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Spanien 2011 94 Min. 劇映画
出演者
Daniel Brühl
(Álex Garel - ロボット工学者)
Marta Etura
(Lana Levi - アレックスの兄の恋人、元アレックスの恋人)
Alberto Ammann
(David Garel - アレックスの兄、ラナの恋人)
Claudia Vega
(Eva - ラナとダヴィッドの娘、新型ロボットのキャラクターのモデル)
Lluís Homar
(Max - アレックスに仕えるロボット執事)
Anne Canovas
(Julia - アレックスの友人、新しいプロジェクトのチーフ)
Sara Rosa Losilla
(ロボット、プロトタイプ 519)
Ignasi Martin
(ロボット - Nino 519)
Manel Dueso (教授)
見た時期:2012年8月
★ タイトル
ドイツ語の副題は《感情はプログラムできない》といいます。
★ やっと見られたスペイン語のブリュール
ダニエル・ブリュールは西独の生んだ天才俳優。彼が生まれた時には西ドイツという国は確かにありましたが、この西の字は西ドイツという意味ではなく、スペインという意味です。
彼の本名はドイツ式に読むとダニエル・ツェーザー・マルティン・ブリュール・ゴンザレス・ドミンゴといい、マルティンまでが名前で、ブリュール以下が姓です。ドイツでは「ドイツ人俳優ダニエル・ブリュール」ということになっていますが、語学にはあまり問題が無いようで、フランス語、英語などの作品にもちょくちょく出演しています。
カタロニア人のお母さんがいるので、母国語はカタロニア語と、ドイツ語。育ったのは主としてドイツなのですが、カタロニア語はかなり行けるようです。
Eva エヴァ はスペイン語の映画という事になっています。やっとブリュールのスペイン語の台詞が聞けると思って勇んで見に行ったのですが、まだ体がファンタのスケジュールに慣れていなかったことと、画面が非常に魅力的でそちらに見とれていたこともあり、ブリュールが実際にスペイン語を話していたのか、カタロニア語を話していたのかまで分かりませんでした。
私はスペイン語をちゃんと最後まで習った事はないのですが、日本で大学に行っていた頃2年ほど準国営放送のスペイン語講座を1ヶ月間だけ見ました。人形を使ったとても楽しい番組で、主人公になっている美女カルメン、イケメンのホセ、ちょっと間の抜けたフランシスコが登場し、コメディー風の寸劇をやります。講師は3人の人形の声優も担当している日本の大学に務める先生たち。
ちょうど大学に入学した年と次の年だったため、5月になると自分の大学が忙しく、文法なども最初の1ヶ月習ったところでおしまい。なので挨拶程度と、ごくさわりのところだけしか勉強しませんでした。
スペイン語は相性がいいらしく、ラテン語と英語を挟んで、ちゃんと習わなくても時々ざっと何を話しているのかが分かったりします。単語が語幹の部分で英語、ドイツ語、フランス語、そして何よりもラテン語と共通だからなのかも知れません。発音はスペイン語講座の最初の月にみっちり習ったので、それらしい標準語の発音と、スペインで大きな方言1つは耳にしました。
ところが Eva エヴァ の俳優は他のスペイン人に比べ聞き取りにくい発音で、本当にスペイン語を話しているのかが分かりにくかったです。字幕を追わなければならず、その上画面が時々凄くおもしろいので、そちらを見るのに忙しく、結局最後までダニエル・(中略)・ブリュールが一体何語で話しているのか確信が持てませんでした。しかしドイツ語以外の言語で、しかもドイツ人でない役でちゃんと1本映画が撮れているので、「わ〜っ、凄い」と思いました。そういう有能な俳優だという話は前から知っていたのですが、本当に見たのは初めてです。
ブリュールは Eva エヴァのインタビューをスペイン語で受けており、そちらでは私にも聞き覚えのある発音で答えていました。
★ 監督
