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アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル / I, Tonya /
Eu, Tonya /
Yo soy Tonya /
Yo, Tonya /
Moi, Tonya /
Tonya

Craig Gillespie

USA 2017 120 Min. 劇映画

出演者

Margot Robbie
(Tonya Harding - 米国フィギュアー・スケート選手)

Maizie Smith
(Tonya Harding、3歳)

Mckenna Grace
(Tonya Harding、小学生)

Allison Janney
(LaVona Golden - トニヤの母親)

Little Man
(ラヴォナの6番目の夫)

Jason Davis
(Al Harding - トニヤの父親)

Sebastian Stan
(Jeff Gillooly - トニヤの夫)

Paul Walter Hauser
(Shawn Eckhardt - トニヤの護衛、ジェフの友達)

Steve Wedan
(ショーンの父親)

Lynne Ashe
(ショーンの母親)

Julianne Nicholson
(Diane Rawlinson - トニヤのコーチ)

Dan Triandiflou
(Bob Rawlinson - ダイアンの夫)

Bojana Novakovic
(Dody Teachman - トニヤのコーチ)

Bobby Cannavale
(Martin Maddox - テレビ制作者)

Caitlin Carver
(Nancy Kerrigan - 米国フィギュアー・スケート選手)

Ricky Russert
(Shane Stant - ケリガンを襲った男)

Anthony Reynolds
(Derrick Smith)

Amy Fox
(スケートの審査員)

Cara Mantella (振付師)

Jan Harrelson
(FBI 捜査員)

Luray Cooper
(FBI 捜査員)

Lisa Kaye Kinsler
(リリハマーオリンピックの審査員)

Cassidy Balkcom
(Oksana Baiul - ウクライナのスケート選手、リリハマー・オリンピック金メダリスト)

David Bloom
(アメリカのテレビ記者、本人)

Connie Chung
(アメリカのジャーナリスト、本人)

Ann Curry
(アメリカのジャーナリスト、本人)

Fi Dieter
(伊藤みどり - 日本人スケーター、女子選手として世界で初めてトリプル・アクセルを成功させる)

Matt Lauer
(NBC のアンカー、本人)

見た時期:2018年3月

ストーリーの説明あり

ネタバレはしますが、当時実際に起きた事件を扱っており、作品中に描かれる内容はほぼ当時報道された内容と一致しています。見る予定の人は退散して下さい。 目次へ。映画のリストへ。

ちょうどオリンピックや世界選手権の季節で、アイスダンスの有名選手の記事を書いているところでした。その時にたまたまベルリンにオスカーの候補にも上がり、助演女優賞の受賞も果たした作品が来たので、珍しくフルに入場料を払って見に行きました。それが実在のスケート選手の波乱の人生を描いたアイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルです。

★ まずは主人公のご紹介

トニヤ・ハーディングは貧しい環境の中で抜きん出た実力を持ったフィギュアー・スケート女子選手で、全米代表選考会を勝ち抜き、オリンピックに出場しました。

本人はスケート以外に取り柄が無いと考えており、母親の期待を一身に背負って練習をしていました。コーチで才能を認める人もおり、早くから競技会で頭角を現わしていました。

ただ、スケート界というのは画期的な演技をするダンサーや、飛びぬけてスポーツ的な実力を発揮する選手を最初拒む傾向があり、加えてアイス・スケートは上品な白人だけのスポーツとして見られた時期が長く、ユニークな振り付けで踊った選手、女性なのに男顔負けのスポーツ的な演技をした選手、上品さに欠けると見なされた選手、白人でない選手は壁を破るのに散々苦労しています。

私はそういう時期のスケートを見て来た人間で、別な記事に書いたような選手の苦労を耳にしていました。トニヤ・ハーディングは事件を起こしたこともあり、あまり好きではないのですが、彼女の立場と言う点ではこの作品の持って行きたい方向をある程度理解で来ます。

