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アルゴ / Argo

Ben Affleck

USA 2012 121/130 Min. 劇映画

出演者

Ben Affleck
(Tony Mendez - CIA 職員、救出作戦の専門家)

Aidan Sussman
(Ian Mendez - トニーの息子)

Taylor Schilling
(Christine Mendez - トニーの妻)

Bryan Cranston
(Jack O'Donnell - CIA 管理官、トニーの上司)

John Goodman
(John Chambers - ハリウッドのメイクアップ担当者)

Alan Arkin
(Lester Siegel - 映画制作者、ジョンの知人)

Danielle Barbosa (レスター家の家事担当者)

Rob Tepper (映画監督)

Kyle Chandler
(Hamilton Jordan - ホワイトハウスのスタッフのチーフ)

Bob Gunton
(Cyrus Vance - この事件で大統領と対立して辞任したカーター政権の国務長官)

Philip Baker Hall
(Stansfield Turner - CIA 長官)

Tate Donovan
(Robert Anders - 領事部職員)

Christopher Denham
(Mark Lijek - 領事部職員)

Clea DuVal
(Cora Lijek - 領事部アシスタント)

Rory Cochrane
(Henry Lee Schatz - 大使随行員)

Scoot McNairy
(Joseph D. Stafford - 領事部職員)

Kerry Bishé
(Kathleen F. Stafford - 領事部アシスタント)

Victor Garber
(Kenneth D. Taylor - カナダ大使)

Page Leong
(Patricia Taylor - ケネスの妻)

その他関係した実在の人物

(John Sheardown - カナダ大使館の職員、アンダースの友人)

(Zena Sheardown - ジョンの妻)

(Somchai Sriweawnetr - 以前アメリカ大使館で働いていたタイ人料理人)

(Mary Catherine O'Flaherty - カナダ大使館職員)

(Roger Lucy - カナダ大使館職員)

(Laverna Dollimore - カナダ大使館職員)

Mike Wallace
(本人)

見た時期:2013年3月

オスカー7部門ノミネート、作品賞、脚色賞、編集賞受賞

ストーリーの説明あり

実話で、決着したことも知られているので、推理小説的なネタばれはありません。ストーリを紹介しますので見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ 恐ろしい数のキャスト

・・・ですが、多い理由はデモ隊、市場や商店街の歩行者、警備隊の役のエキストラ。ストーリーに関わる主要な人物はボーン・アイデンティティーなどで会議に出るような政府当局者数人、人質となった6人、救出に向かうベン・アフレック、ハリウッドでバックアップする芸能関係者です。

★ 今が旬

去年貰った映画館のクーポン券を使って劇場で見ようかと思っていたのですが、もう DVD 屋さんに出てしまったので借りて見ました。劇場用ですとなぜか120分と130分のバージョンがあるのでどこかカットされていたかも知れません。家で見た分がどちらのバージョンかも確認しませんでした。ただ家で見る時はボーナスのインタビューも見られるので、そういう意味では得でした。

ちょっと前にオスカーをもらったばかりでもう DVD 屋さんに出たので少し驚きましたが、今公開して早く DVD 屋さんにも出してしまわないと間もなく中東情勢が動いて興味を持つ人がいなくなる可能性があったからなのかも知れません。

イランとアメリカは一応犬猿の仲ということになっていて、米側からイランに対しては時々嫌味が飛び出しますが、それとは別に「絶対許さないぞ」と言って置きながら実はイランの核開発にそれほどきつい歯止めをかけていないという事実があります。素人目に感じられるのは米軍が中東から徐々に撤退して行きたいので、以前のようなガチンコで喧嘩をする構えを解き始めているのではという可能性。私はこの方面の専門家ではないのでそうしょっちゅう報道を追いかけているわけではありませんが、アラブの事はアラビア人に、アジアのことはアジア人に「自分でやってよ」と言っているように見えないこともありません。

