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Gardiens de l'ordre /
Off Limits /
Sphinx

Nicolas Boukhrief

2010 F 105 Min. 劇映画

出演者

Cécile De France (Julie - 刑事)

Fred Testot (Simon - 刑事)

Julien Boisselier (Marc)

Nicolas Marié (主任警部)

Stéphan Wojtowicz (Gilbert)

Nanou Garcia (Sandrine - ジュリーの同僚)

Stéphane Jobert (Roland)

Jean-Michel Noirey (Rudy)

Gilles Gaston-Dreyfus (Christian - ラボでスフィンクスを製造する男)

Nicolas Grandhomme (Maxime - ディーラー、組織との最初の取っ掛かりになる男)

Vincent Rottiers (Jean - 有力議員の息子)

Nicolas Gonzales (Laurent - 凶暴性を見せる学生)

見た時期:2010年8月

2010年ファンタ参加作品

もう少し後でご紹介するつもりだったのですが、日本でちょうど危険なドラッグにまつわる裁判があり、新聞社が出した裁判記録を目にしたので、順番を変えて今出すことにしました。続くエンター・ザ・ボイドも同じ理由で早めました。ドラッグはそれが犯罪かどうかの前に、自分の健康にどういう影響があるかを考えるべきテーマです。

★ タイトル

いくつかタイトルがありますが、Sphinx という名前でファンタに出ました。スフィンクスはメイン・テーマとして登場するドラッグの名称です。フランスでは法(治安)の番人というような意味のタイトルになっています。オフ・リミットは映画のどの部分を指しているのかが分かりにくく、判断できません。治外法権というほど特殊なやくざ地区やゲットーが出て来るわけではありません。大物が上から圧力をかけて来て、法の力が及ばないという意味だとすると、映画の中でその描写は弱いです。

★ 相対的な点数

プロットに甘さが目立ち、現実的でなかったので、推理小説ファンとしては点数が低いです。ただ、今年のファンタは地盤沈下を起こしていたため、今年の作品の中では中程度でした。欧州の警察物は好きなので、その点では多少個人的なボーナス点がつきます。フランスは過去に刑事物でもっと出来のいい作品も出しているので不満は残ります。不満の大きな原因は設定が《あり得なねえ〜》状態だからです。

それでもここで取り上げる気になった理由は最近の日本から来るニュースのため。今ちょうどイケメンとして通っている俳優が裁判中で、その理由がドラッグ。同じファンタにギャスパー・ノエのエンター・ザ・ボイドという作品が来たのですが、舞台は東京。監督は私に「日本をこういう風に描いたことについてどう思うか」と聞きました。行きがかり上答える暇が無かったのですが、「自分は日本の最近のドラッグの現状を多少ニュースで見聞きして知っている、それを考えるとエンター・ザ・ボイドはそれほど現実離れしていないと思う、現実はもっとひどいかもしれない」というのが答です。

過去の日本は取締りが厳しく上手に麻薬事件を防いでいましたが、様々な方向に緩みが生じて、現在の日本はアメリカ、欧州の後を追っていると言えるでしょう。麻薬の側は上手にキャンペーンを張り、「違法ではあってもファッショナブルだ」というような雰囲気を醸し出し、一般人、特に若者に手を出すよう仕向けたと見ることもできます。その共犯と言えるのはずたずたになった家族、友人、知人、近所、学校の人間関係で、40年前なら止める人がいたのに、その後は止めるべき人が口を出さなくなってしまったことでしょう。日本の人間関係が壊れるには時間がかかっており、欧米で崩れても日本はその後大分持ち堪えていました。しかし現在はダムが決壊したような状態になっているように見えます。これを元に戻せるかに日本の将来がかかっていると言えるかも知れません。

まんまとドラッグ関係者の甘い言葉に乗せられてしまう人が後をたちませんが、そんな中日本は一部の業界はクリーンだからということで評判がいいです。スポーツの世界。最近外国から引き抜かれる日本人のプロ選手が増えましたが、重要な理由の1つがドーピングをしていないこと。自国の選手がドーピングで信用ならない状態に陥っていて、そのために日本人選手を買いに来るマネージャーがいるようなのです。日本はそういうプロの世界では面目が保てていますが、一般人や芸能界はそうは行かないようです。

★ 他の事件に比べてムカッと来る

ちょうど今裁判中の元俳優について有名新聞社が事件の記録を連載していますが、読んでいると胸糞悪くなってしまいます。ドラッグのスキャンダルは他にもあり、一部では有名歌手、俳優など芸能人が捕まっています。更正の努力をしても挫折という話も聞きます。なぜか重要な選挙と犯人逮捕や裁判が時期的に重なるため、今回も何か来るぞと思っていたら案の定重要な選挙と重なっています。そんな事にいちいち目くじらを立てるのは無駄。「これはマスコミのカーニバルなのだ」と達観するしかありません(笑)。

胸糞悪くなるのは事がドラッグだという点に加えて、誰かが誰かに飲むようにしつこく勧めたとか、誰かに証拠を隠せと依頼したとか、挙句に身代わりまで頼んだという話が飛び出すからです。なぜかその人の周囲には比較的まともな事を言う人がいたようで、しつこく勧められた人は誰かに相談した形跡があり、身代わりを頼まれたり証拠を隠すように頼まれたらしい人たちは、救急車を呼べとか、隠し切れるものではないと言ったようなのです。その点はこの醜い事件の多少明るい面ではありますが、それでも死人が出ています。