★ ハーディング事件

☆ 靴紐が・・・

《ナンシー・ケリガン襲撃事件》と呼ばれる事件で、ハーディング側の人間が、オリンピックの1ヶ月前、ライバルのケリガン選手の膝に傷を負わせたというものです。ケリガンはその日の試合は放棄せざるを得ず、病院に運ばれました。事件の背景が明るみに出た後、1994年2月に開催されたノールウェイのリリハマー冬季オリンピックにはケリガンとハーディングの両方が出場し、ケリガンは銀メダルを取りました。

ハーディングの方は試合直前になぜか靴紐がきちんと結べず、しかも試合中に靴紐が切れてしまい、一時演技を中断。審判に直談判して、やり直しが許されますが、メダルは逃し、8位。この後彼女の人生は坂道を急速に転がって行きます。

オリンピックで靴紐が切れる騒ぎは織田信成も経験したことがあります。本番で靴紐が切れるというのは普通は無いことです。ただ、高橋大輔もあわやという経験はしています。ハーディングは全米オリンピック協会から特に優遇されているわけでもなく、当時まだセキュリティーはスカスカでしたし、身近に彼女を心から気遣う付き人のような人もいなかったようなので、何もかもを自分1人でやらなければならず、不運が重なったのかも知れません。織田や高橋の場合はそのあたりは多少良い環境で、高橋の場合はコーチが直前に気づいたので事なきを得たようです。

☆ ケリガン襲われる

事件の方ですが、まずはケリガンが暴漢に襲われ怪我。すぐ警察や FBI が捜査を始め、ハーディングに近い人物が逮捕されます。元夫のジェフ・ギルーリー、その友人のショーン・エックハルト、エックハルトに雇われた男が捕まったのですが、ハーディング自身が主体的に関与していたのかが問われ、警察側に協力して罪を軽くしてもらおうなどという思惑もあり、それぞれが勝手な証言をしています。

映画の中では実の母親までが娘を罠にかけようとしたと描かれています。この点だけは私が当時見た報道には出ていなかったので、フィクションなのか、誰かが嘘を言ったのか、本当にそういう出来事があったのか分かりません。もしこの描写が事実だったとすると、ハーディングは酷い母親を持ったなあと思います。母親には全く容疑がかかっていないので、司法取引をして自分の罪を軽くしてもらう必然性が無く、ただ単に娘を落とし入れようとしただけということになってしまいますからね。

☆ オリンピック直前 - ど根性ハーディング

ハーディングの立場は非常に悪くなっていたのですが、どうしてもオリンピックに出たいハーディングはオリンピック・コミッティー、司法関係者などをなぎ倒し、補欠にミシェル・クワンも控えていましたが、ごり押しで出場しました。

靴紐の件が祟り、技術点が思ったほど上がらず、総合8位。しかし本来なら容疑者として取調べが行われていておかしくない時期に、「オリンピックが終わったらきちんとケリをつけるから」と主張して、全ての処分をオリンピックの後に回させることに成功しています。

☆ 意外な刑罰 - 彼女に取っては最悪

自分の事だけを考える事件関係者、弁護士も依頼人の事だけを考えるので、ハーディングの罪には「もしかしたら無関係だったかも知れないのに」という疑問の余地は残ります。「ケリガンが倒れればいい」と思ったことが罪だとすれば無論そこはモラルの点で良くありませんが、思っただけで課される刑はありません。

裁判は誰がケリガン襲撃の実行犯か、誰が共謀者であるか、誰が金を払って襲わせたかなど具体的な点が問われる場です。そこではハーディングが完全に白とも真っ黒とも結論は出ていません。他の事件に比べるとその点が今一つはっきりしていません。

当時も今も分からないのがハーディングの事件への具体的な関わり方。アメリカは弁護士がアクロバット的な芸当を演じることがあり、依頼人を守るためにとんでもないトリックを使うこともあります。