短編2本を作った後の長編デビューです。他に現在も続いているテレビ・シリーズの監督もやっています。劇場映画の経験の無い人としては完成度の高い作品に仕上がっています。今年のファンタは不作と何度か言っていますが、その中できらりと輝く佳作です。監督の子供の頃からの趣味はロボット製作。映画制作の経験が浅いのにこの作品が上手く行ったのは個人的な関心のためかも知れません。Eva エヴァ は賞をいろいろ貰っています。
★ ファンタらしくない SF
不作の今年、初日と2日目は作品の選択ができず、出された物をそのまま受け入れるしかない日でした。これと言った佳作が無い中、他の作品を大きく引き離した優秀作が Eva エヴァ でした。
Eva エヴァ は典型的なファンタ作品ではなく、一般の観客の鑑賞にも十分耐えます。その理由は SF 部分がスペインの地方の町の景色によく溶け込んでいて、ぼんやりしていると SF であることを忘れ、恋愛映画と間違えそうなスタイルになっているからです。 撮影はカタロニア、アラゴンとスイス。SF だという大きな理由は時代が2041年に設定されていて、ロボットが現在より数段階進歩しており、飼い猫ロボットや執事ロボットが出て来るからです。そして主人公とその家族はロボット研究を専門とする研究所のある町の住人。
★ あらすじ - 久しぶりに戻って来た主人公
時は2041年。あと30年ほどで、世界はこうなっているか知りたいところです。場所はスペインの田舎町サンタ・イレーネ、カタロニア地方のようです。大学町で、ロボット工学の研究所があります。大学で成り立っているような町です。主人公はロボット開発の優秀な学者。10年前に町を去り、久しぶりに戻って来ました。
登場のシーンがかっこいいです。もさっとした無精ひげを生やした青年と中年の間ぐらいの年のアレックスが、小型の飛行機のタラップを降りて来ますが、猫がついてきます。何とロボット猫!
猫の専門家井上さんへの質問: 犬は人間に慣れ、なつくこともありますが、猫はご主人様にそっぽを向くことが多いと聞きます。とすると、Eva エヴァの冒頭飛行機から降りて来る飼い猫ロボットは「ありえね〜ぇ」となりませんか。もし見る機会があったら教えてください。(そのシーンだけならインターネットにメイキング・オブが出ています。7分ぐらいのインタビューの5分過ぎあたりにそのシーンがあります。)
アレックスはかつてはその町のロボット研究所にいた人。優秀な学生で研究所にそのまま残りました。兄夫婦(カソリックの国で2人の姓が違うので事実婚か)は現在もずっとその町に住んでいます。2人には小学生ぐらいの年の娘がいて、エヴァという名前です。兄の妻は元弟の恋人。10年前突然弟が町を去ったので、気の毒に思った兄が彼女を慰めたのでしょうね。そういういきさつがあったので大人3人はいくらか気まずそう。
エヴァはちょっと意志の強い個性のある少女ですが、町に戻って来た叔父に関心を持ち、2人は仲良くなります。
★ ロマンスから死へ
アレックスは大学卒業後、研究所で子供のロボットの開発に携わっていました。しかしある日恋人ラナも何もかも放り出してそこを去ってしまいます。
10年の間に同じくロボット開発に携わっていた恋人のラナはアレックスの兄ダヴィッドと結婚しており、一人娘エヴァも一緒に住んでいます。そういうところへ久しぶりに戻って来たアレックスは早速一軒家に落ち着き、ロボットの執事とロボットの猫と一緒に暮らし始めます。
かつて参加していたプロジェクトのチーフにも会いに行き、研究所も訪れますが、性格的に1人暮らしが合うようで、研究は自宅で行います。ちょっと気難しい性格に描かれています。チーフからは改めて子供ロボットの開発を割り当てられます。少年ロボットで、動作の機能は完成。残るは感情の動きだけです。
そのアンドロイド開発ののたたき台として誰かをモデルにしようと思っていたところ、エヴァに出会い、彼女をモデルにしようと考えます。ラナは彼女をプロジェクトの実験台(モデル)にすることに反対します。アレックスはラナの反対を無視して勝手にエヴァをモデルに使ってしまいますが、その頃からトラブルが起き始めます。
まずはかつての恋人ラナに改めて恋心を抱いてしまい、兄とトラブルになります。そしてエヴァとラナに何か大きな秘密が隠されているのではとの疑念も浮かびます。そしてラナはエヴァと揉め事になり、崖から落ちて死んでしまいます。ラナの死後エヴァについてとんでもないことが分かり・・・。
