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サクラメント /
The Sacrament

Ti West

USA 2013 95 Min. 劇映画

出演者

Kentucker Audley
(Patrick - 写真家)

Amy SeimetSamz
(Caroline - 元麻薬中毒患者、パトリックの妹)

AJ Bowen
(Sam - パトリックの友人)

Dallas Johnson (サムの妻)

Joe Swanberg
(Jake - パトリックの友人)

Gene Jones
(Eden Parish の教祖)

Kate Lyn Sheil (Sarah)

Shawn Parsons (Carpenter)

Donna Biscoe (Wendy)

Shaun Clay (Robert)

Alisa Locke
(キャンプの教師)

Dennis Clark
(キャンプの教師)

Shavone Gadsden (共謀者)

Salena Michelle (共謀者)

Christian Ojore Mayfield
(ヘリコプターのパイロット)

Dale Neal (Andre)

Carolyn McIver
(アンドレーの妻)

Shirley Jones Byrd (Lorraine)

Kate Forbes (Mindy)

Jermaine Rivers
(キャンプのガードマン)

Lj Smith
(キャンプのガードマン)

信者

Millie Wannamaker, John Deifer, Lawrence Edward Staab, Ginny Cameron, Eric E. Poe, Mark Ezra Stokes, James Troutman, Melanie Carey, Tammy Cleveland, David Cleveland, Ronald Pickens, DeAnna Middlebrooks, Lawrence E. Staab, Victor A. Lawrence, Bill Mitchell, Breezy Sharp

見た時期:2014年3月

2014年春のファンタ参加作品

ストーリーの説明あり

ストーリを紹介しますので見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ イーライ・ロス(エリ・ロート?)

最近おやっと思う作品でロスの名前を見ます。自分は出ず、制作だけのことも多いです。まだ若い人に見えますが、実は1972年生まれの中年。若い頃から制作や脚本など裏方でヒットを出し、主眼はそちらに置いています。好みによりますが、イケメンなことは確か。ラテン系に見えるのですが、東欧、中欧系。元から俳優やっても行けたと思います。何で若いのに手堅い仕事やっているんだろうと思ったら、かなりインテリな家庭に育ち、元々目指したのは俳優ではなく、映画作り。適度に有名な映画人とも知り合い。

ちなみに制作作品は90年代から18本、脚本は13本、監督は10本、出演はエキストラのような小さい役も数えると24本。その中で仕事をおぼえて行ったようです。

The Sacrament には制作で関与。

★ かなり実話に近い

ロスの名前を聞くと、ファンタ向きのキャビン・フィーバーホステルといったタイトルが浮かびますが、たまには The Sacrament のような渋い作品にもお金を出すようです。

The Sacrament は実話を元ネタにしていて、春のファンタの作品紹介に詳しく書きましたので、それをまずここに引用します。自分の書いた物の引用ですが、有名論文で引用方法が原因で揉め事になったので、引用元もご紹介。資料は事件当時から現在までの様々な報道。

----------引用開始----------

【本当の事件】

発生地: ガイアナ
教祖: ジム・ジョーンズ
宗教: キリスト教に共産主義を混ぜたような平等世界を目指すカルト集団
死者: 教唆、強制による900人強の自殺者、襲撃による死亡者若干
経営: 強制か自主的な奉仕による入植
大量死亡のきっかけ: ジョーンズたちが米国からガイアナに集団移住した後噂が立ち、脱会信者の身内から話を聞いた民主党国会議員の大掛かりな調査が入る。何かのはずみで信者側が議員団を襲撃。教祖が「もはやこれまで」と決め、信者に毒を飲ませた。教祖は毒ではなく、自殺他殺不明の銃弾で死亡。

《サクラメント》は宗教用語で、抽象的、雲をつかむような話ではなく、《現世の具体的な神のご利益》のこと。作品の内容をつかんだタイトルです。

ジョーンズ事件を知る者としては、現場の植物と気候がやや違う、当時はインターネット報道、携帯電話が無かったという程度で、他はほとんど報道の通りに描かれています。話の中心になる女性の良く状況を理解した上での演技が怖いです。

----------引用終了----------

★ フィクション版のあらすじ

キャロラインという妹が麻薬中毒から脱したものの、宗教団体に取り込まれていると相談を受けた兄パトリックの友人たちが、彼女を脱会させなければという方向に話が動きます。

兄の住む大都会から妹が身を置く人里離れた農場(キャンプ)に向かったのは、ジャーナリストということにしているファッション系写真家の兄パトリック、その友人のサムとジェイク。3人は教祖との公開インタビューをモノにしようとも考えています。

久しぶりに妹に面会したパトリックはキャロラインから「以前よりずっと健康に暮らしている」と聞かされます。

インタビューでは教祖が自分について流されている悪評に反論する機会も与えられ、双方満足で、その夜はライブ音楽付のお祭り。

ところが何もかもが極楽のように表現されたキャンプのボロが出始めます。元々しっかり傭兵のようなガードマンが出入り口を見張っており、キャンプまではヘリコプター以外に交通手段が無く、変だなと思っていた3人。そこへ夕刻「子供だけでも外へ出してやってくれ」と頼みに来る人が現われます。

それまでの、「現代社会に幻滅して自ら身を投じた人たちが簡素な農場を経営して幸せに暮らしている」という鍍金が剥げて来ます。

やがて戦いの様相を呈し、3人は身の危険を感じ始めます。妹を連れて脱出の決心。ヘリコプターは言われた時間にやって来て、きっちり1時間しか待たないと約束ができていました。携帯も繋がらない。

