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アイアンマン 2 /
Iron Man 2 /
Homem de Ferro 2

Jon Favreau

2010 USA 128 Min. 劇映画

出演者

Robert Downey Jr.
(Tony Stark - 兵器商人、技術者)

Davin Ransom
(Tony Stark、少年時代)

John Slattery
(Howard Stark - 武器商人、トニーの父親、故人)

Gwyneth Paltrow
(Pepper Potts - トニーの秘書)

Don Cheadle
(James Rhodes - 大佐、トニーの友人)

Yevgeni Lazarev
(Anton Vanko - ロシア人亡命者、元ハワード・スタークの同僚、イワンの父親)

Mickey Rourke
(Ivan Vanko - アントンの息子、武器の技術者)

Sam Rockwell
(Justin Hammer - 武器商人、トニーのライバル)

Samuel L. Jackson
(Nick Fury - 秘密調査組織の長官)

Scarlett Johansson
(Natalie Rushman/Natasha Romanoff - トニーの会社の法律顧問、後ペッパーの秘書、秘密調査組織のエージェント)

Clark Gregg
(Phil Coulson - 秘密調査組織のエージェント)

Garry Shandling
(Stern - 上院議員、国防調査委員会の委員長)

Leslie Bibb
(Christine Everhart - ジャーナリスト)

Jon Favreau
(Happy Hoganl - トニーのお抱え運転手)
Stan Lee (本人役)

見た時期:2010年10月

マーベル・コミックを映画化した2008年のアイアンマンの続編です。3本契約しているのであと1本続くようです。

★ パワー・アップの出演者、されど

アイアンマンは渋いキャスティングでとても気に入りましたが、続編は一挙にスターをずらずら並べる作戦に転じています。女性ではいきなり存在感絶大のスカーレット・ヨハンソンを出して来ます。やや内気だったペッパー・ポットと違い武術もできる凄腕の法律家です。

前回普段は善玉を演じることの多いブリッジスが悪役でしたが、今回はいかにもというミッキー・ルーク。ちょっと前に賞などでもてはやされましたが、普段はどちらかと言えば悪役が多い人です。彼も存在感十分、立派にダウニー君と対決しています。

それでも足りないと思ったのか、サム・ロックウェル、サミュエル・L・ジャクソン、ドン・チードルと賞に近い人や個性で既に名を成した人を連れて来ています。

アイアンマンはついて行き易いストーリーで好感を持っていたのですが、今回はちょっと軋みが感じられます。どこかしら木目の細かさが無くなり、政治のメッセージを無理やり前に出そうとしている感じです。アイアンマンにも政治のメッセージはありましたが、トニーとペッパーの微妙な関係にも重点を置いてあって、見終わるとすてきな後味が残りました。

それが今回は消し飛んでいます。出演者のパワー・アップだけでなく、モナコのシーンのド迫力、特殊撮影全開の後半アクション・シーンなど、お金はかなりかけたように見えます。しかし見終わっての余韻がなくなりました。見た、終わり、さようならです。

★ 復活組

ハリウッドにはスキャンダル続きで嫌な思いをした俳優がたくさんいます。酔っ払い運転から、ドラッグ問題、暴力、果ては殺人の噂まで色々あり、はめられた人、本人に責任のある人、他の人なら扱いが小さいのに大きく騒がれた人など様々です。ダウニー二世は将来性ある性格俳優になるというところでずっこけ、1度同僚からも見放され奈落に落ちたことがあります。本人にも一定の責任はあるでしょうが、お酒やドラッグに弱い人にわざわざお酒やドラッグを与える《お友達》も周囲にちらつく世界。ましてダウニー二世の場合小学生の低学年の時にダウニー一世から薬物を貰ったのがきっかけで薬物の世界に入ったという気の毒な事情があります。70年代前半から始めたのに初逮捕が30歳を越えてからというのは世間が寛容だったからなのでしょうか。最初の逮捕後何年か厳しい状態が続き、その後リハビリが成功。それからは次から次へと大きな役が入り、興行成績の良い作品もあります。