★ ロボットのたたき台
天馬博士が天馬飛雄をたたき台に使ったように、アレックスはエヴァを たたき台に使うのですが、そのうちに色々考え始め、ラナへの恋の炎にまた火がついてしまいます。ラナは迷惑。アレックスに対して恋心は残っているものの、この10年ダヴィッドと暮らしており、真面目な性格のラナは困惑します。ダヴィッドもいい加減な性格ではないので怒ります。アレックスの感情が妙に動いたのはエヴァと長い時間を過ごしていたのが原因。そのうちにアレックスはエヴァについて疑念を抱き始めます。
無論エヴァはラナの娘で、ラナはかつてはアレックスに恋心を抱いていたので、そいう環境がエヴァに影響を及ぼし、それがアレックスにも影響を及ぼすということは考えられます。しかしアレックスはそれだけでは説明にならないと感じ始めています。
★ アッと驚く秘密
・・・はばらしません。非常に静かに進む物語なので、見終わってもすぐにはアッとは驚かないかも知れません。しかし良く考えるとやっぱりアッと驚きます。Eva エヴァは日本公開か DVD 発売の可能性があるので、ばらすのは止めておきます。
見る機会がある人は劇場で見ることをお薦めします。話全体は地味に進むので家で DVD を見ればいいのかも知れませんが、非常にビジュアル的に優れたシーンがあるのと、スペインの雪に覆われた田舎町の雰囲気がいいので、大きなスクリーンで見た方がいいです。
★ ロボットと日本人、ロボットと西洋人
日本はロボット開発は江戸時代から行われていて、その頃から人間の子供に似せたり、親しみを持てるロボットが好まれています。ロボット文化を人形文化の延長だと考えると、日本は埴輪の昔から人形文化で来ています。人形を感情を持って扱う国です。
ですので、江戸時代のからくり人形はよく子供の姿をしていますし、鉄腕アトムも子供を失って悲しむ天馬博士がアトムを生み出します。ロボットという言葉を厳密に考えると、人間の形をしていない、大量生産の機械や、自動的に温度や水の量を測り、どんどんスイッチを切り替えて行く洗濯機もロボットと言えます。日本人は人間の仕事を受け持ってくれるロボットと、人間の形をしたロボットは別な物と考えているように思えます。
欧州ではロボットというのは奴隷に代わって人間の仕事を受け持つ便利な機械と考える傾向があり、親近感や愛着を持つ人は日本より少ないです。たまたま形が人間に似ていてもあまり感情移入はしないようです。
欧州にも古くから人形はありますし、驚くほど豪華な衣装を着ている人形もありますが、顔の表情はこちらが凍りつくほど冷たいものが多いです。ぬいぐるみもようやく最近かわいい物が出るようになりましたが、長い間それほど愛着を抱けるかわいらしさが見られませんでした。深く研究をした事はないのですが、何か根本から人形、ロボットに対する気持ちが違うのではないかと感じます。
そういう一般から考えると Eva エヴァはちょっと変わっていて、ロボットに感情を入れるというテーマに正面から取り組んでいます。アレックスが連れている執事と猫は日本人の持つ感情に近いかも知れません。
しかし感情を表わせるロボットを作る段になるとここでも東西のと言うか、日本と海外の違いが見えます。ロボットや人形の感情が人間と同じにならないというのは日本では考え方の前提で、人間がロボットを作っているのだという自覚があります。その上で、人間のようなスムーズな動きのできるロボットを開発したりします。介護用のロボットも開発中と聞きます。
欧米のロボット開発は宗教の影響があるのか、何か他の要素があるのか今ひとつ分かりませんが、「人間を創造していいのは神だけ」というためらいと、そのハードルを越えてしまって限界に挑戦する、2つの要素が葛藤を作り出しているような印象を受けることがあります。日本に比べると、ロボットは人間が作る物だ、できた物には愛着を抱くのだというスムーズな移行が見えず、欧州からかわいらしいロボットが生まれる事はないのではないかと思う時があります。監督の作風はそのあたりを留意しているのかなと思います。精巧なロボットを作る学者と、クローン人間に労働をさせる学者、意図せずとも競争になっています。
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