となると、イラン vs アメリカの睨み合いも間もなく緩くなるので、映画はその前に出してしまおうということなのかも知れません。

★ アルゴ・アレルギー

私はベン・アフレックには点が甘いのですが、アルゴをけちょんけちょんにけなす人もいます。ひどい政治プロパガンダだというのが理由です。そりゃそうでしょう。アメリカ人がこういうテーマを選んでプロパガンダにならないわけはありません。

とは言うもののアフレックは慎重で、煽り立てる形は取っていません。「アメリカ人はこういう風にイランを『上から目線』で見ているのだよ」という説明型の目線で、70年代頃のアメリカ大使館の人間がどういうメンタリティーだったかをあまり隠そうとせずに描写しています。距離を置いて考えると、「ああいう目線でアラビア人やペルシャ人を見ていたら、ある日こういうしっぺ返しを受けた」という言い方もできます。そこをアメリカ人のアフレックが避けずに表現しているので、私はそれなりに自戒を持って作った作品だと考えています。

アメリカ人は色々ないきさつがあるので、ペルシャ人については無茶なプロパガンダを仕掛けることがあります。かなりの部分はフィルターのかかったメディアに煽られた結果で、実質どの程度のアメリカ人が本気で反アラブや反ペルシャなのかは測れません。「無関心」「知らなかった」層がかなり多いのではと思ったりもします。

当時はインターネットが一般人に使われることも無く、一般人が独自に情報を得る方法が無かったので、普通はマスコミ以外情報源がありませんでした。しかし今は大統領の名前がバラクとかフセインになる時代に入っているので、2010年代と70年代では状況が大きく変わっています。

アジア人の私から見るとこの種のキャンペーンは公平性に欠けるように見えますが、アメリカはやる時はやる、お構いなしに思った事を勝手に実行してしまいます。例えば1991年に星の流れる果て(原題の直訳は「娘なしでは駄目」)という映画を作った人たちがいます。

体験者の本を元にした作品。本の出版は90年代始め、出来事は80年代中頃。アルゴの事件はその5年ほど前。

米国人の女性が米国に帰化していたイラン人の医者と結婚。米国で差別の絡むトラブルが続き、一家でイランに移り住むことにします。イランに渡ってみたものの米国女性は土地の習慣に馴染めず米国に戻ることを決心。

2人の間には《場》に左右される事情が色濃く見られます。《米国に住み、そこに馴染んだ外国人の医師》というステータスの夫に支えられた家庭生活が崩れ、イランに戻った夫がイランで医師という高いステータスを得られず、同胞から《米国に1度帰化していたイラン人》という目で見られることになります。夫はイランという《場》でイラン人の夫として振舞ったこともあり、アメリカ人の夫人に取っては非常に住みにくい環境になってしまいます。

この作品の元になる本や出来事がまだ新聞を賑わしていた頃、私はこの女性がイスラム教の習慣を夫から全然聞かされていなかったのか、聞いていてもアメリカ式を通そうとしたのか、また国際結婚をした時相手が何人(なにじん)であろうと、話がツーカーで通らないことを承知していたのか疑問に思った記憶があります。ドイツに住んでいても身の回りには(ここまで極端ではなくとも)似たような話がたくさん起きていました。

映画になった出来事は一般的な文化の差、その家だけの家庭内の問題、関係した人が住んだ場所、階層によってその人の振る舞いが左右されるなど、問題が不幸な方向に多く重なったと感じます。

この女性はアメリカが絡む外交問題に巻き込まれた上、離婚に絡む養育権の問題にも巻き込まれ、結局は国際条約を無視して子供を強引に国外に連れ出してしまいます。この条約は1983年暮れに発効しているのでこの夫婦はそれに引っかかる計算になります。

この出来事は夫側の主張と彼女側の主張が真っ向から対立し、双方がエスカレートした可能性もあるので、その辺は相殺して考えた方がいいですが、彼女の夫の側の文化に対する拒否感が先に立ってしまった面は否めません。

彼女は米国内では概ね同情と支持を受け、本を出版したり講演会をしていたそうです。その同じ国際条約に今はアメリカなどが日本に加盟しろと要求しているのは不思議な巡り合わせです。