また、検察も容疑者が複数の場合1人に司法取引を持ちかけ、その人を軽い刑にし、代わりに誰々が主犯だったとか、誰々が計画したなどと証言させることがあります。

ケリガンが脱落してくれればハーディングはライバルが1人減るため、オリンピックでメダルに届き易いのは確かで、彼女に取ってはケリガン負傷は都合がいいですが、当時の報道を見ても、この作品を見ても、ハーディングが実行犯に直接指示を出したかははっきりしません。

客観的に判明しているのは実行犯がハーディングの元夫の友人に頼まれてケリガンを襲ったことと、ハーディングに元夫がおり、元夫に友達がいたことだけ。ハーディングと夫と友人はケリガンが脱落すれば都合がいいと考えたことも事実のようですが、ハーディングと元夫の間、元夫と友人の間には忖度があったようで、具体的にいつ、誰がケリガンを襲うという点で打ち合わせや相談をしたのかは結局はっきりしないままです。

弁護士の助言でもあったのか、彼女は自分の責任を認め、刑を受け入れました。弁護士としては実刑を逃れるというのが1つの目標。ハーディングははっきりした性格の人物なので、事と次第によっては実刑でもいいと考えていたようです。

その彼女に取っては最悪の結果になります。執行猶予3年、これはまあいいでしょう。500時間の奉仕活動、これもまあ1日8時間働いたとしても60日程度なので、弁護士から見てまずまずの結果。その先が致命的でした。まず、巨額な罰金。元々貧しい家庭で育ち、自分もウェイトレスをしていたので、そう簡単に払える金額ではありません。そして、スケート連盟からさらに追い討ちがかかります。スケート関係の職業に就くことが禁止されます。

もしコーチになればそれなりに効率良くお金が稼げ、罰金も払えるでしょうが、その道は始める前に塞がれています。

当初プロのスケートからは声がかからなかったのですが、暫くするとかかります。ところがせっかくのチャンスは自分でだめにしてしまいます。これまで家庭内暴力で被害者だった彼女が、加害者になってしまい逮捕。その後はスケートからは完全に閉め出しを食います。代わりにボクシングや格闘技から声がかかります。いずれにしても事件後は興味本位の一時的なオファーばかりで、本人もちょくちょくトラブルを起こし、安定した生活には至っていません。

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルはそういった報道に忠実に描かれており、ハーディング本人は出来栄えに結構満足していると聞きました。ケリガンは完全無視。他の関係者には多少不満も残ったようです。

★ 一味違うオスカー

この作品がアカデミー賞にノミネートされたのには驚きました。母親を演じた女優には助演女優賞。他に主演女優、編集でもノミネートされています。そして助演女優賞を獲得しました。

今年のアカデミー賞はセクハラ問題がからみ、典型的な作品がノミネートから外れたと聞いています。代わりに漁夫の利を得たのが私が大喜びしたギレルモ・デル・トロの作品。他がずっこけて得をしたとしても、デル・トロにたくさんノミネートが行ったことを喜んでいます。それと似た感じでアイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルにも幸運が舞い込んだのでしょう。母親を演じた女優は別に下手ではありません。問題のある人物の役を無理なくこなしたとは言え、オスカーが行くほどの凄い演技でもありません。ただ、普段取り上げられないようなメルヘン的なデル・トロ作品や、安っぽい作りのアイ,トーニャ 史上最大のスキャンダルがオスカーで取り上げられたことは喜んでいいのではと思います。

★ 才能のある貧乏人の運命 1

この作品は、作りが安っぽく、話は報道の域を出ず、俳優も特に凄い演技はしておらず、普通ならパッとしない作品と片付けてしまいたいような作品です。ですが、作ったのは無駄ではなかったと思います。

アメリカ人はいい子ちゃんより、バッド・ガールを好む傾向があります。ハーディングはまさにそのバッド・ガール。加えて、叩かれても、叩かれても、再チャレンジして来る人物も好みます。そのあたりのアメリカ人根性が良く出ています。