ルークは本格的なボクサーで、ボクシングのために来日したことがあるほど。彼にも武勇伝があり、お酒で失敗もしています。しかし最近は上り調子で、オスカーも話題になっています。現在は敗者復活戦で活躍中。何をやっても許されてしまうウディー・アレンは例外中の例外で、他の人はスキャンダルが起きると、そのまま消えてしまう人もいました。ところがある時期からお酒やドラッグはリハビリ・センターに入ってクリーンにすることができるようになったらしく、敗者復活組が出るようになりました。取っているドラッグの種類が違うのか、お酒に対する体の反応が違うのか詳しい事は分かりませんが、ハリウッド・スターでこういう問題を抱えていた人の中には別人のようにすっきりして、その後スキャンダルの無い人も出ています。日本ではリバウンドしてしまったというニュースをちょくちょく目にします。

★ ストーリー

前作で会社の経営問題はけりがつき、その後トニー・スタークはアイアンマンとして抑止力になり、世界は強い彼が見張っているから悪人が出ないという構造になっていました。米軍は彼の発明した鎧を軍の所有としたいのですが、トニーは民間人として世界を守る道を選んでいます。米軍はしつこくトニーに鎧の提出を迫り、調査委員会を開くまでになっています。

トニーは「自分と鎧は一体だ」として、鎧だけを渡すことには断固反対。友人のロードス大佐までが呼び出され、立場が難しくなって来ます。しかしトニーは類似の製品を開発中の北朝鮮、イラン、中国、そしてライバル会社のハマーは技術がまだ20年から10年遅れているので自分は無敵だと主張し、事なきを得ます。ここであっさりいくつかの国を実名で挙げています。2010年の現状を考えるとまあこの程度の名前はすぐ頭に浮かぶでしょう。

ところがそう言った直後、モナコのグランプリに出場中、ロシア人イワンが新しいアイアンマンとして登場。レースを大混乱に陥れた上、トニーの命を奪いかねない熾烈な戦いを挑み、トニーは危うく命を落とすところ。何とか切り抜け、イワンを逮捕します。

トニーは世界を1人で守るアイアンマンの役割に疲れを覚えて引退を考えていました。第1話でだめになった心臓に代わり動力を提供している機械が毒素を出す副作用を持っており、彼の体内には徐々に毒がたまっていました。間もなく命が終わると感じ、死ぬ前にやりたいと思っていた事をやろうと決め、グランプリに出場していたのです。そこへ自分を倒しかねない男が現われ、数日前に調査委員会で言った言葉「トニーの製品以外は20年遅れている」を覆してしまいました。

やりたい事をやる意味でも、間もなく死ぬという意味でも会社は信頼できる人に譲り渡した方がいいだろうということで、ちょっと前に秘書のペッパーに正式に譲り渡していました。彼の周囲も世界もなぜアイアンマンが以前のように悪を退治しないのか訝っていました。男性は肝心な時に重要な事を信頼できる人にも相談しないという典型例です。

一方調査委員会でアイアンマンにコケにされ、自分でも技術的にはまだアイアンマンに届いていないことを知っているハマーはモナコで捕まったイワンの能力に目をつけ、脱獄させます。あまり金には興味がなさそうなイワンにありったけの贅沢と、研究用の大きな場所を提供し、自分の作った戦闘マシン(ハマーのバージョンは鎧)の改良を要求します。言われた事をすぐやるイワンではありませんが、話の一部には賛成したらしく、開発をやり始めます。

米軍はモナコの騒ぎの後一刻も猶予ならぬとばかりにアイアンマンを追い掛け回し、鎧の提出をさらに迫りますが、死を目前にしているアイアンマンは思った通りに動いてくれません。そこでアイアンマンの親友の大佐に命令を出し、大佐はアイアンマンの鎧の1つを着て軍の基地に現われます。鎧は数個あります。

