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モイセーワ・ミネンコフの再来

2018年3月冬季オリンピック

選手

Andrei Olegowitsch Minenkow /
Андрей Олегович Миненков
(オリンピック1976年アイスダンス2位、1980年3位、世紀のイケメン)

Irina Walentinowna Moissejewa /
Ирина Валентиновна Моисеева
(オリンピック1976年アイスダンス2位、1980年3位、絶世の美女)

テッサ・ヴァーチュー /
Tessa Virtue
(オリンピック2010年アイスダンス1位、2014年2位、2018年1位、オリンピック2014年団体2位、2018年1位)

スコット・モイアー /
Scott Moir
(オリンピック2010年アイスダンス1位、2014年2位、2018年1位、オリンピック2014年団体2位、2018年1位)

見た時期:1970年代、モイセーワ、ミネンコフ

見た時期:2010年代、ヴァーチュー、モイアー

普段映画と音楽の話題が中心ですが、今日はちょっと趣向を変えて・・・。

★ 1970年代

1964年に東京でオリンピックが開催された時我が家でもテレビを買いました。1972年札幌でオリンピックが開催された時もテレビを見ていました。私はその後、だんだんテレビを見なくなり、70年代の終わり頃からは殆ど見ていません。ですから私が日常的にテレビを見ていた最後の時期に当たります。

主として見ていたのは60年代は子供向きの番組。日曜洋画劇場が始まってからは主として映画番組。その後、月曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、土曜日と亜流の番組が始まり、映画ファンの私はえらく喜んだものです。

それ以外はいくつかの英米の犯罪シリーズを見たような気がしますが、それほど熱心ではありませんでした。日本には殆ど英米のテレビ・シリーズしか来ませんでしたが、例外的にジュリエット・グレコ主演のフランスの犯罪映画を見た記憶があります。

オリンピックのフィギュア・スケートを見た記憶もあります。その中で名前も覚えているのは当時のソ連、東欧圏の選手。多くの選手はスポーツをやっているという感じでしたが、中で他の選手と違うタイプだったのがアイスダンスのモイセーワとミネンコフ。世紀のイケメンと絶世の美女でしたが、目立ったのはそのためではなく、2人の醸し出す形。2人の体を組み合わせて1つの形を作り出すような振り付けで、当時としては非常にユニークでした。

ある時期からは衣装もその形をはっきりさせるためにデザインされた物を着るようになり、何となく SF の世界の踊りを見ているような感じでした。アイスダンスはペア以上に2人の息が合っているかが細かく審査されるのですが、この2人にかなう他の選手はいませんでした。

ところが2人は時代を先取りし過ぎ、クラシック・バレーを氷上で再現するような踊りを好む審査員に嫌われ、金メダルに届かないことが多かったです。2人をトレーニングしたタチアナ・タラソワ(1969年から10年程)にはクラシックな題材を選んでも、体操風ではなく、選手にドラマを演じさせる作風(浅田真央にも受け継がれている)、リュドミラ・パホモワ(1979年から)にはそういった2人で作り出す形にSF的な要素を取り入れるセンスがあったのだと思います。

特に私が驚いたのはこういったモダンな踊りが当時のソ連から出て来たことでした。何となく当時のイメージではこの種のユニークさはアメリカかカナダから出そうな印象だったからです。あの共産圏のソ連から・・・?と驚きまくっていました。

2人は選手の間に結婚。1983年に子供ができたらしく引退。その後ご主人が電気屋さんになって生活しているようです。そして最近かなり高齢になった2人がロシアのインタビューに出ていました。スケート界とは縁が無さそうですが、夫婦としてはずっと仲良くしているみたいです。当時モイセーワは1歳年下なのに姉さん女房風だったのですが、そのインタビューではミネンコフが亭主として貫禄をつけていました。

当時は「こんなきれいなカップルはいない」というのが私の感想でした。現在は「2人で仲良く年を取っているなあ」という印象。

参考までに

1977年にこんな振り付けでやっていました。今ではこういう振り付けで踊る選手が時々いますが、当時は世界がびっくりしました。

★ 2018年

テッサ・ヴァーチューとスコット・モイアーを知ったのは最近。相変わらずテレビは持っていないのですが、失業中オリンピックや世界選手権、グラン・プリなどをインターネットの動画で見ていました。ただ、アイスダンスは日本もぱっとしないし、モイセーワ、ミネンコフ以来注目に値するユニークなダンサーを見たことが無かったので、あまり興味を持っていませんでした。

むしろ高橋大輔がソロで、しかもスポーツ性の高い競技にもかかわらずダンス面を強調した振り付けで活躍していたので、そちらに注目していました。同じコーチについていたのに、安藤美姫はカタリーナ・ヴットやベアトリクス・シューバのようにスポーツ性の高い演技で、私の目にはゴツゴツして見えました。と言うことは、高橋本人に踊りのセンスがあったのかも知れません。よりによってそういう人たちが金メダルに届かず、ゴツゴツした踊り方をする人が金メダルに届いてしまうのがこの世界。

高橋は外国選手に比べると小柄で見栄えがしないはずなのに舞踏性が高く、惚れ惚れするような踊りを見せてくれていました。そういう人たちは祟られるのでしょうか、それとも審査員に嫌われるのでしょうか、彼もオリンピックの金メダルには届きませんでした。

彼は国際競技引退後、氷上でなく、ダンス・フロアで踊る方も試みていましたが、私が見た範囲では自分の良さが出せていませんでした。慣性の法則の静止と等速度運動両方を利用して踊るスケート選手に取っては、静止しか利用できないフロアのダンスは勝手が違うのでしょうねえ。

