映画のページ

ダ・ヴィンチ・コードU 天使と悪魔 /
ダ・ヴィンチ・コード 2 /
Ángeles y demonios /
Angeli e demoni /
Anges et démons /
Anjos e Demónios /
Anjos e Demônios /
Engle & Dæmoner /
Illuminati

Ron Howard

2009 USA 138 Min. 劇映画

出演者

Tom Hanks
(Robert Langdon - 記号学者、ハーバード大学)

Ayelet Zure
(Vittoria Vetra - CERNの物理学者)

Carmen Argenziano
(Silvano Bentivoglio - CERNの研究員、ヴィットリアの同僚)

Ewan McGregor
(Patrick McKenna - カメルレンゴ)

Armin Mueller-Stahl
(Strauss - 枢機卿)

Franklin Amobi
(Lamasse - 枢機卿)

Curt Lowens
(Ebner - 枢機卿)

David Pasquesi
(Claudio Vincenzi - バチカン警察捜査官)

Pierfrancesco Favino
(Olivetti - バチカン市警察の警部)

Stellan Skarsgård
(Richter - バチカンのスイス衛兵隊指揮官)

Cosimo Fusco
(Simeon - バチカンの聖職者)

Victor Alfieri
(Valenti - バチカン警察)

Thure Lindhardt
(Chartrand - バチカンのエージェント)

Nikolaj Lie Kaas
(信心深いヒットマン)

Bob Yerkes
(Guidera - 枢機卿)

Marc Fiorini
(Baggia - 枢機卿)

Howard Mungo
(Yoruba - 枢機卿)

Rance Howard
(Beck - 枢機卿)

Steve Franken
(Colbert - 枢機卿)

枢機卿、スイス衛兵、CERNの学者、ジャーナリスト、バチカン訪問者多数

見た時期:2009年12月

要注意: 後半派手にネタがばれます!

ダ・ヴィンチ・コードの続編ということで日本ではダ・ヴィンチ・コード 2という売り方をしているようです。元ネタは前回に続きダン・ブラウンの小説。しかし2作目にはレオナルド・ダ・ヴィンチではなく、ガリレオ・ガリレイが関わっています。前回出て来たアメリーのオードリー・トトゥーは出ません。ちょっと似たイメージの黒髪のイスラエル人女性がアメリーに代わって学者先生のアシスタント的な役割を果たします。その女性もトム・ハンクスに負けない学者先生です。物語の舞台はフランスからスイスとバチカンへ移動。

私の感想は大部分ダ・ヴィンチ・コードと重なります。俳優は粒ぞろいでありながらあまり活躍していません。古い文献を参照しながら犯罪を追う点は前作と同じ。女性が1人絡み、共同で解決に向かいます。犯人のタイプも前作と共通する部分があります。監督もワン・パターンぶりを意識してか、ダ・ヴィンチ・コード 2ではアクションを強調して差をつけようとしたふしがあります。それでも推理物としては退屈でした。

★ 本題とは違った好奇心

私に取ってはCERNやティム・バーバース・リーは非常に身近な存在です。まだ本人に直接会ったことはないし、スイスの研究所に行ったこともないのですが、何か分からない事があるとCERNが言ったことが最新で1番正しいので、そこの規則に合わせてHTMLを組みます。

そのCERNがちょっと前に私がやっている事とは全然関係のない分野で、物凄い実験をやらかしたことはニュースで見ていました。何だかわけの分からない円周26.6キロという馬鹿でかい装置を作って、そこになにやらわけの分からない物が走り回ったという話でした。

これがCERNを見た初めての経験。私が関わっているのはHTMLやCSSの規則なのですが、実験は物理学者の分野。私は身内に物理学者がいるというのに、古の頃学校で習った数式が、十何年後に乗った《ジャンボ・ジェットがなぜ空を飛べるのか》を説明する数式だったことに気づかなかったぐらい物理音痴。なのでこの大実験が何を意味しているのかも分かりませんでした。ただあのCERNが見られたというので喜んでいました。

ダ・ヴィンチ・コード 2にはこのCERNが出て来ます。しかしそれが殺人に発展してしまいます。デンマークで肉屋を開業した時に人間の死体を扱ったとは言え、普段は普通の青年ニコライ・リー・カースが犯人。そのカースが侵入して来る場所がCERN。恐らくはセキュリティーの関係で映画で描かれているセットと本物は全然違うでしょうが、まあ、訪ねて行った気分になるには十分です。