いずれにしろこの出来事、本、映画は目茶苦茶プロパガンダに使われていました。

また原子力発電か、核兵器かという問題でもドガチャカやっています。アルゴはこんな風に今でも揉めそうな国が、本格的にガチンコで揉めていた時代の話を扱っています。この話を去年映画化できたのは、90年代の終わり頃にこの事件の政府の文書が公開されたため。おそらくは関係者が皆定年になったり、両国間で当時のような直接的な激しい争いが減ったためでしょう。

★ 実際の事件 − 1979年11月発生

非常にアメリカに近い王政だったイランに1979年政変が起き、翌年国王は休暇で国外に出ると言ったまま亡命してしまいました。(かなり最近成立した王朝。親の代に成立し、子供の代に終了。後を継げる子供は男女合わせて5人生まれ、現在までに若い方から男女各1人死亡)次の月に入れ替わりに帰国したのがフランスで長い間保護されていた宗教派の人たち。ガチガチの保守派で、積年の恨みもあり、それまで政権についていた人たちは総入れ替え。

病気治療のため国王が渡米したことがイラン国内で反米運動に火をつけ、大使館が襲撃されます。直接の原因を作ったのはキッシンジャー。トラブルを嫌って米国への入国許可を出すことを渋っていたカーター大統領を説得してしまいます。そのため大統領は次の選挙には負けてしまい、まんまとリーガンに大統領の地位を取られてしまいます。えらい迷惑。

本来はウィーン条約22条があり、大使館の敷地は外国の国土に順ずる扱いをすることになっているので、その国の一般市民が許可無く入ってはいけないのですが、この時はそんな狼藉を止める余裕はありませんでした。直接には400人前後の学生が怒って入ったとされていますが、後ろに政府の支持があったか、「苦しゅうない」といったスタンスだったようです。学生たちの主な要求はアメリカで入院中の国王の送還。

別行動で難を逃れた人もおり、最終的に人質に取られたのは52人となりましたが、大使館内にいたアメリカ人が400日を越える日数人質になっていて、解放されたのは国王が病死してから。もし手術や治療が上手く行っていたらその先何年人質になった分かりません。日本では何十年も人質ということも歴史上では珍しくありませんが、アメリカ人はそういう話には慣れていないと思います。

そんな中運の良い6人が事件発生直後に米国大使館を離れることに成功します。連れ戻された人もいたことを考えるとかなり幸運。しかし逃げ込んだ先で行き止まり。楽に国外に出ることはできませんでした。映画ではほぼ最初から6人一緒ですが、実際には二手ぐらいに分かれていて、全員が集合したのはカナダ大使の公邸。そこで行き止まりです。

この時点でこれが朗報だったのかは皆さんの判断にお任せします。6人の存在がいつ外にばれるかも分かりませんし、そうなるとカナダが直接巻き込まれます。その上首都のど真ん中からどうやって国外に出すかが頭の痛い問題。イランで使われている言語を理解できるのは1人。銃を持った人が近くにうろついていないだけ幸運ではありますが、脱出に成功するまでの間のストレスはかなりなものです。

6人別行動の知らせを受けたアメリカ政府は CIA の専門家を呼び、たった1人の男に救出作戦を任せます。それがベン・アフレック演じるトニー・メンデス。この先はスパイ大作戦のシナリオだと言われて信じてしまいそうなぐらい現実離れしています。

★ 映画のロケハンをしに来たカナダ人の一行

元々イランに長期滞在していた6人を、アメリカから映画のロケの場所を調査に来たことにして、入国から2日ほどで出国という体裁を整え、カナダ人に化けさせて国外に出すというのが計画でした。急遽6人の偽経歴を作り上げ、一夜漬けで覚えさせ、衣類、持ち物、カナダ政府が協力してにわか作りしたパスポートを渡し、問い合わせ先となるアメリカの映画会社を設立。全部でっち上げです。