そういう中、それとなく忍び込ませているのが貧困問題。クリント・イーストウッドが描いた女性ボクサーも貧乏でしたが、ハーディングも自分で衣装を縫うという話は前から出ていましたし、欧州の人が描く上品なイメージは全然漂わない人です。衣装の趣味が洗練されておらず、お化粧のセンスも悪いです。

ちょっとでも上品さが漂えば、どこかから救いの手が伸びて来るものですが、彼女にはのびて来ない。それでもジャンプはできる。で、頑張る。

いくら頑張っても彼女に本当に優しくしてくれる人は現われない。で、間違った男と結婚してしまいます。家で母親からちょくちょく殴られていたので、夫が殴ってもそれだけでは離婚話になりません。「そこで我慢しちゃだめよ」という場所で我慢してしまうのです。ちゃんと学校に行っていないので、彼女のいる環境が良くないと教えてくれる人もいません。

その上事件後ここまで話題になってしまうと、彼女を扱えば儲かるので、報じる人たちにしてみれば、彼女がさらに話題をまいてくれれば御の字。利用してやろうという人は群がって来ますが、彼女に本当の意味で手を差し伸べようと言う人はあまり現われません。映画の中では唯一女性コーチだけがいくらか親身になってくれていたようですが。

金銭面で貧乏をしていてもいい人に囲まれて暮らすことは不可能ではありません。しかし、まだ子供で判断力が育つ前から厳しい環境に置かれてしまった人は、騙され続けたり、利用され続けたりという風に運命に翻弄されることが多いようです。ハーディングはスケートの才能で奨学金でも貰えたら、もっと穏やかな人生を送れたと思いますが、そういう話は無かったようです。

★ 才能のある貧乏人の運命 2

ちょうどハーディングと同じ頃、やはり厳しい子供時代を送った選手、ソ連、後のウクライナに生まれたバイウルという選手がいました。ハーディングの場合と似てスケートのコーチが彼女にチャンスをもたらしています。生みの親、育ての親を失ったバイウルは、コーチの家族からレッスンと生活の援助を受け、ハーディングとケリガンが金メダルを取りたかったオリンピックで金メダルを取りました。バイウルの場合彼女の身辺で面倒を見た人たちが家族扱いをしていたことが救いです。

彼女にもジャーナリストが群がり、劇的な物語を書きまくりました。ハーディングに比べバイウルは自分に責任が来るようなトラブルは起こしていなかったので、司法から追及されることは無く、引退後もスケート関係の仕事を続けることはできましたが、彼女のキャリアがソ連からウクライナへの移行の時期にあたってしまい、過去のソ連式の援助は受けらませんでした。新しいシステムがまだ整っていなかったため、自分の国ではそのまま現役を続けることが難しくなっていました。で、16歳の時に引退。

コーチが有利な契約をもたらしてくれたため、バイウルはアメリカでプロとして演技をする事ができ、お金を稼ぐことができるようになりました。しかしオリンピックの最後の演技の直前の事故が祟り、手術。その後バイウルを子供の頃から世話していたコーチと選手がアメリカの新しいスケート場のコーチとして呼ばれ、一家がリユニオン。

これでハッピーエンドのように見えますが、バイウルはお酒の問題を抱えるようになります。飲酒の上で運転をし、お縄。他にこれと言った問題を起こしておらず、スケート界に貢献もしているので、この件は大スキャンダルにされずに済みましたが、大人になるまでに人生の苦労を経験してしまったような人です。

私は彼女が彗星のように現われ、本人には不本意なほどむちゃくちゃな騒がれ方をしている頃を知っており、同情しています。

★ もう1人のドラマ 才能のあるアフリカ系フランス人の運命

同じ時期、アフリカ系でフランス生まれのボナリーも大変なスケート生活を送っていました。彼女はまだ赤子だった時に白人の夫婦に養子として引き取られており、人生の最初から政府お抱えの建築家と学校教師程度の経済状態の中で育っています。なので貧乏生活の苦労はありませんでした。