他方信者は「もはやこれまで」と決断した教祖に命じられて、服毒自殺の準備。そんな中3人組の1人が行方不明。キャロラインの姿もありません。

ここから実話と同じ展開と、実話では出て来なかった話が展開し、あっと驚くショーダウン。

★ 映画としては地味 - 俳優の後味

俳優が演技を競う作品ではなく、あの時何があったのかを架空の集団に移し変えて紹介する作品なので、パシーノ、デ・ニーロといった演技派は動員していません。主役は事件そのもので、観客に出来事を記憶してもらいたくて作った作品のように見えます。

セットもさほど凝っておらず、とこかの広場かサッカー場でも借りて、軽い材料で宿舎風の建物を建てただけ。

特殊撮影などは必要の無い演出で、1番お金がかかったのはヘリコプターのシーンぐらいかなってなもんです。

それでも見終わってじわっと来る渋い演技を見せた俳優が2人います。

1人は教祖役のジーン・ジョーンズ。これまで名前に記憶がありません。姿を見ても中年のおっさん。見ている最中も凄い演技だなあという感じはしませんでした。ところが見終わって何週間かしてじわっと印象が戻って来たのです。

出演作は20本にも満たず、デビューは短編で2004年。その後も短編かテレビが中心。No Country for Old Men のクレジットには下の方に載っています。The Sacrament の教祖役はもう1人の信者役の女優と共にこの作品を支え、重要です。宣伝ポスターは教祖の大きな写真。

2人目は話の発端を作る女性キャロライン。うら若い女性で、一時麻薬中毒になり、兄で写真家のパトリックを心配させます。ところが暫くして行方が分からなくなり、見つけた時は麻薬を断っており、肉体的にはクリーン。

それでハッピーエンドにならないところにこの作品のテーマがあります。彼女は何か空虚な物を抱えていたのでしょうか。麻薬を宗教と取り替えてしまいます。

兄はそこを知るに至って心配を始め、友人に相談。で、友人と一緒に彼女が入った宗教のキャンプに乗り込み、彼女を取り戻そうと試みます。しかしキャロラインはかなり思い込んでしまっています。

他の信者は理想を信じて入信して見たものの、不審感を抱かせる出来事に気づき、出たいと思っている人もいるのですが、キャロラインはまっしぐら、盲目的になっていて、狂信的とすら言えます。

一見普通そうで、麻薬を抜けられて喜んでいる乙女に見えるのですが、後半に怖さが見えて来ます。この女優の演技も映画を見終わってすぐではなく、何週間かしてからじわっと来ます。

このタイプの演技をした人にジョーン・キューサックがいますが、彼女よりキャロラインの女優の方が、その場では素人っぽい演技で、一見大した事が無いように見えます。ところがキューサックには見終わってからの後味は残らず、キャロラインの方は後からの印象の方が怖いです。女優としてはどちらを上手いと言うべきなのか迷います。

演じたのは生年月日不詳のうら若き乙女エイミー・ザイメッツ。多分英語ではセーメツとでも読むのでしょう。結構な美人ですが、The Sacrament ではダサい姿にしてあります。

俳優としては2000年代から50本、その他にプロデュース、脚本、監督、編集もやっており裏方経験もあります。インディー系のようです。

その他の俳優は狂言回しとしてキャンプに乗り込む若者たち、大勢の信者、数人のボディーガード役で、演技が目立つ役ではありません。事件を世に記憶してもらう事が制作目的だとしたら、出演者で目立っていいのは教祖と1人の狂信者で十分。他の人は背景の役目を負います。その辺は分かって作られているようです。

★ 症候群商法?

作品中では大きな比重はかかっていませんが、この種の作品を見る時ストックホルム症候群も考慮すべきかも知れません。人質事件と違い、宗教に入信したのは本人の意思ですが、「その宗教はあなたのためにならないから出ていらっしゃい」と言われると、時としてストックホルム症候群に似た行動に出る人がいます。成人には宗教の自由が保障されており、犯罪の被害者とも違うので、事情は多少異なりますが、The Sacrament のキャンプで何かおかしいと思い、「せめて子供だけでも助けてくれ」と言った人がいる反面、全てを捨て、もうそこでしか生きる術が無い人もいたのです。

キャロラインは麻薬から脱する事はできたものの、社会復帰してバリバリ仕事をというタイプでなく、居場所を教祖の元に見つけてしまったような描かれ方です。そこにストックホルム症候群の亜流のような感情が生じています。

人質側に起こるストックホルム症候群、人質を取っている側に起こるリマ症候群があり、どちらも事件という異常事態の中で起きる事ですが、事件は無く、立場だけを利用して商売や新興宗教に利用する例が The Sacrament だと言えなくもありません。

私自身ある所である時期そういう立場に置かれていましたし、置かれている人、置いている人を何度か見ました。ある所にたむろする人たちは大抵その種の症候群の被害者ですが、自分を被害者と意識する事は少ないようです。私が自分の立場に気づいたのはある場所を去る時に止めに入る人が続出したためでした。私は実務的な用の無い時はたむろの場に行かず、1人の時はある目標に向かってせっせと勉強していたのですが、相手側はそこは知らず(あるいは言われた話を信じず)、けじめがついた時に去るとは予想していなかったようです。

結局生きる時に輪を描いてぐるぐるそこを回り続ける人と、線を描いてどこかへ進んで行く人で症候群にかかり易いかどうかに差がつくようです。キャロラインは輪、兄は線を描いていたのでしょう。

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