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スペイン一家監禁事件 /
Secuestrados /
Kidnapped /
Kidnappés

Miguel Ángel Vivas

2010 Spanien/F 90 Min. 劇映画

出演者

Fernando Cayo
(Jaime - 成功した男)

Ana Wagener
(Marta - ハイメの妻)

Manuela Vellés
(Isa - ハイメの娘)

Xoel Yáñez
(César - イサのボーイフレンド)

Guillermo Barrientos
(若い犯人)

Dritan Biba (ボス)

Martijn Kuiper
(凶暴な犯人)

César Díaz
(外回りの犯人)

見た時期:2011年3月

2011年春のファンタ参加作品

今年春のファンタの中では比較的低い評価をしたのですが、よく考えて見ると、世間にはこれよりできの悪い作品の方が多いように思います。ですので、あくまでも春のファンタの中の相対的な位置が低かったと考えてください。実は先日巷では比較的評判のいい英国の誘拐犯の物語を見たのですが、それを見て「Secuestrados の方がずっとおもしろかったわい」と考え直したところです。

いかにも成金という感じの金持ちの家族が新居に越して来ます。Secuestrados は、その引越しシーンから始まり、その日、次の日あたりの話です。家族構成は中年で長年苦労を共にして来たような夫婦と、年頃の娘。家族で引っ越し祝いをしながら夕食を食べたいと母親が考えていたのに、年頃の娘はボーイフレンドと約束があるから外出すると言い出し、親子喧嘩が始まります。

このシーンで分かるのは、健全な喧嘩のできるわりと健全な家族だということです。父親はちょっと母親に頭が上がらなかったり、娘にちょっと甘かったり、まあ、どこにでもあるような家族関係です。ちょうどそんなことで揉めている時に3人組の強盗が侵入して来ます。顔は覆面で隠し、取れる物は取り、さらに銀行から夜間金を引き出せと家族を脅します。家族のキャッシュカードを集め、一味の1人が父親を連れ出し、現金を引出させます。

残った2人は母親と娘を見張っています。一味の1人と父親が留守の間に時々警官が来たり、ボーイフレンドが来たりします。警官は近所の人の通報で騒音を出したこの家族に苦情を言いに来ました。これをチャンスに自分たちが犯罪の被害者だという事を知らせようとしますが、警官は敢え無く殺されてしまいます。娘が来ないので見に来たボーイフレンドも捕まってしまいます。タイミングが悪かったりして観客をいらつかせるシーンもあります。

またこの家にはパニック・ルームのような部屋があり、そこへこもってみるのですが、それもうまく行かずまた一味が力を握ってしまいます。父親と外に出た男はわりと冷静なのですが、家に残った若い男は行きがかり上娘を暴行してしまいます。母親が娘を助けたい一心で、自分をやってくれと懇願するシーンは皮肉で笑いを取ろうとしたのか、母親の必死の気持ちなのかが分からず、観客は笑うべきなのか怒るべきなのか戸惑います。というのは母親役の俳優は本当にこのぐらいの年の母親に見え、太っていて、特に美人でもありません。なので若い強盗には歯牙にもかけてもらえないと思います。そのあたりにどことなくシニカルではあってもユーモアが感じられ、同じ金持ちの人質事件を扱っているアリス・クリードの失踪と大きく違うところです。

犯人はどうやら東欧出身の人間らしく、詳しい背景は語られません。1人はやや年が上で、冷静、もう1人はやや軽率。外出した1人はその冷静な男で、いきなり理由も無く暴力という人ではありません。その比較的冷静な男を乗せ、父親は車を走らせるのですが、チャンスを見計らって車でわざと事故を起こし、男は意識を失います。

そんなこんなで、犯行は予定通りには行かず、しかも家族は父親の例にもあるように逆襲をします。ここからは物凄い勢いでショーダウンに向かって行きます。前半家族が恐怖におののき、犯人にひどい目に遭わされ、せっかくのチャンスをふいにしていたため、被害者の側にも凶暴性がたまっていたのです。

結局凄い結末になってしまうのですが、この作品はアメリカはハリウッド映画を吹っ飛ばす勢いと評価されています。比べられるのはミヒャエル・ハネケやガスーパー・ノエ。私の見るところ、ハネケほど意地悪くはありません。Secuestrados には多少息をつく暇もありますし、僅かながらユーモアもあります。

暴力シーンを比べるならガスパー・ノエのアレックスが相応しいのかも知れませんが、暴行が持つ意味とその復讐ということなら、アレックスの方がボルテージがかなり高いです。なので Secuestrados はやや中途半端な印象になり、私の評価も低くなってしまいました。しかしエンターテイメント性を考えるとアリス・クリードの失踪よりおもしろいです。また、ハリウッド式のハッピーエンドはありません。

監督の長編2作目と考えるとまあ良くできていると言えるかも知れません。

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