R20
悪の華
XS

届かない大空
Squalo14-22
R20
(九代目×S・家光×S ほか)

冷血


(スクアーロ18)



5



 
それは雪の降る寒い日だった。
スクアーロは遊歩道の端の川岸のベンチにぼんやり座っていた。
川にはうっすらと氷が張り、歩いている人もまばらだ。
数日前に降った雪はまだあちらこちらに残っていて、
雪空でどんよりとうす暗く曇り、あたりは灰色の世界となっていた。
今日は、朝から本部に行き、九代目と家光の相手をして、
久しぶりに褒美としてザンザスに会わせてくれた。

褒美。
やつらにとっては、
見るたびに、彼らの罪と罰をつきつけられるあの姿が褒美なのだ。
ザンザスはすぐそこにいるのに、眺めることしかできなかった。
死んでいるのではない。
時が止まっているだけ。
ならば、いつか氷の中からザンザスは動き出すはずだ。

氷の中はつめてえだろうなぁ。
スクアーロは、自身の真っ白な髪に雪が降り積もるのも構わず、ぼんやり考えた。
身体が凍っちまったら、どんなにかいいか。
心が凍っちまったら、どんなにかいいか。
血も肉も凍って、何にも感じなくなったら、どんなにかいいか。
このまま、ここでいたら、ザンザスと同じになるのかぁ。

空を見上げたら、うす灰色の中に、白い斑点が舞っていた。
しずかで、音もなく、時がとまってしまったようだった。
スクアーロは人形のように、まばたきもせず、そこにいた。
はらはらと降り注ぐ雪を見ていると、身体が浮かび上がって、雪の中に溶けていくような気がした。

どれほどの時がたったのか分からない。
じっとそこに座り続けていると、突然携帯が鳴った。
画面に「特殊任務」の字が浮かんだ。
スクアーロはしばらくその字を眺めた。
出ようとしないスクアーロの背後から、声がかけられた。

「職務怠慢ですね。いい任務を準備したのに」
携帯を片手にしたオッタビオが立っていた。

スクアーロは黙ってオッタビオを見上げた。
いつもの覇気や荒々しさは影をひそめ、ずいぶんしおらしい。
長い間、座っていたのか、雪が降り積もってまっ白になっている。
もともと白い肌がさらに白くなり、唇も青ざめ、雪の精のようにみえた。
これなら、ターゲットの目の前に連れていけば、即ひっかかってくれるだろう。
九代目とは違う人脈をつかんでおくのは大切なことだ。
今日のスクアーロは生きが悪いが、寝て情報を聞き出すくらいの任務にはちょうどいい。
「ターゲットは新興ファミリーのボスです。
ボンゴレの内部情報が漏れているようでして。
・・・そう・・・ゆりかご事件の顛末とか。
それを誰から得ているかを知りたいのです」

スクアーロの表情がかすかに動いた。
オッタビオは、心の中で舌を巻いた。
ザンザス様の影をほのめかすだけで、動きを止めたこの鮫は生き返る。
泳ぐのを止めて死んでもらってもいいのですが、
ヴァリアーには必要な戦力ですから。

「ちゃんとターゲットを楽しませないといけませんよ。
躾の悪い謎の男娼に殺された運の悪い客という事件ですからね。
好きなだけ情事の相手をしてあげてからでないと、殺してはいけませんよ。
ちゃんと金目のものも盗りなさい。
君はそのへんの出来が悪いし、ものわかりも悪いですしねえ。
まあ、今日は、客に相手にされない凍えた男娼ってことで丁度いいですね」
オッタビオはわざとスクアーロを貶める言葉を続け、羽根のついたコートを手渡した。
隊服の上着を脱がせると、それを着せて、スクアーロを道路脇に立たせた。
ターゲットの車が近づいたら、パンクさせる手はずは既に終わっている。

オッタビオは成功率が95%以上のミッションしか行わない。
ターゲットの車は予定通りパンクし、
ターゲットは予定通り、道の脇にぽつんと立っているスクアーロに近づき、声をかけた。
「行くところがないんだぁ」
ターゲットは、スクアーロの姿を舐めるように見てから、ものの数秒でドアを開けた。
「どうしたね。こんなところで?」
「ご主人さまが、返事をしてくれないんだぁ」
スクアーロは、教えられた通りターゲットの男に言った。
「乗りなさい」
ターゲットの男は、花街の出口のところにいる少年を疑いもせず招き入れた。
運転手がタイヤを取り替えると、車はすぐに出発した。
発信器の行方を見たオッタビオは、ターゲットが家や会社ではなく、
ゆきずりの少年との情事の時だけに使う治安の悪い場所にあるホテルに向かったことを確認し、笑みを浮かべた。

スクアーロはオッタビオの持たないものを持っていた。
剣士としての才能。
ザンザス様に気に入られた身体。
あの子どもはテュール様を亡き者にした。
あの子どもはザンザス様をそそのかした。
オッタビオの中でそれらの出来事は、昨日のことのように鮮明に甦る。
罰に終わりなどないのだ。







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