武器と見なせる鎧を軍所属にしたい米軍、死が迫っていると知り会社も何もかも手放し、最後にやりたい事をやると考えるようになったアイアンマン、会社経営のストレスでいらいらしているペッパー、友人の状態を気遣いながら軍の任務との板ばさみになる大佐といった登場人物が揃ったところで登場するのが秘密機関の長官とそのエージェント。エージェントは何とペッパーの秘書でした。長官は父親と秘密機関の関係、イワンとアイアンマンの父親の関係などを話します。イワンについてはアイアンマンも少し情報を持っていました。

その場では取りあえず毒素を抑える薬を打ってもらい少し元気を取り戻すアイアンマン。その後一箇所に缶詰にされ、開発をしろと言われます。その時父親が残したフィルムに目が行き、父親が残したヒントを頼りにアイアンマンの動力になる機械の改善に成功。これでまた元気いっぱい。後半はどたんばたんやりながらロボット同士の戦いが続き、最後は丸く収まります。めでたし。

★ 元ネタ

監督とダウニー二世はオリジナルの漫画の1つを使い、内容は現代に合わせて(かなり)変えたようです。オリジナルが描かれたのは70年代の終わり頃で、ダウニー二世が無精髭を生やしむさい格好をしたような絵が使われています。登場人物の中ではトニー・スタークと仲間、そしてジャスティン・ハマーは使われていますが、ストーリーにはかなり差があり、話の焦点も違っています。スタークがひどいアル中状態になる場面もあるようなのですが、映画版ではアルコールはたまに飲む程度で大きく絡まず、生命維持が難しくなるため、死を覚悟して人生の最後に羽目をはずそうとするスタークが描かれます。

使われる政治テーマも当時の物はばっさり切り捨て、現代のアメリカの様子を題材に使っています。北朝鮮と中国はともかく、イランは以前アメリカとは仲が良かった国です。原作が出た頃ちょうどイスラム革命が起きており、アメリカは大きく方向を転換せざるを得なくなった時ですが、漫画版アイアンマンの出版と時期的にどうだったのかは分かりません。数ヶ月の差で革命勃発前だったとすれば友好国、革命中ですとまだ混乱が続いていて、宗教界の長老がこれまでの友好国とどう付き合うかは未知数という時期。国交断絶は1980年です。漫画はもう出ていた・・・。アイアンマン2では北朝鮮、中国、イランが名指しで悪漢になっています。

監督とダウニー二世が骨子にした新しいスタンスでは、トニーがアイアンマンとして世界を見張り悪から守る役割に疲れて来ています。精神的な負担になっているからではなく、体が毒に犯されているからという設定です。2001年にガーンとやられ、経済面でも毒におかされ国力を落とし、世界中から軍を引いている現在のアメリカに呼応しています。映画ではアイアンマンは新しいエネルギー源の開発に成功し、また元気になるのですが、これはアメリカの将来を暗示しているのでしょうか。

★ ド迫力のモナコ

政治絡みのストーリーは時代が変わると後で見る人にはわけが分からなくなるかも知れません。逆に凄いアクション・シーンは大分後になっても輝きを失わないかも知れません。トニーがモナコ・グランプリに出場するシーンは見せ場です。まずまだ何も起きていない時にレーシング・カーが高速で走るシーンがあります。私はフランケンハイマーのグランプリを見ているのでこのコースはわりと良く知っています。あの狭い巾の道をあの速度で走るのはやはりビビリます。ベルギーのスパやモナコのコースは危険です。観客席ときっちり分けてある富士やモンツァと違い、モナコではしくじるとそのまま見物人が怪我をしたり、ドライバーが海に突っ込むこともあります。