★ 先生また呼び出される

トム・ハンクス演じるハーバードの記号学者ロバート・ラングドンが、プールで泳いでいると、わざわざ外国から来た男に、バチカンに来てくれと頼まれます。シャーロック・ホームズを気取って「君はバチカンから来たね」と相手の男を驚かせようとしますが、男はラングドンがその程度は切れると知って訪ねて来ています。

★ バチカンの騒ぎ

バチカンではちょうど根競べの最中。失礼、コンクラーヴェ。結論が出るまでに時間がかかるので、日本のキャスターが根競べと言い換えたのを耳にしたことがあります。

【コンクラーヴェ】 任期が終身のローマ教皇(法王)が亡くなった直後に開かれる枢機卿の投票の会合のこと。ここで次の教皇が選ばれる。

ヨハネス・パウルス2世に似たイメージの教皇が亡くなり、新しいローマ教皇選出のために世界中から100人を越える枢機卿が集まって来ています。この人たちが投票をして、3分の2以上の票を得た人が新しい教皇になります。天皇に比べるとやや歴史が浅いとは言え(初代が紀元33年頃と言われている)、4桁の年数の歴史を誇る、由緒ある宗教の長の選出。世界中が注目しています。

教皇というのは代々イタリア人から選ばれることが多いのですが、小説や映画でなく現実の世界では最近2代続いて外国人が就任しています。2005年からはベニー君と親しまれているドイツ人です。彼は先代のポーランド人、ヨハネス・パウルス2世に近い人だそうです。

映画ではコンクラーヴェに出席しているはずの枢機卿のうち次の教皇候補として最も有力な4人が失踪。1時間毎に1人ずつ殺害するとの予告が来ます。

★ 巻き込まれる学者

その頃一見何の関係も無さそうなCERNで実験が行われます。私にはさっぱり理解できない物理の実験。しかし結果は大成功。喜ぶ人が大半ですが、「こんな物を持ってしまって、人類はそれを正しく使うだろうか」と心配する声も。

【CERN】 欧州原子核研究機構。スイスのジュネーヴ近くにある研究所。原子核物理学、素粒子の研究をする部門や、コンピューター関係の規格を開発、検討する部門が有名。ダ・ヴィンチ・コード 2に直接関係するのは反物質の研究をする原子核物理学、素粒子部門で、LHC(大型ハドロン衝突型加速器)の実験が成功したところから物語が始まる。

すでにその時は遅し。1人の学者が目を繰り抜かれて殺害されます。賊がその目を使って研究所の中心部に忍び込み、成功したばかりの反物質と呼ばれる物を奪い取って逃走。物理学が分からなくても話の筋について行けるようになっています。

素人の私にはそんな物を簡単に盗むことができるのか信じられなかったのですが、それはともかく、反物質は中性子爆弾か、水爆かというような爆発力を持った物で、保存してある物が周囲の容器に触れると巨大なエネルギーを発します。そうならないように容器は電池で作動するようになっているのですが、電池が切れる時間が迫っています。

両方の話をつなぎ合わせると次のようになります。

盗んだ反物質と拉致監禁されている4人の枢機卿でバチカンは脅されます。「金よこせ」とか、「誰かを釈放しろ」というのですと話は簡単ですが、バチカンの犯人は何も欲しがりません。毎時間シンボリックな形で枢機卿が殺されて行くだけです。「人を助けたかったら避難させれば・・・」というスタンスで、バチカンの住民やコンクラーヴェをやっている最中の枢機卿を避難させるかはバチカンの判断にゆだねられています。

なぜ犯人を追うのにハンニバル・レクターやインディアナ・ジョーンズではだめなのか、ロバート・ラングドンやウンベルト・エコーならいいのか・・・その理由は、犯人が拉致被害者にイルミナーティーのシンボルの焼き鏝をあてて送り返して来るからです。その上時間を切って関係者をシンボル、またシンボルの追いかけっこに駆り出すので、シンボルの意味が解明できる人でないと行けないのです。

★ 欧米人の大好きなイルミナーティー

間もなく30年になろうという欧州滞在ですが、来て暫くしてイルミナーティーや陰謀論の話を耳にしました。あほらしくて本気にはしませんでしたが、こういう話題を真剣になって話すのが趣味という学生が時々いました。話している人たちも遊びの一種と取っている人が多かったですが、中には真剣に考え過ぎた人もいました。