彼女の生みの親はマダガスカルから近いレユニオンの人たちで、当時のアイススケート界では殆ど例の無いアフリカ系の人物です。

私も彼女の演技を見たことがあり、「この人はスケート界を大きく変える」と思いました。とにかく素晴らしい筋力を持ち、男性がようやくやるようなジャンプを軽くやってしまうのです。フランス人というのは酷い植民地政策をやるかと思えば、リベラル思想の発祥地と言えなくも無い寛容な面があり、ボナリーはあっと言う間にフランス国内の競技会ではトップに上り詰めてしまいます。この二面性は何なんだろうと思わせる例です。

ところがトップレベルの国際試合になると入れてもらえない。欧州選手権では5年連続金メダル、6回目は銀。ところが世界選手権になると3年連続残念賞(銀)。オリンピックからは締め出し状態。フランス選手権では9連勝で、10回目は銀。この差、目立ちます。

彼女の衣装はハーディングとは違った意味でユニークなため人目を引きますが、下品ではありません。肌の色と良く調和し、私にはとてもかっこ良く映りました。ところがこれが、クラシック・バレー好みの審査員には気に入らない。その上上から下まで筋肉の塊のような彼女の体に危機感でも抱いたのでしょうか。とにかくあからさまに低い点を出しています。

欧州選手権で振るわなくなり、フランス選手権で銀メダルになったのを潮時と見て、1998年にプロに転向。現在はアメリカ市民。

彼女はクワトロ・トウループ(4回転トウループ)をもうちょっとで成功させそうになったことがあります。女性でこれに挑んだのは私の知る限りでは彼女が初で、後に続く人の話は聞いたことがありません。

彼女は散々審査員に苦しめられた一方、観客が応援していることもよく分かっていたようで、長野オリンピックでは規則違反のバックフリップ(バク転)を置き土産に、審査員にはお尻を向け、観客に挨拶をして去って行きました。エキジビジョンではさらに片足で降り、引退直前とは言っても筋肉ウーマンぶりを示していました。

オリンピック委員会が運動能力の高い彼女を受け入れられない、彼女が出て来る時代が早過ぎたとも言えます。しかし彼女が頑張ったことで、少しずつ人種問題では譲歩が始まり、アフリカ系の選手が時たま顔を出すようになりました。そして日本に取っては浅田真央の頃から我が世の春。国内の大会に勝つ方が、海外の試合より競争が激しいとまで言われるようになりました。

ドイツもしれっとアフリカ系の選手をペアに忍び込ませて、2003年頃からオリンピック以外では金メダルを取りまくっています。ペアを組んでいた女性スケーターのサブチェンコはパートナーをフランス人に変更し、今年初めてオリンピックで金メダルを取りました。まさか、人種問題がここに絡んでいるとは思いませんが、というか思いたくありませんが、今世紀に入ってアジア人の金メダル獲得が可能になるにあたってボナリーの苦労が何かしら影響していると思うのは考え過ぎでしょうか。

アメリカからも1人オリンピックに出て、銅メダルを取ったアフリカ系の人がいます。私は彼女も現役の頃見たことがあり、これからはアフリカ系の人もちょくちょく出て来るんだと当時思っていました。ところが後が続かない。

白人の貧しい人がハーディングのように苦労し、黒人の明らかにスポーツに適した体の持ち主だったボナリーがのびのびと演技できず、中国、韓国を含む東アジアがポンと前に出た形です。漁夫の利と言うには日本もそこに至るまでには涙ぐましい努力をしていますし、悔し涙を飲んだ人もたくさんいたので、「皆さん大変でしたね」と褒めたいのが本音。この世界にアフリカ系の人たちがどんどん出て来ると、白人の運動能力では抜かれてしまうという危機感はあるのだと思います。でも私はアフリカ系の人が垢抜けたダンスをする様子を氷上で見たいという気持ちを持っています。

