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2009 Kanada 77 Min. 再現映画
出演者
Maxim Gaudette (銃撃犯)
Manon Lapointe
(銃撃犯の母親)
Larissa Corriveau
(銃撃犯の隣人)
Sébastien Huberdeau
(Jean-François - 学生の1人、通報と怪我人救助に奔走)
Natalie Hamel-Roy
(ジャン・フランソワの母親)
Johanne-Marie Tremblay
(ジャン・フランソワの母親)
Karine Vanasse (Valérie)
見た時期:2009年8月
ファンタ実質初日の作品で、この日はこれは凄いという作品はありませんでした。どこかしらに偏りが見えたり、せっかくの素材が生かし切れておらず不満が残る作品が続きました。
その中で悪い作品とは言えず、しかし絶賛とか凄いとも言えない作品が Polytechnique です。扱っているテーマの性質上劇映画と言いにくいです。ある銃乱射大量殺人事件の再現ドラマです。時々テレビがルポルタージュの代わりに俳優を使って分かりやすく事件を再現してみせるという手法がありますが、あれです。
テレビ番組は興味本位でタブロイド誌のレベルが多い中、Denis Villeneuve 監督は非常にまじめで、センセーショナルなトーンを極力抑えています。起きた事件の状況、規模、場所、その他さまざまな事情を考えると私は共感しますし好感を持ちましたが、映画としては特別大きな感動はしませんでした。事件があまりにも凄かったので、毒気に当てられてしまう、そのために実際の話に気を取られて、映画を作品として評価するに至らないと言うのが正直なところです。それでも監督が取った手法は正しいと感じます。
★ 事件
事件を紹介すれば映画を紹介したことになってしまうので、どちらか片方で事足ります。事件はモントリオール理工科大学で1989年クリスマスを控えた12月に起きています。日本人はクリスマスをそれほど重要に思っていませんが、西洋ではお正月と同じぐらい大切な行事で、大学生は12月の最初の2週ちょっと勉強をすると、クリスマス休暇に入り、年が明けるまで自宅に戻ります。自宅というのは故郷のことで、たいていは寮や下宿を一時離れ、両親の家などに戻ります。学期末試験は1月末や2月なので、学生は「あとちょっと勉強して、家に戻り家族と久しぶりに会う」と思っています。感覚的には盆暮れに帰省する直前の学生と同じです。
学生や学校の側から見ると、12月上旬のある日、いつも通り大学に集まった学生がいつも通りおしゃべりをしたり、教室で勉強をしている時、突然銃を持った若い男が入って来て、乱射を始めたということになります。乱射したので、一見不特定多数を狙ったかのようで、誰かを探して撃っている様子はありませんでしたが、事件が終わってよく見ると、狙われたのも殺されたのも女性でした。男性数人はとばっちりで怪我をした様子です。直接のターゲットとしては狙われていませんでした。
人質に取られた女性たちは犯人が男性を解放しているので女性が狙われたことに気づいたでしょうが、大学全体はそのような事はその時点では把握していません。大怪我をさせられて生き残った女性たちが後に「犯人は反フェミニズムの考えを披露した」と証言しています。犯人は女性ばかり14人を殺した後、自殺しています。
リトルトン他で学生や高校生が学校に銃を持って来て乱射する事件を時々聞くようになりましたが、モントリオール理工科大学の事件まではこういう事件は珍しい部類に入りました。しかしこの事件を映画で見ると、同じパターンがその後繰り返されているように見えて仕方ありません。
犯人の動機は本人が死ぬ前に言った通り、アンチ・フェミニズムだったようです。当時ちょうど欧米で強くなり始めていた女性の社会での活動に強い反感を持っていたようです。生まれ育った環境が男尊女卑だったことと、まだ社会に女性が進出することが《当たり前》と認知される前の過渡期だったこともあり、犯人はこの新しい動きに対して強い消化不良を起こしていたようです。
実際の事件の後ショックで人生が狂ってしまった人も多く、その時無事に生き延びた人の中には後に自殺をした人もいます。犯人は完全な単独犯で、自殺した人との関わりはありません。生きることに虚しさを感じたのではないかと思われます。Polytechnique は自殺した青年と、生き残ったけれどショックの後遺症を抱えている女性にスポットを当てています。
映画の中ではジャン・フランソワとされている青年は、たまたまそこに居合わせ、血を流している女性を目の当たりにし、まずは警備室に連絡に行きます。警備室は彼の話を当初信じません。青年はその後何度も怪我人を助けようとします。しかしいくつもの死体を見てしまいます。どうやら誰かを助けることはできたようなのですが、助け切れなかった人の数があまりにも多く、映画の最後に静かに自殺してしまいます。かなりの部分が事実に即しているので、この青年のエピソードも恐らくは実話だと思われます。
★ 映画には出て来なかったけれど
事件の資料を見ていたら、カナダの犯人の男はこの大学に入学を申し込んで断わられたとありました。彼の解釈によると、当時の女性をサポートする法律のおかげで女性の入学許可が増え、その分自分が入学拒否にあったのだとのことです。実際には犯人は入学に必要は予備科の授業をまだ終えていなかったそうです。なので入学人数制限のせいではありません。当時各国の大学で女性や少数民族の入学枠を特別に取る制度が導入され始めていました。その制度が槍玉に上がったことになりますが、犯行の時点では厳密な意味で犯人とこの制度は関係がありません。なのに死ぬ羽目になった人たちは不運としか言いようがありません。
事件後自殺した学生の両親も息子の死後自殺しました。たった1人の男の近視眼的な思い付きがその場にいた学生だけでなく、後に両親にまで影響を及ぼしています。
★ この作品ともう1つの作品
監督は今年のファンタに2作持ち込んで来ています。最初の作品が Polytechnique で、もう1つは短編の Next Floor です。Polytechnique は上にも書いたように悪い作品ではありません。センセーショナルな事件をできる限り中立な立場で撮ろうとしていますし、静かなトーンを採用しています。モノクロームですが奇をてらった形跡はゼロ。静かなトーンを出すのに寄与しています。
なので佳作として他の人に薦めることはできますが、ファンタという催しにはちょっと地味過ぎるかと思います。対する短編の Next Floor はあっと驚くアイディア、演出、出演者のアンサンブルで11分ばしっと決まっています。これが同じ監督の作品とはちょっと考えられないぐらい対照的です。
ファンタのような催し物でないと両方を1度に見るのは難しいでしょうが、できれば両方を見ることをおお薦めします。
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