そしてイワンが現われると今度は現実味を欠きますがド迫力の戦いシーンに変わります。イワンは電気鞭を装備していて、これでたたくと金属でもスパッと切れてしまいます。その上壊れた車からは燃料がこぼれています。イワンの鞭は火花を散らしている・・・、いつ引火するか分からない・・・恐い。車の事故で火傷を負う話も、感電で火傷を負う話も、ちょっとした事情があって詳しいので、特にこのシーンでははらはらしました。

★ 後半のアクションはトーイ

アクションはモナコのシーンだけではなく、後半は《鎧をつけたダウニー二世とチードル》対《無人のガンダムに変身したハマー側のロボット》の戦いがあります。特殊撮影を多用し、迫力を出そうとしたようですが、このシーンはおもちゃの戦いに見えてしまいます。その上アイアンマンがウルトラマンを思わせるようなポーズをするので、オマージュかと思ってしまいました。

★ 沈黙の交代

ドン・チードルはテレンス・ハワードの役を引き継いでいます。未確認情報によるとハワードはアイアンマンでは主演を抜いて1番高いギャラを取った人で、役にはよく合っているような印象を私は受けました。ただ、主演や他の有名な俳優を抜いて最高のギャラを取るほど抜きん出た事をしているわけではなく、アイアンマンの友人として背景に上手く溶け込んでいました。関係者は誰も多くを語らず(とは言ってもぴりぴりとした緘口令が敷かれたわけではなさそう)、恐らくはエージェントやマネージャーの間で喧喧諤諤の話し合いが行われ、チードルを代役に立てることで話がまとまり、俳優は何も言わずその決定に従ったのではないかと想像しています。私には雰囲気的にはハワードの方が良かったように思えますが、アイアンマン2の格闘シーンに物静かに見えるハワードが合うかは未知数でした。チードルとハワードは友人なので交代はスムーズに行ったのかなあと思っているところです。

悪役の主演に当たるルークとチラッと顔を出すサミュエル・L・ジャクソンも降りたと聞いたことがあります。スカーレット・ヨハンソンは代役で、本命だった女性が降りています。彼女はスケジュールが重なったため別な作品を選ばなければならなくなったそうです。

★ パートロフ、ヨハンソンの仕上がり

私はアイアンマンのパートロフの方が好きです。ちょっと内気でよくびっくりする秘書。今度はトニーが引退するため会社を託される有能な経営者の役。あれこれ事件が続かなければうまく行ったでしょうが、イワンが現われ、政府からはいちゃもんがつき、ストレス過剰気味。内気などと言っている場合ではなく、言い争いのシーンが多いです。前回のイメージを壊してしまいます。

対抗馬として登場するヨハンソンとはいい対照を作っていて、そこはうまく行っています。ヨハンソンが黒い髪、ペッパーが赤毛に近いブラウンの髪で登場し、2人がそっくりの黒いドレスを着て階段を上るシーンがあります。ここはよくできていると思います。

ヨハンソンの見せ場はボクシングのコーチをやっつけるところと建物に押し入るシーン。法律顧問かと思っていたら実はエージェントだったという設定で、武術に長けています。無論スタントマンを使うとか、相手を倒すように見せて実は倒される人が自発的にひっくり返るなどトリックは駆使しているでしょうが、スマートなシーンです。これまで彼女が体を使うと言えば男をたぶらかすシーンばかりだったので、これは新鮮です。

★ 3作目どうなるか

個人的な趣味で言えばアイアンマンの雰囲気の方が良かったです。父親との関連などを盛り込みアイアンマン2は事情説明篇となっています。ダウニー二世はコメディアンなので、3作目で少しとぼけたシーンを増やして欲しいところ。パートロフは自分はコメディアンではありませんが、相手がコメディアンですと、上手く漫才をこなせる人だと思います。

悪役のルークは別なタイプの悪人ロックウェルを振り回しおもしろかったです。このシリーズは悪役にも気合を入れる方針のように見えるので、次回誰を呼んでくるか興味深々です。

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