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La isla mínima / Marshland

Alberto Rodríguez

Spanien 2014 105 Min. 劇映画

出演者

Javier Gutiérrez
(Juan - 本庁の刑事、先輩)

Raúl Arévalo
(Pedro - 本庁の刑事、若手)

Antonio de la Torre
(Rodrigo - 被害者の父親)

Nerea Barros
(Rocio - 被害者の母親)

Salva Reina
(Jesus - 地元の男)

Manolo Solo (ジャーナリスト)

Maria Varod (Trinidad)

Perico Cervantes
(Trinidad、父親)

Jesús Ortiz (Andres)

Jesús Carroza (Miguel)

Ana Tomeno (Marina)

Lola Paez (Dyane)

Adelfa Calvo

Jesús Castro (Quini)

Beatriz Cotobal

Mercedes León

Ángela Vega (Angelita)

Cecilia Villanueva

Juan Carlos Villanueva
(Juez Andrade)

Paco Inestrosa (Barquero)

Laura Lopez (Carmen)

Cyntia Suano (Estrella)

見た時期:2015年3月

2015年春のファンタ参加作品

ストーリーの説明あり

ストーリを紹介しますので見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

ちょうど似ているので触れようと思っていた作品を井上さんが最新の記事で取り上げてくれましたので、そちらも参考にしてください。

★ スペインが韓国をパクったのか - 連続女性殺人事件

最近韓国はあれをパクる、これをパクると苦情が増えていますが、そう言われている韓国の佳作をスペインがパクったのではないかと思える作品です。両作品共かなり出来が良く、実際に韓国は殺人の追憶でテーマに使われた事件が起きた国なので、ことこの作品に関してはパクリではないでしょう。

実話をヒントに作られた殺人の追憶は、仮にフィクションであったとしても演出、主演の出来が良く、韓国映画が上り坂だった頃の名作と言えます。韓国は近年多方面で色々トラブルになっているので、私も「やれやれ」といった気持ちで見るようになっていますが、こと映画に関しては佳作もあるので、そういう時は褒めるのに躊躇いはありません。万一パクったとしてもこなれ方が良くて、ちゃんと見られる作品に仕上げている物があり、そういう時もプラス評価をします。

さて、La isla mínima はスペインの田舎で起きた少女暴行連続殺人事件で、やはり本庁から刑事がやって来て捜査を始めます。設定と展開が前半はほとんど殺人の追憶と同じで、静かな描写もよく似ています。

スペインがスペインらしさを出しているのは、ストーリーに80年代のフランコ政権から民主政権への移行が絡んでいる点です。

スペインは今でこそ王政ですが、大昔も王政。ところで何でも古くなればガタが来ます。黴が生えるほど古く、 途中でちゃんとメンテをしなかった王政とカソリック教会は嫌われてしまい、王政は1874年に1度廃止。これはすぐ元に戻りますが、1931年に改めて王政廃止。今度は本気で、共和制に移行。王はフランスのように首はちょん切られずにすみ、平和裏に退位。しかし共和制では国は安定しません。

1939年にフランシスコ・フランコ・イ・バーモンデが独裁体制を敷くとなぜか安定します。人類は自由を使いこなせるほど大人になっていなかったことが証明されます。フランコは王党派で、間もなく王政を復活させるつもりでしたが、王家のバルセロナ伯がフランコと反りが合いません。そのため苦肉の策としてフランコが摂政になります。

私はフランコが死に、フアン・カルロスに移行する前後の報道をずっと見ていたのですが、当時はフランコが王党派と知らなかったので、なぜフランコがフアン・カルロスと折り合いが良く、フアン・カルロスのためにフランコがレールを敷いてあげていたのかが理解できませんでした。「フランコが王党派だった」という一言が欠けていたのです。

フランコについては悪い評価が多いのですが、世の中が改めて混乱し始めた現代から見ると、フランコの役割が違って見えて来ます。私の時代は「フランコはヒットラーと仲が良く、独裁者だ」とか「言論弾圧をした」とか「戒厳令を敷いていた」といった話ばかりでした。また、映画でもフランコ政権を批判する話が多かったです。

これを「人間は愚かで、自由を得るためには必死で戦うのに、得た自由を使いこなすことができない」という視点で見ると、フランコは国内をヒットラーに荒らさせなかったという図が浮かんできます。だから良かったと言っているのではありません。フランコ自身が国内を非常に不自由にしたのですから。私が言う「荒らす」というのは国内を戦場にしてしまったりするという意味です。スペインは内戦を経験しており、参加したのは共和国側とナショナリスト側合わせて100万人を超えています。それにピリオドを打ったのがフランコで、その後フランコが死ぬ1975年(病死、大往生)まで独裁という形で国は安定します。