討論好きの学生が夜飲み屋で話すテーマだぐらいに思っていたので、私はイルミナーティーとガリレオ・ガリレイに接点があるなどとは考えてもみませんでした。南ドイツにイルミナーティーとして活動した人たちが確かにいたようなのですが、活動期間は短く、10年にも満たないと言われています。1770年代頃です。その100年以上前にガリレオ・ガリレイは死んでいました。

イルミナーティーというのは17世紀頃結成されたと言われる秘密結社の名前で、フリーメーソンなどと一緒に語られることが多いです。秘密結社と言うといかにも謎めいていて小説の種にはいいですが、実在する物があるとすれば農協や職人の協同組合的な色彩が濃く、個別の職種に携わる人たちが、自分たちに都合のいい形で協力し合うようなもの。殺人を行うとか政治的、陰謀的な動きをするなど話に尾ひれがついたフィクションの秘密結社とは分けて考えた方がいいです。《自分たちに都合のいい協力をする》という部分には多分に談合の意味も含まれていることがあり、それはあまり人に知られたくないだろうから秘密めいた会合をするという面はあるでしょう。それを上手に、面白おかしく語ると暗殺団とか、政治結社のような方向に行きます。

現代で言えば例えばダボスに集まる人たち。しかし会合は堂々と行われており、報道までされています。秘密結社とは呼べないでしょう。各界の有力者が集まり方針を決め、往々にしてそれに合わせて世界が動くので、ミステリアスな話を作るのにはぴったり。今後どの産業に力を入れるかなども話し合われ、決定され、実行されてしまうので、大型談合と言えないこともありません。しかし現実とフィクションの境界線ははっきりさせておいた方がいいです。トム・ハンクスはフィクションの世界で働いている人です。

さらに言えばイルミナーティーはこれとは趣を異にします。映画で言われているのは科学を尊重するガリレオに賛同する人たちが、教会の迫害にもめげず結束し結成した結社ということになっています。ダ・ヴィンチ・コード 2は眉に十分唾をつけてから見て下さい。

★ バチカンとの因縁

ダ・ヴィンチ・コード 2のイルミナーティーとバチカンの接点は古く、対立点はバチカン内の保守派と革新派、天動説派と地動説派の対立です。地動説を取る人たちは科学をカソリックの宗教でも受け入れようという考え方。この派閥とイルミナーティーは概ね意見が一致します。保守派は天動説派で、科学の発展とキリスト教の教義は相容れないとし、科学をばっさり。

月に向けてロケットを飛ばすような現代、カソリックの最高位にいる教皇でもPCを使う世の中ですから、ヨハネス・パウルス2世の死も医学的な機械を使って確かめられています。ところがそんな現代にイルミナーティーと保守派の対立を持ち込んだのが拉致監禁犯。

冒頭から途中までは1人の狂信的な男が行っている犯行のように見えますが、後半彼は依頼を受けて動いているヒットマンであることが分かります。となると糸を引いている男がバチカン内部にいるかもしれないということになり、怪しそうな男たちが数人。

★ シンボルの好きなイルミナーティー

この犯罪にイルミナーティーが絡んでいるということで、ニコラス・ケイジがナショナル・トレジャーで踊らされたようにバチカンも振り回されます。何しろイルミナーティーは物事をはっきり言わず、暗示するのが大好き。何かの絵の中に矢印が隠されていたり、有体に言えばクイズが大好きな人たち。

要注意: この先ネタばれあり!

★ プロットに穴か

事の重大さに気づいたカメルレンゴがラングドンと密に連絡を取り合い、ラングドンは次々に殺されて行く枢機卿を1人でも助けようとバチカンの町中を走り回るのですが、実は黒幕がカメルレンゴ。彼は保守派で、科学の発展に反感を抱いている人だったのです。彼の目的は金品ではなく、保守派の勢力を強めること。そのため科学受け入れ派のイルミナーティーが反物質を盗んでバチカン壊滅をたくらんでいるように演出。壊滅の危機を救うのが保守派のカメルレンゴだという筋書きを作って大スペクタクルをやって見せます。実は秘密結社など存在しなかったのです。ヒットマンを使ってはいますが、単独犯。

【カメルレンゴ】 選任された日から死亡まで任期が続くローマ教皇(法王)。いずれ死が来ることを想定して、カメルレンゴと呼ばれる枢機卿が生前から決められている。教皇の死後次の教皇が選ばれるまで色々な仕事を代行する。

ちょっと悪人に見えるスイス衛兵隊指揮官が重要な証拠を残して命を失います。遺言のように万一自分に何かあった時、主人公の2人が証拠を見つけられるようにしておきます。犯人を示す動かぬ証拠が首尾よく発見されます。