★ あれは凄いオリンピックだった

1994年、リリハマーの冬季オリンピックにはハーディング、ケリガン、バイウル、ボナリーが鉢合わせ。
 ・ 金 バイウル、
 ・ 銀 ケリガン、
 ・ 4位 ボナリー、
 ・ 5位 佐藤有香、
 ・ 7位 1988年に1度プロに転向したドイツのヴィット(プロの出場が可能になった)、
 ・ 8位 ハーディング
「何だ、このドラマチックな組み合わせは」と思います。

ここでは詳しく書きませんが、ヴィットもベルリンの壁が崩壊したことで運命の渦に巻き込まれ、大変な苦労をしています。また、代々家業がスケートの佐藤一家は親の代で海外の試合の成績を2桁から1桁に持って行きました。コーチになってからは教え子がメダルに近づいたり、届いたり。その娘さんは世界選手権で金メダルを取っています。

★ かなりそっくり

話を映画に戻しますが、私は当時ハーディングの演技を何度か見ています。また、ユーチューブに当時のビデオがいくつかアップされています。それを見ると、監督はかなり実話に近づけていると思います。

ハーディングは当時としてはちょっと奇妙な衣装を着ていますが、そこも大分本人に近づけています。コーチ役の女優も外見を大分似せています。

オリンピックの試合中靴紐が切れて演技を中断するシーンは本物のビデオの完全コピー。本物のビデオには観客席にいる父親のアルの姿も映っています。そして彼女の靴紐を付け替えようとする側近の手際の悪さは映画以上です。わざとサボタージュしているのか、側近が慌てているのかは不明。

彼女の出身地の描写も、子供の頃の様子もビデオに残っていて、かなり本物に近いです。

俳優は殆どそっくりさん。

★ 似ていないところもある

ハーディングに比べ、主演女優は英国ハリー王子の母親レディー・ダイも演じられるような美人。そして、私はハーディングは小柄な子豚ちゃんというイメージを持っていたのですが、主演女優の体型はケリガンと言ってもいいぐらいすらっとしています。

★ 格差スポーツ

浅田真央がシニアで活躍する頃から日本の選手団は非常に洗練され、衣装、お化粧、行動がトータルに上品な感じになっています。この競技は白人の、上品な女性たちが演技をするものという不文律のような物があり、白人でない日本人やアフリカ系の人が上位に入るのは非常に大変でした。

私は「君たち、これをスポーツと見ているの、バレーのような舞踏芸術と見ているの、はっきりさせてくれ」と言いたいです。

トニヤ・ハーディングはケリガン事件を起こさなければ私はスポーツ選手としてそれなりに評価していたと思います。女性としてはまだ珍しいジャンプを跳んでおり、スポーツなのだったら、衣装がどうの、品がどうのとは言いません。

無論エンターテイメントとして楽しむのなら、ジャネット・リンやスルヤ・ボナリーのように妖精のように氷上で踊る姿を楽しみます。そうなると審判の判断基準はややこしくなります。

新しい事をなかなか受け入れない審査員からはボナリーなどは二重に嫌がられて苦労しています。斬新なジャンプ、女子がこれまでやらなかったジャンプに審査員は寛容ではありませんでした。それは白人で審査員の目に上品に映る人たちでも同じ。新しい試みを取り入れると審判に嫌われます。そこへボナリーの場合人種問題が絡みます。

彼女の演技は今見ても素晴らしく、漂う雰囲気は現世を超越した氷上の妖精のよう。下品さはありません。私は彼女が差別されているシーンを何度か見ているので、今でも心が痛みます。

フィギュア・スケートで上品さがどうのと言われる原因はその起源にあるのだと思います。何しろ元々は欧州の貴族の娯楽だったのですから。そしてオリンピック自体が奴隷を前提とした社会での祭典でした。2018年にもなってまだそこにこだわりたい人がいるのはちょっとした驚きです。

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