初から犯人はばれています。

今年はファンタにしては出来の悪い作品が多く、特に前半に集中していた感があります。その1つが Coffin Rock。上映中も楽しめず、後味も悪かったです。

原因は何だろうと考えて見ましたが、漠然としています。いくつかのテーマを扱いながらその都度誰かを非難するような、誰かを困らせてやろうというような、蛇足がくっついているような印象を受けました。

★ 簡単なストーリー

ストーリーは比較的単純です。中年に差し掛かる手前のカップルが、オーストラリアのど田舎で仲良く暮らしています。生活はプロフェッショナルな釣りや職業としての漁業に使う各種の道具を売ることで十分まかなえていて、夫も飲んだくれでもなければ、怠け者でもありません。

ど田舎ではありますが、近所の人も親切で、お互い良く知っていて、見事なまでのすばらしい自然に囲まれ、自動車さえあれば町にもすぐ行け、ほとんど理想的な生活とも言えます。

この仲のいい夫婦の唯一の悩みは子供ができないこと。奥方が安全に妊娠できる年齢が間もなく終わろうとしており、何不自由ない生活とは言え、子供が1人か2人いたら、もっと明るく楽しい生活がおくれるのに・・・と夫人は時々ため息をついています。それが高じて時には他の家族に子供がいるのを見て涙を流すこともあります。

善良な夫を非難することはできません。ようやく説得して産婦人科に検査に行きます。事件は夫の検査がきっかけで起こります。

たまたま受付で働いていた若者イワンの目には妻のジェシーがとても素敵な人に見えます。あっさり受付の仕事を辞め、仕事場で知った彼女の住所をたどって彼女が住んでいる村までやって来ます。早速近所の漁師に話をつけ、漁業の手伝いをすることにし、寝泊りできるトレイラーをもらいます。

その後せっせとストーカー行為に励みます。当初は彼女を見張っているだけ。近所の人にはよそ者の若者が村に居着いて働いていると思われています。

産婦人科に検査に行ったことでプライドを傷つけられでもしたのか、ジェシーにせかされるのを負担に感じているのか、夫のロブはこのところ無口になり、特に子供に関する話には沈黙。そういう夫を見て、心が傷つき、ある夜ちょっと飲み過ぎてしまったのがジェシー。そこへ折悪くチャンス到来と喜ぶのがイワン。チャンスを逃さず、倉庫で彼女と寝てしまいます。そこへさらに折悪く居合わせたのが、近所の村人。

ジェシーに熱を上げていたイワンはこれでジェシーは自分の物だと小躍り。ジェシーはとんでもない間違いをしでかしたと反省。そしてある朝、彼女は妊娠を知ります。

ここから彼女はずっと冷静さを欠き、よく考えもしないでイワンの子供を身ごもったと思い込んでしまいます。オーストラリアで法律がどうなっているか分かりませんが、中絶が許されている国でも大体は3ヶ月前後が限度。彼女は決心がつかないままずるずる時が経つのを指をくわえて見ています。イワンの方はいよいよ積極的なストーカーと化し、彼女にちょっかいを出し始めます。2人の間には言い争いが。

そしてある日、彼女が悩み、隠していたかった妊娠が人に知られることとなり、非常に嫌な展開になります。「誰にも言わないで」と小さな村で約束してみても、伝わってしまうのです。ある日帰宅してみると近所中の人が暗闇の中居間に集まっていて、彼女が家に入ると「サプライズ!」と叫び、彼女の悩みに気づいていない夫も含めて村中で大祝賀会。

イワンはジェシーの子供が自分の子供だと決めてかかっています。なので時々彼女の前に現われます。ジェシーは一方で村中に妊娠が知られたのでこれから中絶することは不可能、他方、イワンの子供かも知れないので夫と相談しなければ行けないと思いながらもそれがかなわないことで二重の苦しみです。

そんな中、ジェシーには近所に親しくしている夫婦がいて、その妻の方にイワンの事を打ち明け相談します。ところがその頃から異常さを増して来たイワンにその女性は重症を負わされ、拉致されてしまいます。同じ頃、漁師の1人も殺されます。物語の進行中かなり早くから観客にはイワンがまともでないことは知らされています。なので、こういう凶暴な挙に出ることも不思議ではありません。

というわけでジェシーの周囲で人が殺され、彼女自身も狙われ、やがて夫も事情を理解し、イワンが死ぬまで追いかけっこになります。

★ 全然隠さない伏線、調子のいい結末への道

一応スリラーということになっているのですが、監督は「スリラーっていうのはただ観客の神経を逆撫ですること」と理解しているらしいです。手段は何でもいいと考えたのでしょう。