カナダ政府の外交的なバックアップの他にハリウッドの映画人が協力。映画界から参加したのは元々世界大戦中に傷痍軍人の整形手術や義足作りをしていた人。戦後は芸能界に入り、特殊メイクで手腕を発揮。戦争中本当の兵士の損傷を受けた顔を治す仕事をしていたので、健康人のメイクなどお手のもの。アウターリミッツなどのスタッフをしていたそうです。

助けてもらえるはずの6人は当初リスクが余りにも高いのでためらいがち。時間が無いこと、もっと良い選択肢が無いことで何とか同意。

★ リスクの多い綱渡り

カナダ大使館では使用人が滞在中の客6人がずっと家に籠っているため不審感を抱き、客人の正体に気づきます。ただ、彼女はすぐ密告に走るようなことはしません。

大使館では占拠した者たちが、大使館員が慌てて処分した書類の山を丁寧に再生し(実話でしょうが、恐ろしい手間)、大使館関係者の顔写真が浮かび上がって来ます。この写真を人質とつき合わせると、欠けている人員が判明します。手配写真を空港、国境警備隊などに送られるとピンチです。

アルゴ計画の方は少し前に進み、イラン当局が許可したので市場へ行ってロケハンができることになります。イラン当局は許可を出しておきながら、変な質問で嘘があれば見抜こうとしますが、さすが公務員。短時間で偽アイデンティティーの書類を読みこなし、暗記する力はこんな非常時でも健在。

ところがせっかく動き出したメンデスの計画は、別な救出作戦が割り込んだため中止命令。新しい選択肢、大使館へ海兵隊か何かを突入させる計画が決定されてしまいます。それに伴い、ハリウッドの支援部隊はキャンセル。

短い時間に考えた末、メンデスは強行突破を決心して上司にだけ言います。6人には計画中止命令などはしゃべりません。そのまま6人を空港に連れて行きます。

ここからが最後で最大のリスク。空港で足りない書類をポーカー・フェイスの演技で補い、不備は相手のせいに。ところが飛行機に乗り込む寸前軍関係者がハリウッドに電話で確認を取ると言い出す番狂わせ。ハリウッドに控えていたジョン・グッドマンとアラン・アーキンが口裏を合わせてくれたので、ぎりぎりセーフ。

大使館で写真が再生され、空港に連絡が入った時はすでに遅し。まさにスパイ大作戦成功のシーンです。

★ 当局は一切関知しない、よろしく

アメリカはまだ大勢の人質を取られているので、作戦成功を公にするわけにいかず、カナダが勝手にやったことにします。在イランカナダ大使館はこの作戦と同時に閉鎖。件の使用人は陸路隣国へ亡命。アメリカは手柄をカナダに譲って、国中で「ありがとうカナダ」キャンペーン。

メンデスは CIA から最高待遇で表彰されますが、極秘なので、すぐその勲章は取り上げられ、彼の名前はどこにも出ません。何しろ当局はフェルプス君にもブリッグス君にも一切関知しないわけですから、メンデス君なんて元から知らないというスタンス。

唯一彼がこの作戦に関与したことを示すのは映画のコンテ。実際には90年代後半に入って機密の公開があったので、彼の妻や息子もトニーが大変な苦労をして人を救った英雄だと知るわけですが、それまではこの絵も本当は処分していなければいけません。ただ、この息子は病死しています。とは言うものの機密公開後なので、「お父ちゃんが家族をほったらかして外国へ行ったのにはわけがあった」ぐらいは理解する時間があったかも知れません。

アフレック版は脚色してあるので、実話とやや違う部分もあるようですが、このページの前半は映画中心でなく、起きた出来事中心に書いてあります。後半は映画に移りましたが、スパイ大作戦もどきのサプライズ作戦だったことは実話の方も、映画も同じだったようです。

こういう事を生業としている人はカムフラージュとして家族も必要ですが、生活は難しく、離婚寸前だったメンデス。ショーン・ペンとナオミ・ワッツのようにお互い何をしているかを大体知っている夫婦と、夫か妻が口を閉ざしている夫婦、どちらがいいのでしょう。

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