というわけでユアン・マグレガーが犯人なのですが、いくらか疑問が残ります。

★ もう1人共犯者が必要

ラングドンやバチカン警察、スイス衛兵隊などはイルミナーティーの犯行と疑い、人数は不明ながらテロリストのグループを相手にしていると考えます。4人の老人を誘拐し、焼き鏝をあて、殺害。しかも特定の法則に基づいて特定の場所で特定の方法で殺します。実際にはヒットマン1人で全部をやっており、観客には最初からそれがデンマークの元肉屋だと見えるようになっています。。

そのヒットマンに依頼主がいて、お金が支払われています。日本ではあまりおなじみではありませんが、演じているのはデンマークの若手有名俳優。コメディーが得意な人です。ハリウッド映画では狂信的で信心深い殺し屋といういつもとは違う役。

その彼は4人殺した(と思った)後殺されてしまいます。車に乗りスタートしようとしたら大爆発。しかし誰が彼の車に爆弾を仕掛けたのでしょう。理論的にはユアン・マグレガーのカメルレンゴ。動機もあるのでそれでいいのですが、彼にはチャンスが無いのです。

教皇が死んで、コンクラーヴェが行われているため、宗教上のスケジュールがぎっしり。その上、ラングドンの捜査に協力しているため、用事も多く、また役職上ボディーガードが四六時中ついています。なので、ちょっと外に散歩に出るなどということはできず、仮にできたとしても、教会の用心棒がぴったりついています。

誰かに頼むと犯行がばれてしまうので絶対に人には頼めない。彼はラングドンがアメリカからやって来てシンボルの秘密を解明する前から過密スケジュール。なので動機は十分ながらチャンスがありません。そしてイルミナーティーと呼ばれる結社が暗躍していると思わせている張本人が彼で、実際には団体などありません。なので組織の誰かが手伝っているという話も成立しません。

★ 怒り心頭 Grrrrrrrr......

この作品には私に取っては2つも貴重なシーンがあります。1つは上に書いたCERNの様子。全部セットでしょうが、それでも楽しいシーンです。

もう1つはバチカンの図書館。長い間ドイツの文献学を勉強していたのですが、必須科目の1つが中世のドイツ語。自由選択ではさらにさかのぼって古代のドイツ語やそれよりもっと古い言語もかじりました。そうなると憧れの町がいくつか出て来ます。古い文献を置いている図書館のある町です。その中でも頂点に輝くのがバチカンの図書館。

ダ・ヴィンチ・コード 2ではラングドンが何度も図書館で閲覧させてくれと申し込みをし、何度も断わられているところから物語が始まります。事件の捜査でバチカンから招待されるのですが、捜査の過程でどうしてもガリレオが残した文献を見なければ行けなくなります。それでもバチカンはノーと言い、あれこれ手続き上のルールをひっくり返してみてようやくラングドンに許可を出せる人物がカメルレンゴだということが分かります。バチカンというのはお役所仕事の権化のような場所で、何事も手続きを踏まなければ進みません。

私の先生の1人がバチカンの図書館に出入りできる人だったのですが、滅多な事では許可が下りないと知っていたので、「凄いなあ」と思いながらダ・ヴィンチ・コード 2を見ていました。全部セットだったので、本当の図書館と全く同じに作ってあるのか、あるいは全く変えてあるのか見当もつきませんが、ラングドンが図書館に入ると聞いただけで、胸がわくわくしました。

・・・ここまでは良かったのですが、その先が滅茶苦茶。見ていて腹が立ち、頭に湯気が上って来ました。ロン・ハワードは穏やかな人物のように見えるのになぜあんな演出をしたんだろうとカッカ

ハンクスは図書館に入ってガリレオの時代の文献を読むのです。まず図書館の本棚を探し回る姿を見て、変だなあと思いました。ベルリンにある普通の国立図書館でも置いてある本は全てカタログに記してあり、本の置いてある場所はぴったり分かります。あれこれ探し回るということはありません。ましてガリレオの本のような貴重な文献はしっかり場所が決まっているはず。

本を見つけてからはもう信じられないような事が起きました。この時代の紙を普通の暖冷房効いた部屋に置き、普通の電気をつけると、本が早く傷むので、映画にあるように特別な空調をしているのは即信じられる話です。ところがそこへ現われたラングドンが本を扱う手つきを見て私は自分の体が痛むような気がしました。あんな事をしたら本が傷む!お前それでもハーヴァードの学者か!使っている電気スタンドの電球も紙が傷みそうで私ははらはら。

さらにあろう事か彼と一緒に捜査に関わっている物理学者に至っては、ガリレオのページを1枚破って失敬してしまうのです。何じゃ、お前は!そりゃないだろう!