ヴァーチューとモイアーは行きがかり上時たま見ていましたが、「下手ではないけれどおもしろくない」といった感じで、技術的に見て優勝することはあっても、特に目立っているようには思いませんでした。ちなみに伝説のカップル(夫婦という意味ではありません)トービル、ディーンは何度か見ましたが、そして音楽の選択は良かったと思いますが、2人のダンスにはあまり心が動きませんでした。

その私がぶっ飛んだのが今年のオリンピックのショート・プログラム。

★ モイセーワ、ミネンコフを研究したのか

これぞアイスダンスという演技でした。規則があるので女性を高く持ち上げるリフトはありませんが、許される範囲でかなりアクロバティックな場面がありました。しかしそれで観客の目をそらし、点を稼ごうとしたわけではありません。アイスダンスでは2人の息が合っているか、同じ動きをする時ちぐはぐになっていないかという点が1番厳しく審査されます。そこがほぼ完璧。

そしてだれが振付けたのか分かりませんが、流れが素晴らしく、ほれぼれしてしまいました。モイセーワ、ミネンコフの努力をヴァーチューとモイアーが引継ぎ、さらに磨きをかけたといった印象です。

これを見たら誰でも金メダルに納得するでしょう(解説はドイツ語)。

2人揃って指先、つま先まで神経が行き届いているのに、1人で滑らかに、好き勝手、自由に動いているように見えます。そういう人がたまたま2人いたというようなリラックスした感じを醸し出しています。1人1人が楽しそうな表情をしているのも採点の時プラスに働いていると思います。タンゴのガンチョのように時々足を膝からちょっと後ろに上げる時も2人が完璧に揃っていて、エッジの位置がきちんと揃っています。それでも1人1人が自由に踊っているように見えるので、私はうれしさのあまりため息が出てしまいました。

モイセーワ、ミネンコフとも共通するのですが、2人は氷上で「完全に信頼し合っている」という演技をします。無論無茶なリフトやジャンプを入れないとは言っても、アイスダンスも危険な競技ですので、十分トレーニングをし、事故が起きないようにするのは当然ですが、2人の有能なスケーターをくっつけて「さあ踊れ」と言っても成立する競技ではありません(実は内心私は高橋大輔と浅田真央がアイスダンスに転向してはと夢見ていましたが)。2人はそれぞれ自立して自分に振付けられた部分を演じる一方、相手がどう動くのかをそれぞれ知り尽くしていないとだめですし、それが機械的に機能するだけでは観客にはカップルという印象が伝わって来ません。ヴァーチューとモイアーは20年以上ペアを組んでいて、そこは問題なくクリアしています。それが滑らかな動きに出ています。

選択したのはローリング・ストーンズ、イーグルズ、サンタナの曲なのですが、後半のサンタナの部分でツイズルと言われる回転をするシーンは、もうため息のみ。こんなきれいな踊りが見られるなら生きていたい、事故で目をやられなくて良かった、この間の手術で目が治って良かったと思いました。

このプログラムが終わったところで私はどうしても物凄い笑顔になってしまいます。しかしまだフリーが残っている2人はそれほど笑いません。大接戦の最中なのです。

★ フリー

2人が選んだのは映画ムーラン・ルージュの曲。以前は歌詞のある曲は禁止だったのですが、近年は許されています。この曲を選ぶ選手は時々いますが、私はあまり好きではありません。

しかし振り付けはモイセーワ、ミネンコフの振り付けをやや大胆にしたような感じで、見ていて楽しいです。

フリーは時間が長いので、色々な要素をたっぷり見ることができますが、ヴァーチューとモイアーは驚くようなアクロバット的な要素を取り入れています。規則違反にならないかこちらの方が心配になってしまいます。ヴァーチューが後ろ向けに滑りながらモイアーに飛びつくのですが、その場にモイアーがいなかったらと思うと背筋が寒くなります。しかしモイアーはちゃんと予定の場所にいました。しかし普通のダンス・フロアと違い、氷の上ですからちょっとでもタイミングが狂うと予定の場所からずれてしまいます。

ショート・プログラムではあまり見せなかった危険なリフトが続出。スムーズな流れはそのまま、そして笑顔。しかし踊り終わってモイアーが「やったあ〜」という表情を見せた時に、凄い事が終わったんだと観客も納得します。

ごらんになりたい方はこちらで。後半スロー・モーションがあります(解説はドイツ語)。

2人は恋人や夫婦ではないのですが、幼馴染み。ヴァーチューが後ろ向けにジャンプしてモイアーがキャッチするシーンは他の選手の事故の事も聞いたことがあるので、一瞬ぞっとします。それを軽くクリアしてしまいました。

金メダル!

★ 蛇足

ちょうど今2004年のビデオに行き当たりました。15歳と17歳の2人。この段階で技術的にはもう完璧です。奇をてらったことはやらず、基本的なことを完全にマスターしています。

去年は忙しくてアイス・スケートは全然見ていなかったのですが、先ほど2017年のプログラムを見ました。この段階ではまだ普通に上手い人の中で上位だという程度で、うっとり、ため息が出るほどの振り付け、演技ではありません。

恐らくは既に2018年のプログラムを練習していたのではとは思いますが、オリンピックの本番に合わせて2017年はまだ温存していたのではと思われます。

金メダルの数はなかなかなもの。オリンピックでは金・銀・金を取っています。世界選手権は金3つ、銀3つ。モイセーワ、ミネンコフの時代に比べ選手権大会、グランプリなど出る機会が増えており、時代はヴァーチューとモイアーに有利に働いています。しかし2人はそろそろオリンピック稼業は引退と考えている様子。アイスダンスは4回転とか、トリプル・アクセルのようなジャンプが無いので、年齢が高くなっても続けられる競技。観客の1人としては続けて欲しいですが、ここまで頑張ったのだからちょっと休憩というのもありかと思います。

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