日本にいるとあまり感じませんでしたが、こちらに来てからは大の大人が強い人を探し、求め続けているのに頻繁に出くわし、びっくりしました。人にあれこれ指図されたく、1人だと何をしたらいいのかが分からなくなっている大人が非常に多いのです。本当のナチとも、思想ともあまり関係の無いネオナチなんかにスーッと引かれて行ってしまう人が一時期増えましたが、その頃私の周囲にも色々な人が集まって来て、私に指示をしてもらいたがるという変な状況にいました。まるで母鳥が餌を持って帰って来るのを口を開けて待っている雛の群れってな感じでした。私が何か言うと盲目的に従う人が出たので、「なんじゃ、これは」、「こりゃまずい」と思いました。教師を辞める気になった理由の1つです。無論私は独裁はしませんが、仮にやったとしても人は嬉々としてついて来たのではないかと思います。そういう危うい、危ない社会になっていました。当時は「そういう時代に入っている」と感じていましたが、教師の仕事に15年以上距離を置いて見ると、欧州、アメリカ、その影響を強く受けた他の国々では「そういう時代」というのがフランコの時代から延々と続いていたのではないかと感じるようになりました。もし私が歴史を勉強していたら、フランコどころか「そういう時代」はもっと長く続いているのかも知れないということにぶつかったかも知れません。

欧米ではあまり状況が変わらない中、日本ではここ数年自分の頭で考えようと努力する人の数が着実に増えています。持っている武器は投票する時の1票、寄付金、義援金といった小さい物ですが、良く考えた上ではっきり意志を示す地味な人が増えたように思えます。一時だけ派手なパーフォーマンスをする人よりこういう人たちの方が頼りになりますねえ。

さて、話を戻しますが・・・

偶然なのか、殺人の追憶も80年代を舞台にしていて、軍事政権です。

韓国の実際の事件は1986年から1991年に犠牲者10人を出し、迷宮入りしています。それを舞台にし、その後映画化されています。というわけで、ことこの作品に関しては韓国はパクリようがありません。

さて、La isla mínima に登場する刑事の1人は拷問とは言わないまでも、尋問相手をボコボコにしようとしたり、無理やり証言を取ろうとします。そのあたりも殺人の追憶を思い出させます。

とまあ、似ている点が多いので、殺人の追憶を見た人は先が見通せると思いそうですが、後半は独自路線に入ります。

★ 前半の展開

ティーンの少女が失踪し、その後死体で発見される事件が続き、マドリッドから2人の刑事が派遣されて来ます。本庁の刑事どころかよそ者に対して大体から口が重い田舎な上、フランコ政権下では陽気な人でも口を開きたくなくなる雰囲気の80年代。まだ独裁政権が王政に変わったばかりで、人々は暗い雰囲気を引きずっています。

程なく破棄された写真のネガの一部が発見され、セックスがらみの事件ではないかというめどはつきますが、これと言った決め手はありません。加えて麻薬密売の気配も濃厚になって来ます。しかし証言を得られそうな人物を見つけると先輩刑事が暴力をふるってしゃべらせようとするので、民主化を目指し、理想に燃えている後輩刑事は捜査方法に疑問を抱きます。先輩はフランコ時代に教育を受け、刑事という職業に就き、既にベテランになっています。後輩はフランコ時代の終わり頃に学校を終え、警察ではまだルーキー。平和と自由を求めるリベラル派です。犯人を突き止めるという目的は同じでも、そこまでの道が違います。

★ 後半の違い

殺人の追憶の特徴は、犠牲者の死体が発見されているのに、そして暴行されているのに、呆れるほど物的証拠が無い点。

La isla mínima では後半犯人のめどがつき、動機も判明します。その代りにアッと驚く別な事実が残り、その気になれば同じ刑事2人で別な事件の捜査をするという形で続編を作ることも可能です。ただ、そこに複雑な事情が絡みますので、それで陰影がつけられ、他の続編に比べおもしろい作品にしようと思えばできます。

2人の刑事の関係がショーダウンで微妙に変わり、それまで観客が受けていた印象がガラッと変わります。この変化の演出、俳優の演技は見事で、それまでの抑えた演出のおかげでここがきらりと光ります。

ここをばらすと完全にスポイラーになってしまうので、ここで止めておきます。見る機会があったら是非見てください。

★ プラス要素

非常に地味な作りですが、2人の刑事の人柄、関係、よそ者に対して口の重い村人、セックスの絡む事件での被害者家族の怒りと世間体を考えての躊躇い、金持ちと貧乏人の間の上下関係などが丁寧に描かれていて、見る価値があります。

2人の刑事の世代の違い、思想の違いは押しつけがましく表現されるのではなく、静かに、時間を取って、無言の俳優の表情なども活用して描かれています。出演者にはコメディアンもいるのですが、クレージーキャッツやドリフターズのメンバーがたまに劇映画でシリアスな演技を見せるのと同じで、作品全体にシリアスな雰囲気が漂います。

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