アメリカ人にはヨーロッパの文化に対する尊敬の念は無いのかと、自分がヨーロッパ人でもないのにカッカとしてしまいました。

2度目の訪問で起きる停電事件の結末はもうコメディーとしか言い様がありません。文献学や歴史などの学術関係者全員を苦しめるための悪い冗談としか言い様がありません。元々あまり好きでなかったトム・ハンクスですが、これでもう大嫌いになってしまいました。

★ スターがぞろぞろ

トム・ハンクスは一時期ヒット作品を次々出していました。最近はペースが落ちていますがそれでも複数のオスカーを持っているれっきとした大スター。

その他にも有名な俳優がぞろぞろ。女性の役は一時期ナオミ・ワッツで計画が進んでいたそうです。実際には黒い髪のイスラエル人女優になりました。ちょっと前作の主演と似た感じではありますが、ナオミ・ワッツよりは適していると思います。ワッツと物理学というのは組み合わせが悪いです。

4人の枢機卿が拉致された後何とかバチカンの枢機卿をまとめている人が東ドイツの大スター。ヒットマンがデンマークでは知らない人のいない、ドイツでも良く知られたニコライ・リー・カース。北欧では大スターです。同じく北欧で知られ、ハリウッド映画にも良く出るのがステラン・スカルスゴード。といった感じで欧州では良く知られた俳優がぞろぞろ出て来ます。

そしてハンクスに見合う大物がカメルレンゴのマグレガー。トレインスポッティングスター・ウォーズと違い、非常にクラシックな出で立ちで演じています。50年代から60年代にかけてのモンゴメリー・クリフトなどの時代の俳優を思わせます。元々古典的な美男なので、カメルレンゴの役は良く合っています。

しかしこれだけ名優が揃っていても演技の競い合いは無く、他の作品の方が力作だという俳優が続出します。ロン・ハワードは前作があれだけヒットしたにも関わらずあまり気合を入れて作っていません。そう言えば前作も炭酸の抜けたコーラみたいでした。

★ 最後がちょっと気になる

プロットの穴、図書館の騒ぎはまあ演出の問題だとして、1番最後に1つ気になることがありました。

ラングドンの活躍で、4人の枢機卿のうち最後の1人がイルミナーティーの焼き鏝は押されてしまいますが助かります。その老人が次の教皇に選ばれます。あんな大火傷をしてすぐバルコニーに立てるのかという話はまあ許すとして、結末が微妙です。

バチカン市には警察があり、教皇のいる役所にはスイス衛兵隊もいます。その上以前にガブリエル・バーンやアントニオ・バンデラスが演じたような一種のシークレット・エージェントもいます。

動かぬ証拠が出てしまい、100人を越す枢機卿に犯行がばれてしまったカメルレンゴはコンクラーヴェの会場から去ります。逃げ切れないと悟り法王庁の中で自殺を計ります。それで一件落着ですが、もし彼が自殺をしなかったらどうなるんだろうと考え込んでしまいました。

事の重大さ、そして計画の挫折を考えると自殺というのは一応考えられる道ではありますが、カソリックの枢機卿として長い年月キャリアを積んだカメルレンゴなので自殺はできないというのも自然な方向です。欧州では今でも自殺をした人に教会は墓を提供しません。聖職者であれば自殺には強いブレーキがかかるでしょう。

万一カメルレンゴが自殺をしなかった場合、本来ならこういう人物を教会はどういう風に扱うのでしょう。何か裁判のような物があり、懲役刑にするのでしょうか。欧州のほとんどの国に死刑がなくなったので、いまさら火あぶりの刑というわけには行きません。

欧州の多くの国では死刑に順ずる無期懲役でも一定の年月が来れば釈放。年齢が高くなるとそれも釈放の理由になります。しかしカメルレンゴがやった事は釈放できないぐらいの大量殺人未遂。下手をするとバチカンという国が跡形も無く吹っ飛ぶ可能性すらありました。

そしてカメルレンゴが自殺する少し前、気になる言葉を発した人物がいました。カメルレンゴが自殺するとは分からなかったので、目立たないように殺せと命令したようなニュアンスでした。自殺をする聖職者も変ですし、殺せと命令する聖職者も変です。なんだか気になる結末でした。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