死亡した人の側にも色々不思議な人脈があるので、全く正廉潔白な人ばかりで、誤解が元で真っ向から対立しているというような話ではなさそうです。ただ、この事件の所だけに焦点を絞ると、周囲の人の危惧や発言の方がまともに見えています。裁判というのは主張をする場なので、訴えられた側が自分を救うために目一杯主張をするのは構いません。判決は印象で出すのではなく、立証された部分だけで出すもの。私が胸糞悪くなるのは私1人の主観です。元から手を出さなければこんな騒ぎは起こらなかったのに・・・。

★ 効き目のあるスローガンだったか・・・

大分前の話になりますが、リーガン夫人が Just say no! という反麻薬キャンペーンを張っていました。このスローガンを聞いた当時は腹を立てたものです。言うは易しいですが、行うのはほとんど不可能と感じたからです。できっこない事をスローガンにして、効果の無いキャンペーンを張り、有名人を集めてパーティーをやっているだけと思い、むかっ腹を立てた記憶があります。

しかしその後長く欧州に住んでいて、この言葉にはそれでも意味があると考えるに至りました。日本のように似たような人ばかりが住んでいる場所でない欧州には馬鹿な事を勧める輩も多いのです。そんな時、ノーと言える日本人でないととんでもない事になってしまいます。そういう意味では確かに Just say no! にも一理あります。自分に変な事を勧める者が現れた時にすぐにこのスローガンが頭に浮かんだのです。ドラッグの問題だけでなく、他の事でも妙な話を持って来る者がいたら使えるマルチに役立つスローガンだと後になって気づきました。リーガン夫人がそこまで考えてやったのだとすれば大したものです(笑)。

今度の事件に引っかかって不幸な結末を迎えてしまった女性は相手を気遣ってノーと言えなかったのでしょうか。気軽にノーと言えたら自分を救うことができたのだろうか・・・、その答は分かりません。記事を見る限りこの事件の前に何度か似たようなドラッグを取っていた形跡もあります。ギャスパー・ノエの新作に出て来る女性は日本人ではありませんが、彼女もノーと言う力がありませんでした。ちょっと横道に逸れましたが、今度の事件が、Sphinx を扱おうという気になったきっかけです。

★ あり得ね〜という設定

3人の警官が仕事中。1人が殉職します。夜中に大きな音でステレオをかけているためアパートに踏み込んだところ、馬鹿息子がドラッグをやって凶暴になっていて、ためらい無く警官に向かって発砲して来たのです。仕方なく撃ち返し若者は逮捕。しかし警官の1人は死んでしまいます。

若者は重症で入院。意識が戻ったところで「あれは警察の過剰防衛だ」と言い出します。たまたま有力議員の息子だったので一流の弁護士がつきます。困ってしまったのはその場で生き残った2人の刑事。上司は2人の事情を理解してくれますが、助かるには息子が危険なドラッグをやっていたことを証明しなければならなくなります。同じドラッグで暴力事件に発展するケースが最近増えていました。

2人はまだ警察が封鎖している馬鹿息子のアパートに住んでいるようなふりをし、愛人関係にあるふりをし、ドラッグのディーラーと接触を試み、取引に紛れ込みます。アンダーカバー捜査ですが、理解を示す上司にも詳細は一切知らせておらず、全く私的な行動で深入りしていきます。そこがあり得ね〜という所以で、全体がばかばかしく見えてしまいます。

★ ドラッグ違い

ここで扱われているドラッグは飲むと凶暴性を帯びて来るもので、人を殺すなんぞ全くためらいもなくなります。映画の中ではパーティー・ドラッグ、デザイナー・ドラッグと扱われているのですが、疑問が生じます。この種のドラッグは兵士の間に広がるタイプの物ではないのかと思いました。先日CSI:マイアミのエピソードを見たのですが、若者がパーティーをしていました。ドラッグも出回るようなシーンです。もしこんなパーティーで Sphinx を取ったら、後に残るのは生存者1名と50体の死体・・・などということになってしまうはずです。これもプロットの穴の1つ。

★ 地盤沈下

今年のファンタは地盤沈下と結論付けていますが、その一翼を担ったのがこの監督。彼は井上さんもご存知のブルー・レクイエムを作った人。私はこの種のサスペンスは好きではないのですが、自分の好みを横に置いて考えるとブルー・レクイエムはかなり気合の入った佳作でした。キリキリと締め付けられるようなサスペンスを出すのに成功しています。その同じ監督だと考えると地盤沈下と言わざるを得ません。

2人の刑事は危ない橋を渡りながら取引に持ち込むことに成功し、紆余曲折の末このルートの摘発には成功します。それで汚名も晴れます。しかしこんなへんてこりんな囮捜査は実際には無いでしょうし、警察からの許可は取っておらず、万一2人が捜査中に失敗して殺されてしまった場合、上司は詳細を知らないので、説明をする事もできません。筋書きとしてはかなり荒っぽいです。大体から麻薬関係の囮捜査はそう簡単ではなく、それなりに心得のあるベテラン刑事がアンダーカバーとして乗り込んで行くのが普通と思われます。日本でも普通の刑事は手を出さず、別な省の役人が担当します。担当官は薬に関するエキスパートできちんと国家試験を通った人たち。その場でどういう薬かが判断できなければ仕事にならないのでしょう。昨日まで普通の刑事だった人が入り込もうとしても雰囲気だけでやくざにばれてしまうのではないか・・・などと余計な心配も生まれます。

と、まあ穴だらけの作品で、それ自体はあまり評価していないのですが、最近のドラッグ事件にからめて行くと重要なテーマではあります。

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