ジェシーと同じ立場で妊娠できる日を今か今かと待っている女性は前半の彼女の苦しみで十分神経が逆撫でされます。万一そういう事に理解の無い夫を持っている女性なら神経はずたずた。ロブはそれほど非難に値するような無慈悲な人物ではありません。男性特有の無口さがこういう問題の場合悪い方に働くのは事実ですが、悪い人柄ではありません。

イワンは職業上の守秘義務を無視して、病院で手に入れた住所をたどってジェシーの所まで来てしまいます。彼女につきまとっていますし、時々父親に電話をしている様子はどこかしら変。推理物やスリラーを見慣れた人なら、引っかかるシーンです。伏線が上手く隠れておらず、雑な進行です。

いよいよイワンが本性を現わし始める後半。小柄な若者が頭の中で描いている歪んだ人生設計。そこにジェシーがはめ込まれてしまった恐怖が描けるのですが、そこもあちらこちらに穴があって、きっちりしていません。被害者、加害者の肉体的特長が観客に「いかにも」というメッセージを発しているのも気になります。ここ何十年か映画界がやっていなかった手法が戻って来たような印象でした。

普段静かな若者がカッとすると馬鹿力で人を殴り、殺すことなどへとも思っていないというシーンも出て来るのですが、描き方がはっきりしていません。四角い部屋を丸く掃いたような感じです。

最後にはイワンは死にますが、善良な市民の側に法律無視が起こります。我慢に我慢を重ねた挙句に善良な側で反撃の気持ちが爆発という筋のつもりなのでしょうが、前後に描かれている夫妻の善良さを考えるとちょっとちぐはぐ。法的に見ると過剰防衛になる危険もあります。無論小さな村なので犯人が死んだ後の処理は穏便に済ませるのでしょうが、逮捕して自供を取れば良かったのにと部外者の私は思ってしまいます。ま、そういうのが現実なのかも知れません。殺人ストーカーなどに普通の人は遭遇しないので、そのあたりは良く分かりません。

★★ 調子の良過ぎる結末

夫はクリニックから来た検査結果を暫く開封しないで隠しています。事件が終わる頃にようやく開封します。そこにはすべての検査に異常無し、つまりロブは十分に子供を作る能力があると記されています。そして冒頭と最後にブロンドの子供が遊んでいるシーンが出て来ます。ホーム・ビデオ風です。つまり困難を乗り越えて2人は、今3人になっている、めでたし、めでたし、という結末です。ちなみにイワンは黒い髪です。ジェシーもブルネット。ですから子供がブロンドということは、十中八、九ロブの子供です。

・・・なんて遺伝論をちらつかせて終わります。もっともこれは字面通り受け取っては行けません。ドイツ人(アングロ・サクソン系)やトルコ人(アジア系で欧州の血筋も持つ)を見ている限り、親が2人ともブルネットに見えても、子供の時はブロンドだったという人は多いです。親が現在茶色の髪だとすると、子供時代は明るい金髪という例も多数。その上海岸地方に長く住んでいるとそれだけで髪は白に近いブロンドになってしまいます。紫外線の影響かも知れません。なので、映画がブルネット + ブルネット = ブルネット、ブルネット + ブロンド = 子供の時ブロンド、ブロンド + ブロンド = ブロンドなどという図式を暗示しても、そのまま信じない方がいいです。

★ カメラはいい、俳優も悪くない

撮影は北欧を思わせる冷ややかなブルーのトーンですが、上品な作りで、なかなかいいです。手馴れたカメラマンが撮ったのでしょう。合格点。

俳優は世界規模で有名な人はいませんが、基礎がしっかりした、全くミスの無い演技。プロと言っていいでしょう。このぐらいの演技のできる人がたくさんいる国はうらやましいです。

技術的なミスは見当たらない作品でした。ですから多くの仲間が「弱い」という印象を受けたのはプロットが原因でしょう。脚本にすらミスらしいミスは見当たりませんでした。筋がこうだと決まった段階を過ぎ、1人1人の台詞を考えたり、シーンの設定を具体化する段階ではプロフェッショナルな仕事をしています。

これだけの人材、お金(巨大予算の作品ではありませんが、1つの物語を撮るのに十分なお金はかけています)を揃えて、こう弱い作品になってしまったのは、プロットの時点の弱さがそのまま残ってしまったためでしょう。

監督、俳優一同が「これは弱いプロットだ、でもがんばろう」と一致協力して作り上げられる作品もあります。コメディーやSFなどでは可能でしょう。しかしシリアスなスリラーではそういう方向転換が難しかったのかも知れません。なので恐らくカメラマンも俳優も黙々と与えられた役を手を抜かずに作ったのでしょう。

今年はこういう風な作品がいくつかありました。

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